…どうだろう?なんだかこの一文だけでエモーショナルな感覚がしてこないだろうか?
実際そうなのだ。
日本海を見ながらのシーサイドドライブの途中に出てくる、ちょっと昭和レトロなドライブイン。そこにはこれまた昭和に隆盛を誇ったレトロな麺類自販機があり、身も心も温まることができる。
昨今注目を浴びているレトロ自販機を目当てに、あなたも日本海を走ってみてはいかがだろうか?
始まりは失意から
日本4周目を走っていた頃のこと。そこで初めて僕はこのドライブイン日本海を目指すこととなる。
それまではレトロ自販機の存在すら知らなかったからだ。世の中にそんなワクワクする自販機があっただなんて。「義務教育で教えておけよチクショウ!」とすら思ったほどだ。
なんとも言えない斜線を巧みに使った造形のドライブイン。24時間営業と書かれているが、中はちょっと薄暗そうな雰囲気だ。
これまで何度も走ってきた山陰地方の大動脈、国道9号沿いにこのドライブインがある。でもこれまで視界に入った記憶がない。
趣味が変わり、視点が変われば同じところを走っていても、今まで見えなかったものが見えてくる。だから人生って楽しいよね。何度かやり直したい。
いい感じのレトロ感じゃないか。
だけども自販機はいろいろと充実しているし、ちゃんと清潔感のあるイートインブースがある。これで24時間オープンしてくれているのだ。
高速道路があればSAやPAがあるだそうが、高速の無いこのエリアにおいては貴重なオアシスだろう。ましてやコンビニの無い時代であればなおさらだ。
中には例のレトロ麺類自販機がある。
ヒャッホー!!ご本尊!!貫禄が違うぜ、他の自販機とはよぉぉーー!
この木目調シートはオリジナルのものであろう。他ではちょっと見たことない。それが渋くって古くて価値のある家具みたいにも見えて、思わず手を合わせたくなる。
メニューは天ぷらうどんと、西日本特有の肉そばで、どちらも330円。
じゃあ肉うどんを食べよっかな…。そう思って自販機に近づいて、ヒザから崩れ落ちるくらいのショックを受けた。
どちらもすでに売り切れなのだ。
せっかくここのためにランチを軽めにたこ焼きだけにしておいたのに、なんてこった。
過去にもレトロ自販機を訪問したら売り切れだったっていう経験は何度もあるけど、やっぱ自販機だからしょうがないよね。
そして人間って、こういう挫折を乗り越えて大人になるしかないんだもんね。
でも、店内は古いながらとても綺麗で、オーナーさんの愛を感じたよ。
自販機には手書きの『具は、めんの下に入っています!!』の貼り紙があったし、片隅には『ご自由にお持ち帰りください』の貼り紙と共に、かわいい折り紙の細工とかあって、ほんわかする。
どちらも利用者のことをすごく考えているのだろうなぁ。
いずれ機会があれば、ちゃんとここで自販機メシを食べたいなぁ。
…はい、ここまでが日本4周目当時の手記だ。
念願の自販機麺
その後、日本5周目ではいろいろあってスルーした。
ときは流れて2022年、日本6周目の後半、満を持してこのドライブイン日本海を目指す。リベンジだ。
なんていい天気なのだろう。空も海も綺麗だ。
だがそんな景色とは裏腹に、僕の心はザワついていた。
現時点の時刻はすでに17時過ぎ。夕方なのだ。
ドライブイン日本海の商品補充のスパンってどのくらい。1日に準備している商品数ってどのくらい?
自販機ではあるが中の商品は高齢のオーナーさんが手作りしていることも多く、毎日朝から天ぷらをあげてくれていたりするのだ。ホント頭が下がる。
で、ここ数年レトロ自販機ブームでしょ?需要と共有のバランスは如何に。朝の商品補充直後だったらまだしも、この夕方の時間に在庫は残っておるのか?
