一等三角点。
これを有するものにどれだけの価値を見出すかは、人それぞれであろう。
しかし、多かれ少なかれ、重みをもつキーワードであることは確かだ。
「有名国立大学の出身である」くらいのパワーはあるのかもしれない。
その肩書をその後に生かせるかどうかは本人次第だが、1つのステータスの指標にはなるだろう。
今回は、「蘇鉄山」の話をしたい。
一等三角点を持つ山としては、日本一低い山である。
その標高は、わずか6.97m。
まずは、山と呼んでいいのかどうかすら疑わしいスケールだ。
大浜公園にその山はある
日本一低い山。
オンリーワンを特定するかのような表現ではあるが、実は日本一低い山はたくさんある。
7つくらいある。
これが僕が今まで訪問した「日本一低い山」だ。
何がホンモノで何がウソだ、とかではなく、いろいろあって全部正しいと僕は思っている。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
上記に列挙した中では、蘇鉄山は2番目に高い。
…とはいっても標高6.97mなのだから、山の概念を覆すほどの低さではあるが。
2番目に高いというステータスを持ちつつも「日本一」を名乗る理由は何か。
それは、「一等三角点を有する山としては日本一低い」からである。
まぁこの概念が成り立ってしまうと、「山小屋がある山としては…」とか「山頂に松が生えている山としては…」とか「冬季に冠雪する山としては…」みたいに、概念が無限にできてしまって危険ではある。
だが、僕は「日本一低い山」と自称しており、それがある程度世間一般に認知されている山というところから、上記のリストを作成した。
本記事はあくまで、日本一低い山を名乗る山はたくさんある、というご紹介が目的があるとご認識いただきたい。
さて、前置きが長くなったが、僕は今堺市の「大浜公園」に来ている。
この公園内に蘇鉄山があるのだ。
ヤベー、ナメていた。
もっと庶民向けののほほんとした公園かなって思ていたら、割とガチだ。
プール・相撲場・体育館・テニスコート・サル飼育場…。
アスリートの聖地みたいな複合施設だな。サル以外は。
そんな中に目指す蘇鉄山があるのだ。
なるほどなるほど。アスリートの表彰台みたいな感じで、あそこに立ちたい。
ちなみに、最初に僕が蘇鉄山を目指したのは、年末の日没後であった。
本来であればこの公園には広い駐車場があるのだが、閉鎖されていた。
年末だからか夜だからかは知らないが、ちょっと困った。
園内は街灯がついているし、すごく綺麗に整備されている。
しかし寒いし人がいなくて寂しい。
散歩している人が1人2人いたりしたが、それはそれで怖い。
園内の立て札だ。
いろいろ気になる表記もおありかと思うが、とりあえず蘇鉄山に登ることだけを考えよう。
冬山でかつ夜間の登山である。
普通の山だったら絶対に遭難するパターンである。
小雨も降っているし、僕は蘇鉄山は初めてだ。山をナメている。こんな記事を書いて、炎上しかねやしないかとヒヤヒヤだ。
標高が7mでよかったという話だ。
蘇鉄の生える丘へ
僕は蘇鉄山の登山口に立った。
「日本一低い一等三角点 そてつ山 登り口」と書かれている。
この時点ではまだソテツは見えない。
なだらかな山の斜面にポツンポツンと松が映えているのが印象的である。
ちなみに、蘇鉄山への登山ルートは複数ある。
バラエティルート豊富な山だ。
僕も登りと下りは別々のルートを楽しむようにしている。
あなたも機会あってこの山を登るのであれば、ぜひいろんな道を辿り、この山のいろんな顔を楽しんでいただきたい。
では、登山スタートだ。
登山道には階段が設置されている。しかし綺麗にされすぎてはおらず、適度にナチュラルな山の装いを見せてくれている。
早い話が、ハイキングとしてちょうどいいロケーションだ。
周囲の展望はイマイチではあるが、松林の中を踏みしめながら着実に山を登っていく過程が楽しいのだ。
僕はこの山が好きだ、と感じた。
ちなみに前述の通り、真冬の日没後の小雨の中を登ったことがある。
しかも1人だ。
このときは「怖い。オバケが出そうだ。」と怯えっぱなしだった。それでも登ったけどな。好奇心と恐怖心がずっと戦っていた。
それでも、山頂に近くなると不思議と周囲が明るくなるのだ。
月夜でもないのに。
その幻想的な光景に、僕は心を打たれた。
例えば、ですね。
あのモーゼさんは「シナイ山」の山頂で神から十戒を授かったというではないか。
山頂にはね、そういう神々しさがあるんじゃないかと思うのだ。
「さてさて、僕は神から何戒を授かるのかな?ワクワク。」とかするではないか。
ま、普通に山頂に街灯があるだけなんだけどね。
しかし考えて見てほしい。
山頂に街灯があり、煌々と照っているのだ。そんなにありがたい山、あまりないぞ。
ありがとう、神よ。
山頂と一等三角点
山頂だ。
ここまで長々と書いたが、一度ダッシュしてその時間を計測したら9.5秒だった。
他の日本一低い山よりはずいぶん時間を要したが、それでも人類の歴史からしたら一瞬だ。
ソテツの木、見えるよね?
