山というのは、古来からそこにあり、我々の生活を見守ってくれている悠久の存在であると思っていた。
しかし、2004年に発見された山がある。
僕よりも遥かに年下の山だ。
どこだ?
前人未到の秘境の奥地か?
いや、違う。
香川県の国道からほんの数100mだ。
そんな市街地にある山が、なぜ今まで見つからなかったんだ?
…それは、あまりに低すぎて誰も山だとは気付かなかったからなのだろう。
さぁアルピニストよ、目指すのだ!
日本一低いと言われる、その山へ!
神社の裏から登山は始まる
少し昔の話をしよう。
2004年に発見されたその山。名前を「御山(みやま)」という。
僕が初めてその山を登るのは、5年後の2009年のことであった。
その後も登頂経験はあるので、今回は過去2回の登山記録をミックスさせて執筆したい。
ところで、これが僕が今まで訪問した「日本一低い山」だ。
日本一低い山とは、様々な定義から複数存在している。
何がホンモノで何がウソだ、とかではなく、いろいろあって全部正しいと僕は思っている。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
まずはね、この山の由緒とか低い定義だとかは置いておいて、登山記録をご紹介したい。
山は登るためにあるのだから。
御山に登山するのであれば、まずは「白鳥神社」を目印にしてほしい。
ここで安全祈願をするとよいだろう。
登山ってのは、命がけのエクストリームスポーツなのだ。
明日、僕らが無事でいる保証なんてないんだからな。
だからこそ、ここでしっかり参拝をするのだ。
そうあるべきだ。
チャラチャラしたヤツは、登山界に足を踏み入れるべきではないのだ。
さて、御山はどこだろう。
爆誕からわずか数年なので、あまり詳細な情報がないのだ。
「白鳥松原」の中に聳えているということは聞いたことがある。
松原のありそうな方向に歩こう。
おぉ、松原だ。
境内の裏側が松原であった。
しかし山はどこだろう?
実は、後から振り返ればもうこの時点で僕は山を登っている。
何合目なのかはなかなか判断しづらいが、間違いなく山麓にはいるのだ。
『→ 御山山頂』と書かれている。
今一度、内容を噛みしめてほしい。
"御山"ではなく"御山山頂"と書かれている。つまり、ここはもう御山なのだ。
数年度に再訪したら、立派な石碑になっていた。
ここから90mの地点が山頂らしい。
しかし、この写真の背景を見ての通り、全然山らしくない。
「登山している」っていう感覚も、正直薄い。
…と自分で言って反省した。
その発言、完全に山をナメているよな。
そういうヤツって真っ先に遭難するよな。
パニック映画でもホラー映画でも、事態を軽んじているキャラクターは早死にする。
僕が監督でも、そうするかもしれない。
いけないいけない、気を引き締めて登山せねば。
そして、見てくれ!!
「松原?」とキョトンとしたあなた。
まぁその通りなんだけど、右端にもっと目を凝らしてほしい。
あの石柱だ。
あの石柱、何だと思う?
何を示していると思う?
もうちょっと拡大しよう。
僕らの目指していた、山の頂(いただき)である。
御山の山頂に、僕は立つ
僕は思わずつぶやいた。
「バ…バカな…。か…簡単すぎる…。あっけなさすぎる… 。」
「あ・・・ありのまま 今起こった事を話すぜ!
僕は山を登ろうと思って松原を歩いていたら、いつのまにか山頂にいた。
何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何が起こったのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。 」
…と、どこかで聞いたことがあるような独り言が自然と出てきた。
しかし間違いなくここが山頂だ。
『御山 日本一低い山 三・六メートル』と書かれている。
登頂まで何秒なのか計測したかったが、そもそも1合目がどこだかわからなくって計測が出来なかったことだけ悔しい。
とりあえず記念撮影だ。
僕はやりとげた男だ。たぶん。
スタミナはまだ2%くらいしか使ってない。
例えると、めっちゃトレーニングして万全の体調で迎えた格闘技の世界大会の場で、僕以外の全員が食中毒で倒れて、「おめでとう!君が優勝だ!」とトロフィーを渡されたような気持ちだ。
確かに、物足りなかった。
でも、それは僕のこの山に対する理解が足りなかっただけなのかもしれない。
世の中には、いろんな山があるのだ。
個性はいろいろ、全部正しい。全部がオンリーワン。
さて、この山なのだが、冒頭で「2004年に発見された」と書いた。
「発見された」とは一体どういうことなのだろうか?
