「平面直角座標系第Ⅷ系原点」。
よくわからないが、カッコいい響きである。
ここは「日本のおへそ」と呼ばれている。
つまりは日本の中心にあたるスポットということだ。
場所は長野県の南牧村。
確かに日本列島のおへそと言われても納得感のある位置だが、なぜそこがおへそなのだろうか?
そこには何があるのだろうか?
平面直角座標系とはなんなのだろうか?
数々の疑問を解消させるため、僕は信州に車を走らせる。
日本の中心はたくさんある
2022年の梅雨明けは尋常ではなく早く、そして殺人的な暑さの日が続いている。
おまけに愛車の日産パオのクーラーは壊れた。
ダブル死亡フラグ。
…ではなかった。
なんて爽やかな信州の高原よ。最高に涼しく快適だ。
三角窓から吹き込む風に目を細めつつ、標高1300mを越えるの野辺山高原を疾走した。
さて、もう少し北に行くと目指す平面直角座標系第Ⅷ系原点だ。
実は今回が初訪問なのである。
内心、「僕としたことがこんなスポットを今まで見落としていたとは。ちくしょう!」って思っていた。
僕は昔から、数ある日本の中心を巡っていた。
なのにここの存在すら知らなかったのだ。不覚。
…そう、実は日本の中心ってたくさんあるのだ。
詳細については上記リンク先の【特集】をご覧いただきたい。
日本の中心というのは日本各地に無数に30箇所くらいある。
それぞれ定義が異なるので、どれが正しくてどれが間違っている、とかはない。
そしてこの無数の日本の中心を全部巡ることを生き甲斐にしているのが、この僕だ。
アホでしょ。
目指す平面直角座標系第Ⅷ系原点は、今年の初頭にとあるライダーさんから情報をいただき、こうして訪問できる日をワクワクしながら待っていたのだ。
場所は国道141号沿い。
マジかよ、ここは大昔から幾度となく走っていた場所だ。
なのに気付きもしていなかった。
目立たないとはいえ、ちゃんと国道に看板まで出ているのに。
こりゃ僕の人生、今後も伸びしろありますぜ、嬉しいな。
マレットゴルフ場にあるシンボル
国道から看板に沿って小道を20mほど入る。
バカ正直に国道に掲げられた看板に従ってこの道に入ってしまったが、結論から言うとすぐ脇に国道から直で入れる広い無料駐車場があるので、そちらに行った方が賢い。
だが、あなたが30秒歩くのを短縮したいのであれば、この小道でもよい。
小道の先にある、10台ほど停められそうな駐車場に入れば、もう真横が平面直角座標系第Ⅷ系原点だ。
写真の左側、黒い石碑だとか茶色い木組みだとか、それらが平面直角座標系第Ⅷ系原点を示す数々のシンボルの集合体だ。
では、まずはわかりやすいものから順にご紹介していこうか。
ちょっと引きで見てみよう。
ここは「市場マレットゴルフ場」の敷地だ。マレットゴルフっていうのは、ゲートボールで使うようなハンマー状の棒で球を打つ、お年寄りにも優しいゴルフ。
ただ、見渡す限りこの敷地には誰もいないし、国道に面した広い駐車場にも車は1・2台しかいなかった。
連休なのにね。
猛暑でゴルフしている場合じゃないのかな。この高原は涼しいのにな。
そして上の写真の通り、丸太で組んだような建造物と、四角推のモニュメント的なものがある。
四角推の中には、若干ボロボロになった旗が立っている。
なんか位置的にもあそこへのホールインワンを狙いたくなっちゃうかもしれないが、ゴルフとあの四角推は関係ない。
四角推の木組みが何を示すのかは、追って後述しよう。
まずは丸太の木組み。
これは鐘を吊り下げている鐘台だな。
観光地や景勝地によくあるよね。
男女が2人で鳴らすとなんらか…とかいう、僕は大体1人で行動するので心の中で「あいつら爆発しろ」と念じることくらいしかできないスポット。
それがここにもあるのかな。
いや、なんだこれ鐘に紐がついていないぞ。
つまり鐘を鳴らせない。
男女に幸せ訪れない。
いい気味だゲラゲラ。
『心の中で鳴らしてみて下さい』と書いてあった。
斬新なオーダーだ。
普通に考えると、マレットゴルフ場でガランゴロン鐘を鳴らされると気が散ってパフォーマンスが落ちるから、ということだろうか…?