このソテツがあるから蘇鉄山というのだよ。
だから「小さい」とか「他の木の方が大きい」とか、「小さなハンバーグが片隅にあるだけで"ハンバーグ弁当"と名乗っているのを見たことがある」とか、言わないでおくれよね。
そういう心無い言葉を投げかけると、ソテツ枯れるから。
石碑もあるので記念撮影しよう。
漢字ばかりで中国語のようで意味が分からないが、裏にはちゃんと日本語もある。
『旅人の 宿りせむ野に 霜降らば
あが子はくくめ 天の鶴群』
…と書いてある。
うん、僕は学が無いのでこれでもよくわからない。残念だったな。
ここが山頂オブ山頂だ。
説明板が設置されており、その横にはマスコットキャラのようなこんもりしたソテツが鎮座しており、写真の下ギリギリのところに三角点が見えている。
日本一低い一等三角点がこの山のアイデンティティであるが、そもそも三角点ってなんなのだよって話。
…ということで、僕のつたない知識からご説明する。
三角点とは、明治時代に日本にやってきた測量法で使う、マストアイテムである。
これを三角測量法というのだが、かなり便利なのだ。
なにしろ、遠くに見えている地点までの距離とかわかっちゃう。
なんだったら、目の前の木の高さとかもわかっちゃう。
ではでは、僕が致命的に苦手な算数のお時間だ。
基準となる線が地上にある。
この長さはもうわかっている。
だとすれば、点AとBから点Cへと向かう角度さえわかれば、AやBからCへの距離もわかるよね。
応用すれば、基準線の上に立ち、そして自分からCが何時何分の角度にあるのかわかれば、自分からCへの距離もわかるよね。
これ、すごい。
つまり、こんなものを造って、 分度器同士の距離さえ測っておけば、気になる対象物(ポスト)までの距離も計算できるのだ。
実はこれ、僕は小学6年生のときの夏休みの自由研究で作ってみた。懐かしい。
この仕組みに気付いちゃった明治政府は、「日本全土をこの三角で覆っちゃおうぜ!」って勢いづいたのだ。
まずは40km間隔で一等三角点を全国に1,000個設置。
もうちょっと細かく二等三角点を5,000個設置。
さらに詳細に位置情報を確定させるため、三等三角点を32,000個設置した。
映画にもなった、「劒岳 点の記」ってご存知ですか?
明治政府が日本地図最後の空白地帯を埋めたいと思い、前人未到の「剣岳」に三角点を設置するアドベンチャーよ。
どれだけ本気だったか、わかるよね。
そんな、全国に1000個しかないエリート三角点の1つがこれなのだ。
「なんで高い山に設置しないの?」と思われるかもしれないが、思い返して見てほしい。
あくまでC点を観測することで、距離を求めるのだ。
C点があまりに高い山だと、天候が悪かったり雲の中に入っちゃたりして思うように観測できない。
だから本当は高い山に一等三角点などは置きたくない。止むを得ない場合だけ置いている。
説明板を読んでみよう。
蘇鉄山は大阪湾(ちぬの海)に面し、幕末には黒船来航に備えてお台場(砲台)が築かれた場所を明治12年(1879年)に大浜公園として開放され、展望の良い築山として整備されたところです。
この付近は明治・大正・昭和初期にた関西有数の海浜リゾート地として海水浴・潮湯・少女演劇・水族館や料理旅館街などで賑わいました。
この蘇鉄山の300m東南にあった御蔭山の頂に近代地図作成のための基準点となる一等三角点が明治18年(1885年)に設定されました。
その後、御蔭山が削られ、昭和14年(1939年)にこの蘇鉄山の標高6.84mのところに移設されたものです。
現在、一等三角点の設置されている山としては日本一低い位置になります。
かつてここから大阪城天守閣(昭和6年廃点)・生駒山・葛城山・俎石山・六甲山などが展望できました。
一等三角点が元あった御蔭山は天保年間に港と水路浚渫により造られた山で、同時期に川浚えの土砂を積み上げてできた大阪の天保山とは兄弟にあたります。
ぶっちゃけ標高は低い。
そして元をたどれば自然の山ではなく、築山という人工の山である。
だけども、歴史があり、そして見晴らしがよくて一等三角点を設置するのにふさわしい場所であった…ってことがおわかりいただけたのではないかと思う。
こんな山でも遭難するよ
ちなみに、先ほど僕は「蘇鉄山で遭難なんてするはずない」というニュアンスの文を書いた。
重ね重ね、山をナメている発言だ。
だからか、バチが当たったこともある。
あれは確か、3回目の登山のときであった。
僕は余裕であった。
「3回目だし昼間だし、迷うはずなどない」と豪語しながら大浜公園内を歩いていた。
悪い役人のようにガハハと高笑いしながら、肩で風を切って歩いていた。
そして「この辺であろう。小高いし階段あるしな。」と独り言をいい、適当な園内の丘に登った。
はい、遭難した。
「ここ、どこですか?」と、途端に捨て犬のように切ない顔になった。
歩いても歩いても頂上が出てこないのだ。ずっと山の稜線を歩いている。
あれ?蘇鉄山って山脈だっけ??
山の麓を見下ろすと遠くに遊具が見え、子供の歓声がわずかに聞こえた。
切ない。
真冬に公園のはじっこ登った丘に登って1人でキョロキョロして、いったい僕は何者なのだろう。
まぁそんなこんなで、一旦丘を降りてから蘇鉄山に改めて登ったんだけどね。
標識くらいは確認しような、僕。
今は人工衛星もあるし、測量技術もすごく発展した。
1980年代くらいから、三角点を使った測量機会は劇的に減ってしまったらしい。
しかし、今も全国に三角点はある。
100年以上前、日本が近代化に乗り出した際に埋め込んだ、歴史の足跡だ。
その最上級である一等三角点を気軽に踏める、蘇鉄山。
かっこいいではないか。
これからも、大阪の歴史を見守ってほしい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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