北海道本土の最西端。
北海道外に住んでいるのに、それをスラッと言える人。
僕と握手だ。
その岬の名は「尾花(おばな)岬」。
突端マニアでない限り、あるいは無類の釣り好きでもない限り、日常でこの岬の名を耳にすることはないであろう。
情報面・物理面、双方からいかなる人をも寄せ付けない、その孤高の岬を、今ここにご紹介したい。
陸の孤島、尾花岬
北海道・本州・四国・九州。
日本の本土と言われるこの4つの大きな島、それぞれの東西南北端がある。
詳しくは、僕の書いた以下の【特集】をご参照いただきたい。
この中でも、僕が一番恋焦がれたのが今回ご紹介する尾花岬だ。
急峻な断崖と、日本の土木技術の正面衝突。
岬に続く未知の世界に足を踏み出そうと開拓状況を手に汗握って見守る僕と、徐々に明らかになる非情な県道貫通計画。
そのギリギリのせめぎあいを楽しんでいた。
そのあたりのストーリーを熱弁しすぎて、過去に10年間ほどの長きに渡り、Wikipediaさんの「尾花岬」の項目に僕の文章へのリンクが掲載されていたほどだ。
(2019年のYahooジオシティーズ閉鎖と共にその文章は消え、リンクも外れたが)
さて、僕が尾花岬を目指したエピソードを記載する前に、尾花岬のロケーションについてご説明ささせていただきたい。
上の図だけではあまりにザックリしすぎなので、尾花岬周辺にズームしてみよう。
これは、今から10年ほど前の2010年ごろの図だと思っていただきたい。
オレンジ色の線が国道である。
尾花岬周辺を悪意に満ちた顔でスルーしている。
細い道が南北から伸びているものの、尾花岬の近くまでは通じていない。
なぜかというと、海沿いに道を通せないほど地形が険しいからだ。
実際に走ってみればわかるが、海沿いはギリギリまで断崖が迫り出していて、鬼でも住んでいるんじゃないかってくらいに荒々しい。
北海道の日本海側にはいくつかこういう「秘境」・「陸の孤島」と呼ばれた地域があるが、ここ尾花岬は土木の歴史上最後まで残ったスポットではないかと考える。
さて、まずは日本3周目・4周目で尾花岬に接近する写真からお見せしたい。
上にご紹介の通り、道は貧弱だ。
この先は断崖に阻まれる袋小路。だからあんまり予算をかけていないのかもしれない。
海沿いを通る貧弱な道道740号線。
それは尾花岬の3㎞程手前にある、太田集落で終わりを告げる。
国道から太田集落までは13㎞ほどあるが、引き返すよりほかにないのである。
これは、尾花岬の1つ手前にある「帆越岬」をトラバースする「帆越山トンネル」である。1857mもある。
実は2004年にできたばかりで、そこそこ新しいトンネルだ。
このトンネルがない時代は、メチャクチャ海ギリギリの細い道を走るしかなかったらしい。
残念ながら僕はその旧道を走ったことは無い。
初めて訪れたときには、既に旧道は落石等で閉鎖されてしまっていたし。
2004年以前も、度々この旧道は崩壊した。
その度に太田集落は完全に孤立し、マジな陸の孤島となった。
2004年にも台風18号という超巨大台風が来て、旧道はボッコボコに破壊された。
しかし、その本当に直前に帆越山トンネルが開通したのだ。
このトンネルの開通が遅かったら、本当に太田集落の人々の暮らしはピンチだったという。
難工事の末の貫通
さて、帆越山トンネルや、尾花岬の1つ手前の帆越岬の話はいずれ個別エピソードとして書きたい。
では、改めて尾花岬にスポットを当てよう。
いきなりクライマックスとなる写真をお見せしてしまったこととなるが。
これが尾花岬だ。
帆越岬から撮影した写真である。
しかし、今見ていただきたいのは岬の先端ではない。
まずは前項にて熱弁した通り、「どれだけこの岬周辺に道路を作るのが困難か」というのを思い知っていただきたかったのだ。
仮に海ギリギリに道路を接ししたところで、頭上の岩壁はもろそうだ。
常に落石に命の危険を感じ、そして永久に終わらない補修工事に負われるだろう。
だが、もう少し写真をズームしよう。
右側が長らく陸の孤島、太田集落だ。
断崖が少しなだらかになったわずかな土地に、こうして集落を作っている。
そして左側。
トンネルがある。
これが「太田トンネル」だ。
巨大な断崖に阻まれて、道路が建設できなかった部分。
それがついに、貫通する!!
その長さは3360m!!
道道では最長のトンネル!!
工事の着工から実に55年!!
