この令和の時代においても、焼きそば並盛(麺2玉分)がわずか400円で食べられる焼きそば屋さんがあるという。
それを聞いて胸の奥が「キュン…♡」ってときめいた。
この国には数多くのラーメン専門店はあるが、焼きそば専門店はそこまで多くはない。家で食べる焼きそばもおいしいが、外で焼きそばを食べたいのだ。
安ければ尚のこと嬉しい。
お店の名前は「後藤食堂」。
"食堂"って名前からしていろんな料理が出てきそうな気はするが、ストイックな焼きそば専門店だ。
僕は日本6周目においてこのお店を2回訪問する。
特に思い出深いのは、今からおよそ1年前の2023年2月の吹雪の中で目指したときのことだ。
では、2回分のエピソードをマージして執筆するので聞いてくださいまし。
吹雪の中をひたすら歩いて
青森市内はドカ雪だった。いや、地元の方々から見たら恒例なのかもしれないが、少なくとも僕にとってはこれまでの人生の中でなかなか見ないレベルの積雪だった。
僕はスーツケースを引きずりながら後藤食堂を目指して歩いていた。あぁ、車は訳あって近くにはない。少なくとも青森駅から後藤食堂までは歩くのだ。
雪は降り続ける。ここいらの人みんなそうなのだが、雪のときに傘はささない。フードを被る。傘をさすと片手が埋まるし、雪は縦横無尽に舞うので意味がない。
フードがあれば、あとでサラサラの雪をはたくだけで全く問題がないのだ。だから僕もフードを被ることを覚えた。
なんかさ、駅から遠ざかるにつれて歩道のコンディションが悪くなってきているんだけど…。
そりゃそうか、周囲を見てもだんだんと歩いている人が減ってきた。序盤の1.5kmほどはアーケードつきの商店街だったんだけど、今はもう足元には"白"しか見えない。
こんなところをスーツケース引きずるのはハードモードすぎる。
スーツケース自体が雪を全部抱き込んでくれている。重てぇ。なんだこれ。キャスター仕事しろ。
ゲラゲラゲラ。見てよコレ。歩道の中に細いスラローム出来てら。
どうやら雪降った次の日は最初に歩く人がフロンティアとなってこういう道を作るらしいね。車道を除雪した雪が歩道に積もっているポイントなどは、ご丁寧に雪の階段ができていたりもする。職人がいるのだな、雪の。クリエイター的な。
これだけ狭いと、こちとらスーツケースあるか対向から人が来たらマズいんだけど、歩いている人全然いないからいいや。
スーツケースの幅ギリギリなんだけど、かまわず左右をゴリゴリぶつけながら歩く。
ふぉう!なんて美しい除雪!これも歩道だよ。
だけどもこれは明らかに除雪機を使っているね。轍みたいな跡があるし。
歩きやすくて感謝。これぶっちゃけ後藤食堂に向かう道ではないんだけど、歩いてみたいから歩いた。
わかりやすいよう、ちょいと地図を書いてみた。
現在地のあたりで、もう歩道の除雪もあまりされていないゾーンとなった。無理矢理歩道をスーツケースを引きずって歩くより、車通りすら少ない車道を歩いたほうがいいかもしれないぞ…。
周囲に注意しながら車道の脇を歩くんだけど、ところどころ圧雪されていて足を滑らせそうになる。
車道で転んでもしタイミング悪くそこに車が来たら死ぬから注意だ。
タクシーが運良く来たら拾いたい気持ちにもなるが、タクシーも見かけないし。
終盤の難所、川に架かる橋だ。歩道がない!車道も雪で相当に狭くなってきている!
