コイツはヤバいスポットである。
だから所在は明かさない。
聞かれても教えない。
僕がいつ訪問したのかも明かさない。
ただただ流れる時間の重みで溶けるように消滅していくのだろうが、それで良いと考える。
…という大げさかもしれない出だしではあるが、これは少々昔に僕が伊豆の「墓場のお化け屋敷洞窟」を単独探索したときのお話だ。
間違っても観光スポットや景勝地ではないので、あなたご自身がそこに行くことを想定してはいけない。
「ふーん、こんなところがあるんだな」くらいに留めてほしい。
あるいは、読んだらもう忘れてほしい…。
とある墓場にて
伊豆半島はスカッと晴れていた。
ハンドルを握ってクネクネ道を走るのは、実に楽しかった。
まさにサマーバカンスだ。
このあ、旧来の仲間たち10数名と合流し、リゾートホテルで楽しく過ごすのだ。
今、僕はその地に1人で向かっている。
絵に描いたような夏休みのような気候に、僕の心は躍っていた。
なんと幸せな週末だろう。
海越しに「富士山」も見えた。
「おぉーー!」と1人で叫び、写真を撮った。
…とまぁ、ホラー映画であっても冒頭部分ってのは不自然なほどに明るいものだ。
たぶんこういうシーンでキャスト表示が行われたり、タイトルロゴが出てきたりしている。
冒頭シーンが明るいほど、本編のダーティーさと阿鼻叫喚が際立つのだ。
だから僕もその手法をまねてみた。
いい景色でしょう。
でも、青色の写真はここまででおしまい。サヨナラなのです。
*-*-*-*-*-
ほら、僕って生まれも育ちも暗黒街でしょ?
だから、僕なんかがリゾートホテルでヘラヘラなんかしてていいのかなって思いが根底にあるのだ。
どこかでマイナスファクターを取り入れて、バランスを取りたいのだ。
あ、ごめんなさい、生い立ちの部分はウソなんですけど、仲間内の無難なプランの旅行だと、どこかのタイミングで1人離脱して闇に足を踏み入れてしまうのは大体本当だ。
要するに僕は、ひねくれ者なのだ。
とある集落の小道に紛れ込んだ。
よくわからないけど、目的地はこのしばらく先のような気がする。
車でズンズン進む。
頃合いを見て車を停め、さらに徒歩で進む。
墓場だ。
冒頭で今回の目的地が"墓場のお化け屋敷洞窟"であると記載した通り、僕はこの墓場を目指していたのだ。
たぶんここであっていると思う。
なにせ情報が少なすぎるのだ。この時点で、本当に墓地の中にあるとは、僕は知らない。
「墓地を取り巻く敷地内にある」としか知らないでやってきた。
※ "墓場のお化け屋敷洞窟"という名称すら、僕の仮称だ。
どこだ?
この墓地のどこに洞窟があるのだ?
墓地の中をグルグル散策する。
墓地は階段状でかなり山肌の上の方にまで墓地が広がっているので、そっちも探してみる。うおぉ、直射日光が暑い。汗かいてきた。
しかしお化け洞窟は見当たらない。
冷静に考えてみよう。
僕は墓地のド真ん中で冷静になってみた。
洞窟なんだから、それは山肌にあるはず。
お化け洞窟は、お化け屋敷として使われたこともある洞窟の廃墟と聞いている。
僕はこの周辺の歴史背景から、それ以前は洞窟陣地もしくは防空壕だったりしたんじゃないかと思っている。
そんな感じのもろもろから、そんなにアクセスが悪い部分にあるとは思えない。
平地部、あるいはそこからそう遠くない場所にあるはずだ。
…つまり、墓地の1段目とかか?
しかしそんなものがあったら現代人は嫌がるだろう。
どうにかして目立たないように隠したはず。
木々なのか、墓石なのか、ブロック塀なのか…。
その視点からもう一度墓場内を探す。
ビンゴ!
漆黒の洞窟内にて
これ、洞窟だよな?
うん、間違いない。
しかし、こりゃわからんわ。
草木に覆われつつある。
目の前のお墓の関係者以外は、まず100%気付かないだとう。
墓の区画に完全にカバーされ、入る道を失った洞窟。
いくらなんでも墓の区画となっている塀(?)とか登ったらバチが当たりそうなので、それを避けて苦労して向こう側の空間に着陸する。
うわぁ、きったねぇ!!
草木の生い茂った向こうには、暗い洞窟がポッカリと口を開けていやがるぞ。
陰気だ、陰気。
僕ね、1人でこんな洞窟に入りたくはないよ、本当は。
真っ暗だし墓場だし、何の得もないし。
もともとビビリだしね、僕は。
あぁ、嫌だ。
でも、見つけちゃったものはしょうがない。バッグから大型ハロゲンライトを取り出し
た。
そして入る。
暗。
おっかしいな。
これまで数々の洞窟や廃墟を照らしてきたハロゲンライトなのだが、その光全てが闇に吸収されるかのような暗さだ。
なんか重みのある暗さだ。
上の写真、わずかな光の中浮かび上がっている白い物体は、胸だね。
マネキンの胸だ。
でもエロさは感じない。不気味なだけだ。
足元はヌチヌチしている。
何10年と乾いていない泥なのだろう。
なんか熱で溶けたチョコレートを踏みしめているような。イヤな気分だ。
ちなみに僕は、オバケとか基本信じない。
廃墟に行こうとも、霊的な怖さは感じない。
暗闇に対する恐怖心もあんまりない。
ただ、さすがにこの洞窟の陰気さは少々怖いなって感じた。1人は怖い。
でも進むけどね。
横を見たら朗らかな表情の坊主いた。
「ブッ」ってなった。
突然出て来られるのは、少々困るよ。心臓止まったよ。
その昔、お化け屋敷であった頃に使われていたマネキンなのだろう。
それがさらに何10年も経過して、凄味を増していると感じた。
久々に仕事したな、オマエ。
さっきライトで照らした胸の人だ。
上半身だけ2体、折り重なって息絶えていた。
さらに奥に行こう。ズンズン行こう。
金髪の姉さん!
