日本三名瀑の1つである「那智の滝」があったり、町の各所で温泉が湧いていたり、近くに捕鯨基地があったり、生のマグロの水揚げ量が日本一であったり…。
いろいろと魅力いっぱいの町だ。
そんな那智勝浦の魅力をたくさんお届けしたいところではあるが、そんなことをしていたら2023年上半期の執筆ネタは全部那智勝浦になってしまう。
那智の滝なんかはちゃんと1つの独立記事でしっかりと執筆したい。
では、今回は日本6周目後半のまだ寒い時期に訪れた、夜の那智勝浦港のエピソードを少しだけご紹介したいと思う。
真っ暗な写真ばかりになるが、たまにはそういうのもよいであろう…。
夜の漁港は何がある?
車中泊の旅。
それは、日が暮れれば風呂に入り、飯を食って適当なところで寝るという、極めて原始的な暮らし。
空が暗くなったのを見届けた僕は、まずは最寄りで入浴施設を探すことにした。
そこは温泉施設がたくさんある。よりどりみどりだ。
だが一番近いところに行きたいな。日中たくさん走ったから、もうあんまり走りたくはないのだ。
まだ使い方を覚えたばかりのGoogleマップで「入浴施設」と検索し、一番近くに出たスポットに車を走らせた。
暗い。
上にお見せする写真も暗くてほとんど何もわからないと思うが、肉眼で見るともっとわからない。
何ここ?ここに入浴施設があるの?
結論から言うと、僕がGoogleマップに導かれてやってきたのは「海の湯」という足湯だ。
待て待て、僕はお風呂に入りたいんだぞ。
足湯はダメだ。足湯で入浴したらコンプライアンス的にNGだ。
そもそももう営業していて真っ暗だ。ダブルでダメだ。なんてこった。
海のギリギリまで行ってみた。
小型の漁船と思われる船舶が停泊しており、対岸には街明かりが見える。
中央やや右に、黒光りするヌルっとした感じの物体が吊り上がっているのが見えるだろうか?
マグロだ。マグロのオブジェだ。
最初は暗いから「本物か!?」って思ったけど、そんなハズはないと思い直したところだ。
マグロの水揚げで有名な港だから、マグロのオブジェでお出迎えなのだろう。
暗くてほとんど見えないけど。
ここ、漁港の人が働く場所?一般人は入っちゃダメなところ?
よくわからないので入り口付近だけドキドキしながら覗いてみる。
ただ、少なくともこの敷地内には「勝浦漁港にぎわい市場」っていう観光客向けのお土産とか食堂とかの施設もあるらしいね。
なにもわからないけど。
あ、なんか市場の施設内で一箇所、この時間でも一般人が入れそうなドアを見つけたぞ…。
まぐろ展望スペース
入浴施設を求めてここまで来たが、ウロウロしているうちに「ここでは入浴できない」と悟った僕。
「じゃあここはなんなんだ」と思って周囲を伺っていたところ、こんな夜なのだが観光できそうなスポットを一箇所見つけたのだ。
ほとんど見えないが、壁に「まぐろ展望スペースTSUNAGOOD(つなぐ)」を示す案内が書かれている。
なんだそれ。
とりあえず"TSUNAGOOD(つなぐ)"のセンスが独特すぎてステキだ。
まぐろ展望スペース入口を見つけた。
わりとシンプルな入口だ。
ところで展望って、景色とか建造物とか、とりあえず遠くのものを見るときに使われるフレーズだと思う。
だけども"まぐろ"。
生き物じゃないか。動いちゃうじゃないか。
まさか沖合を泳ぐマグロの群れを遠望できるとかか?
いや、マグロはそんな陸の近くの浅瀬を泳いだりする魚じゃないし。
そして、ドアには「7:00~17:00」と書いてあるが、もうとっくにそんな時刻は過ぎている。
何から何まで謎だからだ。気になるから入ってみよう。
ワンフロア上がると、実物大のマグロが描かれた掲示物があった。
長さは282㎝、重量は446kgの、勝浦港で水揚げされた最大のマグロらしい。
巨大だ。こんなのに海で遭遇したら僕は怖い。
他にも勝浦をアピールする様々なパネルが展示されていたが、いかんせん館内が暗い。
やっぱ営業時間が過ぎているのかな、これ。
僕が館内にいるうちに入口が施錠さえてしまいそうな気がして、展示物に集中できない。
屋上までやってきた。
ここが展望台?まぐろ展望スペース?
