「呼鳥門(こちょうもん)」。
人工的なものではなく、自然にできた巨大なトンネルである。
驚くべきは、そのトンネルの中を国道が通過していたという事実。
ほんの20年前まで。
21世紀が始まっていたというその時代まで、そんなトンネルが実用されていたのだ。
今でこそ国道はその呼鳥門を避けて通るルートはなっているが、それまでは我が国で唯一の天然国道トンネルだった。
裏を返せば、我が国で最後の天然国道トンネル。
一体どんなスケールのトンネルだったのだろうか?
当時の国道ごと、そっくりそのまま残っているので訪問してみた。
天然の巨大ゲートに関する話
それは旧国道に出現する
海沿いの国道305号の脇に、今もそれは現存している。
福井県のかたちをイメージするときに欠かすことのできない「越前岬」からメッチャ近く、と覚えておくとよいだろう。
越前岬から来たに1㎞ほどの場所に呼鳥門があるのだ。
僕はこの呼鳥門が好きで、福井県の海沿いを走るときには基本的に必ず立ち寄っている。
海沿いの国道からサクッと寄れるし、なんだったら停まらずとも車窓からも見える便利スポットだからだ。
今回は、過去4回分ほどの写真を織り交ぜてご紹介したい。
…で、何度も訪問しているにも関わらず申し訳ないが、呼鳥門付近を視野広めで撮影した写真がないので、Googleマップのストリートビューで代用したい。
上の写真は2014年のものだが、なぜ2014年という絶妙に過去のストリートビューを持ってきたかというと、一番晴れた日に撮影されていた様子だったからだ。
道路の左側に「花のゆめ」というドライブインがある。
そしてさらにその先、進行方向にあるトンネルの右側にカーソルを持って行くと見えるのが呼鳥門だ。
スマホの人でもこのサイズだったらわかりやすいかな?
目の前のトンネルが394mの「呼鳥門トンネル」。
2002年にこのトンネルが開通したから、呼鳥門ルートは廃止されたんだよね。
かつてはトンネル手前を右に、海ギリギリに進んでいた。
今も上の写真から、当時の道の名残が見えるだろう。
そして奥に見えている呼鳥門をくぐるのだ。
では、現在の話に戻ろう。
国道を挟んだ反対側に広い駐車場があるのでそこに車を停め、国道を横切って呼鳥門を見に行く。
見よ、このスケール。
あなたがイメージした天然トンネルとはちょっと違うだろう。
トンネルというよりゲートみたいな感じかもしれない。
だけどもこれはこれでスゲーだろ。
斜めの天井。ゴロゴロした岩で形成された海側部分。
もう素材そのままだ。ワイルドさがほとばしる。
こういう洞門であれば、日本中探せばそれなりにいくつかある。
だけどもここで重要なのは、その素材を生かして国道ブチ抜いてしまったということだ。
国道時代の名残りを見る
今はこうやって歩道になっているが、これがかつての国道305号だ。
なんか逆光がすごすぎてまもとに映っていない写真で申し訳ない。
午後だとこうなる。
綺麗に順光で撮影したいなら午前中だ。
だがしかし、午前中かつ晴天に撮影できたことが無かったのだ。
呼鳥門の手前までやってきた。
ご覧の通り、旧国道の名残である遊歩道は、呼鳥門に入る直前でブチッと終わってしまっている。
上の写真の僕が立っているところが、その限界点だ。
なぜかというと、危険だからだ。
ま、あえて言わなくてもわかるよな。
天然のトンネルってのは、いつ崩れるかわからない。
むしろ定期的にボロボロと岩の残骸が降り注ぐ。
上の写真、天井裏を見てほしい。
ワイヤーネットで覆ってある。
その下を、今は廃道となっているかつての国道が続いている。
ただ、さすがにこの状態のトンネルに車を通行させていたわけではなく、この下にさらに人工のトンネルを作っていたとのことだ。
だが、2002年の呼鳥門ルート廃止時に撤去したんだって。
Webで検索してみたら、かろうじて1枚その当時の写真を発見できた。
しかし同時に発見したのだが、1991年のときには人口トンネルが無く、マジで上の写真のように剥き出しの岩盤の下を車が走っていたようだった。
ひえぇ、恐ろしい…。
カメラをズームさせてみた。
廃道となったかつての国道には、落石がゴロゴロしている。
うむ、これを食らったらひとたまりもないよな。
今後も呼鳥門はゆっくりと崩れていくのだろう。
天然だもの、それが定めだよな。
洞門の成り立ち
この呼鳥門はどのくらいの規模であり、なぜできたのか。
そこいらは呼鳥門手前の説明板に書かれている。
ちょっとここに掲載できるような解像度の写真ではないので、文面だけ転記しよう。
呼鳥門
県道の新設中に発見された洞穴である。
大きさは、高さが約15m、幅約30mある。
日本海に張り出した礫岩の断崖基部が、太古の昔から年月をかけて風と波の浸食作用によりくり抜かれてできた洞穴である。
荒々しい岩肌、海の青さ、洞穴をとおして山肌に自生する「越前水仙」や「菜の花」などが見事にマッチし、越前海岸を代表する景勝のひとつになっている。
また、この洞穴はここを訪れる人々の心に「大自然に対する畏怖の念」を抱かせる迫力で迫ってくる。
付近は、シベリアから飛来する渡り鳥のコースに当たり、すぐ近くにある「鳥糞岩」は名の示すように渡り鳥の糞で白くなる。
なお、この洞穴は、平成14年3月まで国道305号の天然トンネルとして利用されてきた。
