あなたは、果たして3ヶ月前の3月末、何を考えていたのかパッと思い出せるだろうか?
まかせてくれ、僕は思い出せる。
3月末で55年の歴史に幕を下ろす「名阪上野ドライブイン」に涙していたのだ。
延々に枯れることなく流れ続けると思われていたその涙も、3ヶ月経ってようやく止まった。
今年の梅雨は観測史上一番短く、そしてとんでもなく早く明けてしまったが、時を同じくして僕の涙も梅雨明けした。
では書こう、昭和レトロな名阪上野ドライブインを訪ねた思い出を。
消滅前に行かねばならぬ
2022年1月。
僕はWebニュースを見て驚愕した。
その沿線、伊賀上野にある名阪上野ドライブイン。別名忍者ドライブイン。
それが2022年3月末をもって閉鎖するというのだ。
ショックだ。
ショックすぎて、それが名阪上野ドライブインなのか「伊賀上野SA」なのか「伊賀SA」なのか、「伊賀ドライブイン」なのか、しばらくゴッチャになったほどだ。
ちなみに2kmほどしか離れていない伊賀SAなら上記で既に執筆済みだ。
伊賀ドライブインは忍者だらけだ。こっちこそ忍者ドライブインと呼んでいいのかもしれない。ここは機会あったら執筆しよう。
とにかくね、名阪国道のこのあたりは個性が尖りすぎているドライブインが複数あり、そのどれもが令和の現代では絶滅危惧種。
どれが潰れても不思議ではない。
だからWebニュースを見た人も混乱して、「どて焼きのあるボロボロのドライブインか!」(←それは伊賀上野SA)、「忍者館がー!」(←それは伊賀ドライブイン)、「道の駅と共に消えるのか!?」(←それは伊賀SA)と、阿鼻叫喚のカオスとなっていた。
もうこのエリア、わけわからんくらいに紛らわしい。
これらの中でも最大クラスの規模、名阪上野ドライブインが消えてしまうのだ。
理由は利用客の減少だという。
並行する新名神高速道路ができたし、大型観光バスがドライブインでワイワイするような時代でもなくなったし、なによりコロナ禍だし。
悲しすぎる。
僕は過去写真を探した。
夜中に立ち寄ったことはあるのだが、写真はなかった。
夜中なので施設内のどこにも立ち寄った記憶もない。
このまま終わっちゃっていいんですか?
一生後悔しますよ。
僕はこの名阪上野ドライブイン閉店までになんとか訪れようと画策する。
しかしずっとコロナの蔓延防止なんたらで動けず、またたく間に3月下旬となった。
もう終わっちまう!
名阪上野ドライブインがこの世から消えちまう!!
ギリギリのタイミングだ。
僕は走り出す。遥かなる三重県へ。
目的は1つだ。待ってろ、昭和のドライブイン!!
僕の夢見た忍者ドライブイン
名阪国道。
"高速道路"というくくりには入らないのだが、自動車専用でインターチェンジもあるしサービスエリアもあり、使用する上ではまるで高速道路のような感覚だ。
そんなバイパスの大内ICを降りたところに名阪上野ドライブインがある。
バイパスからもドライブインの建物が見えるんだけど、建物自体に『大内ICおりる』と強烈なフォントで書かれているからな、もう何ごとかとみんな降りちゃうよね。いや、そんなワケないよね、すみません。
でも僕は降りるのだ。降りさせてください。
駐車場はとんでもない混雑だ。
車もバイクもすごい多い。
みんな駆け込みでここに来ているのだ。最期の別れを惜しんでいる。
なんとか駐車できた。
駐車場にはケバブとかそれ系の販売車輌がズラリと並び、メチャ盛り上がっている。
だけども僕はここで食べたいものがあるので、それらはひとまずスルーだ。
それではまずは、特徴的な外観からご紹介しよう。
なお、建物は非常に横長なので全てを一枚の写真に納められない。
まずは真ん中、"名阪上野ドライブイン"の電飾が最高である。
昭和を彷彿とさせるのこの字体、このギラギラした感じが好きだ。
願わくば、夜の点灯した写真も手もとに残したかった。
ただ、"レストラン"の文字に隠れてしまっているのが残念だけどな。この通り、中央はレストランエリアなのだ。
その屋根の上には点々と忍者いる。
忍んでないけど、忍者いる。さすが忍者ドライブイン。
点在している忍者を見ながら、向かって左手の方まで移動してみた。
左側は"おみやげ広場"と書かれている。
内部ではいろんなお土産が売られている。
…あ、ちょっと行き過ぎたのでもう少しだけ中央方面に戻りたい。
そこの屋根に、ひときわ目を引く忍者がいるので。
ネコだ。
その名前は"忍にゃん"。名阪上野ドライブインのマスコットキャラ。
公式Webを見たところ、お父さんはフランスのセレブで、お母さんは古風な日本人とのことだ。
そっか。よくわからないってことがよくわかった。
まぁかわいいからどうでもいいや。
次は正面の右側に行ってみよう。
なんかフリマ的なイベントが行われていて賑わっていた。
ここには2階エリアもある。
どうやら大体のお客さん用の大広間だったりしていたらしい。最近も使われていたのかな?
