僕の手元には、ちょっと現実離れした資料が2つある。
1つは「地獄通行手形」。すごいでしょ。僕まだ生きているのに、そして地獄なんかに縁がないような誠実な善人なのに、地獄に行けちゃうんだよ。
そしてもう1つは…。
「地獄への入り方」。文字通り、地獄のガイドブックだね。「地球の歩き方」みたいにサラッと言ってのけたけど、これすごいもんだからね。貴重だよ。
僕は手元に残ったこの2つの資料を見て目を細めた。
あぁ、地獄。ちょっと怖くて不思議だったなぁ。もう行くことはないかもしれないけど、貴重な体験だったなぁ、と。
…気になる?だよね。
じゃあ今夜は「全興寺(せんこうじ)」の地獄堂を訪問したエピソードを語ろうか。
商店街のお寺の中へ
ここは「平野本町通商店街」という名前らしい。夕暮れ近い時間ということもあるのかもしれないが、人通りはまばらであり、結構薄暗く感じた。
上の写真は自動補正が入って結構明るく見えるかもしれないが、実際は懐中電灯が欲しくなるくらいの状態であった。
…が、この雰囲気は嫌いじゃない。しっかりと重厚感があり、昭和の時代からブレずに令和の現代まで生き残ってきた意思を感じさせるような商店街だ。
その中でもひときわ目を引くアンティークな建造物。国の登録有形文化財にもなっている、大阪府最古の新聞販売店である「小林新聞舗」だそうだ。
日章旗みたいな中に書かれた"朝日新聞"の文字が、まさに朝日を現しているな。そっか、朝日新聞って朝日だもんな。朝日と共に朝刊をお届けしたい気概なのかね。改めて気付いた。
そんな新聞屋さんの隣に地獄への入口がある。
朝日から地獄へ…。なにこの暗転。
これが僕の目指す地獄堂を有する全興寺の入口なのだ。
商店街の中にナチュラルにお寺の入口があるってすごいな。最初、まさか商店街には入口はないだろうと裏側を探索しちゃったんだよね、実は。
右の看板、おどろおどろしい鬼の絵と共に「ウソをつくと舌をぬくぞ」と書かれている。
まだ境内に足を踏み入れて3mですぜ。初手からブッ飛ばしているな、このお寺。挨拶からこのアグレッシブさ。まだ僕ら、お互いのことすらよくわかっていないのにさ、初手の距離の詰め方がすんごいのな。
境内を奥へと進んでいくと、何やら正面に青白く光る仏像がある。薄暗い夕刻にボンヤリと浮かび上がるそれは、なんだかゾクゾクさせてくれる。
不動雲海という名前のスポットだ。不動明王がモクモクと焚かれた煙の上に立っていて、まるで雲海のようだぞ。
いや、でもよくよく考えてみたら僕、こんなパープルカラーの雲海なんて知らんぞ。なんだこれは。
そして煙の切れ間から見えたんだけど、この下は小さな池で鯉も泳いでいたぞ。鯉、こんなロケーションでリラックスした日常を送れているのか?それとも地獄か?そうだよな、地獄だもんな、ここ。
寺務所を過ぎて広い境内の中心部に入ったところで、作業をしていたおばさまスタッフの方に出会った。
「こんにちは、地獄堂を見に行きました」みたいなことを言うと、「あら!もうそろそろ終わりの時間なのよ!でも17時半までだからあと15分あるわ!こちらに急いで!!」って、寺務所の受付に連れて行かれた。
なるほど、17時半終了なのか。そんなもんだとは思っていた。この夕暮れの時間でも境内には入れた時点でラッキーだと思っていた。
では急ごう。地獄へ急ごう。
僕は地獄を垣間見た
寺務所の受付にて100円を支払った。地獄堂の見学は100円なのだ。100円で地獄を見られるなんて、安いもんだよ。
これが本堂だ。おばさまが「どんなに時間が無くてもね、最初に絶対に本堂でお参りはしてもらうことになっているの」って言っていたので参拝をした。
中には薬師如来がいるらしい。既に勤務時間終了なのか、お隠れあそばせていたけどな。
境内の全景を載せておくね。
右が寺務所。左が本堂。右奥に地獄堂が少し写っている。この境内の中に見どころが7・8個あるらしくて17:30までに間に合うのか心配なんだけど、まぁメインの地獄堂だけはしっかり堪能してやりたい気概だよ。
うおっ、トトロがいた。なんだか怖い。なぜこんなところにいるのか知らないが、となりにいてほしくないタイプのトトロだ。
では、メインである地獄堂だ。扉の上に鬼が乗っている。
ズームした写真は撮らなかったけど、向かって右側には「極楽度・地獄度チェック」っていうパネルがあったよ。
2択が並んでいて、「やる気がなく無責任」とか「時間も金も無駄使いする」とかを選ぶと地獄側に近づく。「義務も責任も進んで果たす」とか「親切で人のためによく尽くす」を選ぶと極楽寄りになる。
あれれ…。僕、極楽に縁がない…??
