普段は温厚で知的な僕が、いきなりタイトルで「ムカツク」とか言い出して会場をザワつかせてしまった旨、申し訳ない。
まずは誤解を解いておきたい。
ムカツクは漢字で"向津具"と表記する。
今回ご紹介したい「川尻岬」は、向津具半島の最先端にある岬だ。
だから別に半島や岬に対してムカついているわけではない。むしろ好きだ、愛している。
なぜならこの半島の先端にある川尻岬は、本州本土の最北西端という珍しい斜めの突端岬なのである。
これには突端マニアも胸キュンだ。
…と言いたいところだけど、残念ながら知名度はイマイチだよな?
せめて僕がアツく語りたい。
東西南北端の次に来る試練
今回の記事は、日本の突端をいろいろご紹介する以下の【特集】の一環として執筆する。
本記事のみならず、どうぞ心行くまで突端を味わってほしい。
「のんたん、僕は川尻岬に行きたいよ。」
ある年の秋のことだ。
僕は助手席の「のんたん」にそう申告した。
彼女とは、この数ヶ月前に日本最北の有人島である「礼文島」のとあるクレイジーに突き抜けた宿で出会った。共に冒険をした仲だ。
そののんたんと山口県で再会し、今日は一緒にドライブをしている。
…っていうのが初回にこの岬を訪れた経緯だ。
日本3周目の前半戦であった。
しかし写真は日本3周目~5周目での訪問時のものをブレンドさせて掲載させていただきたい。
僕の運転する日産サファリは、向津具半島の狭路へと突入する。
この先に目指す川尻岬がある。
ではなぜ僕が川尻岬を目指しているのか。
冒頭でも記載の通り、川尻岬が本州最北西端だからだ。
珍しいだろ、最北西端とかいう斜めの突端岬って。
既にこのときの僕は、北海道・本州・四国・九州の本土の最東西南北端である本土最突端16岬は攻略済みだ。1回のみならず、既に2回目・3回目の訪問に入っている。
しかし斜めの突端はまだ行けていない場所もある。
山口県に来たからには、そこを踏まないわけにはいかないのだ。
…さて、まずはあなたにクイズを出したい。
川尻岬はいったいどこにあると思う?
本州最北西端、つまり本州の最も左上だ。
…たぶん、少し迷われたことだろう。
「左」を優先すべきか、「上」を優先すべきか。
それによって回答は異なる。
左と上を公平に評価する方法も、パッとは思いつかないだろう。
まずは正解だ。
ここ。
正解しましたか?
そして最北西端の根拠だが、すごく雑な言い方をしてしまえば、「言ったもの勝ち」だ。
そのくらいに斜めの定義は難しい。
あいまいで恐縮だが、だからといって「ムカツク!」とかは言わないでいただきたい。
ここいらの話は、日本本土の最北西端にあたる佐賀県「波戸岬」のエピソードでも記載してあるので、興味があったら読んでみてほしい。
…いずれにしてもだ。
突端を名乗る岬にはロマンを感じる。
人は理論で動くのではない。ロマンで動くのだ。
だから僕は狭路に突っ込んでいく。愛車、日産サファリの巨体で突撃する。
日本海に荒波打ち寄せる
岬の駐車場に到着した。
そこは「川尻岬キャンプ場」の敷地となっている。
管理人のおばちゃんに300円を支払う必要がある。
日本4周目、パジェロイオで訪問したときだけ駐車場の写真を撮っていたので、記念にご紹介しておこう。
あと、2021年12月現在においては、Webから調べたところどうやら川尻岬キャンプ場は【利用中止】となっているようだ。
冬季だからなのか、それともサイト内に「2021年6月に漏水して水が出なくなった」と書いてあるためなのか、それはわからない。
もしあなたがキャンプ目的で行く場合は、要注意だ。
では、駐車場から岬の先端方面へと歩いて行こう。
現れるのは、綺麗に整備された芝生地帯。
ここいら一帯がキャンプ場のようだ。炊事場や東屋などがある。
上の写真を撮ったのは、まだ朝の5時台。日の出前の景色である。
なのでボンヤリした写真となってしまっているが、キャンプしてここで眺める青空はさぞや綺麗なものだろうと思う。
あのベンチの向こうは、一旦ガクンと標高が下がり、その向こうにまた小山が聳えている。
ここいらでキャンプ場エリアは終わりだ。
しかし岬の先端はまだ先だ。
どうやら岬の先端ヘは徒歩で10~15分ほどらしい。
う、うわぁ…。
思ったよりもワイルド、かつゴールは遥か彼方だぞ…。
僕はのんたんと顔を見合わせた。
実はのんたんと訪問した日本3周目のときは、もう1つの試練が僕らの前に立ちはだかっていたのだ。
それは、強風と荒波だ。
駐車場のおばちゃんには、「今日は時化てるから波にさらわれないようにね」って言われている。
さっきキャンプ場で擦れ違った釣り人のおじさんは、道を尋ねた際に「道が細くなってる部分が風が強くて海に落とされそうだったから行かなかったよ」って言っていた。
道が細くなっている部分、来た!