どれだけの難工事であったか、この年月がすべてを物語る!
工事関係者の方々、本当にありがとう!!
最初にこのトンネルを通過した一般人は、吉村幸作さん85歳!
おめでとう!イェイイェーイ!!
…と、ひとしきり喜んではみたが、そこまでポジティブに考えていいものか。
僕、実はトンネル開通の3・4年前から国道交通省の工事計画などを調べ、ずっと不穏な気持ちでいたのだ。
いや、正確に言えば「不穏」どころか「諦め」に近い気持ちがあった。
トンネル工事の計画を見る通り、上記図だったのだ。
(そして2013年、計画通りのイメージで開通している)
尾花岬、行けないじゃん。
突端マニア目線でコメントさせていただければ、トンネル開通にはあまり重きを置いていないのだ。
まぁそりゃあアプローチは楽になる。
Uターンせずに、南北にスルー出来るのだから。
しかし、僕の目的は「尾花岬」を踏むこと。
これができないのでは、本来の目的を達成できていない。
僕は祈った。
せめて以下のいずれかを叶えてほしいと。
突端マニアに夢とロマンを与えてほしいと。
- 尾花岬に一番近い太田トンネル北側開口部から、岬に続く遊歩道整備
- 太田トンネル北側開口部に「北海道最西端」の碑の設置
- 太田トンネル内、尾花岬との最短距離にその旨を表示
…結論から言うと、2020年現在どれも実現していないんだけどな。
まぁ「1」はそれだけのコストメリットもないから諦めていたけどな。
では、次項では太田トンネル開通後を交えた尾花岬接近レポートをお見せしよう。
なにをもって尾花岬到達とするか
日本5周目の僕は、再び尾花岬を目指す。
道道740号が貫通したとはいえ、道はやや狭くてローカルだ。
このくらいが良い。
「今まさに秘境に向かっているんだぜ」という感覚がするから。
南側ビュースポット
まずは南側のビュースポットだ。
これは前述の通り、帆越岬を推したい。
いい絵だなー!
海の向こうに尾花岬!
手前の岸壁と灯篭もすごい雰囲気が出ている。
ポストカードにしたくなるような絶好の構図である。
ちなみにこの灯篭、太田集落の「太田」の文字をかたどっている。
これにもストーリーがあるのだが、今回は尾花岬の話なのでスキップだ。
足元の海は、息を飲むほどに蒼い。
この海が、ずーっと尾花岬の方まで続いているのだ。
正直初めてこの海を見たとき、「トンネルが開通したら開発や廃棄ガスで海が汚れてしまうかもしれない。この景色を守るためだけであれば、トンネルはマイナスになってしまうかも。」と感じたりもした。
もちろん一旅行者のエゴなのだが、そう思ってしまうほどに美しかったのだ。
円を描くように、太田集落を経由して尾花岬へと続く湾。
荒々しい山が海の間近まで迫り出しているのが、ここでもおわかりであろう。
この写真を掲載すると、アドベンチャー好きのあなたがニヤニヤしながら「日本最難関の参拝である太田山神社のことには触れないのかい?」と言ってくる顔が思い浮かぶ。
「太田山神社」、別項目で取り上げるので、その日を楽しみに待っていてほしい。
地獄のようなこの急階段が、まだまだオードブルにもならないほどの驚愕の道のりであることを、いずれしっかりしたためたい。
…閑話休題。
南側からのビュースポットの2つ目が、この太田山神社付近からだと思う。
特に愛車と一緒に尾花岬を撮影したいなら、ここだ。
何をもって「岬に行った」と定義するのか…。
- 岬の本当に先端に立ちたいのか。
- 「ここが岬です」と書かれている立て札やモニュメントまで行けばいいのか。
- 愛車と岬を一緒に撮影できればいいのか。
- 景色は関係なく、少しでも地理的な岬の先端を目指したいのか。
…きっと全部正解だ。
そして、上記に対し統一的なスタンスを持っている人も少ないであろう。
とりあえず今は妥協しよう。
僕はそう言いたい。
前述の「3. 愛車と岬を一緒に撮影できればいい」が、ここだ。
絵的にはなかなかいい。
雲が立ち込める天気のときだって、その荒々しさが際立っていてGoodだ。
「尾花岬に来たよ」とこの写真を見せられるのであれば、及第点であろう。
太田山神社の階段前に停めた愛車と共に撮影しようとすると、こうなる。
僕はこの後、地獄の参拝へとチャレンジする。
この写真をシャッターを押したときの僕は、まだ余裕であったのだな。
(このあと存分に苦しむがよい)
北側ビュースポット
結論から言うと、ビュー観点からは圧倒的に南側が勝者だ。
まずは半世紀の歳月をかけて完成した太田トンネルをありがたく通過しよう。
