もしあなたが、町ゆく人1万人ほどに「日本一低い山はどこか?」と尋ねたとしよう。
全都道府県、まんべんなくこの質問をしたとしよう。
たぶんだけど、回答結果で最多となるのは大阪の「天保山」だ。
自称日本一低い山というのは日本で7つほどはあり、その概念も様々なので一概に正解不正解はない。
なんだったら標高だけなら天保山より低い山も複数ある。3つある。
しかし、やっぱここは天保山なのだ。
残念ながらソースは無いが、旅人として多くのスポットを巡り、いろんな情報を見聞きしてきた僕は、そう判断する。
標高わずか4.53mにして大阪の誇る名峰を、今回ご紹介したい。
遊園地の喧騒の片隅で
さて、先ほどはいきなり『自称日本一低い山というのは日本で7つほど』と書くことで、あなたを混乱させてしまったことを反省している。
ちょっとここからご説明したい。
これが、僕の知る限りの日本一低い山である。
日本一低い山とは、様々な定義から複数存在している。
だから低ければいいものでもなく、どれもがいずれかのジャンルでナンバー1を獲得していると認識いただければと思う。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
ちなみに件の天保山であるが、僕は3回ほど登山はしているのであるが、残念なことに一度も快晴の中の登山には至っていない。
言い訳だが、山の天候は変わりやすいのだ。
従い、「映え」という点ではガッカリさせてしまうかと思い、あらかじめそれを謝罪しておく。
年の瀬である。寒いのである。
「は?7月だし。梅雨明け直後で危険な暑さじゃないか。これから東京オリンピックもやるんだよ!」と怒りのお言葉をいただきそうだが、年の瀬である。
なぜだか知らないが、僕が天保山に向かった3回とも、全てえらく寒い時期なのである。
イルミネーションに彩られた公園を、僕は歩いていた。
ここは「天保山ハーバービレッジ」というらしい。
その中でも有名な施設は、「海遊館」だろうか。
世界最大級の水槽を持つ水族館であり、魚類最大のジンベエザメだっているのだ。
ワクワクしかない。
他にも、ショッピングモールとかフードコートとか、遊覧船とかなんでもある。
「ユニバーサルスタジオジャパン」と抱き合わせで、2日間遊びまくることができる。
あと、ひときわ目を引くのは「天保山大観覧車」だ。
直径100mもある、文字通りの大観覧車だ。
夜になるとこの巨大な円をすべて使い、独創的なイラストが浮かび上がったりするぞ。その演出は僕は直接この目では見たことは無いのだが、世界で初の試みだったのだとか。すごい。
年末の夜を花火のように彩っている。
きっと浮かれたカップルが、僕を見下ろしている。見下している。
いや、違うか。きっと眼中にすらなのであろう。
…大丈夫。
それはお互い様なのだ。
僕も観覧車にはそれほど興味はない。一瞥しただけだ。
実は女性と共に来たことだってあるけど、そういうロマンチシズムは今は不要。
即座にきびすを返すと、隣接する暗がりの公園へと入っていった。
目的はこっちだ。
天保山への登山だ。
天保山に登ってみよう
写真だけではわかりづらいので、まずは天保山周辺のMAPをご覧いただきたい。
ここを「天保山公園」という。
展望台を中心に、緩い丘状となっている公園だ。
あなたは「よーし、確かに低い丘だが、展望台に登ろうぜ!」と息巻くと思う。
間違いだ。
天保山はそこではない。MAPの左隅なのだ。
公園全体の中でも、特に高くはない場所だ。だけども山なのだ。
脳がバグるかもしれないが、とりあえず今は「そういうことで手を打ってくれ」としか言えずに申し訳ない。
僕は今、公園の中を天保山山頂に向けてテクテク歩いている。
傍から見たらそうは見えないかもしれないが、れっきとした登山だ。
あなたは「これから右側の階段を上るのかな?」と思われるかもしれない。
いやいや、何言ってんだ。階段を上るだって?