ま、いいや。地獄の予行演習ということで。通行手形のQRコードをセンサーにかざすとお堂のドアが左右に開いた。最近では地獄もハイテク化が進んできたなぁ…。
ドアから中に入ると、1畳もないような狭さのこの空間。わわっ、なにこれ!なにこれ!!すごい圧迫感!
いきなりのこの世界観に、僕は面食らったさ。
閻魔大王!!僕の目の前には閻魔大王がいるのだ。これから審判を受けるのだ。この迫力よ。そんで距離近いよ。
同行者がいるならまだしも、僕1人だもん。怖いよ。
右を見たら、地獄の鬼と奪衣婆だ!服を脱がせてその重さで罪の判定をする婆さんだったっけ?
このばあさんと会うなら冬場は避けた方がいいよね。コート、重いからな。アロハシャツとかでフランクに行きたい。
…とりあえず、何をどうすりゃいいんだっけ?ちょいと気が動転して、一度地獄堂を出た。
するとちょうど外にいたさっきのおばさまが「あら?早いじゃない。ドラを叩くのよ。叩いた?」って言ってくれた。そっか、ドラか。叩かなきゃ。
僕は再び地獄の中に吸い込まれた。
ドラ、叩く…!「ギャオーン!」と響いた。反動で写真がブレた。
それに反応し、地獄解説動画が始まったようだ。
鬼の横の鏡の中に顔が浮かび、リアルに動きながら語りかけてくる。
死んだら三途の川を渡り、奪衣婆に診断され、閻魔大王と対面し、地獄行きと判定されたらいかに悲惨か。そのエグい地獄の様子が次々と鏡に浮かび上がった。
ふむ、これ小さい子は泣くな。トラウマになるな。
連動して奪衣婆もしゃべる。…てゆーか、マジにリアルな顔の婆さんだな。そしてさっき気付かなかったけど、腹の中に何を埋め込んでいるのだよ。
鏡の中の動画はどんどん続く。
地獄の釜茹でだ。人間を煮込んでいるのがわかる。恐ろしい地獄だ。針山地獄もあるぞ。体、串刺しになる。かなり痛そうだ。
賽の河原で延々と石を積み続ける子供たちもいる。哀れ。
そんな感じで6分ほど阿鼻叫喚な動画を見せられたあと、「命はひとつきり。悪い行いをすれば地獄に落ちるが、いい行いをすればお地蔵さんが救ってくれる。」と飴と鞭的な救済措置に入って行った。
「おまえらはどうだ?悪い行いはするなよ。人のためになるようなことをし、何より自分自身を大切に大切に、しろよ…。」と諭されて終わった。
結構濃厚な演出に、しばし放心状態となったぜ。これ100円は安いな。
しかしもし参拝者がたくさんいた場合、これどうなるんだろうね?詰めても3人くらいのこのお堂に参拝者が詰め寄せたら大変そうだ。だからこそ、大事にしておきたいスポットかもな。
ごく一部ではあるが、動画もあるから見てみてね。
ちなみにこれを執筆時、ちょいと設定を間違えて自動的に延々ループになってしまい、この音声が執筆しながらもずーっと聞こえていた。やめて、心が壊れるぅぅ…。
そして極楽を巡り…
では、そのあと時間の許す範囲で巡った、その他の境内のスポットをご紹介しよう。
まずは地獄の釜の音が聞こえる石なんてものがあって、岩の中に頭を突っ込む場所があったりしたんだけど、それは写真に撮らなかったからスルーね。
これは仏様と赤い糸で結ばれるらしい。写真に向かって左側に座れば、レーザー光線のような赤い糸で仏様と繋がれるぜ。
いや、赤い糸って運命の相手とか恋人と繋がるんじゃないの?仏様と繋がるの?
