僕が人間界に降臨してからというもの、「雲海が嫌いだ」という人間に出会ったことが無い。
秋は雲海のシーズンである。
"天空の城"とか"日本のマチュピチュ"とか呼ばれる「竹田城」の雲海ハイシーズンは、11月下旬から12月上旬だという。
じゃあ雲海を見に行かないとだよね。
僕は日本5周目の秋に竹田城で雲海を見た。
アレは雲海シーズン序盤の9月下旬のことだったが、これから竹田城に行くあなたの参考にちょびっとだけなるんじゃないかと思う。
ではご紹介しよう。
コロナ前の天空の物語。
城に行けるの?行けないの??
ここで有料道路を降りた。竹田城へは直線で2km程だ。
ついさっきまで真っ暗だったが、ほんの10数分でかなり明るくなってきた。
ここは山々に囲まれた盆地のような立地なのだな。
その盆地部分に霧が溜まっているのだ。
明るくなったことで、それがわかった。
僕は確信した。今日は雲海が見られると。
霧の立ちこめる竹田の町を疾走する。
竹田城の敷地内に到達するには、どこの駐車場に停めたとしても徒歩で最低40分はかかるらしい。
いくつかある駐車場の中で僕が候補に挙げたのは、「山城の郷」っていう施設の駐車場。
そこからならあんまり勾配の無い平坦な道を40分歩けば竹田城に到達できる。
それに、調べたところ付近にはさらに2つほど駐車場があるので、例え満車だったとしても他に候補があるのだ。
「山城の郷」へと続く「虎臥大橋」の下を通ろうとしたところで、路上に待機していた警備員さんに車を停められた。
うおっ、こんな時間に警備員さん!?
上の写真が、その虎臥大橋だ。
警備員さんに竹田城に行きたい旨を告げると、こう言われた。
「今の時期は8時じゃないとこの先の駐車場に入れないんです。8時まで待つか、山のふもとの駅付近から城を見上げて満足してください。運が良ければこんな感じにお城が見えますので。」
そして警備員さん、竹田城をメッチャ遠望している写真を見せてきた。
これ、1時間半後に僕が撮った写真なんだけど、こんなイメージの写真を警備員さんに見せられたのだ。
あと、周辺の地図のプリントをもらった。
チゲーよ。全然チゲー。
そういうのを求めているんじゃないし。
僕は高みから見下ろしたんだし。「人がゴミのようだ」とか言いたいんだし。ほら、ラピュタだけに。
でも、警備員さんの言う通り8時まで待っていたら、雲海終わっちゃうよ。
雲海は早朝にしか出現しないのだ。
せっかく雲海を見るためにこの時間にやってきたのに、時間を2時間半も無駄にする上、望んだ光景が見れないのは、人生悔いが残る。
悔しいので聞いた。
「いつからこういう警備になっているんですか?」って。
そしたら「9月からやっている」とのこと。
雲海シーズンの混雑防止のためなのだろうな。しょうがないのかな。
「他にお城に行く道はないですか?」って聞くと、「徒歩で山を登ってもいいけど、かなり健脚でないと行けないし時間もかかるし、お城も8時開門ですよ。」って言われた。
マジかよ。お城に入れないのかよ。
これ、話が違うんだけど。
今後は全人類、竹田城からの雲海を見れないってヤツ?
Webとかでよく見るあの光景、一般人は一生見れないの?
なんてこった。
しょうがないのでUターン。
もうかなり空が明るくなってきているので焦る。
いやしかし、焦ったところで竹田城にアプローチはできないと言われた。
一気に今回の企画自体が怪しくなってきたぜ。
もらったプリントを見る。
もし竹田城まで登るつもりであれば竹田駅の近くの「旧パチンコ竹田城」の駐車場がオススメだって、警備員さん言っていたな。
そこに行ってみるか。
せっかくここまで走ってきた分をまた戻るのはシャクだけどさ…。
ここが指定されたオススメ駐車場、旧パチンコ竹田城。
ちなみに2017年に解体されて、今はもうない。
かわりに「竹田城下町観光駐車場」として生まれ変わっている。
広大でガラガラだけど、数台の車が停まっている。
その人たち、どうやら歩く準備をしているみたいだ。
あの人たちも竹田城を目指すのだろうか?
