僕はトロッコが好きである。
「黒部渓谷鉄道」しかり、「トロッコ王国美深」しかり、「ビッグサンダーマウンテン」しかりだ。
トロッコ列車そのものがなくってもいい。
屋久島の「縄文杉」ルートや「芦生の森」など、かつてのトロッコの廃線の上をハイキングするのも好きだ。
その要因を紐解くのであれば、きっと「インディ・ジョーンズ」のトロッコでのバトルシーンに魅せられたからだろう。
芥川龍之介の「トロッコ」もオモシロ切ないが、それ以前に僕はインディでトロッコと出会っていた。僕のトロッコ史は、インディから始まる。
嗚呼、トロッコ。
愛しのトロッコよ。
探しに行こうか、トロッコ。
かつての森林鉄道は
あの日、僕は鳥取県の山間部にいた。
山間部を走るのは無性に楽しいな、とか独り言をいっていた、たぶん。
さて、このあとどこに行こうか?
僕はツーリングマップルを開いた。
すると、僕のトロッコセンサーに1つのスポットが引っかかった。
場所は「芦津渓谷」。
『昭和40年代まで使われていたトロッコ列車の線路跡』があるとのことだ。
場所柄と廃止時期からして、きっと森林鉄道なのだろうな。
森の中から伐採した木々とかを運び出していたヤツ。
携帯電話のWebから調べてみると、どうやらそのトロッコ跡が遊歩道になっており、森の中を散策できるそうだ。
よし、今からそこ行こう。
県道6号沿いにて立ち寄った、小さな展望台をちょっとご紹介しておく。
「くちうなみふるさと展望台」だ。
ひらがなの羅列に圧倒され、一瞬どこで区切ればいいのかわかるまい。
今日はジトッとした天気だ。
展望は期待ほどではなかったが、O型でポジティブな僕は、この景観を「幻想的」と表現できる心の持ち主だ。
また、廃墟巡りが趣味の僕は、「廃墟日和」と表現することもある天気だ。
まぁでも悔しいので、展望台に設置してあった説明板も掲載しちゃう。
今回の舞台が相当な山間部であることを、ご把握いただきたいのだ。
さぁさぁ、目指す芦津渓谷が近付いてきた。
しかしここで僕は嫌な予感がする。
『トロッコ列車の線路"跡"』と書かれていたよな。
もう線路は無いのではないだろうか?
Web検索をしてみた。
うん、ない。トロッコレールはない。無念。
しかしさらに検索すると、森の中にわずかに散らばるレールを発見した人もいるそうだ。
なら良し!僕もレール探す!レール見る!!
こうして僕の芦津渓谷での目的は、「かつてのトロッコレールの残骸を探すこと」となったワケだ。
ワクワクしてきた。
緑の中にいざなわれ
まだ車道は続いているんだけど、遊歩道に入る人のための駐車場と思わしき空き地が見えてきた。
トイレもある。これからトレッキングしようとしていると思われる人もチラホラいる。
事前情報が少なすぎて何が何だかわからないのだが、歩いてみることにした。
まずは勘で車道を歩いて坂道を登る。
5分ほど歩いたところで、目指すトレッキングコースが現れた。
芦津エリアから「三滝ダム」へと続く、中国自然遊歩道の一部とのことだ。
ふむふむ、ピンと来ない。
そして、これがここからしばらくの行程だ。
どこかにトロッコレールの残骸が、今もあるという。
いったいこの地図のどこなのだろう?
宝探しみたいでワクワクする。
ツーリングマップル記載の通り、『昭和40年代まで使われていたトロッコ列車の線路跡』が遊歩道になっているのであれば、それはきっとここから「三滝ダム」までの間なのだろう。
もっと言うのであれば、上の地図の「あずま屋」より手前だ。
あずま屋近辺はヘアピンカーブになっている。
高低差がすごいのだ、きっと。
僕ならば、名前からも「巨木の広場」から車道までにまずトロッコを通す。
改めてツーリングマップルを見ると、トロッコ線路跡の矢印が示すのは、車道からかなり近い部分だ。
遊歩道を示す点線はダムのところで消えている。
やはり、遊歩道に入って早々のところをトロッコが走っていたのだ。
注意深くキョロキョロすれば、すぐにレールの残骸が見つかるかもしれないぞ。
こんな感じの遊歩道。
しかりと横幅があり、そして路面はあまり高低差のない歩きやすい道。
さすがもとトロッコ軌道だ。
これは烏帽子岩というらしい。
天然なのか人工なのか、縦にザックリと割れた岩だ。
そして周囲は一面の緑。
歩いていてとても気持ちがいい。
僕、森林浴を楽しんでいる。
そういえば序盤の看板に、このコースのことが"セラピーロード"と表現されていた。
癒されている、癒されている。
デトックスだ。
ここは小豆転がしという名前の付いたスポットだ。
遥か下の方にチラッと清流が見える。
確かに何もかもが転がる。
しかしなぜに小豆なのか。そんなチマッとしたものよりも、ダイナミックなもの転がすようなネーミングの方がカッコいいのに。
歩きながらシャッターを押したら、ブレた。
眼下の清流だ。
グリーン味が強めであまり透明度は高くないが、秘境って感じのする川だ。
道端の苔もとても良い。
僕は「屋久島」の「白谷雲水峡」を歩いて、苔の美しさを知ったのだ。
そしてここも美しい。
モコモコしたモスグリーンを見ているだけで、心が浄化されるようだ。
あ、滝だ。
これは「三滝」という名前の滝だ。
ここまでの写真や文面で、三滝ダムという名称が何度か出てきていた。
そのダムの名前は、この滝から取られたのだろうな、きっと。
落差21m。水量が多いときは2条の滝だが、資料の少ない時期は3条に別れるんだって。そこからこの名前になったそうだ。
うん、でも木立がジャマでよくわかんない。でもそれがいい。
どうやら巨木ゾーンというところに入ったようだ。
確かに今までよりかは大きな木が乱立している。
僕は屋久島のような巨大な木々を想像してしまっていたので、それと比べるとちょっと控えではあったけども、それでもたくましい木々を見ながら歩くってのは、元気が出るもんだ。
あずま屋。
…これ、行き過ぎたなきっと。
調子に乗って、森の奥にいざなわれすぎた。
森林浴していたら気持ちが良くって、トロッコのこと忘れていた。
トロッコレールは今も残る
僕は立ち止った。
あずま屋の前で完全に歩みを止めて考え始めた。
前述の通り、この東屋は「ここまで来ちゃったら気付かずにトロッコ軌道を通過しちゃっているだろうな。」っていう設定にしておいたポイントなのだ。
それが事実かどうかは知らないけど、僕はそう設定しておいたのだ。
ここまでにトロッコ軌道跡なんてあったか?
