「大王崎」か「安乗崎(あのりさき)」か。
伊勢エリアを走行時、この運命の分岐を目にした方も多かろうと思う。
あなたならどちらの道を歩む?
どちらもワイワイした雰囲気はあまりなく静かな岬ではあるが、知名度も景観も大王崎にやや軍配が上がるのではないかと思っている。
現に僕は、過去において圧倒的に大王崎を選択している。5対1くらいの確率でだ。
実に失礼な話だ。安乗崎だってとても貴重な灯台があるユニークな岬だというのに。僕はもっと安乗崎を愛さねばならない。
だから僕は2023年夏に改めて安乗崎を訪問し、こうして執筆するのだ。
ファーストアプローチ
まずは過去の訪問時のことに少しだけ触れたい。
それはまだ日本4周目を走っていたときのことだった。
三重県の主だった岬を徹底的に攻略したいと走り回っていた僕が、初めてここにやってきた。
防波堤ギリギリを駆け抜けるナイスな道。
進行方向の先に横たわっているのが安乗崎だな。
このアプローチロードから、あまり観光地化されてないんだろうなって予測した。
そういうところの方が興奮する性癖なので、ウェルカムだ。
あ、でも終盤マジ狭い。
集落の中の狭道をギリギリを通過していく。しかもなかなかの坂道、そしてクネクネ。
そんな先に、松林に囲まれた広めの駐車場が現れた。そこが安乗崎だ。
この最初の訪問時には、正直これといってインパクトのある記憶がない。
きれいな芝生の広場の向こうに灯台が見えたのでそちらに歩く。
とりあえずいつものクセなのだが、岬の名前のある碑の前で記念撮影をする。
変なアングルにしちまったな。碑以外は空しか見えてねぇや…。
灯台は四角柱で少し独特なビジュアルに感じた。
もっと近付きたいが、これ以上先は有料ゾーンだ。少し考えた末、僕はこれ以上進むのを断念した。
ここまででも岬のイメージは掴めたからいいやって思った。
芝生広場の隅から見下ろした海。なかなかの断崖でなかなかに荒々しい。これぞ岬だな、ふむ、って勝手に納得した。
こんなふんわりとした思い出。
だけどもふんわりさせたまま人生を終わらせてはならない。だってこの岬の灯台は、日本で16基しかない登れる灯台の1つ。もうちょいこの岬を詳しく知りたい。
2023年夏、僕は久々に安乗崎を再訪する。
登れるけど登れない灯台
あれからそれなりの年月が流れた2023年、夏の夕刻。
あぁ、そうそうこんな道だった。
記憶から薄れていた防波堤ギリギリの道を走り、僕は懐かしさに目を細めた。
そしていきなり道が狭くなる。なんの前触れもなく。なんだこの乱暴な設計は。
「こんなだったっけ?岬はこの先でよかったんだっけ?」と一瞬不安になった。
大丈夫、心のコンパスに従うのだ。
住宅地を縫うように進んでいくアプローチは相変わらずだ。
岬の先端付近の傾斜地につくられた集落。味わい深いロケーション。
ただし対向車がきたらすれ違えないけどな。
来ないことを神に祈りながら進むしかない。
そして松林の駐車場である。
数10分前から睡魔がやってきていてさ、この松の木陰であれば車内で仮眠できるかなって少し考えた。
だけども災害級の猛暑が続く今年の夏。快適とはほど遠いだろう。
だったらすぐに岬観光して、そんであと20分くらい運転すれば今夜の宿なのだから、チェックインしてから部屋で仮眠するのが賢いだろう。
よし、行こう。
芝生の向こうに四角柱の灯台が見えた。
前章で触れた通り、日本で16基しかない登れる灯台の1つ。登れる灯台のことは"参観灯台"って呼ぶそうだ。
そんな中で、同じ都道府県に参観灯台が複数あるのは、千葉県・静岡県・三重県・沖縄県。
ただし静岡県はうち片方は島だし、沖縄県は別々の島。千葉県はどちらも陸地だけどもちょっと距離が離れている。
三重県は、冒頭でチラリと触れた大王崎とここ安乗崎が参観灯台。
つまり何が言いたいかというと、こんなにも近い距離に参観灯台があるところなんて、日本中ここだけだぜってことだ。
プラプラ気ままなドライブしていいて「なぁ、どっちの灯台に登る?」なんて会話ができるのは日本中でここだけなんだ。
ちなみに、ここ以外の参観灯台がどこなのか知りたい方は上記の【特集】からご覧いただきたい。僕は全16箇所を訪問しておりますゆえ。
僕は別に今回も登るために来たわけではないが、たかだか300円で灯台に登るという貴重な体験ができるので、登れるなら登ってもいいかなと思っている。
しかし現在の時刻は16:35。
真夏で日が長いのでまだ昼間の感覚だが、そろそろ灯台はクローズかもしれないな。
いつぞやロンリーな記念撮影をした安乗崎の碑をチラリと見る。
前回はピカピカだったのに、ずいぶんダメージが蓄積されてきたな。時間の流れってのは残酷なんですよ、知らんけど。
灯台に向かって足を進める。
DEAD…!