ちょっとだけ心強くなる。
竹田城、僕の愛車の向こうに聳えているのが上の写真からでもわかる。
なかなかにヘビーな登山になりそうだ。
駐車場には誘導員のおじさんがいたので、果たして竹田城にここから行けるのか話を聞いてみることにした。すごく重要な質問だ。
「山道があるけど結構な登り坂だし、50分くらいかかるかもしれないし、かからないかもしれないよ。」って言ってた。
50分…。遠いなぁ…。
続けて「8時まではお城の敷地に入れない、みたいなウワサを聞いたんですが…」って尋ねてみた。
「うーん、入れるかもしれないし、入れないかもしれないよ。」って言ってた。
何そのフワフワした受け答えは。
そんな回答、知識ゼロでもできるわ。
行くよ。
どうせ答えがどうだろうと、僕は突撃するつもりなのだ。
おじさんから山岳路の入口の場所を教えてもらい、歩行準備をしてから出発だ。
…登山するつもりなんて全然なかったけどな。
こうして5:35、僕は城を目指して歩き出す。
2倍速のアドベンチャー
さて、ここで今一度周辺の地理を整理しよう。
山城の郷の駐車場を使いたかった僕だが、虎臥大橋で警備員に阻まれた。
しょうがないので旧パチンコ竹田城に駐車し、まっすぐ西に歩いて虎臥山の山頂の竹田城に登ろうとしている。
…という物語だ。
早朝の空気はキリッと冷たく、それだけで精神がナイフのように研ぎ澄まされる。
ほど良い緊張感と実行意欲。いい精神状態だ。
OK、やってやる。
なんとしてでも竹田城からの雲海、見てやる。
虎臥山の上に見える竹田城は、果てしなく遠く思える。
50分後の僕はあそこに立てているのだろうか?
いや、50分後ではきっと遅すぎる。夜が明けてしまう。
30分だな。30分で行くべきだ。
7分くらい歩いたところで、「竹田まちなか観光駐車場」っていうのが出てきた。
これももらったプリントにかかれていた駐車場だ。
停められる台数は60台ほどで、キャパシティはさっきのパチンコ屋の3分の1程度だけど、今の時間はガラガラ。特に有料でもなく、無料のパーキングだ。
チッ、知っていればこっちにしたのに。
なんで最初の警備員さん、旧パチンコ竹田城を薦めてきたんだ?
…ま、今さらどうのこうの言っても遅いけどな。
住宅地の中にある、「表米神社」までやってきた。
プリントを見ると、どうやらこの裏から登山道が始まる様子。
"表米神社登山道"っていうわかりやすいネーミングだ。
境内の裏手に回ると登山道発見。
『竹田城跡まで30~40分 ※急勾配の階段が続きますので、健脚者向けの登山道です。』って書いてある。
僕は健脚者とは正反対の世界の住人だ。
オフィスワーカーで運動なんてしないし、だし一見真面目そうなメガネ君だし。
もちろんクマとケンカして勝てるビジョンもない。
それでも、いくつかの日本を代表する山を一般人以上のタイムで登頂できてきた。
短い時間だけ発揮できる、ガムシャラなパワー。点火。
ツラい。
今、とても人生がツラい。
運動不足の僕にとって、この登り坂は命を削る坂。ふくらはぎパンパン。
早朝で寒いから薄手の上着を羽織ってきたんだけどさ、いらんわこんなもん。この布ジャマ。汗かいて来たわ。
無心になってひたすら登る。
前方にカップルが見えた。ヒーヒー言いながら山道を登っている。
知らん。同情もしない。一気に追い越す。
竹田城が現役だった頃、敵はこの城を攻撃するのであれば、鎧を着て武器を持った状態で、城からの迎撃を警戒しながら山を登らなければならなかったのだろう。
僕、無理だな。兵士に不向きだ。
家で実況中継を見るくらいに留めたい。
写真のブレは、心のブレ。
もう命のロウソクも残りわずかですぞ。
…そのうち舗装路に出る。
あぁ、「山城の郷」の駐車場に車を停めた場合は、このゆるーい登り坂の車道を延々40分歩いて来るのね。そっちがよかった。
その道の途中に、激坂の登山道を攻略した僕が出てきた感じ。
6:10、竹田城の城門前に来た。
パチンコ屋の駐車場から標準タイム50分のところ、サクサク歩いて26分。
ほぼ倍ペースで来れた。
果たして城門、開いているのか…!!?