少なくとも僕が歩いてきたこの遊歩道上にはレールなんてなかった。
まぁ、考えてみれば遊歩道脇にレールが転がっていたら、もっとWeb上でそういう情報が出てくるはずだ。
Web上に情報がほぼ無いということは、見つかりやすい場所にはないということだ。
じゃあ、トロッコ軌道跡を利用した遊歩道なのに、残っているはずのレールが見つからないって、どういうことだろう?
- レールはちょっと前に撤去された。
- レールが残っているのは支線だから、本線であるこの遊歩道上には無い。
- 実はトロッコ軌道と遊歩道ではちょっと設置場所がズレている部分がある。
- レールは遊歩道から滑り落ちた、もしくは人為的に離れた場所にどけられた。
…とまぁ、こんなところだろう。
なにせ、トロッコが走っていたのは50年も前なのだ。
現代に至るまでに路肩が弱くなったりして遊歩道をズラして造らざるを得なかった部分もあるかもしれない。
例えば渓流の対岸とかに。そうなると、もうお手上げかもしれないな。
とにかく、戻りつつ徹底的に再調査するしかない。
そして巨木ゾーンまで戻る。
前述の通り、ここいらが一番怪しいとにらんでいるのだ。
遊歩道に沿ってグルグル歩き、森の中を注視する。
…あった!!
僕は斜面を駆け下りた。
苔むした森の斜面に、線路がいくつか散らばっていたのだ。
僕が想像していたのよりもバラバラに崩壊していた。
もうレールが点々と落ちているだけ。
探したけれども、その他のパーツは全くない。
トロッコ自体の残骸とか、分岐器とかも落ちていたら最高だったんだけど。
レールは土や苔に覆われて同化しかけていて、よっほど注意しないと見つからない状態だった。
これは、普通に森林浴していたら気付かないな。
「きっとある」という確信や情報を持って歩いて、見つかるかどうかといったところだ。
上の写真は、これでもかなりかたちを保っている部分を選んで撮影したのだ。
レールにそっと触れてみた。
知っているけど、トロッコのレールはとても細いのだ。
アミューズメントパークとかのオモチャの列車の線路のようだ。
この細いレールの上を、重い木材を積んだトロッコが何10年も行き来していたのだろうな。ホント、お疲れ様だよ。
太鼓のぬくもりを感じ取れたような気がした。
参考までに、「林野庁」のWebサイトへのリンクを貼らせていただいた。
明治時代から昭和40年にかけて、こういう森林鉄道が全国に1000路線ほどあり、伐採した木々をトロッコで森から運び出していたのだ。
この木々が、家屋造りに使われ、日本の近代化に大きく貢献したのだろう。
そして、リンク先にはこんな文面もある。
現役の森林鉄道は、国有林のものでは屋久島の安房森林鉄道及びそれ以外のものは京都大学芦生演習林の森林軌道のみで、これら以外は全て廃止されています。
(引用元:林野庁Webサイト)
僕、これら2つとも行ったことがあるのだ。
これはトロッコ好き冥利に尽きるってヤツであろう。
後者の「京都大学芦生演習林」は、「芦生の森」って言ったほうが一般的かもしれない。
僕も過去記事でそこを冒険したエピソードを書いているので、良かったら読んでみてほしい。
多くの木々を乗せて運んだレール。
50年後の今、人々に気付かれることなく、木々の上で安らかに眠っている。
キミに会えてよかった。
そして、「おやすみ」。
僕は静かにその場を立ち去った。
僕はトロッコが好きである。
ロマンのある乗り物って感じがして、好きであった。
しかし、その歴史を知り、自分で探して触れることで、より深くトロッコへの興味を持つことができた。
全国に1000路線あった森林鉄道。
もしかしたら、あなたの住む町の山にもかつてトロッコが走り、そして人知れずレールやトロッコが今も眠っているのかもしれない…。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 芦津渓谷
- 住所: 鳥取県八頭郡智頭町芦津
- 料金: 無料
- 駐車場: あり
- 時間: 特になし