北海道にある、ローカルコンビニチェーン2つを取り上げたい。
1つは函館の「ハセガワストア」、もう1つは根室の「タイエー」だ。
さらには、それらのコンビニチェーン2つ共に名物としている「やきとり弁当」という名前の豚肉の弁当にフォーカスしたい。鳥なのか豚なのか混乱を招きそうだが、どちらも劇的にうまいんだ、これが。
ネタバラシしちゃうと最初は「VS形式」にしようとしたが、甲乙つけがたいので闘わせるのはやめた。もう両方優勝。
なんなら甲乙つけるどころか、どっちが甲でどっちが乙なのかわからないくらいに似ている。もっとも、似ているには納得の理由があるんだけど、そこは後述するので楽しみに待っていてほしい。
ハセガワストアのやきとり弁当
やきとり屋さんと呼んでいいかも
函館市、および隣接する町に合計13店舗あるハセガワストア。TVでも取り上げられることも多く、あなたもご存知かもしれない。なんなら今や函館のご当地グルメの1つとなっている。たかがコンビニ飯と侮ることなかれ。
まずはこの店舗のインパクトよ。
巨大なやきとり弁当のパッケージがそのまま看板として店舗に張り付いている。こういうの、大阪の道頓堀とかでよく見たなぁ。(道頓堀では、巨大なカニとかたこ焼きとかギョウザだとかが、看板として店舗に張り付いているのだ)
今回の記事には関係ないけど、右奥に見えているのは「ラッキーピエロ」という函館限定のハンバーガーチェーン店だ。あそこも最高だよね。ここのハセスト(略した)とラッピ(略した)の並び、神だよ。
サイズはXXL。僕1人ではもちろん食べきれないが、もし僕の職場が函館だったなら、忘年会はアレを1つ買ってオフィスでみんなでつつきたい。
とにもかくにも、ハセストのやきとり弁当に対する本気度は理解した。…否、店舗に足を一歩踏み入れて、改めて理解することとなる。
わかりづらい写真で申し訳ないので解説しよう。
店舗に入るとまずは右手にやきとりの焼き台。店員さんがプロ的なテクニックでジュージュー焼いている。そのすぐ脇でやきとり弁当のオーダーもできる。
向かって左は充分な席数のあるイートインコーナー。遥か奥の方に馴染みのあるコンビニコーナーだ。
僕が見た限りの情報だが、店員さんの基本ポジションはやきとり弁当の受付と、その焼き台。コンビニエリアでお客さんがレジ前に立つと、慌ててそっちに走る。
理解した。ハセガワストアはやきとり弁当屋さん。だからやきとり弁当がおいしいに決まっている。
オーダーは注文票に内容を書く形式だった。
やきとり弁当の小を2つ。タレは「タレ・塩・塩だれ・うま辛・みそだれ」の5つがある。全部興味あるけどもお弁当は2つなので、あれこれ悩んだ結果タレと塩だれにした。
注文票を店員さんに渡すとやきとりを焼き始めてくれる。
作り置きではないのだ。僕のために今、やきとりを焼いてくれているのだ。最高。一緒に川の土手に寝そべって「オマエってさ、なんていいヤツなんだよ」って言いたい。
食べるなら最高のロケーションで
それから3時間後の世界線である。
店内で食べるのも良かったと思うが、ピクニック気分を味わいたくって車で移動してきた。140kmほど。
ここは上ノ国町の「汐吹駐車場展望台」を臨む公園であり、お弁当購入時には曇っていた空がここに来るまでの3時間で快晴になった。空も僕のピクニックとやきとり弁当を祝福している。
お弁当って、この瞬間が一番ドキドキしませんか?中が見えないフタ、粋な演出じゃないか。
ご飯!海苔!やきとり!以上!!