僕は雲上のモデルになった
城門、開いていた。
アッサリ開いていた。
誰だよ、「入れません」・「開いていないかもしません」って言ってた人。
ただ、普段はこのゲート、料金を取られるようだね。
早朝過ぎるためか、この時間は無料。
最初の警備員さんが言っていたのは、このゲートがちゃんと営業開始し料金を取られるのは8時以降っていう意味だったのかな??
なんにせよ無事に入れてよかった。
はい、やってきたよー!視界が開けたよー!
なんとかギリギリ朝日よりも前に到着できた模様。タイミングはバッチリだ。
やや雲が多いものの、少し経てば朝日が顔を出すでしょう。大丈夫大丈夫。
見渡すと、僕以外に観光客は10名弱。まだガラガラだ。
ところどころにスタジャンを着た観光案内の人がいる。
なんだ、やっぱ8時前に入っても全然OKだったんじゃないか。
観光案内の人と「おはようございます」とかにこやかに挨拶し、昨夜から夜通しで車を走らせ、ここからの朝日と雲海を見に来たこととかを話した。
観光案内のおじさんはサービス精神旺盛であった。
「では写真を撮りましょう!」と提案され、シャッターを押してくれることに。
はい、せっかくだからお願いするわ。
1人だと自撮りの幅も限度があるので、こういう申し出は素直に嬉しい。
「いいねいいねー!」・「はい次はこっち側に立って!」。
…なんか写真撮影、終わらなくなった。
「はい、もう1枚ー!」
おじさんのテンションは上がりっぱなしだった。
それと同時に朝日も上がってきた。
いやいやいや、もう僕、朝日を見たい。
写真撮影はもういい。
しかしおじさんは絶好調だ。
まだ早朝で人がいなくてヒマだったのかな?
そんなおじさんのヤル気を削ぐことは憚られた。僕も心行くまで付き合った。
今回掲載するのは、その写真のごく一部だ。
僕はこの日の朝、雲上のモデルとなっていたのだ。
朝日が昇る瞬間は写真に収められなかったが、それはまぁ良い。
日の出の瞬間にはそこまで固執しないのだ。
日の出直後の太陽を見ながら、ここを散策したいのだ。
見よ、この美しい石垣を。
天守閣とか櫓とかの建造物は全く残っていないが、この石垣だけでも素晴らしい。
ここから想像できる自分だけの世界を堪能すればよいのだ。
歩道には特殊なフニフニした弾力のある素材を敷き詰めて、道が傷まないようにしているみたい。
竹田城は2010年ごろから数年で人気爆発すると共に、人が来すぎてヤバいことになっているそうだ。
城内の歩道は歩きすぎてやせ細るわ、石垣は崩れるわ、人は石垣から落ちるわ…。
どうしてもブームになると、安全面の確保が必要になるよね。
今までできてきたことも、できなくなるよね。
僕の竹田城への初回訪問は、世間が充分に加熱してからだったのだ。
時期が遅かったと後悔している。
そんなこんなで、至るところにロープが張られ、順路に沿って一方通行みたいな感じになっちゃっている。
まだ早朝だから規制線の内部は自由に歩き回れるが、もし繁忙時間帯であればかなり規律正しく進まないと周囲の迷惑になってしまうだろう。
納得はできるけど、カッコイイ石垣だとかがロープのせいで見栄えしなくなっちゃっているのは残念だ。
だけども大掛かりな補修工事をしないと、どんどん城が劣化しちゃっているのも事実だそうだ。
もともとは入城も無料だったところを近年料金制にしたのも、こういった修繕費用を踏まえてだもんね。
歴史的価値のあるものを今後も守って行くためだから、これもしょうがないのかもね。
ただ1つ大きく残念だったのは、天守台が立入禁止であった点だ。
よくガイドブック等に載っている、"日本のマチュピチュ"と呼ばれる所以ともなった俯瞰気味の光景。
少なくとも僕の訪問時は、前述の石垣の崩壊や人の落下の抑制のために入れなかった。
※ その後入れるようになったとの情報もあり。
雲海は文句なしに素晴らしかったけどね。
では次章、メインとなる雲海の光景だ!
