島原半島を走っているときに、海を臨むいいロケーションの駅を見つけたからご紹介したい。その駅の名は「古部(こべ)駅」という。
当たり前だが知っている人は知っているだろうし、むしろ僕が日本7周目を走っていながら、いつも通る国道251号からほんの50mほど反れたところにこんないい駅があることすら知らなかったことが恥ずかしい限りなんだけど、まぁ聞いてくれや。
国道からのロケーション激変
国道251号のこのあたりは、あまり混雑もせずにのどかな雰囲気なのである。
古部駅に向かうために国道を反れてからの最後の200mほどが結構ワンパクな道なんだけどね。
国道部分は写真に収めていなかったので、Googleマップのストリートビューから引用させていただく。
こんな道だ。海までの直線距離は100mほどのエリアだが、この直後にさらに海側に入り込む分岐が出てくる。
はい、よいしょーー!
狭い道に、つんのめるほどの急角度の下り坂。スイスイ進んでいた国道から、一気に生活感のあふれる町内の小道に世界が変わった瞬間だ。
さらに30mほど進んだところで、はい、家の間から駅が見えてきた。その後ろは海だ。
わかるかな、この素朴すぎる風景に対する感動が。この時点で「あぁ、ここはアタリだ」って確信できたよね、僕。
ちょっとズームしてみた。これだもん。
一瞬駅舎だと思ったのは、駅舎よりも大きい駐輪場であった。しかもガラガラ。2台しか停まっていない。
古部駅の駅名板をよく見ると、「駅」ではなく旧字体の「驛」なのだ。それもまた旅情を誘ってくれていいではないか。
駅の裏側からは、有明海の遠浅の海が続いている。穏やかすぎる海。
僕はついさっき、あっち側から「諫早湾干拓堤防道路」というお気に入りの道を使って海上をビュンとワープしてこっち側までやってきたのだ。
駅前に車を停めた。
いやぁ、駅前。どっからどこまでが駅前なのかよくわからない、自由な空間だなぁ…。駐車枠もないし、なんだったら他に車も人も何もないので、適当なところに停めさせてもらった。
なんだろう。それだけで最高なのだ。
空と海と駅しかない。ドアを開けて外に出ると潮風が鼻腔をくすぐり、なんとも言えない高揚感が去来したのだ。
海を臨む駅とカフェトレイン
目の前は諫早湾
では、古部駅を見学してみよう。
当然のことながらこれは無人駅。券売機も改札も何もない、線路とホームと簡素な駅舎だけの駅だぞ。
駅舎内に貼ってあった時刻表を見てみると、おおむね1時間に1本のみの停車。朝と夕だけ2本の時間帯がわずかにある…という感じであった。
Wikipediaさんの情報によると、1日の乗車人数は25人程度らしいね。さっき見た駐輪場に自転車が2台だったことも妥当な人数だな。25人全員が自転車で来ても収容できるくらいの駐輪場だったけどな。
当初は気付かなかったけど駅舎の裏に1人男性がいた。
かなりの遠距離から「どこから来たんですかぁぁーー!??」と、諫早湾の向こう側まで聞こえるくらいのフォルテシモで聞かれたので、落ち着き払って遥か東の地から九州の北半分を巡るドライブをしていると回答した。
男性は納得したのかしないのか、ブツブツ独り言を言いながら街中に消えていった。良い旅を。きっと彼にも彼の旅がある。彼が主人公である旅路を、もちろん僕は応援するよ。
完全に誰もいなくなった古部駅。時間が止まったかのように何もなく、動いているのは風と波だけだった。
僕は思い出す。この海と空と簡素なホーム上の屋根。愛媛県で眺めたよね。
「下灘駅」。伊予灘を眺める絶景すぎる駅であった。詳細が気になる方は、上記リンクから見てほしい。
うむ、確かに絶景であったが、有名になりすぎてしまったというデメリットもあったのだ。人がワチャワチャとゴッタ返していていた。
みんなマナーのいい人ばかりだったのでホーム上の屋根の下には順番に入って写真を撮るような感じになっていたが、それでも大変な人気であった。
まぁもちろんそれだけ知名度が上がったから僕も存在を知ったということであり、僕も人のことは全然言えないんだけどね。
しかしこの古部駅は、あの下灘駅に勝るとも劣らない絶景にも関わらず、ぜんっぜん人がいないのだ。知名度限りなくゼロなのかな?
