「あそこのサービスエリアのメシがうまいんだ。食いに行こうぜ。」
…まぁ普通にありえるセリフだと思う。
これを聞いたあなたは、どんなところをイメージするだろうか?
ピカピカの清潔感のある高速道路のサービスエリア。
明るい雰囲気のお店で、全国を行き交う車を眺めながら、ちょっと粋なご当地グルメを味わう。
…と、こんな具合であろうか?
確かにサービスエリアのグルメってTV番組でもよく取り上げられることがあるし、サービスエリアに立ち寄ることだけを目的にドライブするなんてのも全然アリな時代である。
NEXCOが発足して以降、全国のサービスエリアやパーキングエリアもリニューアルが進み、さらにスタイリッシュな施設になったと感じている。
…だがな、今日はそういう話をしたいんじゃないんだ。
そういう系のサービスエリアじゃないんだ。
え? 「じゃあ、どういう系か」だって?
こういう系だな。
本当にサービスエリアなのかと疑ったあなた。
ちゃんと写真を見てほしいものだぜ。
疑う余地もない、サービスエリアである。
おいおい、「廃墟じゃねーの?」とか思うなよ。
サービスエリア内の「味のお福」さんは今日も元気に営業中だ。しかも名物のどて焼きがメチャ人気でメチャうまい。
今日は、この名阪国道_伊賀上野サービスエリア(以下SAと略す)にスポットを当てたい。
廃墟系SA、現る
名阪国道。
"高速道路"というくくりには入らないのだが、自動車専用でインターチェンジもあるしサービスエリアもあり、使用する上ではまるで高速道路のような感覚だ。
2022年3月末で、55年の歴史に幕を下ろした「名阪上野ドライブイン」も名阪国道にある。てゆーか、今回取り上げる伊賀上野SAのほぼ向かいあたりにある。
名阪上野ドライブインも滑り込みで2回も訪問しているので、もしそっちも気になるという方がいるなら、上のリンクから飛んで行き、そしてここに必ずやまた戻ってきてほしい。
話を伊賀上野SAに戻そう。
僕はかつてもここには来たことがある。
「すげーなー。渋いなー。」って心ときめいたものだ。
上の写真にある通り、駐車場とSAの建物を隔てる鉄柵があるあたり、もうクローズされている感がすごい。
周囲の緑の濃さも、建物を飲み込んでしまう勢いだ。
建物の上に乗っている看板には「レストラン」の文字がある。
その下、建物本体にも「伊賀上野…」という続きが朽ちて読めない文字列の後に、フォークとナイフのマークがある。
この看板の下部に当たるメインの施設はガチで廃墟だが、隣接する建物には確かに食事処があるのだ。
とても"レストラン"とは形容しがたいし、フォークもナイフも無いようなお店だが。
そのお店の名が、冒頭で一度名前をお出しした"味のお福"である。
伊賀名物のどて焼きのお店である。
どて焼きとは、牛スジの煮込みだ。このあたりはあとで詳しく解説する。
ガラスの向こうは全面カウンター席であり、ワイルドな男たちがひたすらどて焼きを食べている。
僕も何度か「食べてみたいな」って思っていたのだが、大体僕がここに来るときというのは、名古屋のヘンテコでデカ盛りな喫茶店で腹いっぱい食べた後だったりして、とてもどて焼きまでは入らないだろうってなった。残念極まりない。
だから自動販売機でドリンク1本だけ買って立ち去ったり…って感じだ。
しかしそんな悠長なことも言っていられないかもしれない。
前述の名阪上野ドライブインが閉店すると聞いたとき、一瞬こっちのことかと思ってしまった。
結果間違いだったのだが、こっちもこっちでいつ閉鎖されるとも限らない。
お福は人気店だから、SAの建物が取り壊されたとしても移転するなり何なりで永久不滅だと信じているが、この雰囲気が残っているうちにお福でどて焼きを食べておかねばならない。
だから冒頭のセリフを自分自身に言い聞かせるのだ。
「あそこのサービスエリアのメシがうまいんだ。食いに行こうぜ。」
僕は1人、伊賀を目指す。
お福のどて焼きを食べるために。
崩壊美を楽しもう
お福の営業時間は、Webを見たところ11:45~と書いてあるページと12:00~と書いてあるページがある。どちらが正解なのか僕は知らない。
そして大きな懸念事項が1つある。
お福の定休日は、Webを見たところ月曜日と書いてあるページと不定休と書いてあるページがある。どちらが正解なのか僕は知らない。
僕は名阪上野SAにやってきた。
時計を見ると11:40だった。
あと、大事なことなんだけど今日は月曜日だ。一応祝日ではあるけど。
現時点でお店にはシャッターが下り、営業を開始する気配はない。
これは大きな誤算だったな。
月曜日が定休の可能性があるという情報は、既に旅立ってから仕入れたのだ。
事前調査が不足していた。
これでもし開店しなかったら結構笑える。
きっと僕、泣きながら笑う。
手元の時計は11:45を過ぎた。
お店は開店しない。
15分後の12:00、そこですべての結論が出るに違いない。
とりあえずこの15分で、SA内の様子を少しお見せしよう。
まずはメインであったと思われる建物が上の写真だ。
しかし廃墟化している。この建物の扉が開いているシーンを見たことは無い。
…というより、扉は封鎖されている。
開ける気を感じさせない風貌である。
次は、上の写真から少し目線を右にずらそう。
自動販売機の右側だ。
自動販売機
ホットアイスコーヒー・缶飲料
かき氷・タバコ
…このようにデカデカと書かれた看板が頭上にある。
文字配置的に、これは自動販売機のラインナップを示しているのだろうか?