潔い。わかりやすくシンプルな見た目である。ちなみに上が塩だれ、下がタレだ。
僕のオーダーした"小"だとご覧の通り肉の串が3本、"中"だとご飯が50グラム追加され、さらに野菜串が1本プラスされる。"中"サイズの写真は後でお見せするのでお待ちあれ。
…北海道の広さに感謝した。この公園には見渡す限り人がいなくって感謝した。なぜなら「うめぇーー!!」って叫んでも変な目で見られないからです。
アツアツのご飯ももちろん良かろう。
でも、ちょっと固めに炊いたお弁当のご飯が常温に冷めたときの美味しさってご存知ですか?アレは満腹でもついつい食べてしまうのだ。それがここにある。
冒頭に書いたけど、肉は鶏肉ではない。豚肉だ。やきとり弁当だけども豚肉なのだ。
なぜなら北海道の南部では昔、やきとりという言葉はあったものの鶏が高価であり、豚肉が入手しやすかったらしい。だから豚肉をやきとりとして提供したのが始まり。
豚肉は固くなく、かといって脂っぽくもなく、絶妙に「ほど良い」という言葉が当てはまる噛み応え。口中に旨味があふれる。
タレのほうは甘みのある濃い味で、ガッツリ主張してくる。ご飯を食べる手にブーストがかかる。むしろタレだけでご飯が無限に進む。
塩だれは肉の味を後ろからサポートする名脇役だ。豚肉を一番おいしく食べる方法ってこれじゃないのかなって思った。
実は同行者がいたので僕1人で2つのやきとり弁当を食べたわけではないが、2つ味わえたことで満足感は2倍だよね。
既にここまで140km運転してきたわけだが、まだ何100kmでも運転できる気力が満ちあふれた。
ささやかな布教活動をしてみる
これはまた別のシーンなのだが、同僚と数人で函館に出張に来た。
ランチは出張先のオフィスで食べるスケジュールになっており、つまりは昼休みにフラフラとグルメを探して町を徘徊することができない。
そんなわけで僕らはあらかじめ"コンビニなど"でお弁当などを買い、それをオフィスに持ち込むこととしていた。
その日の早朝のことである。
函館市内のホテルで僕は早めに起床し、カーテンを開けると決意にみなぎった目で町を見下ろした。
「"コンビニなど"…だって?言ってくれるじゃないか。僕にとっても函館のコンビニは1つしかない。それはハセガワストアだ。今から行くか、ハセガワストア!!」
実は前夜、ハセガワストアを偶然見つけていたのだ。
同僚と乗った、ホテルへと向かうタクシーの中で、僕は「おっ、ハセガワストアだ!しかもホテルから歩ける距離!えっ…?知らないんすかハセスト。せっかくだから明日の朝に早起きしてハセストのやきとり弁当を買っておくといいですよ。」みたいなことを言っていたのだ。
店舗によってバラつきはあるようだが、やきとり弁当を作ってくれるのは7:00~だったりする。その時間に合わせてやってきた。モタモタしていると出勤に遅れてしまうからね。
店内には同僚たちはいなかった。昨夜やきとり弁当について熱弁し、「買うなら7:00の朝一の一択ですよ!」って念を押しておいたのだが。みんなあんまり響いていない顔をしていたもんな。
いいのだ。百聞は一見に如かずだ。あとで僕のやきとり弁当を時間してやろう。
塩だれの"中”サイズをオーダーし、10分ほど待って完成品を受け取ると、ホテルまでスキップで戻った。
お昼にオフィス内でお弁当の写真を撮るのもはばかられるので、ホテルに戻った後すぐに開封して写真を撮っておいた。このときホカホカの蒸気とおいしそうな見た目で、あやうくフライングしてお弁当を食べそうになったことはナイショです。
合流した同僚に聞くと、みんな「起きれなかった」だの「特に興味ない」だの「普通のコンビニで充分」だので、やっぱやきとり弁当買っていなかった。
確かに普通のコンビニ弁当は、全国どこでもブレない安定感1番のグルメだからな、そりゃわかる。じゃあなぜだい?昼休み、僕の取り出したやきとり弁当にそんなにも注目しているのは。
数名の同僚がかたずを飲んで見守る中、僕はやきとり弁当のふたを開けた…!
塩だれでツヤツヤに輝くやきとりの登場だ!
