伊勢エリアに「大王崎」という岬がある。
その王者の貫禄を感じさせるネーミングがカッコ良すぎて、名前の由来はなんなのか気になって調べたが、ちょっとわからなかった。
ただ、決して名前負けはしていない岬だということは知っている。
岬に建つ灯台がとても絵になるのだ。
僕ももちろんこの岬が好きで、日本一周する度に立ち寄っている。初回訪問したときはここで日の出を待ったんだけど、そのときの光景は素晴らしかったのだよ。
今回は、そんな大王崎について語ろうじゃないか。
あと、「長々とした文章を読んでいる時間はないぜ」という忙しいジャパニーズ・サラリーマンは、最後の章だけ読んでほしい。絶景ポイントはそこに書いてあるから。
小さな漁村の奥へ
いきなりテーマは岬でも灯台でもなく、そこに至るまでの漁村と路地から語り出す気が満々なんけど、まぁ順番的にもこれを最初に語らないと構成がおかしくなってしまうので許してほしい。
『歓迎 絵かきの町・大王 ようこそ大王崎へ』
そんなデカデカと書かれたゲートの下をくぐるのは、半分嬉しいけれども半分恥ずかしいような気持ちにもなり、いやでもやっぱりワクワクするものだ。
ちょっと昭和チックな温泉や観光地にある、コテコテのゲートが僕は好きだ。
しかし大王崎って、付近まで来てみると「ザ・観光地」って感じではなくなる。
小さな漁村の奥にある岬であり、その駐車場もどこにあるのか一瞬戸惑うことになるであろう。
とりあえず僕はね、毎回ここに来ると漁港の脇にある円盤状の"大王崎"のプレートを撮影するのだ。このデザインが好きなのだ。
この近辺の有料駐車場に車を停め、漁村おばちゃんたちと「おはようございます」とか挨拶をしながら歩くのだ。ステキな朝のひとこまだ。
有料駐車場ってのは、"Times"みたいなコインパーキングではなく、常駐しているおじさんおばさんがいたり、あるいは傍らに設置してある料金箱に入れたり、お土産物屋さんでいくらか買うと無料になる、みたいなちょいと昔のシステムだった。少なくとも僕の訪問時は。
こういうレトロな風情もここの醍醐味よ。
路地を歩くのは楽しい
見えてきた見えてきた、僕の好きなゾーンが。
しかし、アレ??
この写真は昨年である2022年に撮影したのだが、手前にあった建物が解体されているぜ。過去どうだったのかはあんまり鮮明には覚えていないけど、たぶんこの影響で以前よりもロケーションがスッキリした。
振り返ってもう1枚撮影。
左奥に東屋が見える。あそこからの眺めが好きなのだが、それは次章で語ろう。
そして路地は薄暗いアーケードへと入っていく。この雰囲気、いい…。
上の写真は結構前の日本4周目で撮影したものだ。威圧感のある屋根がエモい。
2022年では、少し屋根が明るくなったような気がする。
まぁでも時間帯のせいかもしれない。どちらにしても、令和の時代においても昭和の風情が残っていて好き。
ここに立ち並ぶのは、ちょっと昔ながらのお土産物屋さんや真珠屋さん。
伊勢の英虞湾周辺では真珠の養殖が盛んだから、ここでもいろいろ取り揃えているのだ。
残念ながら僕は朝や夕方にここに来ることが多いので、あんまりお店を覗いたことがないのだけども。でもまぁちょっと、あんまりお客さんが入っているところは見たことが無い。そもそも大王崎で観光客に出会ったことがあんまりない。
僕が最初に訪問した10数年前から、ずーっと昔からある看板。
右の看板の「わらじ祭」の情報の少なさがいい。かなりサビが進行してきて「このわらじの衛生面は大丈夫かな?」みたいなテイストになっているのもいい。
左の看板、真珠屋さんだけどもいかつい妖怪のイラストが「買ってね!!」・「ほしかってね!!」と、とびきりのスマイルなのが最高。
これを見るだけでも大王崎に行く価値あるからな。
ペナント!ペナント!昭和の遺物!一周回って新しい!
お土産物屋を覗いたとき、天井付近に飾ってあったので思わず撮影させてもらった思い出。
2022年、久々に訪問したときには少し時代の流れを感じた。
左手にはきっと中お店があったのだろう。今はキッチリと壁に塞がれてしまっている。
正面に見えるファンシーな壁画も以前は無かった。昔はあそこも商店か何かだったのかな…。
近くに貼り紙があったので読んでみた。
このキャラクターは、真珠を作り出すアコヤガイをモチーフとした「アコちゃん」。2021年に"真珠と自然保護"をテーマに書かれたウォールアートなのだそうだ。
シュールかつかわいい。
ここで振り返ると食堂を占める文字のみが残っていた。
食堂…。あったかな?記憶にないな。きっと渋い雰囲気の食堂だったのだろう。入って見たかった。
間もなく路地も終わりである。
ここにピンク色のドア。あ、これもしかしてドラえもんの"どこでもドア"か??気になる方は実際に訪問し、ドアの向こうに入ってみるがよいです。
その横の塀の上には、小さな小さな釣り人とそれを見ている猫がいた。壁には海がペイントされている。これも最近のものだな。
なんて楽しい路地散策。早朝でお店は全然空いていなかったが、2022年の路地散策。
貴重な登れる灯台
こうして灯台の前までやって来た。路地から灯台は全然見えないが、ここでいきなり灯台が目の前に現れて「うぉぉ!」ってなる。
この近辺は、遠州灘と熊野灘の境目。さらにリアス海岸で複雑な地形であり、海流も複雑なのだろう、昔から後悔の難所であったそうだ。
「伊勢の神崎、国崎の鎧、波切大王なけりゃよい」って漁師に唄われていて、恐れられていたという。ごめん、僕はこの唄の意味はあんまりわからんのだけども。
1913年には漁船が遭難して51名の死者を出し、1915年には巨大巡洋艦が座礁した。
そんな立て続けのトラブルで、「速攻で灯台作らないとヤバい!」ってなり、1927年にこの灯台ができた。
国の登録有形文化財になっているし、人気の灯台がノミネートされる「日本の灯台50選」にも入っているよ。
さっきのアコちゃんも灯台を見上げて興奮している…!