*-*-*-*-*-*-*-*-
…2004年のこと。
大きな台風で、このエリアは浸水した。松原も浸水した。
その際、改めて松原の地形を測量し、一番高いところがどこなのかを調べてみた。
それが、標高3.6m地点のここである。
さらに、郷土史などを調べてみると、ここが「山」として記載があったのだ。
江戸時代や明治時代は、ここは山として扱われていたそうなのだ。
「だったら現代もここを山として扱っていいよね?」
こうして、御山が誕生した。
…いや、復活したと言ってもいいのかもしれない。
翌年、2005年の8月には山開きのイベントも行った。
もう、まぎれもない山のような気がする。
すっっっごくなだらかな山だけど。
最低峰になれなかった山
次に、日本一低い山の定義について考えていこう。
前述の通り、日本一低い山は複数ある。
どれがホントでどれがウソかとかではなく、定義が複数あるのだ。
その中の定義の1つに、「国土地理院に認定されている」というものがある。
つまり国に正式に山と定められ、国の認める地図や地形図に掲載されるかどうかということだ。
これは大きなステータスである。
御山も、国に認められたかった。
しかし、結論としてその夢は叶ってはいない。
山であることの定義には、「自治体が山として認識しているか」・「地元民が山の存在を広く知っているか」・「山としての歴史があるか」などがあるそうだ。
具体的な評価結果は知らないが、御山は基準をクリアできなかったのだろう。
…では、「もしクリアできていたら」を考えてみよう。
「歴史に"if"はない」と言われるが、考えてもいいじゃないか。
そっちのほうがおもしろいんだから。
上記は、大阪の「天保山」と仙台の「日和山」という、国土地理院に認められた2つの山の最低峰争奪戦の図である。
詳細が気になるのであれば、以下をご参照いただきたい。
着目すべきは、御山が爆誕した2005年部分である。
2005年時点で国土地理院に認められている日本一低い山は、天保山であり、標高は4.53mであることがおわかりいただけると思う。
もし、その当時に御山(3.6m)が国土地理院に求められていたら…!!
大阪の天保山(4.53m)を抜いて、日本一低い山の誕生だ!!
"if"の世界では、しっかりとここは日本一低い山なのだ。
現実ばかりを見ていちゃダメだ!夢を見るんだ!
…世間一般とは言っていること逆かもしれないけど、山に低さを求める時点で世間一般とは真逆だ、気にするな!!
神話の時代の思い出を
白鳥神社に話を戻そう。
拝殿は1880年に建立されたのだそうだ。
僕の訪問時に修復作業をしており、トンテンカンと賑やかなサウンドを奏でていたこともある。
しかし、その由緒はもっともっと遥か昔、神話の時代まで遡るともいわれている。
神話時代のヒーロー「日本武尊」が病で亡くなった後、白鳥に転生した。
そしてその白鳥は、ここの松原に降り立ったそうなのだ。
そこを祀ったのが、白鳥神社である。
少し境内を歩いてみよう。
…大きなクスノキがあった。
樹齢800年で樹高30m・周囲7.6mあるそうだ。
"かおり風景百選"に選ばれているんだって。
説明板の写真を撮ってきたので、詳しくは以下の写真をご覧いただきたい。
クスノキを見上げる。
まだ今は4月だから葉は少ないけど、これから境内に大きな木陰を作るのだろう。
そう思ってワクワクした。
さて、では次のスポットへと向かおうかな。
この地に白鳥となって復活した日本武尊。
この地を測量したことで復活した御山。
人も山も、こうして脈々と未来へと繋がっていくのだろう。
※ あ、でも境内にあった御山のイラストは、誇張表現すぎると思った。山頂に雪を被ってやがる。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報