そしてこの橋、微妙に高低差があって中央に向けてゆるーく弧を描くように高くなっているタイプだ。ほんの数10cmの高低差の坂道なのだろうが、雪道ではそれがシンドい。
横を通る車も僕をチラチラ見て警戒しながら通り過ぎてくれる。気を使わせてゴメン。
ふひぃー、疲れた…。
橋の攻略後は後藤食堂まであとわずかなのだが、雪の降り方が激しくなってきた。
後藤食堂が見えた。2回目の訪問だから遠目でもわかる。写真の右端の建物だ。
しかしもう雪が深くて足はもつれるしスーツケースの制御が大変だし。左に見えているバス停付近まで来たときにちょうど路線バスが後ろから来て、「あれ?乗るの?乗らないの?」みたいな感じで僕のすぐ脇をゆーっくりと走っていて怖いし。
最後の200mにえらい時間をかけたが、ようやく後藤食堂の交差点正面まで来た。
ちゃんと暖簾が出ている。よかった、泣きそう。これで営業していなかったら僕、立ち直れないところだったよ。
もちもち絶品焼きそば
店内もなかなか渋いぞ
ようやく辿り着いた後藤食堂。感無量。
ひたすら降り続ける雪の中でも見える青い暖簾のなんとも心強いことか。
…というより、この1年半くらいで暖簾のデザインを変えたようだな。前回訪問した2021年夏はグレーの暖簾だった。青の方が雪の中で目立つので好き。
『後藤(太)やきそば』って書いてある。店名は"後藤食堂"だけども、焼きそば屋さんなのだ。
(太)ってどういう意味だろう?太麺ってことか??
ちなみにだが駐車場は店から同をを挟んだ斜めくらいのところにある。前回は車でここまで来たのだ。駐車場の位置はお店の外壁にイラスト入りで丁寧に書かれているよ。
これは初回訪問じの写真だが、入口から見た店内はこんな感じだ。カウンターが5席ほど、そしてその後ろに4人掛けのテーブルが3つほどの規模のお店だ。
まずはお店のおばあちゃんに「スーツケースで来たんですけど、入口付近とかに置かせてもらえますかー?」と聞く。
おばあちゃんは目を丸くした後、「大変だったわね。そこいら辺に好きに置いていいですよ。」と優しく答えてくれた。
店内一番奥のテーブル席からの光景がこれだ。
昼どきなので4人ほどの先客がいた。この天気でも普通にみんなここに来るのだ。大体半数くらいの人は持ち帰りにしていたよ。
では、メニューをご紹介しよう。
- 焼きそば 小 300円
- 焼きそば 並 400円
- 焼きそば 大 450円
- 焼きそば 大々 500円
- 卵焼きそば 小 350円
- 卵焼きそば 並 450円
- 卵焼きそば 大 550円
- 卵焼きそば 大々 600円
以上だ。安い。
"大々"っていう表現、なかなかレアだな。そして大以降は卵代が50円から100円にUPしている。倍の量の卵を使ってくれるのかな?
ところで、「これだけ安いのだから大にしようか…」みたいな考えはかなりデンジャーなのでご注意いただきたい。
"並"でも麺の量が2玉なのだ。当然食品ロスを出さないようにオーダーしないといけないのだ。
僕は"小"以外のサイズを頼んだことがなく、他のお客さんのをチラ見した程度であるが、並は「めっちゃ食うぞー!」みたいなテンションだったり普段から大盛に慣れている人が頼んだ方がいい。普通の1人前は"小"だと思っておいた方がいい。
"大々"は…。アレはもう山だよ。4玉あるらしい。
僕は2回とも卵焼きそばの"小"だ。
卵っていう単語に弱くてね。しかも50円だ。つけない手はないであろう。
卵焼きそば小サイズ
厨房の中でおばあちゃんが大きな中華鍋で丁寧に焼きそばを作る。先客の方の分を作り中なので10分待機した。
あ、ところであなたがここに行く際の注意なのだが、くれぐれも時間に余裕をもって訪問してほしい。多分これは雪の日で相当に空いていた。
初回訪問時は夏の週末の昼間という繁忙時間帯だったが、たぶんラッキーで空いていた。
タイミングを誤ると40分待ちなどザラであり、ひっきりなしに持ち帰りオーダーの電話が鳴り続けている状況だというのだ。
このお店はそういうレベルの大人気店なのだ。
…ってことで出てきたのがこの焼きそばである。
初回訪問時の焼きそばの写真も貼っておくね。同じメニューだからわざわざ掲載する必要もないんだけど、あなたの食欲を煽りたくってさぁ。
"卵"とは、薄焼き玉子を指す。表面にテローンとタオルケットのように優しく掛けてくれるのだ。ユニークだ。うまそうだ。
ふぁはっ!うっま!!
やや太めの麺に、ちょっとだけ濃いめの味付け。写真だと少しギトついているように見えるかもしれないがそんなことなく、サクサク食べ進めることができるアッサリ食感だ。
具は豚肉とキャベツだけかな?麺にほんの少し青海苔をまぶしているようにも感じられる。
基本シンプルなのにすごくおいしく感じられるのは、ソースや麺にこだわりがあるから?それともここまでの苦労で感極まっているから??
