「耶馬渓(やばけい)」。
日本三奇勝であり、かつ日本新三景であるという、すごい肩書を持つ景勝地だ。
ようするに奇岩が連なる渓谷。
しかし「本耶馬渓・裏耶馬渓・深耶馬渓・奥耶馬渓・椎屋耶馬渓」などいろいろなスポットの総称となっていて、どこがどのようにすごいのか混乱してくる。
何が何だかわからん。
だから僕は目に着いた耶馬渓的なスポットを全て訪問しようと思う。
南側の玖珠町から突撃し、北側の中津市の市街地に抜けるルート。
そこを走りながら耶馬渓を感じるのだ。
そんな日本5周目の、緑豊かな時期の記録を送りしよう。
深耶馬渓と一目八景
玖珠町から県道28号を北上する。
ちょっと道は細いけど、緑豊かな気持ちのいい道だ。そしてすぐ左手には清流が流れていたりする。
このシチュエーション、青森県の「奥入瀬渓流」沿いの道に似ているなって思った。
どちらも森の中野渓流沿いの道。大好きだ。
はい、深耶馬渓にやってきた。
いきなりだがここが耶馬渓の中でも最も有名なスポットかもしれない。
普通に"耶馬渓"というと、世間では大抵ここを指す。
"一目八景"という、どこを見ても森の中に聳える岩石が美しいスポットだ。
色とりどりの紅葉の季節が最高だというが、緑のあふれるの季節もいいじゃないかって思う。
ひときわ大きい柱状節理の目立つ断崖が、群猿山だろうか?
迫力があるな。
僕は実は今回、およそ10年ぶりに耶馬渓を訪問した。
前回は夕方で薄雲のある晴れ空だった。
だからか、当時の手記には『ちょっと地味すぎる印象』とか書いてあった。
今日みたいな快晴に再訪できてイメージが変わった。
メッチャ元気な人は、山方面にモリモリ入って行った先にある見晴台とかにも行くらしい。
しかし僕にはそこまでのモチベーションは無い。
でもそうなると、群猿山以外にあまり見どころが無く、その群猿山も角度を変えて見ることができないので写真の構図はズームするか引くかの2択だ。
つまりあまりやることがない。
景色がいいのだが、何となく手持無沙汰だ。
並んでいる土産物屋を少し眺めてみたが、特に何か買いたいわけでもないし。
いったん車に乗り込み、北に数100m走った「深耶馬渓駐車場」という広大な駐車場にやってきた。
ここは前回も今回もガラッガラだ。
だけども紅葉シーズンはギュウギュウになり、付近の道路も大渋滞とのことだ。
紅葉ってすごいのね。
さらに数分歩いたところからの眺めがいいそうなので、歩いてみた。
山の緑の中に奇岩が点在しているね。
ただ、ちょっと逆光すぎて何が何だかわからない。
なんとなくスゲーことだけわかる。
あと、今までいろんなWebサイトやガイドブックなどで耶馬渓の絶景を見てきた身としては、木々と白い岩石が融合しすぎてしまっているように感じる。
別にそれは耶馬渓が悪いわけではない。
たぶんその原因は、一般的に流通しているWebサイトやガイドブックの写真がすごすぎるから。加工されすぎているから。
そういう媒体に載る写真って、きっとうまくトリミングしてあったり、一番きれいだと言われる紅葉シーズンの山々のコントラストを強調させたりしていると思う。
とても夢のある写真だとは思う。
だけども今は緑のシーズンだし、実際には岩山は結構緑の山の中に溶け込んでいるんだ。
いいとか悪いとかではなく、これが現実。
ただただ深い森が爽やかで、空気が綺麗で心も潤う。
いつか紅葉の耶馬溪も見れたら印象が変わるのだろうか?
この、道路脇を流れる小川の周囲も錦絵図のようになるのだろうか?