しかし自動販売機のラインナップにハンバーガーやラーメンは無い。
かつてはハンバーガーやラーメンの自販機があったのだろうか?
であれば、レトロ自販機好きの僕としては見てみたかった光景だ。
そのまま建物に沿って路地に入ってみた。
自動販売機が並んでいる。ちゃんと全部健在だ。
頭上は以前はアーケードだったのかもしれないが、現在は鉄骨のみである。
日当たりがいいし風通しもいいね。
入口の看板を見上げる。
SA本体の建物の軒下部分が少し写っているが、それの朽ち果てっぷりがヤバい。世紀末である。
改めて、自販機横丁の全容だ。
右側の建物はお福方面。このさらに右側にお福がある。
行き止まり部分の廃墟感もいい味を出しているなって感じた。
その店は果たして開くのか
本題に戻ろう。
どて焼きのお福さんは開店するのか。
それが今の僕にとって最も大事な事項なのだ。
開店する可能性はあると感じていた。
これだけ何もないSAなのに、それなりに車もバイクも人もいたのだ。
しかも何をするわけでもなく、みんな手持ちぶさたな顔をして、空虚な時間を過ごしている。
僕が陽気なアメリカ人であれば、「やぁみんな、お福の開店を待っているのかい?」って笑顔で聞けるんだけど、シャイなメガネボーイなのでそれはできかねる。
でも、感じるのだ。
この開店前のヒリついた空気を。
そして周囲の人たちは、散歩中の犬がときおり飼い主をチラリと見るような感覚で、お福の方をチェックしているのだ。
さぁ、お福。あとはオマエがそのシャッター開けるだけなんだぜ。
…だが、まだシャッターは微動だにしない。
12時数分前のことだ。
周囲の人々がふわりとナチュラルに集まって、お福の前に行列を作った。
僕も自然にその列に合流してみた。
前から8番目だ。
よし、これでみんなお福目当てであることに確信を持てた。
運命共同体である。
時計を見た。
12時を少し回っている。
あれ?大丈夫?本当に開店するの?
内心少しドキドキしているが、それを表には出さないように虚勢を張り、行列の中で静かに待つ。
12:04、シャッター開いたーー!!
店員さんの案内でみんなゾロゾロと店内に突入する。
僕も半分くらいスキップしながらこれに続いた。
夢見たどて焼き、食べられるぞ!
絶品どて焼きは超ボリューム
カウンター席のみで、15席ほどだろうか?
入って左側から順番に座るように案内された。
左の人から順番に注文を聞かれている。
えっと、メニューメニュー…!
メニューは壁に貼ってある。
どて焼き以外にも、うどんとかおでんとかお茶漬けとかある。
しかし僕はもちろんどて焼きだ。
どて焼きの定食ってどこに書いてあるのか、ちょっとわからなくって焦る。
あるよね、定食?
そしてキョロキョロするのも恥ずかしい、メニュー見ようとするとその前の人と目が合うからさらに恥ずかしい。
そうこうしているうちに、メニューのヒアリングがどんどん進んでいる。
- 1人目:「チュー」
- 2人目:「チュー」
- 3人目:「チュー」
大のオトナのおじさんたちがネズミのように、示し合わせたかのようにチューチュー鳴いている。
一瞬ここはどういう世界なのかと混乱したが、「なるほど、これきっとどて焼き定食の中盛りサイズを示しているのだろうな」って理解した。
どて焼きメインのお店だから、どて焼きをオーダーすることが前提のシステムだ。
- 4人目:「中」
- 5人目:「中」
- 6人目:「中」
ところで中サイズっていかほどなのだろうか?