まさにナイフエッジ!
右も左も海だし、仮に強風でよろけたらそのまま眼下の海にドボンでサヨナラだ。
屈強そうな釣り人のおじさんですら行かなかったエリアだ。
…まぁでも行った。
「ヒィィィーー!」とか言いながら、2人で突破した。
怖かったが、海はとても綺麗だった。
日本海の荒波、力強くてかっこいい!僕らは今、大自然を満喫している!
人間にとって自然とは、畏怖するもの!!
言葉ではなく心で理解できた!!
灯台に到着した。
川尻岬を目指す人は、キャンプ客や釣り人がメインのようだ。
僕のような突端マニアも少数いるが、後述する理由によりここまで来る人は少ない。
従い、人の気配のない静かな灯台であった。
…ただね。
僕の一番のお目当てがない。
本州最北西端の碑がどこかにあるはずなんだけど、岬の先端まで来たのに無いのだ。
あれ…??
本州最北西端を示す碑
突端マニアたるもの見逃すわけにはいかない、突端を示す碑。
「本州最北西端の碑」はどこにあるのか…。
実は前項で大きなヒントが出ていた。
これだ。
さっきナイフエッジのデンジャラスゾーンを通過する手前の、キャンプ場の端の部分だ。
赤く囲ったオブジェにご注目頂きたい。
自然と生命を大切に
…このように書かれている。
往路でも目に入ったが、個人的には別に心に響くような内容でもないので、チラリと横目で見て「はーい」みたいなテンションで通過した。
しかしだ!
このオブジェの裏を見るのだ。
上の写真の通り、裏と言ってももうすぐそこは手すりで、その向こうは絶壁。
ざわざわ裏に回り込む理由も無さそうだが、とにかく行くのだ。
はい、『本州最西北端 川尻岬』。
この初見殺しには、正直僕ものんたんも参ったぜ。
知っていない限りなかなか気付かないよ。
灯台から戻ってきたときに必然的に裏側が見えるから、それでようやく気付いたぜ。
この碑だけを目的とするなら、暴風で転げ落ちそうなエリアも灯台も、行く必要はなかったのだ。…ま、行って良かったけどさ。
さて、ここで目ざとい人は「あれ?」って思ったろう。
今まで僕は記事内で「最北西端」という書き方をしてきた。
しかしここに彫られている文面は「最西北端」だ。
隣り合った2つの方位を並べる際、北と南を優先するように僕らは小学校で習った。
なのでそれに準ずれば「最北西端」であるはずなのに。
なぜなのか。
それはWebで調べてもわからなかったので推測の域を出ないが、西を強調したかったのだと思う。
上図を再掲するが、本州最西端「毘沙ノ鼻」をベースとしての、本州最北西端なのだ。
これがもし本州最北端「大間崎」をベースとしていたら、本州最北西端は「竜飛崎」になるのかもしれない。
…と言ってもピンと来ない方もいるかもしれないので、地図を以下に埋め込んでおく。
逆に言えばだ。
本州最西北端の座は川尻岬がゲットした。
本州最北西端の座が、まだ確保できるかもしれないぞ…?
「そんなのアリかよ?」って思われるかもしれないが、斜めの定義はそのくらいファジーなのかもしれない。
フレキシブルに定義づけていく感覚が、面白いかもしれない。
碑の向こうから朝日が昇りだした。
綺麗だ…。
なんだかパックマンみたいな不思議なデザインだし、いつ来てもボロボロの碑だが、それでも僕は満足だ。
本州最西北端。このレアな響きが心地よい。
北であり、西である。
太陽の昇る東とは、一見縁の無い岬に思えるが、ちゃんと日の出を見れるのだ。ありがたい。
この日の日本海は、非常に穏やかだった。
いい日になりそうな予感がする。
岬の先端部分も碑の光を浴びて、クッキリ綺麗に輝いていた。
…完全に余談ではあるが。
僕とのんたんは、この岬の駐車場でランチにした。
僕は車に自炊道具や車中泊セットを乗せての旅をしている。
節約のために1日1回は自炊をしているのだ。
「パスタでいいなら作るよ」ととか言い、麺を茹で始めた。
のんたんは「YAMAはどうせロクなものを食べてないだろうと思い…」とか言いながら、作って来てくれた唐揚げと玉子焼きを取り出した。
うおぉ、ありがたい。
荒波砕ける岬を眺めながら、2人でパスタを食べた。
これが僕の、本州最北西端の思い出だ。
まだまだ日産サファリで西日本を巡る僕の旅はこの先長く、これからもいろんな旅人との出会いがあるし、いろんなトラブルや感動が僕を待ち受けている。
そんな中での、束の間の平和な時間であった。
のんたん、元気かな?
川尻岬に来るたび、僕の胸には初回のエピソードが去来するのだ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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