まだ全国的な人気になる前の下灘駅を見ているような感覚になった。こんな駅のベンチでしばらくグータラしていたら最高だろうな、と。電車の旅でフラリと降りたホームがこんなだったら最高だろうな、と。
しまてつカフェトレインに逢う
…遠くから電車の走行音が聞こえてきた。
おっ、来るのかな?1両編成のローカルな感じの列車がやってくるのかな?
あ、違った。
やたらオシャレな列車がやってきて、「こんな列車だったら古部駅なんかには見向きもせずに通過だよな」って思ったら、ゆっくりとホームに停車した。
そうなの?停まってくれるの??
てゆーか、なんだこの列車は。『Cafe×Train』って書いてある。何それ。カフェできる列車?だったら素敵すぎる。
クルーの人がホームに降りてきてノンビリと佇んでいる。ここにしばらく停車するの?客待ちだったりしているの?
素早くWebで調べてみた。
「しまてつカフェトレイン」。島原鉄道の観光列車で、諫早駅から島原駅までを2時間で結ぶ。途中下車は不可だ。
車内はカフェ空間になっていて、乗車代とランチコース代であわせて6000円。そして利用は事前予約制。
なるほど、そういう系でしたか。そうですよね、そういう系ですよね。
もしここに数10分停車していて、しかもササッと停車中にコーヒー1杯だけ飲むような、まさにカフェ的に使用できるのであれば突撃してもいいかなって思ったんだ。
だけどももちろんそんなシステムではなかったね。
2時間かけて電車の旅。車窓から眺める海。すごくいい企画だよね。その楽しみはあなたにゆだねた。僕は今しばらくは車旅専門なので、それはできないや。
でも、この列車に出会えたことがここでの思い出の1だよ。奇跡的なタイミングだよ。
実はもう1つ気になる施設があった。
写真の左端に少しだけ写っている建物。「ぽっぽや茶葉」っていうかわいい感じのカフェだ。失礼だがこんな閑散とした駅前でただ1軒がんばって営業している。
僕はカフェ好きだしちょうどお腹が減っていたので、入りたい気持ちであった。
うーむ、しかし時間がちょっと微妙かなー…。これから島原半島を巡って、そして長崎市内の旅人宿に入ることを計算すると、ゆっくりする時間はないかなー。せっかく点愛に入るならばゆっくりしたいもんなぁーーー。
この日は旅の行程において唯一車中泊ではなく宿に泊まる日なので、キチンと遅れなく行きたいのだ。カフェ、諦めよう。
ところで、これ以降に古部駅に向かうあなたにちょっとだけ注意点だ。
僕の訪問時にはガラガラだった古部駅だが、もしかしたら今は盛り上がっているかもしれないぞ。
なぜなら僕が訪問したのとほぼ時を同じくした2023年9月、「米津玄師さん」がここをロケ地としているジョージアのCMが放映されたのだ。
つまりは古部駅は米津玄師ファンの聖地の1つとなった。米津玄師ファンでなくっても、「あ、ここっていい駅だな」って感じで日本中に知れ渡った可能性がある。
僕はそんな歴史の節目のタイミングで訪れていたのだ。
そして僕は再び国道へと戻る。
すぐにコンビニが出てきたので、そこでサンドイッチを買って手早く食べた。こういうのでいいんですよ。毎日なんらかちゃんとご当地グルメを食べているから、ときどきはこうやってスピード優先でもいいのだよ。メリハリ、大事。
こうして小休憩を終えた僕は、久々に行く「雲仙地獄」を目指して山岳地帯に突っ込んでいく。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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