はい、ダメでしたーー!!
安定の閉店でしたーー!!
どうやら16:30までだったみたい(曜日や季節によって変動あり)。
おいおい、10分早ければ入れたのか?
そういや今しがた芝生広場で灯台方面から歩いてきたルンルンなテンションのファミリーとすれちがったが、彼らは灯台から降りてきた直後だったのかな?
そうに違いない、あのテンションは灯台に登ってなければ説明がつかない。
柵の隙間から灯台の写真を撮った。
前回と同じところまでしか来れなかったがまぁいいや。
同行者が「今日の宿は近いのでしょう?だったら明日の朝にまた来たら?」とアドバイスしてくれた。いや、でもいいんだ。明日は明日で先に進みたいし。
安乗崎にもう二度と来れないわけでもないし、灯台にすごく登りたかったわけでもないので、別にいい。
…ただ本音を言えば、「ギリギリで間に合わない」っていうタイミングに、なんともモヤモヤを感じたけどな。YAMAのヤツ、相変わらず詰めが甘いぜ。
灯台資料館が芝生の片隅にあったが、ここも16:30までだった。
後から調べると、木製である初代の安乗埼灯台の3分の1サイズのレプリカが展示してあるらしい。あ、それはちょっと見たかったかも…。
夢の残滓が木立の中に
灯台が空振りで、さてじゃあ車に戻ろうとした矢先だ。なんだかワクワクするエリアが目に入った。
「安乗岬園地」っていうのが正式名称なのかな?松林でよく見えていなかったが、駐車場のすぐ隣のエリアだった。
まずはザックリとした全景をお見せしたい。
正直、メンテナンスが追い付いてなくって少しくたびれてしまった遊具ゾーンなのであるが、ちょっとセンチメンタルなそういう雰囲気のスポット、僕は好きだよ。
そこに内があるのかと言えば…。
まずは安乗埼灯台のミニチュアだ。
本物とコラボ撮影してみた。親子のようでいい構図じゃないかと思う。
このベニヤ感あふれるテイストがいい。日曜大工の傑作って感じだ。本物の灯台には近寄れなかったが、こっちは間近で見て触ることもできるぞ、やったぁ。
うお、そんでこれ、顔はめパネルなのか。両側のスリットからは腕を出せということか??
裏から見るとこんな感じだ。
着れるぞ。この灯台、装着できる。
やってみたらこうなった。
灯台人間。なんか強くなった気分だ。いや、実際は動けないし腕が短いしで何もできないだろうけど。しかし謎の満足感が満ちあふれた。
それからドラえもんでお馴染みの"どこでもドア"だ。最近はこういうどこでもドアって日本各地でたまーに見かけるよね。
インスタ映えを狙っているのか、ドラえもんが使用後に片付け忘れたかの、どっちかだと思う。
もちろん開けてみた。ドアの先がどこに繋がっているのか知りたいもんね。
答えは、一歩先の世界だ。
そしてさらにはドラえもんのタイムマシンもあったよ。これは激レアではなかろうか。
僕も本物見たの初めてだ。興奮を隠しきれない。
コックピットには電卓のようなものがついている。
…と思ったら本物の電卓だった。ちなみに壊れていた。
その右側には各種スイッチを模していると思われるパーツがあるが、全部消しゴムだった。斬新すぎるアイディアだ。
他にもホームセンターで手に入りそうなものが多い?…なのにこのクオリティよ。最高かよ。
木陰の少し寂しい一角ではあったが、作ってくれた人の思いを大切にしたい。
安乗崎、少しマイナーな岬だが、夢の残滓を感じた。
またいつか僕がここに来るとき、この世界観は残っているかな?それとも彼らの世界に戻ってしまっているかな?
願わくばメンテナンスして、今後もここにあり続けてほしいものだね。
灯台には登れなかったが、もうどうでもいい。
このエリアでほっこりできたことが何よりの思い出だ。
明日の朝にはもうここには来ないだろう。明日は明日の道を歩もう。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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