タイトルが全てを物語ってしまうようであるが、世界初の仏教寺院内プラネタリウムが東京の下町、葛飾区の立石という町にある。
まずはその、「プラネターリアム銀河座」のWebのサイトからの一文を引用する。
※注意ください!※
銀河座は極めて特殊なプラネタリウムです、サイトをよく読まずに来館されるとまずいことになります※※
星空が見られる、星に癒されたい、という方は一般のプラネタリウムにいらして下さい。文化や外国との比較などから宇宙や科学に迫る前半が特殊過ぎてついて来られない人もいます。
寺の中にあるのでほんわかとしているかな? というのも違います。
鋭く科学、文化に迫ります。
な、なに言っているんだコヤツ…。
このプラネタリウム、「ただただ決まった映像作品を流して終わり」というものではなく、住職自らがプラネタリウムを動かし、そして解説してくれるのだ。
ただしやたらとアクが強い。
何が起こるかわからない、完全にリアルでアドリブな作品。
何が起こるかわからない、っていうかたぶん毎回何か不測の事態が起こっているんだろうなって感じの、ユニークでファジーでゆるめな雰囲気。
それが「プラネターリアム銀河座」である。
そのお寺の名は「證願寺(しょうがんじ)」。
浄土真宗のお寺だそうだ。
僕は今からほぼ1年前、2022年の2月の東京都心に雪が残る寒い日、車を走らせて證願寺のプラネタリウムを見に行った。
そのときの思い出を語りたい。
観覧は抽選での完全予約制!
このプラネターリアム銀河座の存在を知ったのはいつだったであろうか。
7・8年くらい前だったであろうか?
お寺の中のプラネタリウムということで、とても興味を持った。
ただし完全予約制であり、申し込みは非常に倍率が高いと聞いていた。
先着順であり、申込フォームが表示されると瞬く間に埋まってしまうと聞いていた。
ただし僕はそんな気軽に東京にも行けないので、憧れているのみの存在であった。
重い腰を上げたのは、2021年の冬である。
ここ数年のプラネタリウムの申し込みは先着順ではなく抽選になっていた。
以下にWebフォーム記載の文章を転記する。
★申し込み方法★
毎月ご案内する予約日に申し込みフォームが表示されます。
(予約フォームが開いている間は申し込みを受け付けます。)
★申し込みから予約確定までの流れ★申し込み後、厳正な抽選を行った上で銀河座スタッフから応募者の皆様へ当選か否かの返信を行います。
返信は申し込み締め切り後4~5日いただきます。
ウワサだが、「厳正な抽選」がなかなかにキモなのだそうだ。
どれだけプラネタリウムへの思いを熱く語ったかで評価されるそうなのだ。
「よーし、自己アピール頑張るぞー!プライドを捨ててでも同情を買って当選するぞー!」って企んでいた。
しかし申込フォームが表示される日をうっかり失念したりと、なかなかうまく予約できずに2022年1月になった。
そしてついに!!
夢にまで見たプラネタリウム応募フォームにアクセスできた!
応募フォームが開いた1時間後くらいに僕もアクセスした!
先着順ではないとはいえ、早々に応募フォームが閉じられてしまうのが怖い。善は急げ、なのだ。
ちなみに応募フォーム内に記載されている「春日」さんが住職だ。
プラネタリウムの主だ。
そして住職であると共にテノール歌手でありマジシャンであり、TVも出るし本も書いている。キャラが大渋滞している。
それはさておき、はやる気持ちで申し込みフォームに入力した。
だが聞いてくれ、事件だ。
入力フォームを埋めたのに情報を「送信」できない。
どうやら予約希望日が選択されていないことでエラーになっているのだが、何度やろうとしてもダメなのだ。
希望日が空欄なのだ。手入力もできない。なんてこった。
しばらく考え、Webで同じような境遇の人がいないか検索してみた。
なるほど、中の人がツイートしてた。
フォーム故障中だった。
「備考欄に希望日を書いてほしい」とあったが、書いたところで予約希望日欄が空欄だとエラーになるんだよぉぉぉ!!って思った。
いろいろ試行錯誤した末、「PCでダメならスマホではどうだ?」ってなり、スマホから無事に予約できた。
疲れた。
あとは当選するのを待つだけだ。
コロナ禍前であれば25名入れるプラネタリウム。
今はソーシャルディスタンスで10名ほどだと聞いている。
1ヶ月に2回の公演なので、1ヶ月で20名くらいしか当選しない。
そんな幸運のクジを僕が引き当てることができるのだろうか…?
