昭和の時代、まだコンビニが世に進出する前にたくさん存在したという、麺類などがホカホカの状態で出てくる自販機。
令和の現代ではほとんど見ることがなくなったが、レトロ自販機としてマニアにひそかな人気を誇っている。
昨今はレトロブームでTV番組などでも取り上げることも多いので、見たことのある方も多いかもしれない。
2023年現在、全国には60店舗ほどこのレトロ自販機を保有してるお店がある。
近年北海道にも1店舗登場したし、本州では群馬県と島根県に結構あるし、四国にだってパラパラとある。
…でもな、九州には無いんだ。九州にはレトロ自販機が1つも無いんだ。どうした九州、元気ないぞ。九州、住んでいる人は元気いっぱいなのに、レトロ自販機は元気ない。
実は2021年までは「阿久根商店」というレトロ自販機が置いてあるお店があったのだが、2021年6月に撤去されてしまったのだ。
もうなくなってしまった自販機だが、往時を振り返って訪問記を執筆したい。
地元のファミレス的存在
さて、腹が減ったぞ。
僕は阿久根商店で腹いっぱい食べるため、朝ごはんを抜いて「野間岬」や「大当石垣群の里」を歩きまくっていた。
大当石垣群の里は傾斜地に100万個の石を積んで形成された静かな集落であり、内部は高い石垣で囲まれた幅1mほどの路地が迷宮にように張り巡らされていてワクワクした。接触的に迷子になったさ。
集落前の小さなバス停の待合所では、地元のお年寄りが井戸端会議をしていたりと、ほのぼのした空気の流れていて最高だった。
野間岬でも往復1時間ほど歩き、そして大当石垣群の里でも数10分散策したので、もう足はクタクタだ。そして空腹だ。
それゆえ、これから食べる飯は最高のものになるに違いない。
ブランチの目的地は、昭和時代のレトロ食品自販機を有する阿久根商店なのである。
ところで鹿児島県で"阿久根商店"と表記すると「あぁ、阿久根市なら知っているよ」という方もいるかもしれないし過去にも何名かいたが、阿久根商店は阿久根市ではない。南さつま市だから注意が必要だ。
(もっとも2023年現在はレトロ自販機はないので、それを目的に行く人はいないが)
念のため阿久根商店の場所を九州南半分が見える地図で示しておいたよ。
南さつま市郊外の国道226号沿いである。ここいらはこの国道は走りやすいが、もっと先の野間岬より先に行くと狭いクネクネ道が延々に続いて肩が凝るのだよ。ほんとすごいクネクネ道なのだよ。
閑話休題。
阿久根商店は閑静な場所をかなりスピーディーに走れるエリアなので、ボケッとしていると見過ごしそうな立地ではあるが、僕は以前にこの店の前を通過したりしていたのでちゃんとたどり着くことができた。
店頭にはレトロ麺類自販機とレトロハンバーガー自販機がある。
もちろんどちらも九州で唯一のものだ。特にハンバーガー自販機は、たぶん西日本全体でみても京都の「ドライブインダルマ」とここくらいにしかないだろう。すっごい貴重なものだ。拝み倒したい。
自販機には張り紙で「コミジョイうどん・そば」と書かれている。
コミジョイとは"小湊ジョイフル"の略。西日本に大規模展開している「ジョイフル」っていう24時間のファミレスがあるでしょ?
で、ここ小湊の町のジョイフル的な存在という意味で地元の人がコミジョイと呼んでいるんだ。
小さな小さな24時間のレストランだもんね。この呼称だけで地元の方々に愛されているお店だってわかるよね。
そしてこれがコミジョイのイートスペースだ。
僕の行くファミレスとも違うしジョイフルとも違って、ファミリーもカップルも女子高生もいないセピア一色の空間。
でも激渋で狂おしいほどにハートを刺激してくるじゃないか。キュン死するほどに愛おしい空間だ。
特に一番奥のハンガーにかけてあるタオルがまっ茶色なのがグッジョブ。何が染み込んだらそんな色になるんだよ。あ、歴史か。長年の歴史が染み込んでいるのだな。
ちなみにテーブルに置いてあるうどんは僕が購入したものだから安心してほしい。時系列をちょっと前後させ、まずお店の外観と内観をご紹介してしまった。
これがコミジョイだ。1名様ご入店ー!(←自分で言う)
麺類自販機でうどんとそば
まずは麺類自販機を見てみよう。
天ぷらそばと天ぷらうどんで各350円である。
うどんとそばの両方に『これがイチオシ!』・『人気No.1』と書かれているが、そもそもここのメニューはこの麺類とチーズ入りハンバーガーの計3種類しかないではないか。
3種類のうちの2つが『人気No.1』という事態に頭は混乱しているが、胃袋は喜んでいるようなので良しとします。
あと、ボタンの下部のボロッボロの貼り紙がもはやホラー映画「リング」の呪いのビデオのひとこまみたいなオカルティックなことになっている。
でも書いてあることは『麺の下に具が入っているからよろしくね』的な平和な内容だ。たぶんボロボロの紙に書かれた大小バラバラの文字は全部怖い。
天ぷらうどんを選択した。
20秒ほどで自販機下部の取り出し口から商品が出てくる。うどん…、ていうか、なんだか巨大な卵とじみたいなビジュアルのものが産まれてきた。
これ、かき揚げなのだ。巨大かき揚げだ。すげーぞ。ウホホと喜びながらセピア色のイートインペースに運んだ。
このすべてを覆いつくすかき揚げがうれしいね。ダシを吸っていてやわやわで、とろけるようだ。
