2022年、日本を少しだけ騒がせたニュースがある。
「長万部の巨大水柱」だ。
大地から急に30m級の水柱が昼夜を問わずドバドバと吹き上がり、1ヶ月半後のある日に忽然と消えた。
これが江戸時代であれば、日本むかし話のような伝承となるに違いない。
そんな不可思議な出来事が、この令和の時代に勃発した。
そしてその水柱を、僕も実際に目にした。
そんな一大スペクトルを今宵は語ろう。
2022年台風14号、そのとき僕は
「かつて経験したことのない危険が迫っています」
「命を守るために、最大級の警戒をしてください」
カーラジオからはそんなアナウンスが途切れ途切れに流れていた。
警戒されている対象のヤツの名前は台風14号というらしい。
現時点でその対象は西日本とのことだ。
僕が現在いるのは、北海道の南部。
こっちもひとことで言うならヤベェ。
ふたことで言うならすごくヤベェ。
さっき森駅で駅弁のいかめしを買ったのよ。キングオブ駅弁だよな。
そのときはまだ雨は降っていなかったのよ。
だからどっか風光明媚なところで愛車のハッチにでも腰掛けて食べようと思っていたら、みるみる空が暗くなってこの有り様よ。
滝のような豪雨が愛車を叩き、ワイパーを最速にしてもロクに前が見えない。
運転、恐ろしい…。
僕が現在いる地点。
雨雲レーダーを見たら、ファンキーな色の雨雲の通り道になっている。
ゾロゾロと次から次へと通る算段になっている。
上の図の緑の雨雲は相当な雨であり、赤みを帯びた雨雲はマジ危険な雨をもたらす。
こんなエリアはすぐにでも通過してしまいたいところだが、実はこの真っただ中で立ち寄りたいスポットがあるのよ。
長万部駅の隣の駐車場で一息つくことにした。
ずっと緊張して肩に力が入っていたので、ここで僕は大きく深呼吸をした。
目的地はここから2㎞程の距離にあるという、巨大水柱。
だが雨が強すぎて今行くのは得策ではない。
何なら今、僕自身も広範囲水柱の中にいる。水柱の中で水柱を見ても、なにかなんだかわからないだろう。
ここは雨雲レーダーを眺めつつ、いかめしを食べるべきであろう。
豪雨の社内の中で、僕は森駅で買ったいかめしを食べた。
写真を撮ると、いかめしの背景は豪雨だ。水だ。まるで海の中を泳ぐ、あのころの姿だ。
ちょっと味気ないランチタイムであったが、20年・30年経ってから振り返ると、意外とこういう思い出の方がたまらなく懐かしくなるのよ。
だからまぁ良い。
30分待った。
雨雲の切れ目だ。これから20分はかなり小雨になる。
次の一団が来るまでの間に巨大な水柱を見に行くのだ!
僕は愛車に乗り込み、アクセルを踏んだ。
水柱は市街地の中にある
長万部の水柱は、2022年8月8日から噴出している。
そのおよそ1ヶ月半後、僕も訪問することとなった。
すごいのな。
直線距離にして500mくらい手前で、鉄道の線路をまたぐ高架橋があるのよ。
そこを走っているときに、遥か彼方の森の上に吹き上がる水しぶきが既に見えていたもんね。
ラスベガスのホテルの噴水かよって思った。
のどかな住宅地である。
水柱は、実は普通の住宅地のギリギリ傍らで噴出しているのだ。
町のド真ん中とかではなくって本当に良かった。
市街地に面して建つ、飯生(いいなり)神社の鳥居だ。
水柱は写真を撮る僕の背後にある。
そちら側は道路も細く、車の擦れ違いもギリギリである。
水柱の一件で観光客が多く訪れ、その狭い道に入り込むとごった返して大変なことになるので、その道は9月中旬現在閉鎖されている。
上の写真の鳥居付近は少し広いスペースがあるのだが、ここも駐車禁止だ。
みんなが停めたら大変なことになるからね。
でも、停めちゃっている人もいたけどね。
この旨は、ニュースでも見たことがあるし、昨夜の函館の宿でも実際に見た人が詳しく教えてくれた。