って思ったら全然違った。オレンジのわけわからんヤツの手の上にいる緑の鳥を見て驚いているだけだった。何このシチュエーション。
それに、アコちゃんってアコヤガイだと思ったら、その中にいる真珠に顔が書いてるじゃないか。さっきのイラストは中が黒塗りされていてよくわからなかったけど、実は真珠が本体?何から何までよくわからん。好き。
話を灯台に戻そう。
この灯台にはすごい特徴があるのだ。それは我々一般人も上まで登れるということ。
そういう灯台を「参観灯台」という。2023年現在で全国に16基しかない、とても貴重な参観灯台の1つなのだ。
「他の参観灯台ってどこ?」っていうあなた、上のリンクから【特集】を見に行ってほしい。僕は全国16基をちゃんと見に行っているから。
ちなみに参観灯台に入るには協力金300円が必要だし、日中の時間帯でなければいけない。
僕は朝や夕方にこれらの灯台を訪問することが多く、実際に灯台の上まで登ったのは一部だし、大王崎も何度も訪問しているにもかかわらず、中に入ったことはないんだけどね。
しかし楽しみは取っておくのも良いだろう。次に訪問した際には、満を持して上まで登ってみようかな。
灯台の足元には「伊勢志摩真珠センター」がある。中は覗いたことはない。
ここから先も狭い遊歩道が続き、グルッと岬を一周して最初の章でご紹介した"大王崎"の円盤プレートのある漁港に戻るのだが、この先は実は歩いたことはない。毎回Uターンして暗い路地に舞い戻るのだ。
ただね、一番お見せしたい光景が、ここから戻って路地を抜けた先にある。
絵描きさんと灯台と
前述の狭い路地に入る直前の道を、右手に反れる階段がある。そこを登りきると、東屋のある灯台ビューポイントに到着する。
僕はここの眺めが好きなのだ。
正直、路地を抜けた先で現れる灯台は位置が近すぎて全容が把握しきれない。このくらい離れた位置から眺めるのが最高なのだ。
なんて絵になる岬と灯台なのだろうか。毎回僕はここだけはかかさず登ってこの写真を撮っている。
海に突き出た地形と、そこに佇む灯台。そんなステレオタイプな灯台ロケーションを実際に見れる場所って実は少ない。ここは貴重だ。登れること以上に、この光景が尊い。
晴れていようと少し曇っていようと、それも1つの表情だと捉えることができる。1回1回が1つのドラマのように感じる岬の光景だ。
そうそう、今しがた僕は「絵になる岬と灯台」と書いた。
実際にそうなのだ。
『絵かきの町・大王』。
最初にくぐったゲートにこの文字が書かれていたことを覚えておいでだろうか?市町村合併で"大王町"という名前の町は既に無くなってしまったけど、あえて大王町って表記するね。ここ大王町は、絵描きの町なのだ。
なぜなら、ここ大王崎がすごく絵になるからなのだ。実際、10人くらいの人がここで絵を描いているところに遭遇したこともある。美術部かな?
絵描きさんの像もある。キャンバスは無いけども手にはパレットを持ち、視線の先はもちろん大王埼灯台なのである。
僕のアルバムにはこの絵描きさんの写真がすごい枚数あるけど、全部紹介したらウザいので今回一部だけ掲載する。
ダンディなあごひげをはやし、ベレー帽(?)を被った絵描きさん。これまたステレオタイプな絵描きさん。
でも将来は僕もこんな渋いおじさんになりたい。
そう思って毎回絵描きさんと記念撮影をする。これは記念すべき初回のコラボ写真だ。一緒に灯台眺めようぜ。ほらあそこ、灯台の上に鳥が止まっている。
手に持っているパレット、ちゃんと絵の具まで表現されている。カラフルだ。像は単色なのにパレットはカラフル。ここだけちょっと予算かけている。
それは日本5周目の真冬の夕日。何度も訪問して毎回すごいが、とりわけこの日の景色はよく覚えている。
雲の多い日ではあったが、それがドラマチックすぎた。
太平洋側に珍しくドカ雪が降り、関東から東海まで雪に埋もれた2日後。まだまだ刺すような寒さがある日であったが、その寒さが逆に神々しさに拍車をかけてくれた。
刻一刻と変わる空。複雑なリアス海岸がシルエットとなって浮かび上がる。鳥肌立つぜ、この光景。
こんなシーンを眺められるから、旅ってやめられないよね。数学やプログラムのように決められたことをやれば同じ結果になるとかではないのだ。
薄明光線が広がった。そこだけ海が黄金色に輝いた。
長い長い地球の歴史の中でも、同じ空は二度とない。今日という日も二度とない。
そんな中で、忘れたくない1日が大王崎で生まれた。
少し風は強く、眼下の岩礁に波が打ち付けて白い泡となる。
空も海も生きている。
間もなく冷え込みがきつく、まだ冬が訪れるだろう。
そんな時期こそ大王崎に行ってみてもいいかもしれない。僕のおすすめの岬の1つ。
そして僕もまた、ここを再訪できることを夢見ている。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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