琵琶湖の湖上に立つ「白髭神社」の鳥居。
実にフォトジェニックなスポットなのである。そりゃあ誰しもが「湖と鳥居」というシンプルがゆえにパワフルな構図の写真を撮ろうとするであろう。
しかし、僕らと湖の間には道路がある。国道161号だ。しかも横断歩道がない。危険だ。横断しないような注意書きも各所にある。
手が届きそうで届かない、なんとも歯がゆいスポットだ。
僕はそんな白髭神社に何度も通っている。最初に訪れたのは20年くらい前だったかもしれない。ちょっとそれらのエピソードを交えつつ、白髭神社について考えてみようぜ。
過去の絶景の記憶
真冬の朝日
まだ僕が駆け出しだった頃の真冬の話だ。初めて琵琶湖を目指してドライブすることとなった。
琵琶湖について調べてみると、白髭神社という湖上鳥居のあるスポットが目についた。
まるで「厳島神社」のようだな。琵琶湖の西岸に立っているそうだから、ここから朝日を見たらステキなのではなかろうか。
鳥居の目の前の湖岸に僕らは待機した。
当時はね、鳥居の前の道路には横断を抑制するような表示はなかったのだよ。「だから堂々とやっていい」かどうかはさておき、僕がここを知ることとなったガイドブックにも記載のあったビュースポット。そこで朝日を待った。
頭上は雲が多いが、東の空だけ晴れ渡っていた。ラッキーだ。
そして昇ってきた朝日。鳥居と相まって、なんとも神々しいことよ。
生まれて初めて見た琵琶湖。その最初のスポットがここであることに、今も感謝している。
これが、僕らが朝日を待ったスポットだ。車道側からは湖岸ギリギリまで降りる石段があった。
すぐ目の前まで湖が迫っていたので充分なスペースではなかったが、それでも2・30人分くらいのキャパシティはあったと思う。
快晴の下の鳥居
その後も何度も白髭神社を訪問しているのだが、いちいちそれらを記載していたらキリがないので、快晴のシーンのみを抜粋するね。
日本3周目。僕はこのスポットがお気に入りとなっていた。
これは秋の深まる京都に1人向かっている途中で立ち寄ったときのものだ。やわらかい朝日を浴びて鳥居が輝いていた。
琵琶湖って本当に雄大だよな。こうして見ると海のようだ。何も知らないでこの写真を見たら、厳島神社と間違えてしまうかもしれない。
湖上鳥居側から、国道越しに白髭神社の拝殿を振り返った。
当時は現在のように通行規制になることを想定していなかったので、道路の様子などはほぼフレームに収まっていない。だが、ご覧の通り鳥居正面にはガードレールがなく、特に道路横断についての注意書きもなく、みんな湖上鳥居側に渡って写真を撮っていた。
初秋の最高の天気の中、HUMMER_H3で琵琶湖を一周ドライブしたりもしたよな。境内の駐車場の白い路面がまぶしいくらいの秋晴れ。
この神社、一説によれば2・3世紀ごろの垂仁天皇の時代の創建であり、近江エリア最古の大社らしい。すごい。
そして室町時代ごろには湖上鳥居が存在していたという。室町時代や江戸時代の絵図に、湖上鳥居が描かれているのだそうだ。
ただ、いつどんな理由かは知らないけれども近代になって鳥居は消えてしまっていた。
改めて鳥居が建てられたのは1937年のこと。ちなみに現在の鳥居は1981年に建て替えられたものらしいよ。
それだけの由緒があり、古来から多くの人々の信仰を集めて来たであろう白髭神社と湖上鳥居。
僕は神社仏閣のことについてはあまり詳しくはないけれど、拝殿も鳥居も人が訪問し参拝する対象物だと思っている。人は願いを込めてそれらに祈りを捧げるのだろう。
中には神域って感じで一般人が一切入ることのできないエリアを持つ神社仏閣もある。ただ、そういうのが無ければ人はより信仰対象に近づこうと思うのが世の常であろう。
白髭神社の湖上鳥居も同様だと思う。
水に濡れるのは嫌なので、さすがにザブザブ琵琶湖に入る人は稀だと思うが、目の前に琵琶湖と鳥居が見えるロケーションに近づきたいと誰もが思うだろう。
間に車道があるとはいえ、明確に規制がされていない限りは近づこうと思ってしまうだろう。上の写真でもカップルが今まさに緊張感のない顔をして車道を渡ろうとしている。
2017年くらいまではこんな感じで、特に規制もなければ大きな話題もない感じだったように記憶しているよ。
鳥居に近づけない時代
白髭バリケード
2018年ごろから、ちょっと温度感が変わってきた。
まずはGoogleマップのストリートビューで変革を追いかけてみた。
- 2018年:車道の拝殿側に簡単なコーンとポールが設置された。
- 2021年:車道の拝殿側にポールとチェーンで規制がされた。湖上鳥居側は簡単なコーンとポールが設置され、さらに『横断は危険_ご遠慮ください』・『横断禁止』の掲示物が設置された。
- 2023年:車道の拝殿側に『危険!横断禁止』の看板が設置された。湖上鳥居側に膝丈の鉄柵が設置された。
そして2024年現在はさらなるパワーアップ(?)を遂げているのだが、そこからは僕と一緒に現地を見学してみよう。
ってことで、2024年最新情報を調査するために白髭神社にやってきた僕である。
白髭神社の周囲にはドライバー向けに『横断多発』・『事故多発』などと書かれた黄色い看板が設置されている。
前述のように2018年ごろから車道横断を抑制する活動が活発になっていたが、2021年に車道横断中の老人が車に撥ねられて死亡する事故が起こってしまった。
これにより、神社側は本格的な規制に動き出したようだ。「危険な神社」として有名になってしまったら困るもんね。
僕もここ2年程はTVニュースやWebニュースなどで、白髭神社が必死に横断者を抑制している様を見て来たし、それでも景色を見たくて渡ってしまう人をコメンテーターが非難する様も見て来た。
もうTV番組「警察24時」のように、モザイク掛けられた人が「いやー、でもこの景色を見たいですもん」とか言って渡ったり理由を述べている。なんかすでに殺伐とした印象となってしまっているぞ、白髭神社。
僕も特に抑制されていなかったかつては何度も横断して写真撮影していたので、なんとも後ろめたいと言うか、複雑な気持ちだ。
車道の拝殿側には『横断やめて!!』の看板がある。もちろん僕はもう横断はしない。時代は変わったのだ。
10分ほどここにいたが、他の観光客でも渡っている人はいなかった。みんな事情を認識したのだろう。
湖上鳥居側には胸丈ほどの鉄柵ができていた。去年は膝丈だったところ、成長した。
もともとは「あっちの鳥居とこっちの鳥居を結ぶラインは神様の通り道なのでふさぐことはできない」みたいなことを聞いていたが、もうそうも言っていられなくなったのだね。たぶん神様は柵をジャンプして通るからOKなのだね。
この対策は「あっち側に渡っても柵が高くて乗り越えられないから、渡らなくていいや」って思わせるためのものらしい。
しかし逆ではないかな?「柵が高くなってこっちからは撮影のジャマだが、向こうに渡れば柵の写り込まない写真が撮れる」って思われてしまわないかな??