結論から言うと、当選したのだ。
応募から5日後にメールで当選のお知らせが来た。
しかしさらにそれに対し「行きます!」って返事をしないと無効になるとかいろいろあり、慎重に手続きを進めた。
料金は1000円。これで世にも珍しいお寺のプラネタリウムを鑑賞できる。
サイトにはこのように書いてある。
銀河座は男女2名のライブ解説でスリルあるプラネタリウム。
高校生以上の大人のためのとても変わったプラネタリウムです ので、サイトをよくお読みになって下さい。独特な館ですよ~
プラネタリウムでなかなか「スリル」って言葉は聞かないよね。
そして「とても変わった」・「独特」と重ねて強調している。
僕はすごい世界に足を踏み込んでしまうのかもしれない…。
なんだか変だぞこのお寺!
近くのコインパーキングに駐車して、歩いてを目指す。
「もうそろそろかな」ってところで、前方に奇妙なビルが見えてくるんだ。
NASAが開発していた「X-33」が建物の壁に張り付いている。
X-33とは、スペースシャトルの後継機種として開発が進んでいたんだよね。
宇宙に行っても帰ってきて、また再び宇宙に行ける…っていう使い捨てではなくリサイクル可能な宇宙船だ。
いろいろあって開発途中でプロジェクトが頓挫してしまったんだけど、その後どうなったのかといえば東京下町のビルの壁に張り付いていたとは。
これには僕もビックリしたニャ。
このX-33が張り付いているビルを過ぎた直後に現れるのが…。
證願寺だ。
結論から言うと、X-33のビルは證願寺の境内の一部である。
お寺の建物に宇宙船をくっつけているのだ。
どうしてそうなった?人は死後、宇宙に還るのか??
境内側からX-33のビルを見上げてみた。
なんか巨大なシロナガスクジラが悠々と泳いでいた。
実はビルは天文台になっている。
上の写真ではほとんど見えないが、屋上に半球状の天文台設備がある。
お寺なのにこの設備よ!ここの住職、只者じゃあねーぜ!
境内に入る門の脇には、こんな絵が描かれていた。
中央は遣唐使船。その周囲を無数のネコが囲んでいた。
太古の昔、遣唐使船が現役であった頃、船の中で経典をネズミがかじったりしないように、ネコが飼われていたそうだ。
それを現わしているのだそうだが、それを踏まえてもユニークすぎる画風である。
境内に入った。正面に見えているのが本殿であろう。
ただ、待て待て待て待て。狛犬とかがいてしかるべきところに、もっと攻撃力の高そうな2匹が鎮座しているぜ。
ライオンだ!異国情緒!!
ただ、仏教の歴史をずーっと辿れば、お釈迦様の骨を収めた仏塔を守っているのはライオン像だったりして、仏教のスタンスからズレているわけではない。
だからライオンでもいいのだ。日本のお寺、ライオン置こう。
もう片方は恐竜だ!!
異国情緒どころの騒ぎではない!時間軸が歪んだ!!
トリケラトプス…ではないぜ、スティラコザウルスだ。
顔についている大きな角は1本だけだが、頭の後ろのフリルにホーンレットっていう突起が複数あるのが特徴だ。
ライオンはともかく、恐竜がここにいる理由はなんなんだと。
どうやらとある博物館が閉館する際、住職がこれをもらい受けて境内に置いたのだそうだ。
なんか「強いものは邪気を払う」とい理屈らしい。
ま、スティラコザウルスは草食だけども、確かに突進してきたらお相撲さんのブチかましの3倍は強いよな、納得。
そしてこの理屈だと、この住職次はティラノサウルスのオブジェを欲するぜ。危険危険。
こんなプラネタリウム見たことねぇ!
これがお寺の中のプラネタリウム!