そしてうどんはツルツルでコシがある。この焦点のすぐ後ろに製麺所があり、そこで作っているのだそうだ。つまりこの焦点は製麺所併設のお店。そりゃうまいに決まっている。
ダシは少し甘めだけどもスッキリしたものだった。
半分くらい食べてから気づいたんだけど、下の方にさつま揚げやなるとなどが入っていたんだね。そういや麺の下に具があると貼り紙に書いてあったのに、忘れて夢中で食べていたや。
食べ途中の写真で恐縮だが、残りの具材が見える写真も追加で撮っておいた。
あと、貼り紙には鹿児島の特産物であるタカエビが10%の確率でかきあげに入っているそうだが、たぶん僕のには入っていなかった。あるいは気づかなかった。
でもその遊び心が好きだ。
じゃあ、続いては天ぷらそばを食べようかね。
わざわざ2杯食べられるように、おなかを空かせて来たのだ。食えるときに食う。野生動物と一緒だ。
今度は先ほどの反省を生かし、食べる前に丁寧に麺の下から残りの具材をサルベージしたよ。
どうだい、美しいだろう。これが350円なんだぜ。なんて幸せ価格。
さすがに2杯目はおなかにズッシリ来たが、勢いとテンションでズルズルッと食ってやった。大満足なのである。
激レアのハンバーガー自販機
ふぅ、ごちそうさま。お客さんは他に誰もいなくって、僕は1人でこのレトロな世界を満喫できた。最高の気分だった。
満腹だ。もう食えねぇ…。
では、最後にハンバーガー自販機で1つハンバーガーを買って行こう。満腹なのでここで食べることはできないが、ハンバーガーであれば持ち帰りができるからな。
だからこそ麺類を優先して食べたのだ。
僕は当時の手記には以下のように書いている。
『今回買っておかないと、もう次に九州に来るのは当分先だし。そして、この手の自販機コーナーやレトロなドライブインは、近年どんどん消滅していっている。
ここだっていつまであるかわからないし、自販機だけブッ壊れて修理できなくなってしまうことだってある。出会いは大切にしないと、二度と再訪できないかもしれないですから。』
これは原文まんまだ。
そしてその後に自販機は撤去され、二度とここでこれらのメニューを食べることはできなくなった。
しかし僕はこうして3種類あった当時のメニューを3種ともに食べられる結果となった。我ながら英断であったと振り返る。なんか嫌な予感がしていたのかな、当時…。
先ほども書いたが、ハンバーガーのメニューは1種類のみで、チーズ入りハンバーガー220円。ボタン、茶色くなってよくわからんレベルだね。
1つだけ商品ディスプレイに飾られている色あせたハンバーガーの紙ボックスもエモさがハンパない。
挟まっているのはたぶんミートパティなのだろうが、緑色に変色していてデンジャラスなオーラがほとばしっている。
ハンバーガーは自販機内で60秒ほど暖められたのち、取り出し口からコロンと出てくる。
この待ち時間、「加熱中」のチカチカ点滅するランプを眺めながら過ごす時間が好きだったりする。
レトロなデザインの紙の箱。この箱は大事に取っておこうかな。そしてこのハンバーガーは後で食べよう。
…この日の昼下がり。
僕はとある駐車場でスヤスヤ昼寝をした後、チーズ入りハンバーガーを食べることにした。ちょうど小腹が減ってきたのでおやつタイムだ。
お馴染み、フニフニのハンバーガーが登場した。
でも下のバンズがほかのお店と比べてちょっとだけマッチョかな?食べ応えがありそうだ。
薄っぺらいハンバーグ。あとは申し訳程度のチーズにレタス。
これがいいんだよ。こういうのでいいんだよ。
ささやかな幸せを堪能し、僕はまた鹿児島を走り出す。
エピローグ
2021年6月、この自販機が撤去されたと聞いたときはショックだったなぁ…。
どうやら製麺所をやっていた阿久根商店のおおもとの方が廃業となり、それに伴ってレトロ自販機の運営も終了となったそうだ。
レトロ自販機は1978年に設置され、昔はおにぎりの自販機もあったらしい。
僕が行ったときにはうどん・そば・ハンバーガーがあったが、その後ハンバーガー自販機が撤去され、そばの機能が故障して廃止され、うどんが最後まで残っていたけど、阿久根商店の廃業とともに撤去されたそうなのだ。
40年以上も稼働した自販機、今はどこに行ってしまったのだろうね…。
Googleマップのストリートビューを見ると、2023年6月時点の阿久根商店が写っている。
廃業したそうだが、自販機コーナー自体は当時のままで青空の中にたたずんでいる。レトロ自販機はないものの、記憶の中のお店がそこにあることに少し安堵した。
僕はこの記事を執筆しながら、ゴソゴソと宝物箱(?)を漁る。
そして久々に掘り当てたものがある。
輝く『チーズ入り』の文字。
『この箱は大事に取っておこうかな』って言った通り、どうやら大切に保管していたようだ。ほかのレトロハンバーガー自販機の箱もたくさんあるので忘れていたが、確かに取っておいていたのだ。
阿久根商店さん、思い出をありがとうございました。
そしてまたいつか、九州の地にレトロ自販機が復活しますように。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 阿久根商店
- 住所: 鹿児島県南さつま市加世田小湊9411
- 料金: 天ぷらうどん¥350他(2021年に廃止)
- 駐車場: あり
- 時間: 特になし