日本には美しい四季があるから、また同じ場所に来る楽しみがあるよね。
今回は緑一色を楽しめた。それでいい。
耶馬渓ダムと羅漢寺
県道28号をさらに10kmちょっと北上すると、県道沿いにダムが現れる。
「耶馬渓ダム」だ。
ここも紅葉の名所だと聞いたことがある。
だから、緑の時期も何かいい景色が見えるかもしれないと思い、立ち寄ることにしてみたのだ。
綺麗に整備されたダムである。
ただ、それ以上でもそれ以下でもないかなって思った。
今朝は阿蘇エリアを走り回って絶景の雲海などを堪能してきたので、もう「景色がいい」のバロメーターが壊れているのだ。
隣接する耶馬溪ダム記念公園には「溪石園」という、紅葉のシーズンの夜にはライトアップされて、そりゃもう綺麗な庭園がある。
そこを見てみようかなってチラッと思ったけど、季節も時間も違う現状で行ってもアレだよなって思い、止めた。
「道の駅 耶馬トピア」に立ち寄った。
建物から離れたところに愛車を停めたこともあり、なんだか空が広い。
ここも耶馬渓の一部なんだなって感じた。
愛用のツーリングマップルを開き、耶馬溪エリアのここから先のスポットを調べる。
「青の洞門」と「羅漢寺」に興味がある。
まずは羅漢寺だな。
リフト!??
お寺にリフト!?
羅漢寺がどんなところかロクに知らずに来てしまった僕は、正面に見えた光景に面食らった。
境内MAPを見て理解した。
どうやら、参道からお寺までは石段がずーっと続いていて、これを歩くと片道20分はかかるらしい。
しかし、リフトに乗れば有料だけども3分で行けるらしい。
いやー…、どうしようかなぁ…。正直僕は迷った。
そんなお金払ってリフトに揺られてまで、羅漢寺に興味があったわけではないんだよね。
ただ軽ーくその歴史の一端に触れたかっただけで。
いや、「軽く」だなんていうと失礼なんだろうけどもさ…。
決断した。
リフトは辞めよう。
参道を歩いて、その要所要所にある史跡を見よう。疲れたら引き返せばよい。
こうして僕は参道入口から石畳の道へ入って行った。
あぁ、いいなぁ…この苔むして静かな山道。
リフトは快適だろうし、一瞬で山頂近くの白い岩山に埋め込むように建てられたお堂などを見ることができるのだろう。
だがしかし、僕はこういう道を歩くのが好きだ。
歩いて登る人は周囲に誰もいないが、僕はこの道を選んだことに後悔はない。
いつの時代の仏像だろうか?
"羅漢寺"っていうのは日本各地にあるが、ここの羅漢寺はそれらの総本山だそうだ。
そしてその歴史は西暦645年まで遡ると言われている。
今も山頂付近の洞窟には3700体ほどの仏像が安置されている。
"五百羅漢"という言葉があるが、ここの五百羅漢もまた、日本で一番歴史があるのだ。
今日ここまでずっと続いていた爽やかテイストから一転、ジトッとした世界観になったが、こういうのも好きだ。
屋久島を始めとした森歩きは結構やっている。
深い深い緑の魅力は知っている。
仁王門が見えてきた。
崖に押しつぶされるような立地に建っている。
仁王門の中にはお馴染みの阿形と吽形がた。
とりあえず吽形さんだけ写真に撮っておいた。
なんか阿形さんと吽形さん、妙にデフォルメされているのね。
怖くない。ゆるキャラっぽい。
これはこれで親しみがあっていい感じだわ。
仁王門を越えると、参道は一気に傾斜を増して急な石段となる。
登山に近いような感覚になってきたぞ。
山形県の「羽黒山」や「立石寺(山寺)」の参拝とかもこんな感じだったよな。
杉の木立の間に無数の石碑が立ち並ぶ、荘厳な世界だ。
…さて、この先も僕は石畳の山道を登る。
その先の巨大な岩肌に建つお堂や、石仏群を目指して。
だがそれらの写真はない。公開できない。
なぜならリフト降り場から先は神聖なエリアなので撮影禁止だったからだ。