1958年(昭和33年)に県道として道路が開通したとき、第37代福井県知事・羽根盛一氏が「渡り鳥を呼ぶ門」ということで「呼鳥門」と命名した。
はい、カンペキだ。さすが説明板。
僕がここまで語ったことも、これから語りたかったこともカンペキに網羅し、もうこのブログの存在価値がゼロに等しくなった。
つまりだ。
ずーっと昔から少しずつ削られて、これだけの穴の開いた海蝕洞窟。
だけどもそれが発見されたのは『県道の新設中』とのことだ。
県道ができたのは1958年なので、その工事を始めたのはその数年前とかそのレベルなのだろう。
意外なことにかなり最近だと感じた。
その県道が1970年に、国道305号にランクアップしたというわけだ。
そして、この呼鳥門というネーミング。
洞門のかたちとかが由来なのかなって思ったりしていた。
しかし違うのだ。
渡り鳥のルート上であり、まさに鳥を呼んでいる門のような存在なので、このネーミングとなったのだ。
鳥の糞と、人間用のトイレの話など
鳥糞岩
前項の説明板を引用した文章の中で、気になるワードがあったよね。
「鳥糞(とりくそ)岩」。
なかなかパンチが効いた、良いネーミングだ。
上品なセレブが眉をひそめそうなテイストだ。
"ふん"だったらまださておき、"くそ"って部分に小学生男子的な力強さと無邪気さを感じる。
だから小学生男子の感性を大事にしている僕の食指が動くのも当然だ。
またGoogleマップを貼り付けてみた。
上の画像から、国道305の旧道と新道、そして呼鳥門と鳥糞岩の位置関係がわかるだろうか?
絵に起こしてみた。こんな感じだ。
呼鳥門を語る上では、呼鳥門トンネル、そして鳥糞岩との関連性まで語りたいと考えている。
立地的にも、名前的にもリンクするもんな。
そしてこれが鳥糞岩だ。
鳥クソ岩だ。(2度言った)
高さ100m近い断崖である。
ここに頑張ってトンネルを通したのだ。それが2つ上の手書き地図、灰色のトンネルだ。
海沿いの道を作るのがいかに困難だったかわかるようなロケーションだ。
ただし僕らにとって大事なのかそこではない。
ちゃんとネーミングの由来を確認すること。これ大事。
断崖の左端が真っ白くなっていることにお気づきだろうか。
岩の成分ではない。これこそが鳥糞。
スゲーの。長年の堆積なのかシーズンになると一気にホワイトアウトするのかは知らないけど、もう真っ白なの。
2km近く離れた越前岬から見ても、ちゃんとスノーホワイトなの。
僕も全国を旅して来たが、"糞"と名の付く景勝地は少ない。
糞込みで景勝地になっているところはさらに少ない。
なんてワンパクなのだろう。好き。
青木まりこ現象
本屋で急にトイレに行きたくなる現象を、青木まりこ現象という。
本の紙がトイレットペーパーを連想させるからだと言われている。
となれば、鳥糞岩を見たあなたも僕も、もう便意を催しているに違いない。
では、冒頭で車を停めた駐車場を有するドライブインのトイレをご紹介しよう。
だけどもとても残念なお知らせだ。
今からご紹介するトイレは、今はもうない。
ドライブイン「花のゆめ」が旧店名「レスト有情」だったころのものなのだが、2018年夏くらいにトイレは改装されてしまったようだ。
マジ残念。
僕は2018年の春、きっとギリギリのタイミングでこのトイレを使用した。
もったいぶってしまってすまない。お見せする。
日本庭園トイレ!!
石畳、燈籠、緑豊かな植栽、鳥のさえずり…、からの便器!!
いきなり便器というパワーワードが飛び込んでくるのだが、用を足しに来たのだからこれは正しいし必須の設備。
普通のドライブインに普通にトイレを借りたのだが、この広々空間が現れるので、ちょっと落ち着かない。
本来ならば落ち着く絵なのだが、どうにも落ち着かない。
洋式もある。どちらも素晴らしデザインだ。
日本有数のユニークなトイレだったので、今は無くなってしまいとても悲しい。
呼鳥門と一緒に"観光できるトイレ"だったのに。
水仙廼社
では、最後にお口直し的な意味合いで、もう1つのスポットをご紹介しよう。
それはドライブイン駐車場の奥の方にある。ちょっと目立たないけど、探してみよう。
水仙廼社(すいせんのやしろ)。
これまた洞窟の中にあるのだ。調べたところ、これも長年の風と波の浸食による、海蝕洞窟なのだそうだ。
呼鳥門と一緒だし、両者の距離も徒歩1・2分ほど。
ほぼ同じ条件下のものなので、一緒に覚えておくと良いだろう。
洞窟の奥行きは、暗くってどのくらいだかわからないし、奥まで行けない。
洞窟の入口から数mのところに、このように愛染明王を祀っている社があるので、お参りしておこう。僕もお参りした。
ここの名前の由来は、越前町の名物スイセンから来ているのだろう。
前述の説明板の引用にある通り、越前スイセンが各所自生しているのだ。
それに、越前岬灯台のすぐ脇には「越前岬水仙ランド」っていうのもある。
ここで旬のスイセンを見たことはないが、街灯がスイセンの花のかたちなのは知っている。
かわいいよね、この街灯。
呼鳥門と、それの成り立ちに関連するいくつかのスポット。
ダイナミックな福井県の海沿いを走る際には、ぜひ立ち寄ってほしい。
きっと最高だから。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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