…というよりむしろ駐車場っぽいけど?すごく武骨な駐車場。作業車両などいる。
ただ、車がいるということは階段やエレベーターだけではなく、車両用のスロープがあるということだ。
探してみるとちゃんとそういうスロープがあり、そこは閉鎖されなさそうな雰囲気。
僕が夜間閉じ込められる可能性はなくなったと判断。これでここで時間を気にせずゆっくりできる。
真下にはマグロ漁船が停泊している。
闇夜の中でギラギラの船舶照明が灯っていてカッコいい。
アジとかイワシをエサにして海中に長く縄を設置し、食いついたマグロを吊り上げる漁法。
…文章ではなかなかうまく表現できないので、気になるなら画像検索とかすればイメージ図がいっぱい出てくるぞ。
はえ縄漁法だと、網を使った漁法に比べて魚に傷をつけずに獲ることができるというメリットがあるのだね。
館内のパネルにも書いてあったのだが、こうしてこの那智勝浦港は生マグロの漁獲量が日本1となっている。
近海でマグロを獲るから冷凍する必要がないのだ。
実はこうやって生の状態で漁獲できるマグロってかなり貴重らしい。
そしてやはり冷凍ものと比べると風味がよいそうだよ。
そして後日知ることになるのだが、このマグロ展望スペースの本来の用途は、マグロ漁船を眺めるものでもなければ、海を眺めるものでもなければ、向こうにある入浴施設を発見して「あ、あそこでお風呂に入ろうかな」とか思うものでもない。
本来の使い方は、さっきの展示スペースのある階。
そこからの窓越しに漁港内のマグロのセリを眺めるものだったのだ。
なるほど、朝だとかにここに来ればこういう絵を見ることができるのだね。
こんな夜では窓の外は真っ暗な市場の床が広がっているだけだった。セリを眺めるという発想が全然なかった。
マグロ展望スペース、確かに階下にズラリと陳列されたマグロを眺めるスペースであった。
漁港の食堂で夕食を
もう1つ立ち寄りたいスポットがある。
実はね、ここに到着する1分くらい前に、車窓から食堂があるのを見つけているのですよ、ふふふ。
これはね、もうそこで夕食を食べるきゃないでしょう。
せっかく漁港に来たんだもん、マグロとかあるよね、これ。
「お食事処おがわ」。
いいじゃないか、このエクステリア。ワクワクしてくる面構えだ。
幟には「まぐろ」とか「くじら」とか書かれている。
すぐ隣の太地町は捕鯨で有名だからね。ここでもクジラをたくさん食べられるのであろう。
『生まぐろ料理有ります。』という力強いフォント。
これは客を裏切らないお店であると確信した。
「ここまで来てマグロを食べないわけにはいかないだろう、入浴施設?なにそれ引っ込んでろ」って思った。
店頭のショーケース、闇に溶け込んでしまっていてよく見えない。
だがそれがいいのだ。
物事の輪郭だけフワッとわかる程度で、あとは己の想像力で保管する。
なんでもかんでもインターネットでわかるようになってしまった世の中にはない感覚だ。
…って何言ってるんだ、僕は。さっさと店内に入ろう。
店内、渋い。
地元っぽい人が小上がりの席でお酒を飲んでいい気持ちになっている。
僕はカウンター席だ。カウンターいいよね。
厨房というステージに一番近い観客席。
さてさて、何を食べようか。
おっと、マグロではなくクジラのページを開いてしまったぞ。
この記事のスタンスとしてマグロを食べたほうがテーマとして一貫性がある。
それはわかる。
だが、僕は急にクジラを食べたくなったのだ。
クジラの竜田揚げが単品である。
店員さんに聞いてみると、これを定食にすることも可能だという。
頼むに決まっている。
来た。なんてビジュアルだ。正しい定食の姿そのものだ。
そしてもちろん味も期待を超えてくる。
少しクセのあるクジラだが、臭みはない。それでいて力強い。
母なる海、太平洋の恵みを、今僕は摂取している。
至福だ。マグロにも興味があったが、ここは貴重なクジラを食べたかった。
このお店との出会いに感謝する。
ところでこのお店は、マグロやクジラだけではなく、イルカも名物だ。
イルカはクジラ以上にレアな食材だと思うが、「イルカは食べなくっていいかな…」って思ってしまった。
イルカは僕の中では水族館のアイドルだからね。
食べるのはメンタル的にちょっと辞めておくわ。おいしいのだろうけど。
ごちそうさまでした。
満ち足りた気持ちで退店した。夜風が心地よかった。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
旅をしていると、お目当ての施設がやっていなかったり道に迷ったりということは日常茶飯事だ。
だが、それは失敗ではない。
そこにはきっと、かわりに得るものがあるに違いない。
目指した入浴施設はなかったけれど、漁港を眺め・漁船を眺め・クジラを食べた。
プラマイで完全にプラスだ。僕は勝ち組だ。
では、改めてお風呂を入りに行こう。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報