レトロ自販機は、「いつか行こう」が通用しなかったりするんだ。
昭和時代から平成初期に作られた自販機はもうボロボロで、いつ壊れてもおかしくない状態のものも多い。壊れてももう部品が無いから直せなかったりする。
それに、当時から自販機を管理しているオーナーさんも高齢だったりする。もちろん世代交代していたり新規事情としてレトロ自販機ビジネスを始める人もいるが、一世一代のケースも多い。
まさに自販機が先か、オーナーさんが先か…みたいな事態もありうるのだ。
「LOG LAND(ログランド)」。
僕はここを2回訪問している。ログハウス風の外観のこのオシャレな建物の軒先にはレトロな麺類自販機があってね、90過ぎのおばあちゃんが管理していたのだ。
だけども僕はこのレトロ自販機のうどんを食べることができなかった。
おばあちゃんが亡くなり、自販機も管理する人がいなくなって稼働停止し、そしてついに撤去されてしまったのだ。あぁ、食べてみたかったなぁ…。
今回は、食レポはできない。食べたことがないのだから。レトロ自販機を求めて訪れたエピソードのみを執筆しようと思う。
ほら、旅って目的を達成できないものまた1つの醍醐味だからさ。まぁ「こういうこともあるうるよねー…」くらいの軽い気持ちで読んでくださいな。
あと少し早ければと悔いた朝
今から10年以上も前のことだったろう。シトシト降る雨の中、旧川上町に足を踏み入れた。
見えづらいが柱の左側に『マンガ文化のまち』と書かれている。旧川上町は、マンガ文化で盛り上がろうとしている町なのだ。
どうやらね、もともとはマンガとは関係のない町だったけど、過疎化が進む中での町起こしとしてそれにちなんだ施設を作ったりし、活気づいて来ているとのなのだ。
その歴史は結構古く、1988年くらいから力を入れているらしい。1988年って、まだマンガは子供の読む低俗な文化だ、とか思われていた時代だよね。先見の明があるな、この町。
マンガ家の「富永一朗さん」がこの町の名誉市民であり、彼の描いたキャラクターを掲げたりしてがんばっているらしいよ。
富永一朗さん、2021年に亡くなったよね。悲しみ。
さて、今回僕がここを訪れた目的は、マンガではなくてレトロ自販機なのである。この町のどこかに麺類のレトロ自販機の生き残りがあると聞いてやってきた。
こんなのどかな雰囲気の町のどこにレトロ自販機があるのだろうか…?
詳細な情報は手元に無いので、一度国道沿いのレストハウス風のお店の敷地に車を停め
てツーリングマップルを確認し目星をつける。
そして町の中心地をグルグルと車で走りまわった。
…で、見つからなかった。町を一周してまたレストハウスに戻ってきた。
そこで気付いた。ここが目的地だった。ログランドというレストハウス。まさに灯台下暗しだったぜ。
これがそのログランド。ログハウス風の休憩施設。
まだ朝の9時なので施設自体はオープンしていない様子だ。だが建物の軒下には自販機
群があり、その1つが麺類のレトロ自販機なのだ。
よーし!見つけたぞ!!車を降りると、雨の中をダッシュで軒下に飛び込んだ。
おぉ、渋い飲食スペースだなぁ。小さなテーブルと、たった1脚のイス。なかなかそそるロケーション。そしてそれを見守るように富士電機のレトロ麺類自販機だ。
てゆーか、誰だよ直前に食べたヤツ。丼がそのまんまだし、パックのドリンク飲料も放置されているじゃないか。片づけて行け。
「では、気を取り直して自販機のうどんを食べますか」って思って自販機に対峙するんだけど、まさかの売り切れだった。ガックリ来た。
雨なのか自分の涙なのかわからないくらいになった。いや、それは誇張しすぎなんだけど、ガッカリはした。
どうやらこのお店のうどんはおいしいと人気で、すぐ売り切れるお店らしいね。
テーブルの上の丼にはまだ汁も残っている。丼回収容器の中も、丼でいっぱいだ。あと数時間、もしかしたら数10分早ければ食べることができたのかもしれないなぁ。悔しい。
まぁ次があるさ。気を取り直してドライブを続けよう。
引き続き町を走って見つけたのは、成羽川に架かる「神楽橋」の欄干に立つのは、備中神楽のスサノオ。この曇天の雨の中だから、より一層おどろおどろしく見えますな。橋の反対側にはクシナダヒメがいたぞ。
これらはマンガ文化とは関係のないものなのだろうが、いいものを見られたぜ。
後の祭りだと気づいた夕暮れ
時は流れて2022年の春の夕暮れ。僕は再びログランドを目指していた。
もうすぐ19時になろうとしている時間帯だ。空を染める赤い雲も、徐々に黒くなっていっていた。もうすぐ夜がくるのだ。
僕は焦っていた。ログランドの自販機麺が、また売り切れてしまってはないだろうかと。今さら急いでもしょうがないのだが、ハンドルを握る手に力が入る。
カーナビに入力した、ログランドの住所に到着した。
懐かしいログハウスが― …、
― …あれ? ログハウスどこ行った?