ライバルが集中しているとき、どうしても鐘を鳴らしたくなっちゃうもんねぇ…。
そして説明板にいろいろ解説がされているので、以下に書き出してみよう。
日本のおへそ Ⅷ系原点 八ツ星の鐘
鐘の位置からⅧ系原点の延長線上にある桜の木の上空を見ると、そこには常に北斗七星が輝いています。
実は北斗七星は8個の星からできていて、その8個の星が重なって幸せをもたらすとされています。
8個目の星はひしゃくの柄の外側から二番目の星がミザールとアルゴルという2つの星からできており、8回目の鐘を鳴らすと見えるといわれています。
「古老の口伝」より
アルゴルじゃなくって、アルコルな。
昔の人はこの星が見えるかどうかで視力のいい悪いの判定をしていたと、聞いたことある。
てゆーか、なんでこの看板、いきなり北斗七星について熱弁しているのか。
「Ⅷ」系原点だから「8」にちなんだエピソードが欲しかったのか。
しかし「8」ネタが思い浮かばなかったから、基本的に日本のどこからでも北方面に見える北斗七星が「実は8つの星」というトリビアを絡めて語ったのか。
まぁいいけど。
(あと、古老って誰だ。)
そのすぐ脇にある看板がこれだ。
平面直角座標系第Ⅷ系原点のキャラクターだろう。名前は不明。
日本列島の中心から飛び出た、ちょっと神経逆なでする系の顔の鳥(?)。
頭はきっと八ヶ岳で、鼻は日本のおへそだからかヘソっぽいデザイン。
胸に描かれているのは野辺山の巨大パラボラアンテナだろうか…?
…とか分析してみたが、言うほど興味は惹かれなかった。失礼。
では、次項ではこのスポットの真髄である、このモニュメントに迫ろう。
平面直角座標系とは?
平面直角座標系。
地理を仕事にしていない限り、あまり聞くことのないフレーズだと思う。
僕もよくわからん。
平面直角座標系とは何か、この黒い石碑に記載されている。
楕円形である地球の位置は、緯度経度と平均海面からの高さで表示すると測量法に定められていますが、球面上で長さや面積を計算するには少々複雑な計算が必要です。
そこで、場合によっては義務教育でも習う数字のX座標、Y座標、Z座標を用い、メートル単位の数値を使って平らな紙の上で簡単に距離、咆哮、高低差、面積などを計算できるようにしていますが、これを「平面直角座標法」と言います。
測量法では、日本を十九の区域に分けてこの平面直角座標を定めていますが、この地が、長野県、新潟県、山梨県、静岡県が属する(八)系の公共測量の原点です。
はい、付いて来れていますかぁーー!?
僕も読んでもよくわからんが、わからんなりに頑張って解説する。
『緯度経度と平均海面からの高さで表示すると測量法に定められている』
この経緯度と高さ(水準)の原点が東京都心にあることは、既に取り上げたね。
でも、地球は丸い。
地球は丸いけども地図は平らだし、僕らも普段の生活で地球の丸さを意識していない。
ぶっちゃけ「日本」とか「東京」とか、小さなスケールで暮らしている分には地球の丸さは関係ないのだ。
うん、潰そう。
丸い地球を叩いて潰して平らにして考えよう。
ただ、この荒業にはもちろん欠点もある。
上の図のように、例えば半分にした地球を紙にギューッと押し付けるとしよう。
北極に当たる部分は綺麗にそのままの形で紙に到達できるだろうが、右端とか左端の部分は圧縮されてきっとグチャグチャになる。
丸いものをそのまま平面にするのって、難しいのだ。
ただ、いきなり地球半分だなんていうビッグスケールなことをやろうとするから無理が生じる。
小分けにしよう。
例えばこのくらい。
地球のホント端っこだけだったら、もともと結構平ら。
デザインを崩さずに平面に押しつぶすことができそうな感じだ。
つまり、範囲が狭ければ狭いほど容易に平面にできる。
容易に平面にできる、イコール誤差の少ない位置情報が表現できる。
…で、具体的にどんくらい細かくやります??
