100人いれば100通りの夏がある。
正解も不正解も無いのだ。
ただ、あの夏に僕は感じた。
体験したことはないけれども、日本人の心の奥底に残る夏休みの記憶。
誰もが思い描いたことのある日本の夏。
それは実在していたのだなぁと。
世の中はコロナ禍と呼ばれる阿鼻叫喚の時代。
充分な対策をして、山形県から宮城県との県境付近に向かっていたときにその体験をした。
「関山大滝」と「泉やドライブイン」。
それが今回の舞台である。
ドライブインの裏の滝
宮城県側の有名なスポットとしてが「作並温泉」なんかがこの国道沿いにある。
その国道48号の山形県側。
人里も離れた山の中の県境付近にそのドライブインは姿を現す。
それが泉やドライブインである。
あぁ、少し色あせたピンク色の看板よ。そこに書かれた斜めの文字よ。
"コーヒー"だけ色彩がちょいとビターなのが良い。
渋いドライブインがここにあること、そして地図で見る限りはこのドライブインと重なるように関山大滝があること。
それに興味を持ち、今回ここにやってきた。
ドライブインは店内でもいろいろな銘菓やファストフードなどが売られ、食事もできる様子。
ただしその屋外のテーブルとイスのエリアでも、多くの人がくつろいでいる。
どうやら店頭で売られているラムネを飲んだり、アイスや焼きだんごを食べたりしているようだ。
日差しは強いが山間部の木立がそれを絶妙に和らげてくれ、峠に吹く東北の空気が清々しい。
なんだよ最高かよ、ここは。
ドライブインはさておき、まずは滝を探したい。
僕は滝を見たいのだ。
ドライブインの入口付近に、関山大滝を示す立て札があった。
それに従って歩く。ドライブインの左脇から裏側に回り込んでいくようなイメージであった。
ほうほう、深い谷に迫り出すように造られたドライブインであることがわかる。
ドライブインの建物の裏側は谷だったのだ。
建物の真裏までやってきた。
歩道が谷に向かって鋭角に突き出したような部分がある。
ここにもテーブルやベンチがひっそりと置かれている。テラスのような立地。
そのベンチは一様に谷を向いている。
何かな?
ここから何が見えるのかな??
関山大滝だ!!
すっげ!!
その上流部分の「乱川」にある、落差は10mで幅は15mの滝だ。
繊細な水流が岩肌をサラサラと流れ落ちている。
もっと近くであの滝を眺めてみたい。
遊歩道には続きがあり、谷間を下って滝の目の前まで行けるっぽいぞ。
上の写真はドライブインの裏側に完全に回り込んだときの1枚である。
滝つぼに向かって遊歩道は階段となり、森の中をグングン下って行く気配だ。
右手にはドライブインの基礎となるコンクリの塊が見えている。
左側はわかりづらいけど木々の葉の向こうにキラキラ光る川の水流が見えている。
階段で擦れ違うファミリーたち。
その子供はよほど楽しかったのかキャッキャとはしゃいでいる。
こっちもなんだかワクワク感にブーストが掛かった。
だいぶ下ってきたな。もうすぐ川面だ。
そこには赤い橋が架かっていた。川面に降りる前にはあの橋を渡る様子だ。
その赤い橋からは、真横に関山大滝を眺めることができた。
わぁ、なんだこの眺めは!
両側を渓谷に挟まれた夕方滝!水遊びする人たち!
…夏だッ!!
関山大滝は水遊びできる
前章から続いて、赤い橋の上からの光景をお届けしたい。
結論から言うと、ここからの眺めが周囲を俯瞰して見ることができ、最高であったからだ。
滝つぼは天然のプールのようだ。
みんな思い思いに泳いでいる。
上の写真に写っている、最も滝に近いエリアは若い男性層ばかりであったが、もう少し穏やかなエリアにはファミリー層もいたぞ。
後で触ってみたところ川の水はさすがになかなか冷たかったが、夏の日中のこの気候であれば泳いでも気持ちいいのかもしれない。
海ともプールとも違う、天然の水流は独時の気持ち良さがあるのだろう。
僕が人気ユーチューバーであれば一緒になって川に入るのだろうが、ユーチューバーでもなければ人気者でもない、メガネのシャイボーイなので赤い橋から「うふふ」と見下ろすだけだ。しょうがない。
縦の構図。
谷間から見上げる青い空。そこから流れ落ちる滝。
絵に描いたような素晴らしい光景。
男性たちは数mある岩から滝つぼに飛び込んでいたりした。
昭和の夏の度胸試しみたいなシチュエーションだ。エモ。
続いては赤い橋から、滝とは反対側の下流側を見下ろしてみる。
水流は穏やかで、足首からひざ下くらいの深さの川でパシャパシャ川遊びができるエリアとなっている。
虫取り網を持つ少年、浮き輪を膨らませている少女。
忘れていた夏がここにあった。
水辺にも、そして周辺の草むらにも、きっといろんな生き物がいるのだろう。
「最近の子供は…」みたいなことは言いたくないが、今ここにいる子供たちはきっといい経験をできているぞ。
これを忘れずに大人になってほしいぞ。
ちなみに僕は小さい頃は虫を追いかけまわしていたが、いつの頃か虫が苦手になってしまい、今では虫に追いかけまわされている。
なぜか虫は僕のことが好きなようだ。片思い。
