日本一高い山、「富士山」の標高は3776mである。
日本一標高が高い鉄道駅、「野辺山駅」の標高は1346mである。
人間は…、いや、動物も虫も植物もだ。
デカい方が偉い、デカい方が強いという理論を妄信して今日に至っていると考える。
そんな考えの世界だから、日本人男性の平均身長に遥かに満たない僕は幼少期より劣等感と共にあり、自分より背の高い全ての人類に牙を剥かざるを得なくなった。
チクショウだ。
僕の人生とは、デカいものに淘汰されぬよう抗う人生だ。
さらに人類というのは実に厄介な存在で、この大きさ・高さを数値化するという知恵を身に着けた。
山・土地・建造物、全てに標高という概念がある。
なんなんだよ、標高って。
…そう思っていたら、東京都心に標高の概念の根源となるスポットがあるという。
行ってみることにした。
国会議事堂にビビる僕
さて、今回ご紹介するのは「日本水準原点」というスポットである。
日本の標高を定める上での基準となっている、SSSランクの超重要アイテムだ。
もう最初にご紹介しちゃうと、こんな感じの重厚感漂う倉庫…の中にある。
まぁこのあたりは追ってご説明するが。
とりあえず、まさに日本の標高の中心点と言えるスポット。
つまり、広義の日本の中心なのである。
僕はかつて、日本の中心を全て網羅したいと思い、各地を行脚した。
詳細については上記リンク先の【特集】をご覧いただきたい。
実は日本の中心というのは日本各地に無数にあるのだ。
ぶっちゃけ30箇所くらいある。
それぞれ定義が異なるので、どれが正しくてどれが間違っている、とかはない。
今回の日本水準原点もその1つだ。
だから行くのだ。
東京都心へ!永田町へ!
「国会議事堂」!!
標高の中心以前に、日本の政界の中心であるシンボルである建物を前に、車内でハンドルを握る僕は「ウホホホホ…(汗)」って変な声が出てしまう。
ゲートの前にパトカーも停まっているしね。
そりゃそうだ。我が国にとってはとても大事な場所なのだ。
そしてヤベー…。
目的地はこのすぐ隣なのに、駐車場がない。
コインパーキングも全然ない。
「国会議員さん、コインパーキングもなくって国会に来るときにどうやって車を駐車しているんだよ…!」って一瞬思ったけど、議員さんはたぶんコインパーキングなんて使っていない。
皇居の周囲をウロウロしているうちに、千代田区役所に流れ着いた。
ここの地下にコインパーキングがあった。
東京都千代田区。
ここはここで日本の中心に当たる場所だ。
僕はもちろんビビっているし、小柄で丸目でかわいい愛車の日産パオもビビっているのか、普段よりさらに小さく見える。
外に出て千代田区役所を見上げる。
では、国会議事堂方面に歩いて戻ろうか。
…まぁこの後は皇居にちょこっと足を踏み込んだりお堀を見たりといろいろしたんだけど、そういう工程はいったん全てすっ飛ばす。
戻って来た。国会議事堂。
改めてかっこいいぜ。
1920年着工、1937年竣工という、とんでもない期間をかけて建てられた大正ロマンあふれる建造物だ。
予約すれば内部見学も可能なんだよ。
僕も小学生の頃、それこそ参議院と衆議院の区別もついていない時代に内部見学した。参議院本会議場とか見た。
閑話休題。
水準原点があるのは、この国会議事堂の前庭である。
わかりやすくイメージを表すと、こうなる。
では、前庭の中を散策してみよう。
小さなパルテノン神殿
前庭は、なんだか平和な空気が流れていた。
警察警備の監視の目線から逃れてちょっとホッとした。
これは南地区だ。
いい感じの密度の木々が生えていて、その隙間から国会議事堂が見える。
2・3回訪問したことがあるが、いつもほとんど人がいなくって静かな場所だ。
絵だけ見ると散歩するのにいい感じかもしれないが、国会議事堂前でメガホン片手に演説している"アッチの人"の声がここまで届いている。
南地区には、国会前庭和式庭園っていう名前の庭園もある。
「兼六園」・「後楽園」といった日本三名園と比べてしまうと規模も情景も少し見劣りしてしまうかもしれないが、都会の真ん中にこんなオアシスがあることで、僕の心は少し軽くなる。
次は北地区に入ろう。
「三権分立の時計塔」。
そうネーミングされた時計がここにある。
"三権"とは何か、あなたは答えられるだろうか?