上記の写真の通り、駐車場は少し先にあるのだ。
そして、この距離を歩くことを知っていたので、僕はさっき長万部駅で雨雲が去るのを待っていたのだ。
台風の近付く暴風雨を往復1km歩いたらグッチャグチャになりますもん。
本来ならば駐車場の説明とかを詳しくするところなのだが、もう水柱は止まってしまっているのでサラッと続きを書こうな。
どうやら水柱目当てでこの町に来ているであろう車も散見される。
みんなキョロキョロして駐車場の案内板を確認し、市街地を駐車情報面に進んでいく。
案内されていた駐車場の100mほど手前だろうか。
「平和記念館」という施設の前で「駐車スペースあるよ」と言われたので、愛車を停めさせてもらった。
ここも水柱観光客の車ででかなりギュウウギュウではあったが、1台だけ空きがあったのだ。
ここから歩く。
また雨が激しくなってきた。カクゴしていくぞ。
カサをさしながら撮影したので盛大にブレた。
こんな市街地を、写真のほぼ突き当りまで行けば、さっきの神社の鳥居。
そして上の写真に写っている人はみんな水柱観光客。
けっこうみんなゾロゾロと歩いているぞ。
ちなみに、この時点で「ドコン…ドコン…」って地鳴りのような音が聞こえている。
水柱の威力、すごいのだな。
上の写真の中央、白くなっているのが水柱だ。
普通に市街地から見える。
ただ、真っ白な空と雨の影響で写真に撮るとほとんど見えない。
後日談だが、僕が水柱の間近で撮った写真を公開したとき、「もうちょっと離れて撮影した方が見栄えもいいし威力が伝わるんだけどね」というアドバイスをいただいた。
うん、わかっているよ。
わかっているけど、離れて撮影すると何もわからないような暴風雨なのよ。
上の写真、かろうじて林より高く吹き上がる水柱が見えているけどもさ。
「…ドッコン!!…ドッコン!!」と、地球の鼓動のようにすごい音がしている。
ここいらに住む方々は、この音をもう40日間以上、24時間聞いているのだ。
しかもなぜこの水柱が出現し、いつ停止するかもわからないのだ。
なってこった。
しかもこの水柱は温泉成分を含んでいるらしく、この水しぶきがかかった畑の作物などは枯れてしまうそうだ。
シャレにならない…。
いきなり水柱が吹き上がり、そしていきなり観光客が増えてしまったので、配慮をするよう看板が設置されている。
付近の方々にとっては水柱も迷惑極まりないし、観光客も路駐したり生活道路に入り込む人がいたりと、全く嬉しいことは無いのだ。
観光地化された間欠泉などとは違い、お金を落とせるような施設でもないし。
だからこそ、見るのであれば最低限のモラルは守って行動せねば…。
吹きあがる水柱、鳴り響く轟音
例の飯生神社の鳥居まで戻ってきた。
ここからは神社の敷地だ。雨は本降りだ。もう靴の中、グチャって来ているんですけど…。
おそらくこの階段の先は社殿なのだろう。
しかし水柱は写真手前の左側である。僕は左側に向かう。
うむ、確かにこの道に車が詰めかけたらパニックだよな…。
この奥に駐車場もなく、みんな路駐になるだろうし。
そして水柱を見たらこの狭い道でUターンするのだろうし。
「ドドン…ドドン…!!」
音はいよいよ大きくなってきている。
この豪雨の中でもハッキリと聞き取れるような重低音だ。
あぁ、あそこなのだな。
赤いコーンが置いてある左側が、きっと水柱なのだな。
周囲の人々の目線でわかった。
あと、1台車でここまで来てしまっている観光客もいた。
はい、この通りだ。
バリケードがあって車道より先の林の中には行けない。
だけども肉眼では前方の林の中で吹き上がっている水柱がよく見える。
ここからの距離は30mほどだろうか?
林よりも高く吹き上がる水。
そんな量の水が40日間以上も吹き上がって、果たして地下はどうなっているのだろう?