雲海と朝日、僕が見たかった絶景
竹田城は、標高354mの虎臥山の山頂に築かれた山城。
敷地は南北400mにも広がっていて、山城としては屈指の規模なのだそうだ。
今、そこから朝日を見ている。
すんごい。
谷に向かって段々になっている石垣。それは超ビッグスケールの観覧席のようだ。
そこから僕は、朝日と黄金色に染まる雲海を見ている。
もしかしたら、今日の雲海はやや少なめなのかもしれないな。
だけれども、少しムラがあったほうが絵的には面白い。
なにより今は9月。
まだ雲海シーズンの序盤にもかかわらず、こうしてナイスタイミングで絶景を見られたことが嬉しいのだ。
全てが雲に覆われていないお陰で、こうして下界の色付く田んぼも見えるしね。
眼下に見えているあの川、駐車場から歩き始めてすぐに渡った川だ。
あのあたりからこの足だけで山を登ってきたんだ。ちょっと誇らしい気持ちになる。
あ、見つけた。
旧パチンコ竹田城と、僕の愛車のHUMMER_H3。
数10分前はあそこから不安な顔してにここを見上げていたのだ。
大丈夫だ、過去の自分よ。僕はやり遂げたぞ。
さて、知っている方も多いかもしれないが、雲海の発生条件について簡単にご説明しておきたい。
- 湿度が高いこと
- 気温差が大きいこと
- 風が無いこと
おおまかに上記の3点だ。
「1」について、そもそも雲海は雲である。雲ができるためには湿度が必要。
地面にしっかり湿気があると期待度が上がる。
わかりやすく言うと雨の日の翌朝がいい。
「2」については、空気が冷えている状態から一気に温められることで、水蒸気が雲に変化するから。
日中と夜の寒暖差を利用するのが手っ取り早い。
…となると、春や秋。特に晩秋が一番いい。
前日寒く、翌日暖かくなる…みたいな日があればチャンスだ。
「3」については、せっかく雲が出来ても風で飛んで行っては無意味だ。
しっかりその場にとどまってくれるような風のない日を選ぼう、ということ。
結論。
秋が深まった日の、前日が寒くて雨、翌日が晴れて暖かい日。
さらに風があまり吹かない日。
こんな日を天気予報を見てチョイスしよう。
この条件は、飛行機とかに乗らない限りは大体日本全国で使える知識。
盆地は特に寒暖差が大きい上に、周囲が山で雲が逃げて行きづらい。
そしてその山々の上に立てば雲を見下ろすことができる。
…ということから雲海の名所になっていることも多い。
1日の幕開けは、最高であった。
下りはマッハだ。ポンポン飛び跳ねるように急な山道を駆け下りていく。
対向からは少しずつ人がやってき始めた。
まだ雲海はギリギリで残っているくらいの時間かな?
みんな頑張れ。
15分くらいで山道を抜け、神社の登山口まで戻ってきた。
ここからは車道だ。もう楽勝。
テクテク歩きながら、後ろの虎臥山を振り返る。
さっきよりもクッキリと竹田城の石垣が見えた。
晴れ晴れとした気持ちで空を見上げた。
7:00ピッタリに駐車場に戻ってきた。
往復で1時間半だ。
有言実行したぜ。
1週間前に竹田城攻略を宣言した、旅友の「ふじふじ」に僕は報告メッセージを送った。
そのときの伏線が気になるのであれば、以下の記事をお読みいただきたい。
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秋も深まり、今週から11月になるね。
あなたのご予定と天気が見事に合致するなら、竹田城で一生ものの思い出を育んでほしい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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