あなたにはどうでもいい話だが、尾花岬のちょうど裏側あたりを通過するときに「尾花岬ーー!!」と叫んだ。
もしあなたが車の助手席に座っているなら、この瞬間のカーナビ画面を撮影してもいいかもしれない。
そうすれば、前項の「4. 景色は関係なく、少しでも地理的な岬の先端を目指したい」欲が少しだけ叶うかもしれない。
トンネルは長い。
さすが3360mだ。
カーナビで車が岬を通過してしまったのを見て、正直ガッカリする。
太田トンネル北側開口部までやってきた。
ご覧の通り、トンネルの脇に車2台ほど停められるスペースがなんとかある。
複雑な気持ちで太田トンネルを振り返る。
最突端16岬の中で、唯一人が立てないのがこの尾花岬だ。
九州最北端の「太刀浦埠頭」も立入禁止で立てないけどさ。許可された人間であれば立てる。
ここ尾花岬だけは、大自然の前に未だ人間が踏破できる道筋がない。
それだけ、北海道西海岸のパワーがすごいのだ。
改めて、周辺図を以下に掲載しよう。
尾花岬の先端は、南側開口部と比べても断然近いのだ。
「4. 景色は関係なく、少しでも地理的な岬の先端を目指したい」の無難な着地点はここだと考える。
防波堤があるものの、トンネル開口部の脇の斜面を使えば少々上ることができる。
こんな感じで、防波堤よりも上の目線に立てる。
僕は行っていないが、そのまま防波堤の向こう側に行けば、ゴツゴツの磯場が続く。
そのあとは数m規模の岩を乗り越えたり、ヘタすりゃ海に浸かったり、ザイールとかないと困難なエリアがあるが、尾花岬の先端まで行けないことは無い。
僕の位置から見える尾花岬方面の景色はこの通りだ。
岬は見えない。
その手前の出っ張りが少々見えるだけだ。
南側の眺めのほうがいいが、各所のWebサイトなどを見る限り、この場所の方が人気のように感じられる。
まぁ、前述の通り正解は無い。満足すればいいのだと思う。
僕は日本4周目の頃、本気でここを尾花岬の先端まで行こうと考えた。
しかし、時間がなく辞めた。
ここ数年で、すごい肉体能力がある人が先端まで行ったと、耳にしたこともある。
しかし、凡人はやめておいたほうがいいだろう。
マジに命の危険を伴う。
何かあってもだれも気付かない。
貫通した道道740号にて、北へとスイスイ走る。
便利になったものだ。
走りながら僕は考える。
…ちょっと1つWebサイトへのリンクを貼りたい。
※最西端までの到達には危険が伴うのでおやめください。
こう書いてある。
きっとチラホラとチャレンジする人がいるのだろう。
そして事故を起こしたり、見た人から苦情が入ったりするのだろう。
無謀なチャレンジは良くない。
では、彼らはなぜ無謀なチャレンジをするのか。
それは「岬の先端がゴールだと思っている」からだ。
それに対する有効な対策は、「やめろ」と言うことではない。
彼らにとってのゴールが、そこ以外にないのだ。
彼らからゴールを取り上げてはいけない。
対策は、「ここがゴールですよ」と、かわりの安全なゴールを提供することだ。
それがまさに、前述の「1. 「ここが岬です」と書かれている立て札やモニュメントまで行けばいい」にあたる。
ここさ、ちょっとだけ 整備して立て札を立てましょう。
「北海道最西端 尾花岬」って書きましょう。
ねぇ、せたな町さん。
これで解決する。
なぜなら、他の突端岬が物語っているのだ。
他の突端岬を見ればわかるのだ。
僕も数々の突端岬をご紹介しているが、碑が立っているのは必ずしも突端部分ではない。
なんだったら、ロマンを打ち消すようなので詳細は言わないが、結構大幅にズレている突端岬もある。それこそ「最突端はこの岬じゃないっしょ」ってレベルで。
でも、それに対して「納得いかない」と強行突破をする人の話なんて、聞いたことない。
みんなニコニコ安全に記念撮影している。
僕ら旅人、突端マニアが追い求めているのは、真実の地理だけではない。
半分ロマン。半分夢。
これらをうまくブレンドさせて、人生を潤わせているのさ。
…大丈夫。
きっと尾花岬はもう一段階進化する。
僕もそうなるように力添えしたい。
作戦は、北風ではない、太陽だ。
そんな夢とロマンを抱くだけで、本当に尾花岬が愛おしいのだ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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