先ほど書いた通り、実際に撮影したのは買った直後のホテルの一室だ。スキップしたせいで若干中身が偏っているし、海苔も一部破れてしまったが、なんたる神々しさよ。
それに中サイズだと野菜串もあるんだぜ。ナス・ネギ・シシトウかな。肉を食べている合間にこれを挟めばいいアクセントとなる。野菜には塩だれがベストマッチと感じた。
「やきとり弁当、うめぅめぇ」と言いながら食べていたので、同僚たちは羨ましそうだった。
さっそく次の日、何名かの同僚はやきとり弁当を持参してくれた。
ささやかなる布教が成功したと感じ、僕は心の中でガッツポーズをした。
タイエーのやきとり弁当
コンビニを追い求め地平線の彼方へ
2軒目にご紹介したいのは、根室市にて4店舗を持つタイエーである。
タイエーを訪れたのは昨シーズンの2022年なんだけど、その数日前にさかのぼってお話をしたい。
僕は函館にある旅人宿に宿泊していた。
10年ぶりの訪問であり、オーナーさんは当然僕を見ても全然ピンと来ていなかったんだけど、「前回"日本一危険な参拝"と言われる太田山神社を攻略した足でチェックインしたら、『あそこに寄りがてらウチに来た旅人は初めてだ!』と驚かれましたと」と言ったら思い出してくれた。
オーナーさん、「あのあと自分でも太田山神社行ってみたわ」って言ってた。そりゃアクティブ&クレイジー。
その夜はオーナーさんとお酒を飲んで盛り上がり、「そうだ、明日の朝にハセストでやきとり弁当買っていきたいので最寄りの店舗を教えてください」と言い、ご丁寧にいろいろ教えてもらったのだが、「どうせ走っていればハセストくらいあるだろう」と何も考えずにチェックアウトしてしまった。
お酒はとっくに抜けているのだが、常時酔ってるんじゃないかってくらいの控えめの思考能力なのである。
ハセストの圏外に出てしまってから絶望し、でも次の瞬間には「まぁいっか」と立ち直り、その数日後に根室の町へとやって来た。
根室には日本の本土の最東端である「納沙布岬」があり、その日は岬のライダーハウスに素泊まりするのだが、夕日を見ながら思いついたんだよな。
「そっか。根室にはタイエーがある。ハセストでは食べられなかったが、タイエーで食べればいいじゃん。」って。
北海道っていちいちスケールが大きいから、岬から最寄りのタイエーまでの25kmほど、壮大な地平線と夕焼けを見ながら走った。
僕の人生史上で最もドラマティックなコンビニ訪問として後世に語り継ぎたい。
タイエー到着だ。残照が美しい。
一刻一刻と変わっていく地球の生み出す情景には、思わず息を飲むよね。
やきとり弁当の巨大看板も美しい。中に照明も仕込まれているようだな。
闇を照らす暖かい色のやきとり弁当看板には、思わずつばを飲むよね。
食べるならアツアツを店内で
タイエーの店内はコンビニと言うよりスーパーマーケットに近い感じで。食料品も日用品も充実しており、野菜もフルーツもパン屋もあった。これで24時間なんだから、根室中で人気になるわな、そりゃ。
弁当箱も売っていた。「えっ!?やきとり弁当の弁当箱を弁当箱として販売しているの?」って思ったが、こうやって文字にすると意味わからんね。
わかめご飯だとのご飯系のものは、パックに盛り放題みたいなシステムらしい。この太っ腹なサービスには全米が涙した…!
やきとり弁当コーナーは、お店の中央にあった。例えるとお祭り会場の中央に盆踊りのやぐらがあるような感じだ。タイエーという世界の首都はやきとり弁当コーナーという、非常にわかりやすい図式である。
その中では店員さんがテキパキとやきとりを焼き、同時にひっきりなしに架かってくる注文の電話をさばいていた。首都圏のコンビニの店員さんが持っていないスキルを目の当たりにし、思わず見とれた。
見とれつつも、やきとり弁当"中"サイズで、うま辛だれをオーダーした。
10分後、受け取った弁当は店内のイートインコーナーで食べることとする。宿に持ち帰るまで我慢などできそうになかったからだ。
昔の有名なマンガの中で「自由に開放してやれ…。気持ちはわかるがもう我慢することはない。」って、"16号"って名前のキャラが"ごはん"って名前のキャラに言っていたからそうした。僕、ごはん、がまんしない。
目の前のポップには、弁当箱の窪みとフタをうまく使って食べる前に串を引き抜く方法が書かれている。しかし僕は串を持ってワイルドに食べたい。なんなら串ごと食べたい、くらいの衝動を抑えている。
うま辛だれ、すげーな!激辛ではないが、後味に辛さがジワッと広がる。体の中心に小さな火が灯ったような感覚だ。ひと口ごとに体温が上がり、生命力がみなぎる。食後の水までうまい。
こうして大満足のディナーを終えたが、もう少しタイエーを楽しみたい。具体的に言うと、お酒とオツマミになるようなものを購入して宿に持ち帰りたいのだ。お酒はサッポロクラシック一択として、オツマミは何がいいかな…。
やきとりコーナーがある。やきとり弁当コーナーとは別にある。ここには既にパッキングされたやきとりがミッチリ並べられているのだ。(あ、前述の通りやきとりは豚だよ)
ここでモツ串3本セットを発見。これを買って帰ろう。
夜の納沙布岬先端の宿への道のりは真っ暗で、途中でシカが何匹も飛び出してきたが、僕は必死にモツ串を守りながら宿へと帰着した。