そりゃ心中穏やかなワケがなかろうて。
到着。あぁ懐かしいドライブイン。西日を受けて本来の色よりもやや赤みがさしている。エモ。
しかしそんなことはさておき。気になるのは自販機麺が売り切れていないかどうかだ。
前回も空振りだった。そしてもしまた今回も空振りだったら、あなたなら立ち直れますか?僕はちょっと自信ない。
「DEAD OR ALIVE」とつぶやいた。
店内に入った。
前回同様「いらっしゃいませ」のフォントが元気爆発している。レトロ自販機の右側に、以前はなかったカップヌードル自販機が設置されている。
いや、そんなことはどうでもいい。麺はあるのかないのか。いらっしゃいませモードになっている僕の胃袋に麺を届けることはできるのか。
よぉぉしッ!!にくそば・天ぷらうどんどちらもご健在!!在庫がある上に選択肢もあるという幸せ。喜びの舞を踊っていいですか?
興奮を抑えつつも僕はどちらを食べようか考え、にくそばを選んだ。
そして実は最初の訪問から10年近い歳月が流れているにもかかわらず、値上げが330円から350年と、20円だけなことに感謝した。
およそ20秒後、取り出し口からそばが出てきた。うおっ、驚くほどに黒一色。麺自体もなかなかに黒い上に具が見えない。
しかし案ずるなよ、貼り紙にある通り『具はめんの下に入っていますョ』。以前の張り紙に対し"ョ"が追加された。特に余白を埋めるためとも思えない、この無理矢理な"ョ"により、優しい世の中がさらに優しくなったという説もある。
以前はな、このテーブルは空白なままで、僕が突っ伏して泣くのに使われたんだよ。
しかし今回はこのテーブルの上にそばを置くことができるんだよ。うれしいじゃないか。絵を描いてこそのキャンバスだろう?そういうことだ。テーブルは突っ伏して泣くためのものではない。ときどきだったらいいけど。
麺の下に入っている具を掘り出した。かわいいカマボコが2つ出てきた。
にくそばだから当然肉も入っているよ。カマボコの横にチラッと写っているのだが麺と完全に同じ色なのでほぼわからんがな。忍者のように同化している。
とりあえずだ、うまかった。
醤油ダシはスッキリしつつも牛肉の旨味が溶け出していてコクがあり、力強い側面を感じる。麺はあっさり食べやすい。
手軽に食べられておいしい。自販機麺の魅力だ。あぁ、なんて幸せな時間…!
潮騒を聞きながら
そばをすすっていると、外からかすかながら電車の走行音が聞こえてきたので外に出てみた。
ドライブインの目の前を、ちょうど列車が通過する瞬間であった。
国道9号に沿って山陰本線の線路が走っているのだ。実はこのドライブイン、折居駅からほんの200mほどしか離れていないのだよ。
西日に当たりながら日本海を進む列車。なんて風光明媚なんだろう。
僕はほとんど電車旅の経験はないのでわからないが、この景色を見ながらノンビリ列車に揺られるのも最高なのだろうな。
食べ終わった後は、日本海の潮騒を聞きながら少し施設内を見て回った。
『いらっしゃいませ』の左側には、数々のメニューの札が掲示されている。おにぎり・いなり・サンドイッチ・ハンバーグ…。
過去のメニューだろうか?
今も汎用自販機内にちょっとしたパン類などはある。しかしこれらのメニューを自販機で提供するのは難しいだろう。
ドライブインが以前有人の食堂だったりしたのだろうかね?昔は食堂スタイルだったが今は自販機のみとなったドライブインって結構あるもんね。
昔懐かしいゲームテーブルもある。しかもちゃんと稼働しているようだ。全然リアル世代ではないけど、これを見かけると嬉しくなっちゃうな。
卓上の七味唐辛子はなかなかに攻めたサイズだ。辛党も満足するだろう。割り箸はワンカップの日本酒を再利用しているようだ。良い。
小さなゲームコーナーもある。
『店内で「ネコ」に食べ物をやらないで下さい』の貼り紙もある。謎のネコ強調だ。ノラネコでも付近に住み着いているのかな??
では、そろそろ出発するか。
あぁ、来れてよかったなぁ。次に来たら天ぷらうどんを食べたいものだね。
自販機の在庫が気になってすぐに店内に飛び込んだが、最後はゆっくりと全容を眺める。
…ん?あれ?お店のロゴ部分に違和感を感じてカメラをズームしてみた。
ネコいた。あんなところを悠々と歩いていた。
そこからの日本海の眺めはさぞかし良いであろうな。じゃあな、ネコちゃん。
西日に追いかけられながら、僕の日本海ドライブが再開される。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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