では、プラネタリウムに入るぞ。
どう見てもプラネタリウムに見えない建物から。恐竜に見送られて。
住職自ら出迎えてくれた。
中はどう見てもお寺の施設の一部って感じ。純和風だ。
コロナ禍の真っただ中なので、お金はトレイを介してお支払いした。
自動体温測定器は故障気味で、結局自己申告になった。大丈夫です、僕は平熱です。
そして案内に従って奥へ行く。
プラネタリウム入口のドアノブは直接触れなくっていいように開けてある。
シートの頭部分やひじ置きにはラップも貼られていて徹底しているそうだ。
キッチリと対策してくれている。
そしてこれが寺の中のプラネタリウムだ!
寺ネタリウムとも呼ばれる空間だ!
すげーぜ。ワクワクしてきた。
もともと定員25名だったところ、今は8席ほどだ。
すごーくゆったりの贅沢空間。
住職ご自慢のリクライニングチェアは、一度身を沈めたら永久に浮上できなさそうだ。
しかも床暖房。
冬のお寺は寒くて冷たい」という僕の中の常識が、今覆った。
本来は14:00開演なのだが、全員揃ったらしく5分以上前に照明が落ちた。
いよいよ公演が始まるぞ。
他じゃありえない銀河座の公演!
しばらくは頭上に移る星空や天体などのイメージ映像をぼんやりと眺めていた。
アイドリングタイムであるが、この時間が心地よかった。
…あ、ここからの画像はしばらくアイドリングタイム中のものが続く。
文章ばかりの羅列では目が痛いと思うので、開始前の画像を満遍なく散らばらせるからご了承いただきたい。
メイントークを担当する住職と、解説員である元「東急まちだスターホール」の女性が出てきた。
住職は「えぇー…、では暗い中で申し訳ないが自己紹介を…」と口火を切り、早速解説員さんに「さすがに暗すぎです。明るくしましょう。」と突っ込まれていた。
自己紹介のため、会場は明るくなった。
開始数秒で住職しょんぼりしている。
なんだこのプラネタリウム。
終始こんな感じのゆるい掛け合いが続くぞ。なんだこれなんだこれ。
そして再びプラネタリウムは暗くなる。
住職は「どうしよう…。一応やっとこうかな?今夜の星座、やった方がいいかな?」みたいにつぶやいている。
どうやら今日の公演の本題に入りたくってウズウズしているようだ。
「やりましょう。一応やっておきましょう。」と解説員さんに促され、現在地の今夜の星座が映し出された。
おぉ、プラネタリウムっぽい!いや、プラネタリウムなんだけどさ!
だけども住職、「カメラが下を向きすぎですよ!」って突っ込まれていた。
周囲のビルが写り過ぎていて肝心の星空があまり見えなかったのだ。
全部住職の手動での操作なので、全編とてもアクロバティックで1秒先の展開が読めないスタイルのプラネタリウム。
そんなこんなで、最初の10分ほどは星空の解説コーナーであった。
話の方向はポーランド!
そしてここからが住職の本領発揮だ。
毎月講演内容が変わる、メインセッション。
僕が訪問した2022年2月のテーマは『コペルニクスと不思議な国ポーランド』であった。
ポーランドも不思議なのかもしれないが、なによりプラネタリウムとしてのテーマが不思議だと思った。
参考までに、僕が行って以降の2022年の公演タイトルを以下にご紹介しよう。
3月のテーマ『免疫と宇宙』
4月のテーマ『ネコと宇宙』
5月のテーマ『テスラと宇宙』
6月のテーマ『UFO論争の裏表』
7月のテーマ『七夕とお盆』
8月のテーマ『蕎麦と惑星』
9月のテーマ『宇宙の匂い』
10月のテーマ『東京タワーが曲がってる!』
11月のテーマ『主食とプラネタリウム』&特別企画&プラ寝たリウム!!!