答え:日本を19分割します!
とりあえず離島と北海道以外は、同じ都道府県がちぎれちゃったりしないよう、うまい感じに19個に分けた。
離島とかは「沖ノ鳥島で1つ」・「南鳥島で1つ」とかいう贅沢な配分になってしまったが、いかんせん飛びぬけて遠いからしょうがない。
これを、表示されている数字の通り「平面直角座標系Ⅰ系」・「平面直角座標系Ⅱ系」と呼ぶ。
ここ長野県が属するのは、「平面直角座標系Ⅷ系」だ。
そして、Ⅰ系・Ⅱ系・Ⅷ系などなどエリアごとに、その指針となる原点がある。
はい、話の解像度がだんだん上がってきたね。
それがここだということだ。
ここを基準に、Ⅷ系内の位置情報を算出できるようにしてある。
ちなみにここを経緯度で表現するなら、以下の通りだ。
- 経度 東経138度30分0秒0000
- 緯度 北緯36度0分0000
四角推のオブジェの中央の地面には、上記の基準点そのものが埋め込まれている。
その四方をゴロリとした石が取り囲んでいる。
これが、Ⅷ系に属する長野県・新潟県・山梨県・静岡県を表している。
こうやって、球状の緯度経度を平面のXY座標での表記に換算できるようにしているのだ。
国土地理院のWebサイトには、緯度経度を平面直角座標に換算できるツールもあるので、興味のある方は触ってみてほしい。
ちなみに以下がその計算式だ。
あー、はいはいなるほど、あれがこうなって、それがこうなって…、
…1ミクロンもわからない。
まぁそれでも平面直角座標系Ⅷ系の定義は理解できたし、その原点がここだということもわかった。
では、なぜここが日本のおへそと呼ばれているのか。
答え:19分割した、大体真ん中だから
うおぉ、いきなり話の解像度が荒くなったぞ!
いきなり親近感を覚える案が出てきたぞ。
これまでのロジカルな思考、どこいった。
果たして「8」は真ん中なのか。
19個あるのだから、その真ん中に当たるのは「10」だ。
ただし、振り分けられいるエリアには離島が多いので、離島は無視して考えているのかもしれない。沖縄県には大変申し訳ないが。
じゃあ「1~13」、つまり「離島航路整備法第2条第1項」に基づく本土の真ん中となるエリアは?
普通に左右から真ん中を求めるとⅦ系だ。
石川県~愛知県のエリア。
Ⅷ系も真ん中に見えなくもないが、結論をⅧ系にしたのは、きっと理屈ではないゴリ押しの力なのだろう。
うーむ、最終的に力技になっちった。
それでも、他の日本の中心と同じく、いいとか悪いとかはない。
考え方はかなり自由なのだ。
これはこれでいいのだと思う。
ちなみに、ここの原点も東日本大震災の影響を受けていたりする。
あの地震で日本、ちょっとだけ歪んだから。
それに対し数値を変えるのではなく、原点そのものを移動させて調整したのだそうだ。
日本の中心は、本当にどれも面白い。
日本の中心について考えることは、日本の地理についてさらに深く知ることに繋がる。
ここを訪問できて、確かな満足を得られた。
僕の心の中では、しっかりと鐘の音が鳴ったぞ。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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