ライダーハウスの談話室で、同泊のライダーさんと旅談義をしながらサッポロクラシックを開け、モツ串を食べた。
当然うまい。だが、うまさの理由は味だけではない。
「ここまでどこを巡った?」・「これからどこへ行く?」だとか、各々の地元の景勝地やグルメスポットなどの共有をしながら酒を飲む。これが旅の醍醐味の1つであり、そんな談話をしながらの酒とオツマミは旅を最高に彩るのだ。
「じゃ、明日も良い旅を。おやすみ。」と言って部屋に戻る。いい夜だろ。
朝食を購入しにまた寄った
やきとり弁当の話ではないが、もうちょっとタイエーをご紹介したいので聞いてくれ。
翌朝、日本本土最東端の納沙布岬で日本トップクラスに早い日の出を眺めた僕は、すぐにチェックアウトして走り始めていた。
そこでふと思い出す。「そういえばタイエーの前をまた通るよな。朝はコーヒーが割引だってポップに書いてあったな。」って。
朝の5時台のタイエーはさすがに静かだった。昨夜の力強いやきとりの匂いは既に店内から消え失せており、代わりにパンの焼けるいい匂いが漂っていた。
朝の5時~9時まで、コーヒーが税込み81円。ありがたいサービスだ。本格的で美味しいコーヒーが100円ちょいで飲める日本のコンビニって世界的に見てもすごいって聞いたことある。ならば81円は神々の領域だね。
ホットコーヒーと焼き立てパン。正しい朝ご飯だ。店の一角のベーカリーではちみつバターパンを手に取った。税込み100円。これも嬉しい価格。
上の写真、奥の方ではこれからオーブンに入れられるパンが待機している。なんかすごく胸が躍る朝の光景だね。
初めて訪問するコンビニチェーンでセルフでコーヒーを注ぐのって、ちょっとアタフタするよね。
…って空気を察したのか、店員さんが背後で一挙手一投足をアドバイスしてくれた。ありがとう。根室っていい町だね。
合計181円の朝ご飯。朝日を浴びて車を走らせながらパンを食べ、温かいコーヒーを飲む。きっと世の中にはこれ以上の幸せもあるのだろうが、今はそういうことは考えたくないです。
さようなら根室。さようならタイエー。
なぜ2つのコンビニは酷似しているのか
ハセガワストアとタイエー、共通点が多かったことにお気付きだろうか。
北海道は豚肉をやきとりと呼ぶ地域があることは既に書いた。だから共にやきとり弁当という豚肉弁当があるのは不思議ではないかもしれない。
でも、不自然に似すぎているような気がする。
マスコットキャラクターのデザインもほぼ一緒で、それぞれの店舗の頭文字を取ったハセストの"H"とタイエーの"T"くらいしか違いが無い。お弁当のビジュアルもほぼ同じだ。
お弁当箱のデザインも一緒だ。左上の「元祖」の文字も、ロゴも、笑顔で同胞を焼いているブタさんも、全部一緒。間違い探しのようだ。
正確に言うとブタさんの持っている内輪に描かれた文字と、かくし味の説明書きがハセストでは「はこだてワイン」、タイエーでは「十勝ワイン」という違いがある。これで一緒に買ってワケわかんなくなったときにも見分けがつくね。
(「コンビニ名も書いてあるぞ」っていうツッコミは胸にしまっておいてね)
さて、これだけ似ている要素について、「同じ北海道だからねぇ…」って思われるかもしれないが、実は函館と根室って北海道の中でも結構離れているのだ。
Googleで検索したら、函館から車で行く場合、その距離は662kmであり高速道路を駆使しても9時間弱かかるということだ。これは東京駅から岡山駅までの距離よりちょっと長いくらいだ。エグいくらい遠い。
にもかかわらず、この文化の類似性はなんなのだろう。
もう結論言おう。姉妹店なのだ。
1989年のこと。もともと根室の老舗フードストアの3代目ご主人が、函館に個性的なコンビニがあると聞きつけ、函館に出向いて武者修行をし、やきとり弁当を習ったのだ。
だから似ている。すごく納得。
北海道と端と端の絆。それを僕は両方味わうことができた。冒頭の言葉を改めて繰り返そう。
『甲乙つけがたいので闘わせるのはやめた。もう両方優勝。』
両方食べたからこそ、心からそう言える。
やっぱ旅って人生において重要なのかもよ。みんなも旅立とう。
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パンとコーヒーを買ってタイエーで会計を済ませた後、入口付近にオランダせんべいが陳列されているのに気付いて「あっ!」と声を上げ、あわててそれを手に取りもう一度レジに行った。
すごくほのかな甘みのあるパンケーキの味、と言ってもいいだろうか?
特徴はせんべいらしからぬ、この弾力よ。一生噛んでいたい。根室に行く機会があったらぜひ食べてみて。これなしには生きられない体になるから。
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以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
ハセガワストア_ベイエリア店
タイエー_西浜店
- 住所: 北海道根室市西浜町3-10-10
- 料金: やきとり弁当(中サイズ)¥630他
- 駐車場: あり
- 時間: 24時間