なるほど、「カップルだったら2人でこのイスに座りなさい」ってこった!1人だったら仏様がお相手してくださるんだとよぉ!
僕は1人だ!仏様、相手してくれよ!そんでカップルは爆発しろ!!
うん、順番間違えたかも!賽の河原に来ちゃった!
ひとつ積んでは父のため、ふたつ積んでは母のため、だ。「どこまで石が積めるかあなたも挑戦してみてください」というユニークな体験コーナーだ。賽の河原がエンタメ化している!
なんだこの妖しい雰囲気のお堂は…。どうやら涅槃堂らしい。
時間と共にゆっくりと照明の色合いが変わっていくお堂の中には、ガラスの涅槃仏が祀られていた。
これね。現代アートの芸術家さんが造ったという涅槃仏。総ガラス造りのものらしい。静かで心休まりそうな空間だね。
いや、でも僕は実はあんまり心が休まっていない。境内の遠くの方でおばさまがこっちを見ているのだ。「そろそろ閉館よ、急ぎなさい」っていうオーラがビシバシとここまで届く。まぁ待て。17:30まではあと数分あるだろう。
最後に訪れたのは、「ほとけのくに」と書かれた地下に降りる階段。地下に行けばおばさまの目線も届かなくなる。
よし、逃げ込もう。助けて、仏様。あと数分だけ僕をかくまって。
幻想空間。「ほとけのいのちにつつまれる」と書いてある。ほとけのいのち?わかりそうでわからない。でもいい。頭ではなく心で感じるのだ。
あぁ、これはセーブポイント。リアルセーブポイント。RPGのダンジョン内で体力回復と共にセーブできる聖なるスポットじゃないか。実在したんだね。
このステンドグラスの曼陀羅内で瞑想するといい感じらしい。周囲グルリと仏像に囲まれていてパワーもらえるらしい。
耳を澄ませば水琴窟からの水滴の音も聞こえてくる。リラクゼーション効果バツグンだね。
ただし僕はもう時間だ。残念。
もう境内はかなり薄暗くなっていた。
おばさまに「ありがとうございました」と伝える。おばさま、「通行手形があればまた何度でも来れるからね」と優しく見送ってくれた。
寺務所のライトが消えた。ギリギリの時間にすみません。でも楽しかった。
みんなも地獄極楽体験を
…というわけでだ、かなり遅い時間に駆け足で参拝したので、途中で漏れがあったかもしれないし順番が食い違ったかもしれないし、詳細まで理解できなかったかもしれない。
何を撮影したのかよくわからない写真も数枚ある。現地でもっと解説などを読めばよかったけど、そこまでも余裕もなかったのだ。
いろんな見どころがあるので、もしあなたが訪れる場合は日中に時間に余裕をもって行ってみてほしい。
まるでテーマパークのようだろう。全興寺さんもあまりかしこまらずに、気軽に遊びに来てほしいみたいなニュアンスのことをWebに書いている。
「鬼ハンター」というスマホゲームまであるんだぜ。境内に隠れている4匹の鬼を見つけ出すというスマホゲームであり、4匹見つけると免許皆伝となってあなたに幸せが訪れるのだ。
こんなことを書くと「この寺、大丈夫かな?ちゃんと由緒とかあるのかな?」って思われてしまうかもしれない。
しかし1400年も前から続くお寺であり、あの聖徳太子が薬師如来像をここに安置したことがお寺の始まりだそうなのだ。大阪最古の木造建造物の1つでもあるそうだよ。
ガチな歴史的スポットなのだ。
楽しく地獄や極楽を学び、ほんの少しだけ自身の日ごろの行いを悔い改められればいいですな。僕も天国行けるようにがんばるよ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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