僕もホコリを被った記憶の引き出しの奥地から、かろうじて引き出すことができた。
立法・行政・司法だな。
日本国憲法で定められていたな。
上の写真だと少しわかりづらいが、3つの柱から成る時計台なのだよ。
さぁお待たせした。
この国会前庭北地区の木立に佇んでいるゴチゴチに重厚な建物が、日本水準原点の格納庫だ。
この建物が水準原点なのではない。
水準原点を守っているのがこの建物なのだ。
上の写真、正午ごろに撮影したのだが、冬の低い日差しのせいですごい逆光かつコントラスト強すぎな絵になってしまった。
なので画質を少しいじろう。
…これで見やすくなったな。
僕は初見のとき、和と洋がゴッチャになったようなこのデザインに少し混乱した。
日本古来の石蔵のようでもあり、でも前面はパルテノン神殿のようでもあり…。
でも屋根の部分には、どこかしら和を感じてしまうのだ。
冒頭でも掲示したがもう1枚、日本3周目の頃に撮影をした画質悪めの写真も掲載しておこう。
この建物の正式名称は「日本水準原点標庫」。
先ほども書いた通り、水準原点の格納庫だ。
1891年(明治24年)に造られた物らしい。
Wikipediaさんのご紹介によれば、『ローマ風神殿建築に倣い、ドーリア式オーダー(配列形式)をもつ本格的な様式建築で明治期の数少ない近代洋風建築として建築史上貴重なもの』…とのことだ。
これ自体も国の重要文化財なのである。
倉庫を見られただけでもありがたい、ありがたい。
水準原点とは?
水準原点は、この小さめの神殿の中にある。
まずはこの神殿の上部に着目いただきたい。
篆書体で"点原準水"って書かれている。
つまりは右から読めば水準原点だ。
そしてその下には黒塗りのブ厚そうな扉。
ここには菊の紋章だ。気が引き締まる。触れることさえおこがましい…。
僕ら一般人が見ることができるのはここまでだが、この黒い扉はガポッと上から開くことができるのだ。
そこに水準原点が格納されている。
それがどんなものかというと、100年以上経過した、年季の入った定規だ。
これはWeb上の画像と最近放映していた「ブラタモリ」でしか見たことがないが、大体以下のようなものだ。
これが何を表しているのかというと、標高24.3900mを表している。
ちょっと話を整理しよう。
標高とは何かというと、海からの高さだ。
じゃあ海の高さとはなんだろう?
海は海域によってそもそも高低差があるし、そして潮の満ち引きでも大きく変わる。
結論から言うと、海域は東京湾。
そして潮の満ち引きは頑張って調査して平均となる高さを求めた。
これを標高0mとする。
ただね、海面ピッタリの標高0m地点に「ここを標高0mとする」っていう目印を作ったとしても、満潮時には浸水して何が何だかわからないし、100年・200年後には目印が劣化したり地盤沈下しちゃったりする懸念があるよね。
じゃあもう0mにはこだわらずに、「ここが標高〇m」っていう目印を作りましょうと。
そんでそこは厳重に管理できるようなところで、そして何があってもブレないような丈夫な土地を選びましょうと。
それがここだ。
台地上にあって地盤も強固。
ここなら未来永劫問題ない。
測ったらここは標高24.5000mだった。
これを日本の標高の基準値とする!!
…だが残念ながら過去2回この数値は変動している。
これらで少し地盤が動いてしまったのpだ。
従い、2022年現在は前述の通り、標高24.3900mなのだ。
ブラタモリでは、実際に国土交通省の人がこの水準原点を使った測量をやってみせてくれていた。
水準原点に対し、対象物Aはどれだけ標高の差があるか。
測量器具を慎重に覗き、ミリ単位でそれを割り出す。
そしたらその対象物Aの標高がわかる。
じゃあ、対象物Aから見える対象物Bの標高はどのくらいなのか?
対象物Aとの差異で、対象物Bの標高がわかる。
…これを半永久的に繰り返し、日本全土の標高がわかったのだ。すっげ。
もしかしたら他の日本の中心と比べると、ちょっと地味かもしれない。
しかし!!
和洋折衷のこのデザインもしかり、今僕らが手にしている地図もしかり…。
ここには、明治時代に一気に世界の先進国に近づくべき奮闘した人たちの、熱い想いが込められていると感じるんだ。
そして僕の身長コンプレックスは今後も続く…!!
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報