このあと橋を渡って実際に体験するのだが、木陰は涼しい。
川のせせらぎも癒される。
都心のコンクリートジャングルみたいなムワッとして一瞬で服がベタつくような夏とは大違いだ。
夏が苦手な人は、きっとこういう体験をしたことがないんじゃないかと思ってしまう。
橋を渡り切り、その橋を見上げる。
川と緑の森を横切る赤いラインが見事だ。
その橋の下の河原で、人々がレジャーシートを敷いてくつろごうとしている。
下流方面に少しだけ歩いてみた。
茂みと岩壁の中に川が吸い込まれて行っている。
安全に行けるギリギリくらいのポイントで、しばらく川にピチャピチャと手を付けて遊び、そして滝方面を振り返って見た。
滝と滝つぼ、そしてその周辺のレジャーエリア。
その全てを入れた構図が上の写真である。
多くの人が思い思いに滝を楽しむ。思い思いに夏を楽しむ。
それをひっくるめた図を眺めるのが至福だった。
東北の山間部の夏は、きっと短いのだろう。
あと何日、こんなことをできる日があるのだろう。
そんなことを考えられるのも、日本に四季があるから。
だから日本は美しい。
滝がすごいのではない。
いや、もちろん滝も綺麗であったが、何より滝を取り巻く群像劇が素晴らしかった。
最後にこの光景を目に焼き付け、再び階段を登ってドライブイン泉やの前まで戻った。
ドライブイン泉やでランチを
このドライブインでお昼ご飯を食べて行こうと思う。
わざわざそのために、さっき思いがけずに再訪できたドライブインでランチするのを断念したのだ。
まぁその詳細は興味があったら上記リンク先を覗いてみてほしい。
ちょっとセンチメンタルでハートフルなエピソードだから。
話を戻そう。
ドライブインの前は相変わらず賑わっていた。いや、さっきより遥かに賑わっていた。
だが、この店舗の奥の方にはチラリと食堂スペースが見えている。座敷席もある。
店頭のみんなはお団子などの軽食類をここで食べているが、定食系を食べることのできる奥の座敷席がガラガラだ。
そこを目指そう。定食をガツンと食べよう。
座敷席に行きつく前に、お店の中央部分を占める売店コーナーをチラ見せしたい。
これ、いいなぁ。エモいなぁ。
天井からぶら下がるビニールボール、おもちゃの野球グッズ。
ここで買って下の川で遊べるように、ということなのだろう。
僕が小さい頃、海の近くの商店でビニールボールや浮き輪やゴーグルを売っていた光景をなんとなく覚えている。
一緒に歩いていたじいちゃんやばあちゃんとその商店を覗いたりした。
それがどこだったかよく覚えていないし、もしかしたら後年僕の脳が捏造した記憶なのかもしれないけど、そういう思い出があるのだ。
突然そんなことを思い出した。
座敷席がこれ。
木漏れ日が差し込む最高の空間だ。
川で遊び疲れて、ここでゴロンとなったら最高ってヤツなのだろう。
このあと何組かのお客さんが来たが、写真を撮った瞬間はガラ空きの独り占め空間であった。
壁に様々なメニューが貼ってある。
このレパートリーは、景勝地に併設しているドライブインの土産物屋の食堂…っていうレベルではない。
ガチな大衆食堂の域だ。ラーメン・うどん・そば・丼物・定食、なんでもある。
卓上にはラミネート加工された一枚のメニューもある。
そこで目に留まったのがこれら、川魚の定食だ。
アユの和定食がある。
それもいいが、食べ比べ定食というアユとイワナが両方セットになっている定食もある。
僕、アユとイワナの区別があまりつかない。
「どっちも美味しい川魚」、くらいの認識だ。食べるのなんて年に一度もないくらいだし、どっちをいつ食べたのか錯乱している。
一緒に食べたら違いがわかる男になれるかな?
…というわけで、アユとイワナの食べ比べ定食である。
なんだか仏門に入ったみたいに"正しい定食"の姿だ。
それをドライブインの座敷席で食べる。
世界の全てにセピアがかかったような気持になる。
上がイワナ、下がアユだと店員さんが説明してくれた。
正直僕は見た目で区別はつかない。
ちょっとトイレに行っている隙に位置をチェンジされたら、きっと一生気付かないであろう。
アユ、ホクホクしていて淡白。
どことなくふんわりと磯の香りがする。うまい。頭から尻尾まで食べられる。
イワナ、ちょっと味が濃い。力強い。うまい。身だけ食べる。
うむ、正直にいうと僕の低レベルな舌では味の区別も付きづらい。
でも間違いなく両方ともうまい。
食後、水槽で泳ぐアユとイワナも眺めたが、それでもどっちがどっちだかわからなかった。
もういいや。両方とも食べたのは事実なんだから。
お腹に入れば一緒なんだから。
あぁ、いい思い出になったなぁ。
またいつかここを訪れるときも、同じような世界が広がっているといいなぁ。
そう願い、県境に向かって最後のアクセルを踏んだ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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