1つ気付いたことがある。
地面には『横断危険』と書かれている。向こうの柵は『横断やめて!』と書かれている。明確に禁止するような文言ではないのだ。
たぶんこれ、道路交通法では規制されていないからだよね?
正確に横断することは違法ではない。だから神社側からのお願い事項という建て付け。変に「禁止」と書くと面倒なことになるから、若干ふわっとさせた表現なのだろう。
探してみると昨年設置されたはずの『危険!横断禁止』の看板もなかった。そんな理由から撤去されたのだろうか…?
神社の抱える苦悩が少しわかってきたような気がした。
人と車の共存のために
しかしだ。先ほども書いた通り、人は鳥居に近づきたいと思ってしまう。で、いろいろな策を考案したらしい。
- 柵を設けて絶対通れないようにする … 神様の通り道だから無理
- 横断歩道を設ける … 前面道路は渋滞の名所だからとんでもないことになる
- 歩道橋を設ける … 金もかかるし渡った先にスペースもねぇ
- 車道のこっち側に展望台を設ける … これだ!
2021年12月、神社の境内に展望台が作られた。ここに登れば湖上鳥居がある程度綺麗に見えるのだ。
そうそう、この方向で考えてくれるのがありがたいよね。観光客は「道路を渡りたい」のではない。「鳥居を見たい」のだ。道路を渡るのは手段であって目的ではないのだ。
だから「道路を渡らなくても鳥居を見られる」っていう方法を与えればそっちに流れていくのだ。
うん、なかなかいいのでは?
でもこだわる人は、鳥居の足元に若干鉄柵がかぶってしまっているのが気になるだろうね。湖に浮かぶような鳥居を撮影したいもんね。
まぁでもこれは個人的な意見だが、僕は今まで車道の向こう側の景色を何度も見てきたから、こういう新しい角度からの鳥居を見られて満足だよ。
車道の向こうに建つ鳥居を俯瞰で眺めるのもいいなって思ったよ。
車と一緒に撮影すれば、なんか疾走感のある絵になるしね。琵琶湖ドライブ中のひとこまです、って感じだよね。
他にも家族連れの方がいたけど、ニコニコ満足していたよ。カメラのシャッターを頼まれたので快く撮影した。良いドライブを。
ただ、もちろんこれで100%の人が展望台に登るわけでもないのだろうね。直近でもニュースで見たけど、やっぱ湖上鳥居側に渡っちゃう人はいる様子だ。
いつかまた悲しい事故が起きてしまうような気もする。そんなことにならないよう、さらなる打開策ってあるのだろうか…?
- 鳥居を引っこ抜いて捨てる。
- 警備員を配置する。
- 湖上鳥居側は神域として仰々しい囲いを設け、心理的に侵入できないようにする。
- 歩道橋を設置して湖上鳥居側に渡れるようにする。湖上鳥居側には大きなデッキを設け、ある程度の人数を収容できるようにする。歩道橋を渡る際にはちょっとエグいくらいの通行料を取る。
「1」は歴史を鑑みると論外だし、「2」は警備員のいない時間帯などを狙われるだろう。「北風と太陽」の逸話の"北風"になるのはなるべく避けたい。
じゃあ「3と4」、ちょっと考える価値があるのではなかろうか。「3」はヘタすると神への冒涜になっちゃうから難しいのかもしれないけど、「4」は一考できるのではなかろうか。
きっと日本の各地に同じような悩みを掛けるスポットがある。
神奈川県の「スラムダンクの踏切」もそうだし、山梨県の「富士山の見えるローソン」もそうだ。
SNSでバズって急に人が押し寄せ、現地の人々の生活に支障が出てしまっている。
なんでもかんでも排除・規制するのか、それとも観光客の新たなニーズと捉えてビジネスチャンスにつなげるのか…。
もちろんブームは一過性の可能性もあって明確な答えはないだろうけど、このフォトジェニックなスポットを巡って人と車が共存できるような解を見い出せるといいよね…。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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