12月のテーマ『ビッグバンの発案と発見物語』
「とりあえず宇宙っぽい単語を混ぜておけば、好きなこと語ってもいいだろう」という節を感じる2022年前半、それすら放棄しかけている2022年後半。
なんという自由な精神。
まずは天動説を唱えた「コペルニクス」についてだ。
…てゆーかメインとしての活用方法はプラネタリウムではなく、資料投影用のスクリーンだ。
コペルニクスの人生を追っていく。
なんだか結構専門的な話ではあるが、天動説の人だからプラネタリウムの題材としておかしくはない。
住職、「コペルニクスのサイン、写したかったんだけどどこ行っちゃったかな?おっかしいなー?ねぇどこ??」って延々暗闇の中を探していたけど、まぁいい。
次の「ショパン」でなんだか違和感を感じた。
コペルニクスと同じくポーランドに住んでいたが、ポーランド人ではない。フランスからの移住者だ。
でもポーランド繋がり。だから今回の題材になっている。
「音楽習った、結婚した、別れた。結核っぽい病気で死んだ。やっぱ結核だったと数年前にわかった。」みたいなことを言っていた。
そっか、結核。
そして夫婦そろってノーベル賞を取った人。しかも本人は2回もノーベル賞取っている。
住職は当然その話もしていたけど、「夫婦仲が悪くて…」と下世話な方向に舵を切られたりして「なんだなんだ?」ってなる。
まぁイメージとしてはね、大学の教授みたいな感じだ。
風変わりで自由で、自分の好きなことを生徒に伝えたくって。
懐かしいな、こういう空気。
吹っ飛ばせビッグバン!
終盤は再び星の話となった。
冬の大三角。それから実は冬の星空の中に隠れている菱形や六角形…。
そして地球から各星までの距離の話など。
あいかわらず解説員さんとのらりくらりとしたトークをしているが、一番プラネタリウムっぽいコーナーだぞ。
ただ、なんかどっかの星座がズレちゃったのか重なっちゃったのか、住職のお気に召さない事態が発生。
ぶつくさ言いながら星の設定をいじりだす住職。
そして終わった後に「メンテナンスをその場でやるプラネタリウムなんて、他には無いですからね」と、なぜか得意げな住職。
なにこの決してめげないタイプのおじさん…。最高かよ。
終盤は、地球からどんどん遠ざかり、カメラは星座の間をギュンギュン擦り抜けながら銀河系の外へと出て行った。
地球から見えている星は、やっぱそこそこ近いものが多いんだね。
銀河系を出ると途端に星の数は少なくなる。
そして隣の銀河系が見えてくる。
なんて壮大な世界。地球も人間もちっぽけすぎだし、なんて短い時間の中を生きているのだろう。
宇宙は限りなく壮大なのだ。
…って思ったら、どうやらズームアウト操作しすぎたようで、ビッグバンの外まで行ってしまったようだ。
プラネタリウム装置にインプットされているデータを超越した。
住職はゆるい感じで「あらら…、ビッグバンの外まで出ちゃいましたね…」とかつぶやいている。
宇宙最大の事故も「あらら」レベルだ。
こうして銀河座の公演は拍手に包まれて終わった。
15:00終了予定であったが、15:15くらいになっていた。
住職がノリに乗って白熱したものだと信じたい。
住職はお客さんたちと楽しそうに話していた。
僕もプラネタリウムの装置を見せてもらったりした後、お礼を言って建物の外に出た。
このプラネタリウムの主役は星座でもなければコペルニクスでもなく、住職であった。
こんなプラネタリウムがあってもいいのではなかろうか。
幻想的で美しいプラネタリウムにうっとりし癒されるのもいいかもしれないけど、東京下町のドタバタコメディなプラネタリウムだって魅力的だ。
なんだか疲れた気がするが、それは心地よい疲れであった。
さぁ、そして次はあなた自身が「住職」という名の大宇宙に飲み込まれる番なのである。
上にプラネターリアム銀河座へのリンクを貼っておいたから、勇気を出して申し込んでみるのだ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: プラネターリアム銀河座(證願寺)
- 住所: 東京都葛飾区立石7-11-30
- 料金: ¥1000
- 駐車場: 特に案内がないのでコインパーキングに停めたが、境内でもよかったのかもしれない…
- 時間: 月2回の公演で原則14:00開始 15:00終演。ただし公式Webを確認のこと。完全予約制。