最近はドライブインにツアーバスでドバドバお客さんが来るケースってあんまりないと聞いているしなぁ…。
右側の一番すみっこに、「太陽」と「おすみ」という食堂がある。
どっちも人気店だ。
特におすみのほう、パッ見で20人近くが外まで行列を作っているぞ。もう13時近いのに。
そして右の側面から見たドライブインだ。
東側から名阪国道を走ってくると、この『大内ICおりる』が車道からも見える。
…という感じの、平成時代を挟んだ向こう側から生き続けている立派なドライブインである。
スゲースゲーって、内心叫んでいた。
じゃあ、この写真の左端に見えている、おすみの行列に並んでみるか。腹減った。
おすみのホルモン定食
おすみは、この忍者ドライブインの名物的な存在だ。
パワフルなホルモン定食が人気で、ライダーからトラックドライバーから、元気な地元の人たちまで多くの人がいつも訪れているお店なのだそうだ。
僕は忍者ドライブインに来るために旅をしているが、忍者ドライブインに来たからにはおすみに絶対入りたいと思っていた。
20人待ちだろうがなんだろうが、並ぶのだ。
おすみはこの後移転するらしいが、ここでのおすみはこれが最初で最後だ。
並びながら店頭のディスプレイを眺める。
このちょっとくすんできた感じのディスプレイもいいじゃないか。
そしてケースの中は見事なまでのホルモンパーティーだ。
これ絶対ビールほしくなるヤツだ…。当然飲めないし飲みませんけど。
一番下の段に"忍ジャーエール"っていうジンジャーエールみたいなドリンクのメニューがあるのがちょっとツボった。
…って思っていたらすんなり店内に入れた。10分くらいしか待たなかった。
この店、とんでもなく回転率がいい。
店内はコの字型のカウンターだ。
カウンターの中央では威勢のいい店員さんたちが、それこそ"戦闘"みたいな感じでお客さんをさばいていた。
僕も指定されたカウンター席に座る。
頼むのはホルモン定食だ。あきらかに常連さん的な感じの人以外、みんなホルモン頼んでいたな。
ちなみにホルモン大盛にする人が多かったが、僕は普通だ。
店内は常に炒め物やら焼き物やらをしているので、スモーキーな感じ。
ふと後ろを見ると、壁のメニューもナイスなブラウンだ。
これを拝めただけでも嬉しい。
気合の入ったオーナーのじいちゃんがカウンター内をまとめ、次々に入ってくるオーダーをテクニカルに捌いている。
まずは水のグラスの上にお漬物の小皿を乗っけた状態のものを、カウンター越しに渡される。
間髪入れず、ご飯や味噌汁が出てくる。
そしてメインのホルモンのお皿だ。
うむ。ご飯はデフォルトでも結構な大盛だ。
ただそれを加味したとしてもちょっとホルモン少ないかなーと思ったりした。
ただ、それは最初だけだったと言っておこう。
とりあえず、いただきますだ。
ヤベ、これ、マジうまい。
ホルモンはプリップリで噛み応えバツグンだ。
そしてキャベツはシャッキシャキで、いい感じにホルモンからの脂をまとって輝いている。
そして極めつけはタレだよね。
甘辛で濃い味付け。ご飯が進むすすむ。このくらいご飯が無いとバランスが取れない。
悪魔の味だ。
グハッ…。食べ疲れた。
最初は「おかず少ないんじゃないか」とか思っていたけど、充分だ。
これすんごい腹に溜まる。少食の僕にはこれで充分。てゆーかもっと少なくっても余裕で満足できる。
おっかしいな。朝ごはん食べていないんだけどな。それが逆に胃を小さくしていたのかな?