まぁWeb検索すれば撮影禁止以前のものと思われる写真やオフィシャルな写真がたくさん出てくる。
「羅漢寺と言えばこの光景」みたいなものを当ブログでご紹介できなくて少し残念ではあるが、逆に言えば「歩いたからこそ撮れた、あんまり羅漢寺紹介サイトでは見られない写真」というのを掲載できたと思う。
僕にとっての羅漢寺っていうのは、今もこういう光景なんだよ。
青の洞門と競秀峰
車に乗ってUターンし、さっき休憩した道の駅 耶馬トピアの前を通過。
国道212号沿いにある「青の洞門」へとやってきた。
まずはあなたにアドバイスだ。
カーナビに"青の洞門"と入れないようにしていただきたい。
青の洞門にピンポイントに行ってしまうと、上の写真のような巨大な岩山の連なる「競秀峰」が見られないから。
この光景は青の洞門の、川を挟んだ対岸でないと見ることができない。
これも耶馬渓の奇岩の1つである。
この山の右から左にかけて、トンネルが貫通している。
ズームしてみた。
あのあたりが一番ヤベェ。
とはいえ、今はキチンと整備された車道が通っている。
僕だってそこを車で走ったことがある。
ただしもともとは、"禅海和尚"という人がノミとツチだけで30年かけてトンネルを掘ったのだ。
あの写真のあたりにはまだ当時のトンネルが残っている。
それとね、青の洞門という名前に紐づけてネモフィラがこっち側(川の対岸)に植えられているのだ。
上の写真にはその青いネモフィラが写っているのがわかるかな?
ステキすぎだよね。
徒歩で7・8分ほど。
川の対岸から歩行者用の橋を渡って競秀峰の足元までやって来た。
競秀峰、すんごい迫力。のしかかってくるような感じだ。
18世紀ごろはトンネルが無かったので、羅漢寺を目指す旅人は断崖ギリギリを鎖を伝って往来していたんだけど、よく死亡事故が発生していたのだそうだ。
禅海和尚はそれを見て「自分がなんとかしよう」とトンネルを掘り始めた。
1735年のことだったらしい。
ノミとツチだけで30年。
342mを掘り進めたそうだ。そのうちトンネル部分は144m。
完成後は人間や牛などに対し通行料を設けた、日本初の有料道路となったそうだ。
それではわずかな区間ではあるが、当時のぬくもりを感じてみようぜ。
車道に対して地下に潜っていくような感じで昔の洞門があるぞ。
車では入れないから、歩いて入るしかないのだよ。
ここはかつて訪問して以来の2回目だが、相変わらずワクワクするぜ。ぶっちゃけ耶馬渓エリアで一番の楽しみ。
今も残るその18世紀の洞門。
もちろん1人だけで掘ったわけではないとはいえ、あの競秀峰に風穴を開けてやろうという精神がすごい。
しかも武器はノミとツチだけだもんな。普通に考えれば完全に攻撃力不足なのに。敵は固すぎるぜ。
今も残るノミの跡。
この1つ1つに当時の執念が込められているのだ。
世のため人のため…。僕にはきっとできないな。30年も捧げられないな。
奇しくも今年、2023年は禅海和尚の没後250年である。
自治体は春ごろから「せっかくなので何かやろうぜ」と言っていたようだ。
しかし悲劇が訪れた。
2023年7月の想像以上の豪雨で、この手掘り洞門はしばらく観光できない状態となってしまったそうなのだ。
いつごろ復旧できるのだろうか?
没後250年イベントは開催できるのだろうか?
それにしても近年の梅雨時期の雨は常軌を逸している。
九州ばかりか先日秋田にも甚大な被害をもたらした。
被災された方が1日も早く元の生活に戻れることをお祈りいたします。
そして、またいつか僕も耶馬渓を巡りたい。
願わくば紅葉シーズンに。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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