地盤とか、いろいろ大丈夫なのだろうか…?
注意喚起の看板が設置されている。
火気厳禁だ。
水柱には微量の天然ガスが含まれていて、引火の恐れがあるそうなのだ。
アレだもんね、止まらないガスに引火してしまったら、止まらない火柱になってしまうかもしれないもんね。トルクメニスタンの「地獄の門」のように。
ただ、地獄の門は荒野だけどもここは市街地の林の中だから、火が噴き出たらとんでもないことになるもんね。
横にいたファミリーの、幼い女の子がお父さんに「動画で撮ると見やすいと思うよ」とアドバイスをしていた。
お父さんは「なるほど」と言い、僕も心の中で「なるほど」と言った。
ありがとう、少女。
こんな唐突にナイスな提案ができるとは、人生何回目なのだろう。もう1回動画を撮影してみた。
しかし雨、激しい…。
水の中で水を見ている。なんだこのウォーターパーティー…。
でも、水柱の迫力はあなたに伝わっただろうか…。
急に消滅した水柱を考える
この話には続きがある。
水柱、今度は急に消滅したのだ。
9月26日の朝のことだったという。
8月8日に出現したから、ちょうど50日間だろうかね。
Webニュースによれば、9月26日朝に町の職員が現場を確認したところ、前夜まで吹き上がっていた水柱が無いことに気付いたそうだ。
当日は正に、この水柱の轟音を抑制するための工事を開始しようとしていた日だったらしい。
なんという偶然。
さらに言えば、ちょうど飯生神社が地鎮祭をやった直後だったとのことで、超自然現象的な憶測コメントもSNSで乱れ飛んでいた。
なんにせよだ。
あの人騒がせな水柱が止まって良かったね。
周辺の方々は「これでようやく安眠できる」と、心から喜んでいるらしい。
実際に見てみたかった人も多いだろうが、こればっかりは僕らも消滅を喜ぶことを優先した方がよいであろう。
さて、水柱消滅の2日後に現地訪問した方がいる。
SNSで僕と繋がりがあり、2022年の北海道旅の中でも実際にお会いした旅人「のび太君」だ。
のび太君にお願いし、この度は2日後の画像の掲載許可をいただいた。
それがこれだ。
水柱部分はブルーシートで覆われている。
そして水柱が吹き上がっていた部分には器具が取り付けられていた。
消滅したものの、またいつ噴出するかわからないから、ひとまず予定通りに騒音防止の宅策をしたとのことだ。
そしてビックリなのだが、あれだけの規模の水柱を噴き上げていた穴は、わずか直径5cmだったらしい。
とんでもない、地球のパワーだな。
しかし、そもそもなぜ水柱が出現したのだろうか?
どうやら60年ほど前の1959年~1960年ごろ、ここいらの石油資源や天然ガスの調査をするために何箇所か井戸を掘ったそうなのだ。
その後にそれを埋め直ししたんだけど、その工事が不十分だったか井戸が劣化したか…。
そんな経緯から暴発したという説が有力である。
つまりこの説が本当であれば、これは自然災害ではなくって人災??
僕はあくまで観光客目線でブログを書くのでこれ以上の言及は控えるが、真相次第では周辺の方々の心境はより複雑なものとなるだろう…。
50日でようやく止まった水柱。
地中にある噴出するためのガスの圧力が低下し、水を噴き上げられなくなったのだろうと、専門家は分析する。
さらには最新情報として2022年10月20日、噴出口の上に水とガスを分離する装置の設置工事も完了したらしい。
再噴出しても影響は最小限に抑制できる様子だ。
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…江戸時代であれば「天変地異」として片付けられ、伝承として残りそうなこの現象。
しかし実際にはいろんな因果が絡み合っているのかもしれない。
1年後、2年後ともなれば、人々はこのニュースを忘れてしまうのだろうか。
僕は深い因果はよくわからないが、せめてこういうことが起こり、僕もそれを見たという思い出だけは、こうして記録に残しておきたい。
これも、僕の歴史の1ページ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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