お味噌汁はこれに反して味噌が薄めでスッキリした貝汁。
なごむー!うまー!
そして完食。おなかいっぱい。満足しすぎた。
オーナーのおじさんは常連っぽい人に、「3月末まではきっとやらないと思うんだ。もっと早く店を閉めちゃおうと思う」と語っていた。
後日調べたところ、3/27が最後だったみたいだ。
僕が訪れたのは本当に、閉店数日前のギリギリであった。
そしてこちらも人気の太陽さんだ。
からあげがうまいと聞いているけど、当然ハシゴするようなキャパシティはない。
太陽さんも忍者ドライブイン閉鎖後に移転しているそうなので、またいずれ機会があれば…。
最後の別れをするために
食後、僕は「もうこれで最後だ」と覚悟を決め、忍者ドライブインを後にした。
だけどもその2日後、なんかまた忍者ドライブインの前にいた。
うん、実は紀伊半島をグルーッと海沿いに一周して戻ってきた。
あ、別にご飯を食べるためではないよ。
残念ながら今回も太陽さんには行けないのだよ。
なぜなら今から数分前に、伊賀上野ドライブインの「おふく」さんでどて焼きを食べ、お腹がMAX状態だからだ。なんだったら満腹すぎてフラフラだ。
そのあたりの詳細は上記をお読みいただきたい。
今回ここに来たのは、家族へのお土産などを買いにだ。
どこで買ってもいいのだが、どうせ買うならここで記念に買おうかなって思ってね。
そのついでに、店内を改めていろいろ見て回ろう。
2日前の曇天とは異なり、かろうじて青空だ。
それだけでも嬉しいな。
多くの人が最後の記念撮影をしている。
何10年もここに通い続けた人も多いだろう。子供の頃の家族との思い出が詰まっている人も多いだろう。
残念ながら僕はそういう思い出はなく一期一会に近い状態ではあるが、万感の思いで最後の雄姿を見上げるよ。
55年の歴史のフィナーレ。
1月下旬から感謝セールが開催されている。
おみやげ広場への入口のドア周りには、ミニフォトギャラリーが設けられていた。
10枚程度の写真であるが、忍にゃんの姿に胸がちょっとジンとなる。
お土産も買いたいが、その前にここから内部で続く、トイレコーナーやフードコートのほうを先に見てみたいと思う。
トイレだ。
忍者がデカデカと描かれている、外国人大喜びな仕様だ。
内部には忍者いるのか不明。今からでは遅いが、中にも入っておけばよかった。
続いてはフードコート。
年配の方やファミリーで賑わっていた。
久々に来る人も多いのかもしれないが、誰しもここに思い出があるのだろう。
…とか勝手に想像してセンチな気持ちになってみたりもする。
外側にはちゃんと忍んでいる忍者もいた。
襖ごしのシルエット、かっこいいじゃないか。
おみやげ広場内部だ。
もう閉店間際なので品薄になって来てはいるが、取り扱っている商品は非常にバラエティに富んでいる。
そしてお客さんもメチャ多い。すごい活気であった。
グルグルと5周くらいして、選んだのは定番の赤福であった。
どこでも買えるものだが、まぁいい。赤福好きだし。
閉店日のニュースでもピックアップされていた、長年勤めている一番声の大きいおばちゃんのレジで買った。
「赤福2つーー!!!」みたいに叫んでいた。
よかった、恥ずかしいものを買ったわけではなくって。
昭和はどんどん遠くなる。
アナログなことが多く、決して「あの頃が良かった」と一概に言えるような時代ではないと思う。
だけども、どんな時代にも生きていた人はいて、みんな過去の思い出を大切に大人になっていく。
「あそこはまだあの頃のままだね」って言って、心のどこかでほっとできるような場所が、人生には必要なのかもしれない。
ここはきっと、多くの人にとってそんな場所であったのだろう。
エネルギッシュで型にとらわれることなかった時代の象徴。
ちょっと不便だったかもしれないが、このドライブインに訪れる人はみんな笑顔。
そんな場所だったに違いないと考える。
大人になるということは、いろんなことを経験しいろんなものを得る。
…だけではない。
きっと過去に出会ったいろんな物や人とお別れをしなきゃいけないってことでもあるんだ。
車に乗り込み、振り返る。
この後この施設は解体される。
最後の眺め。失われる昭和のドライブイン。
せめてこの記憶と写真データに、ずっと残り続けますようにと。
たった2回だけのまともな訪問だったけど、ありがとうございました。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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