卓上にはいくつかの調味料がある。
一番大きいのはソースかな?そういえばお店のおばあちゃんは、お持ち帰りのお客さんにもソースが必要か聞き、追加で必要な人には小さな使い捨てボトル入りのソースを入れていた。
僕は追加ソースは不要だな。これだけで充分味がある。ほしいのは紅ショウガだ。アイツはいいアクセントになるぞ。
色も味もいいアクセントとなった。うますぎ。
こんな安くてうまいお店が近くにあったら、そりゃ通うよな。地元の人が続々と来る理由がとてもよくわかるぜ。
※ 執筆しててまた食べたくなった。メチャ行きたい。
雪を乗り越え、市街地へ
食べ終わった僕は考える。これからの帰り道はどうしようかと。
まぁ行きと比べると道や雪の状態も把握できているしエネルギーもチャージできたので少し難易度は下がるかもしれない。
でもぶっちゃけ言うと、もう嫌なんだ。雪道でスーツケースと一緒にヨタヨタしたくはないんだ。駅まで2.5kmもあるしな…。
おばあちゃんに「ごちそうさま。おいしかったです。」と言いながらお皿を下げ、ついでに「もう帰りは歩くのが嫌なんでとりあえず青森駅までタクシーで行こうと思うんだけど、一番近くのタクシー営業所はどこですかねぇ…?」って聞いてみる。
おばあちゃんは「だったら私が電話してあげるわ」と提案してくれた。おばあちゃんマジ優しい。
結果、10分ほどでお店の前までタクシーが来てくれるようだ。
昼のピークを過ぎたためか、もう店内にはお客さんはいない。このままここで待たせていただくこととした。
待っている間、おばあちゃんと語らった。
1年半前の夏に初めてここにきて衝撃を受け、また是非来たいと思っていたのでこの雪の中でも頑張ってきたということを話した。
おばあちゃんはその話を嬉しそうに聞いてくれた。
このお店は1964年創業で、実に60年近く営業をしている。
もともとの発祥は戦争直後で、さっき僕がツルツル滑った橋のあたりに模擬店がたくさん出ていたんだって。そこでソース焼きそばの屋台もいくつかあったことから、今でも青森市内にはポツポツと焼きそば専門店があるのだそうだ。
そしてその焼きそばの値段は25年ほど変わらないという。すごい…。
今は息子さんがお店を回していることもしばしばあるみたい。僕は前回・今回共におばちゃんに会ってお話でき、おばあちゃんの焼きそばを食べられて良かったよ。
さぁ、ドアの外にタクシーが到着したようだ。出発の時間だ。
しっかりと上着を着てマフラーを巻き、スーツケースを掴むとおばあちゃんにお礼を言って引き戸を開ける。
外はもちろん雪景色である。それでも暖かく感じたのは、お店の室温が快適だったからだけではないハズだ。
では、またいつか、後藤食堂。
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エピローグを少々。
タクシーのおじさんに、行きは延々歩いたことを話したらえらい驚かれた。「夏ならともかく、この雪の中をスーツケースを持って…!?」って言ってた。
後藤食堂のおばあちゃんも同じ反応していたな。
駅前、すっげぇ雪。笑えてくる。
都市(人口10万人を指す)の中では正解一の豪雪と言われる青森市。ハンパねぇ!
寒い時期は温暖な沖縄とかに逃げたくなるのが性分だけど、こうやって厳しい面も含めた四季の姿を見ておくのも大事だよね。いやしかしすっごい雪。
とりあえず駅前のコーヒー飲めそうなお店に飛び込んだ。
「Cafe des Gitanes」っていうらしい。読めない。「ジターヌ」って表記しよう。
喫茶店ではなく、店内でも飲めるコーヒー店と言った方がいいだろう。好みを聞かれたので「とびきり苦いヤツで」と言った。
渋いおじさまが丁寧にドリップしてくれた。
店員の方お二人に後藤食堂往復のくだりを話し、またまた驚かれた。
うまいな。キリッとしたクセの無い苦みが気分を高揚させてくれる。
気に入ったのでドリップパックを数個買い、そして雪の町に再び出た。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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