僕の場合は小でもいいような気もするが、あなたはこのチューチュー大合唱を自分のところでストップさせる勇気、ありますか?
人から人へと脈々と受け継がれてきたこの歴史、あなたの代で終わりでいいんですか?
- 7人目:「中」
優しい世界に、カンパイ…!
8人目の僕も「チュー」と鳴いた。
すげーの来た。
いや、写真ではこのスケールは伝わらないだろう。
肉皿が小さく見えるかもしれないが、むしろ大きい。
その前列に鎮座する茶碗とお椀がハンパない大きさなのだ。
奥のグラスと対比してほしい。
ご飯は軽く2膳分はある。
味噌汁のお椀は見たことないようなサイズだ。そばやうどん用の丼だろ、これ。
来た瞬間、ヤベーなって思った。
しかし、今日はまだ喫茶店でピザトーストを食べたのみだ。それなりに空腹だ。
それに、最近は家族に「あなた最近よく食べるようになったのね」と言われたりしている。ご飯をお替りすることもあるのだ。
自分を信じろ!
いただきます!
どて焼きとは、牛スジ肉を味噌やみりんでトロトロになるまで煮込んだものだ。
正直僕、どて焼きと呼ばれるものを食べたのは人生初だ。
モツ煮に似ている感覚かな?
最強にトロトロ。脂のインパクトが結構すごい。
醤油の塩味・油のコク・みりんのほのかな甘み。
これってさ、フライドポテトやスナック菓子を食べるのをやめられない無限ループと理屈は一緒だよね?
塩分が油を求め、脂が塩分を求める。脳が快楽物質を放出し、「もっと食べさせてくれ」と僕の肉体に信号を送る。
ご飯も進む。「食べる」というより「口に放り込む」というレベルだ。
…ただ、早くも脂分がズッシリ来たよ。
はいこの写真、あなたは「食べる前に2枚写真を撮ったのかな?」って思われるかもしれない。
違うんだ。
腹8分目記念で撮影したんだな、これ。
2・3割しか食べてない時点で、腹8分目に達した。
これヤバいってヤツだ。
ガッツガツ食べていたつもりだが、いかんせん元の量が多いのだ。
どいつもこいつも右にならえでチューチュー言いやがって、和を崩すのを恐れているから僕がこうなる。
いや、チラリと左の先輩方を見ると、みんな黙々と食べ進んでいて僕だけ焦り顔なんだけどな。僕だけ少食だった。
とりあえず、腹8分目ということは、残り2割の胃のキャパがある。
これを最大限有効活用しよう。
もうちょっと!!
もうお腹は限りなく飽和状態だが、先が見えてきた。
備え付けの七味唐辛子を振ったらブーストがかかったのだ。
もう「ウップ」ってなるくらいだけど、もうちょっと頑張れる。
うまくいけば完食できる。
さて、もう左端の先に座った人から順に「ごちそうさまでしたー!」って退店が始まっている。
左から順に退店ラッシュが僕方面に近づいてきている。みんな何食わぬ顔で完食してやがる。
これ、ラーメン業界で言う「ロットを乱すな」ってヤツか?
いい感じの順番で完食させ、カッコよく会計したいものだ。
最後掻き込み、味噌汁で一気にお腹に流し込む。
ごちそうさま!
うまかった!マジうまかったけど、マジ満腹だ!
2巡目のお客さんも左側から入り始めていた。
店の外にはもう行列が出来ている。
2巡目に入った小学校低学年くらいの女の子が「中サイズで」って言ってた。
店員さんが「結構量が多いので小サイズにしては?」って言っていたが、母親は「中で大丈夫です」と確固たる意志を見せていた。
さて、彼女はどうなることか…。
その結末を見れずに残念だが、僕の闘いはここまでだ。退店する。
活気づく廃墟系サービスエリア。
そこで食べたどて焼きは、本当に絶品であった。
このお店は、2022年現在で創業47年になるという。
そりゃボロいSAだけれども、47年積み重ねた歴史がこれなのだ。
公共施設はどんどん綺麗になっていき、それはそれでいいことだ。
だけども、こういう味わい深いお店で食べた思い出こそ、僕は今後の人生で大事にし続けるであろう。
いつかまた来るときも、またこのボロボロのままでいて欲しい。
(いや、もっと崩壊が進んでいるかな?)
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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