いきなりグローバルな展開がやって来た。「ハロー、ハワユー?」だ。
ムッチリしたケツもあった。
洞窟の壁に寄りかかりながらも、未だに直立していた。不思議なX字を描きながら。
てゆーか、どいつもこいつもなんてハダカなのですか?
お化け屋敷時代からこうなのか、それともお化け屋敷が閉鎖されたときに「服だけはフリマで売ろうぜ」みたいな流れになったのか。
もう入口からの光は全く届かない。
洞窟内の壁にはカマドウマと思われる虫がチョコチョコしており、そして頭上にはコウモリが何匹か見える。
どっちもあんまり好きではない。
手だ。
コイツ、仲間を呼んで延々増えるんだよな、確か。
洞窟が手で埋め尽くされたらイヤだな。
マネキン類を蹴っ飛ばさないように進む。
またケツだ!
ひもで縛ってちゃんと立たせてある。
さっきのケツも立っていたな。
ケツに対する手厚いフォロー!
製作者の性癖、なんか理解できた!
間もなく、洞窟の最奥と思われる空間に行きついた。
少々広いホール状になっているその空間をライトで照らし、他に道が無いことを確認した。
一番奥、そこには数体のお地蔵さんが立っていた。
風化が進んで表情は読み取れなかったり、首自体が消失している。
うむ、このお地蔵さんはガチなものではなかろうか。
決してお化け屋敷のアイテムなどではなく、古来から、あるいは戦時中から祀られているものかなって考えた。
僕はお地蔵さんに、静かに祈りを捧げた。
では、Uターンだ。
帰り道で写真に収めたものを何点か、追加でご紹介しよう。
まずはこれ。
青い顔が落ちていた。顔だけ。
他の人たちはマネキンベースだったのに、これだけ小学校の図工の時間に造ったお面みたいになっている。
このクオリティがほほえましい。
生首が壁からニョッキリだ。
どうしてこうなった?
生首を見ながら歩いていたら、頭を天井にぶつけた。
僕、チビなのにぶつけた。
天井はところどころで結構低いのだ。
ヌッタリした泥が髪の毛について、最悪な気分になったよ。
また生首だ。ドロドロに溶けかけている。
上の方に手首もある。
なんだこれ。
でも、もうこの洞窟とはサヨナラだ。足早に通過する。
そして外。
帰還。
僕は日の光に目を細め、大きく深呼吸をした。
その洞窟の真相は
いったい何だったんだろう、この洞窟は。
その後の僕は、ある程度調査を進めた。
やっぱりここは戦時中から存在していた洞窟らしい。
防空壕としても使われていたらしいし、全国に秘密裏に展開されていた、あの特攻兵器"震洋"の関連施設の洞窟とも言われている。
震洋の格納洞窟、僕も他の場所で見たことあるんだけど、戦時中はトップシークレットだから地元の人でも存在を知らなかったりするんだよね。
だからこの洞窟が震洋関連なのかどうか、明確な結論は得られなかった。
それであっても防空壕。
かなりネガティブな用途であったことには違いない。
そして戦後のいつ頃かは不明だけども、お化け屋敷として使われるようになった。
…なんてバチあたりな…。
まぁ、僕らが想像するような大掛かりなものではないだろう。
もともと小さな集落。ちょっと子供を怖がらせるための施設であり、チープな人形が並んでいたレベルだろうと僕は推測する。
そんなお化け屋敷が使われなくなったのは、1970年ごろらしい。
今から50年も前の話だ。
お化け屋敷時代、そしてその終焉時の墓地がどうだったのかは知らないけど、そのうち洞窟の存在自体、墓地で覆うように包み隠されてしまったのだ。
うん、それでいいのだと思う。
起こしてしまってすまない。
安らかに、記録からも記憶からも消えるのが良いのだろう。
*-*-*-*-*-*-
車に戻った。
泥にまみれた髪の毛を必死でティッシュで拭いた。
気持ち悪いー。心なしか臭いー。
このあと合流する予定の仲間から、「YAMA以外の全員でランチに魚食べているよ。伊豆の魚介はうまい。」みたいなメールが来た。
このスケジュールだと、僕はご飯食べている時間はないな。
まぁよい。
これが僕が選んだ道であり、人生なのだから。
待ってろみんな。サマーバカンス楽しみだな。
車のエンジンをかけた。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 墓場のお化け屋敷洞窟
- 住所: 非公開
- 料金: 無料
- 駐車場: 非公開
- 時間: 特になし