天保山に登るのに、そんな疲れることするわけないじゃないか。
そんな高いところに登ってどうしよってんだよ。
現在地を見てくれ。
ほら、山頂は正面なのだよ。
右の階段なんて登る必要はないのだ。
あなたはキョトンとしてしまっているかもしれないが、実は山頂は既に見えているのだ。
先ほどの写真の突き当りに。
立派な塔が立っているのが山頂の目印だと思われるかもしれないが、これもまた違う。
それは「明治天皇観艦之所碑」だ。
明治天皇が、昔ここから軍艦を眺めた記念碑なのだ。
では、山頂はどこか。
ちょっと写真を拡大してみよう。
あそこが山頂だ。
マジか。
ゆるーいスロープを登って行く。
はい、山頂だ。
足元をご覧いただきたい。
ちゃんと二等三角点が埋め込まれている。まさにこの場所が山頂の証。
正直に言おう。
山頂に立っているという実感が皆無だ。
キツネに化かされているかのような気分だ。
別アングルからの写真である。
山頂より高いものがドッサリとある。
明治天皇観艦之所碑・その台座・頭上を通る阪神高速…。なんだったら、山頂のすぐ後ろにある植え込みの花壇も山頂より少し高いし。
そして前述の通り、この公園の展望台は山頂よりもはるかに高い。
今この写真を撮っている僕も、その展望台へと続く遊歩道から撮影しているので、山頂を見下ろしている。
備え付けのプレートを撮影してみた。
天保山の形状とはちょっと乖離の大きめのゆるキャラが、「この広場が山頂だよ」と、注意喚起をしている。
その言葉の裏には、「間違って丘を登って展望台まで行くんじゃねーぜ」っていう意思が込められているに違いない。
さらに昔に、夜間に登山したときの写真である。
簡素な木の看板で山頂を示してある。
「マジかよ…」と思った。真っ暗な中で、フラッシュを焚いて撮影し、ようやく山頂を確認できた。
一応山頂到達記念の撮影をしたが、しょっぱい表情になった。
ハーバービレッジ方面の灯りと喧騒がうらやましいと感じてしまった。
先ほどは強がって「そういうロマンチシズムは今は不要」とか書いたが、アレはどうやら強がりだったらしい。
なんだこの登山…。
天保山って、なんなんだ?
天保山、わけのわからないことだらけである。
そもそもなぜこんなに低い山なのか、なぜ隣の丘のより低いのに山頂なのか、天保山より低い山はあるのになぜ日本一低いと名乗っているのか…。
山の成り立ち
大阪の物資輸送の要である、「安志川」の航路。
これのおかげで大阪の町はギャンギャンに栄えるんだけど、ひとつ困ったことがあった。
この川は上流から大量の土砂を海に向かって運んでくる。
みんな「土砂、マジでジャマ」って思っていたそうだ。
なので、これらの土砂を河口の横にどけて小山にしてしまおうと。
なんだったら、土砂をこんもり積むことで川の入り口の目印にもなって良い感じになるんじゃないかと、ポジティブなリユース案も飛び出した。それ、採用。
こうしてできたのが、天保山だ。
今も、天保山の目の前は安志川だ。川の向こうにUSJが見えている。
ちなみに当初は文字通り「目印山」と呼ばれていたそうだ。
標高20mほどだったそうだが、いい目印になったのだね。
幕末には砲台を設置するために山を随分削り取られたらしい。
ゴソッと標高が低くなった。
その後は公園として整備されたり、さらに地盤沈下で標高が低くなったりして、現在に至った。
いろいろあったのだ。
日本一低い山とは
前項でご説明した通り、天保山は人工の山だったのだ。
これを築山(きずきやま)と呼ぶ。
「人工の山を"山"と認めていいの?」と思われるかもしれないが、結論人工の山も山と呼んでいい。
国土地理院という国の組織も「いいよ」と言っている。
ま、なんでもかんでもOKしているワケではないが、ちゃんと山としての歴史があったり、地域の人に親しまれていれば山だと認めてくれるのだ。
色々な遍歴をたどった天保山であるが、一時期国土地理院国に認められた地形図に掲載された山としては日本で一番低い時期があった。
これが、日本一低い山と言われる由縁である。
現在、国土地理院に登録されている日本一低い山は宮城県にある「日和山」である。
この日和山もドラマチックな ストーリーを歩んでいる。
気になる方は以下の記事を読んでみてほしい。
そして、天保山と日和山の歩んだ日本一争奪戦のデッドヒートを以下に記そう。
見づらかったら拡大して見てほしい。
つい数年前まで確かに天保山は日本一低い山だったのだ。
東日本大震災で日和山が大きく削り取られ、日本一低い山の地位を明け渡すこととなったのだ。
今は残念ながら日和山には劣っている。
国土地理院登録の山としては、日本で2番目に低い山だ。
国土地理院登録以外の山も含めたら、もっと負けてしまう。
でもね、人気で言えば低い山の中で1番かもしれない。
かつて、土砂を積み上げて日和山を作るとき、人々はそりゃもうテンションが高く、連日お祭り騒ぎのようにエンジョイしながら作ったそうだ。
そんな稀有な土木工事。
なんだそれを聞いて、大阪の良さが詰まった山だなって感じた。
だからこそ、今も大阪の人々に愛されているのだろう。
いや、実際カップルたちはハーバービレッジ側に行くよ。
こんな夜の公園とかを歩く人は少ないよ。
それでも、人々は天保山が日本一低い山だと知っているのだ。
それ、すごく大事だしステキなことなんだと思う。
今後も大阪湾で輝け、天保山。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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