カーナビに入れた住所、間違っていないよね??暮れ行く空、目の前の国道を音速で通り過ぎていくトラック。僕の心は不安でいっぱいになった。
が、すぐに気づいた。
ログランドのすぐ前にガソリンスタンドができていたのだ。
上の写真には写っていないが、ガソリンスタンドの右手に国道がある。国道から見ると、ログランドは完全にガソリンスタンドの裏なのだ。
なんてこった。ログランドの駐車場はすんごく広いのに、あえて建物のすぐ前にガソリンスタンドかよ…!
別角度からの写真を見てほしい。ログランドを包み隠すようにガソリンスタンドの外壁が造られている。
どういうことだENEOS…!!これはいったい、どういうことなんだよ…!!
僕は握りしめたこぶしがプルプル震えるのを感じた。いや、実際は「あれ?」って思ってちょっと眉間にしわを寄せた程度なんだけどさ。
それに実はこのガソリンスタンド、2013年くらいにできているんだよね。僕、知らなかったわ。知らない間に時間が流れすぎていた。
何はともあれ。この時間ではあるが、上の写真の通りログランドの屋根に沿っておめでたい感じの電飾がついている。営業しているのかな?早速本題のレトロ自販機を確認してみよう。
ないの。
いや、何がないって、そりゃあなたレトロ自販機ですよ。
カップ麺自販機の隣に、あの日はちゃんとあったじゃないですか。その対面のテーブルに汁の残った丼が置いてあったのを、あなたも覚えているでしょ?
売り切れのカクゴはある程度してきたけど、まさかレトロ自販機自体がないことは想定していなかった。呆然とした。
カップ麺自販機は『使用中止』と貼り紙がされていた。左の汎用自販機は動いているようだった。
しかしそんなことはどうでもいい。レトロ自販機のうどんを食べたかったのだ。撤去されてしまっては、もう二度と食べられないじゃないか…。
ちょいとヘコむキツネに、「ドンマイ!」って感じで背中を叩くウサギ。いや、ドンマイじゃねぇし…。
国道を走り去るトラックのエンジン音だけが、僕の背中にむなしく響いた。
夕暮れ空は、いつもより切なく感じた。
90代のばあちゃんのレトロ自販機
これは後から知ったことだが。
ログランドのレトロ自販機は、90過ぎのおばあちゃんが毎日麺類を準備し、補充やメンテをして維持されていた。
独特の太麺のうどんは好評で、でもおばあちゃんの体力的にたくさんの個数は準備できなくって、だから売り切れる日も多かったみたい。
2019年だったかな。91歳だったおばあちゃんがお亡くなりになり、維持する人がいなくなった自販機は稼働しなくなったのだ。
その後もしばらくは非稼働のままで放置されていた自販機であるが、2021年についに撤去されてしまったらしい。
Webで調べてみたが、その後の行方はちょっとわからなかった。
あぁ、僕は何も知らなかった。
あの日も「ログランドは当然現存するはず。うどんを食おう。」とウッキウキだったのだ。稼働しているか調べるという頭もなかった。
昔ながらの商店ではなく、こじゃれたログハウスだから、高齢のおばあちゃんが1人で管理しているとは想像もしていなかったよ。
冒頭の内容を繰り返すこととなってしまうが。
レトロ自販機もそのオーナーさんも、かなり高齢になっているケースが多い。「いつか行こう」・「また行こう」が実現するとは限らないのだ。
昭和時代はどんどん遠のいているのだ。
そりゃ僕も「まだ残っていたんだ…!」って感覚でレトロ自販機巡りをするのが好きなんだけどさ、同時にこういう悲しい思いも味わっている。
だからこそ、1軒1軒感謝の気持ちで丁寧に巡り、そして記録をキチンと残したい。
食べられなかったけど、会えなかったけど、遅すぎたけど。
オーナーのおばあちゃん、永い間お疲れさまでした。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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