信楽焼と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか?
僕だったら、「たぬきの置物」を思い浮かべちゃうね。
ウチのばあちゃんの家の庭にも1匹住み着いているしな。

信楽焼とは、かつて存在していた滋賀県甲賀郡信楽町で作られた焼きものだ。
全国いたるところに信楽産たぬきが生息しているのだから、総本山はさぞかしたぬきで溢れかえっているのだろう。
今回は、そういう頭の悪い期待を抱いて旧信楽町を訪れたら、本当にたぬきだらけだったというお話である。
我は狩人なり
それは、とある初秋の早朝5時台の物語である。

男は、信楽の町のやや北に位置する甲西の町のコンビニで、朝焼けを眺めていた。
これからたぬき狩りをしようと決意を決めたその男の目は、いつにも増して強い野心の光を放っていた。
缶コーヒーを握る二の腕にはかつて幾多の激戦を繰り広げてきた猛獣たちによる傷跡が残っていた…。
…いや、全然違うんだけどね。
普通にペットボトルのお茶を買って出発した。

辿り着いたのは、「信楽陶苑たぬき村」である。
愛車のHUMMER_H3が小さく見えるほどの、大物のたぬきが3匹いる。
…本場って、やっぱすごいんだな。

信楽の人から見たら、僕らなんてとても矮小に見えるのだろう。
「へぇー、滋賀県外ってそんな小さなたぬきしかいないんだwwwww 滋賀のたぬきなんて普通にトラを捕まえて食べているよ。それが普通だよ。」
…とか言ってそう。
十中八九、ここでの食物連鎖の頂点はたぬきだろうね。
たぬきハンターを目指していたけど、余裕で諦めた。

あとちょっとさ、無視することできないんだけどさ、足元に忍者いる。
小さめのたぬきがワラワラいる点は許容の範囲として、まるで巨大たぬきのしもべのように忍者がいる。
ここは忍者の郷として有名な甲賀市の一部だからだろう。
だから忍者がいてもおかしくはない。
そしてたぬきと忍者には共通点もある。
それは変身できることだ。

ピンクの忍者は、ひょっとして女性なのだろうか?
黒い忍者もちょっと体型がゆるんではいるが、ピンク忍者はより一層親しみやすそうな体型だ。
近所のおばちゃんって感じで、きっといい人だ。
たぬきもこうして見ると表情がさまざまなのだな。
そろいもそろって小首をかしげている様が、ほんの少しだけ神経を逆なでしてくれそうな、いいラインを突いて来てくれている。
ここは信楽焼のテーマパークのようだ。
陳列されているいろんなたぬきを見たり、焼き物体験ができたりするスポットらしい。
もちろんまだ朝の5時台だからOPENしていなかった。
巨大たぬきが町を支配する

暗ッ!怖ッ!
次に訪れたたぬき生息地では、撮影したディスプレイを見て恐怖におののいた。
日の出前で明度のバランスを取りにくい状態での撮影で、失敗してしまった。
PCにてバランス調整しよう。

よし、こんな感じだ。補正したぞ。
これで怖くな… …、 いや怖いよ。ばちくそ怖いよ、このたぬき。

たぬきと言えば雑食だが、これは間違いなく肉中心の食生活だろうな。
顔の前部に着いた大きな目、鋭い歯、そしてややスタイリッシュな首回り。
肉食獣の条件を満たしている。
これ、怒らせてはいけないお方だな。
瞳孔の開き切った目も怖いし。

僕との身長差だ。
たぬきと僕との頭の高さが、そのまま格差を現していると言ってもいい。
僕は鳥肌を抑えることができなかったね。
このとき気温は12℃で半袖1枚は無謀なんだけど、鳥肌の理由はそれだけではないよね。

ちなみにここは「窯元 澤善」という。
信楽焼の窯元なのだな。
焼き物を売っているお店も併設しており、かつ食事処や宿泊施設もやっているらしい。

敷地内にはメチャクチャいっぱいたぬきがいる。
だいたいみんな同じ顔をしている。
コピーアンドペーストしたみたいになっている。

だが、物事には例外もある。
ちょっとズレちゃっているヤツもいる。
「はい、みんなでこんなポーズをして記念撮影するよ!」ってなったとき、どうしてもワンテンポ遅れる人っているよね。
それが彼であろう。ちょっと残念だが憎めないヤツだ。

あと、普通にそこいらのおっさんみたいのが2匹。
製作者の感性が爆発している。好きだ。
人口ゼロ・たぬきウジャウジャ

「山深い信楽の里」…、とでも表現するのがしっくりくるだろうか?
振り返るとそんな幽玄な山々の向こうから、日が昇ろうとしている。
朝霧が神々しいな。
引き続き信楽の街中を走っていると、両側にいっぱいたぬきがいすぎて圧倒される。
たぬき大量生息地だ。ウジャウジャ大量発生だ。
これは車窓からチラリと見ただけの僕の偏見に過ぎないのだが、ホントどこも陶芸のお店を営んでいて、どこでもたぬきを飼っていて、たぬきだらけだ。
いちいち立ち止まるのもおっくうになってくるレベルなのだ。

もう2m程度のたぬきでは、僕も驚かないね。
4m級のヤツがいたときだけ写真を撮る、大物専門のたぬきハンターと化していた。

しかし、この異様さよ。
僕は信楽の町に来てすでに数100匹のたぬきを目撃しているが、生身の人間はただ1人として見かけていないのだ。
人間は一体どこへ消えてしまったのだ。
いや、実際はまだ早朝なので活動している人が少ないだけなのだろう。
しかし、事実として僕の見ている光景は、たぬきのみの暮らす世界なのだ。
たぬきは人を化かすというので、人間の町を乗っ取ってしまうことも、あながち困難ではないかもしれない。

そんな世界に僕が迷い込んでしまったのだとしたら、なかなかのホラーだよね。
旅という非日常においてこういう世界は、あらぬ方向に妄想を掻き立てる。
なかなか面白くなってきたぞ。

朝日が昇って来た。
そんな中で、もう5mほどのたぬきでは驚かなくなってきた僕が、さすがに面食らったのがコイツだ。
デカすぎる。
そんで寝ている。
涅槃仏か。いや、そんなありがたいものなのか、果たして。
とりあえず、ラスボス登場であるな、と思った。

ちょっと角度を変えた写真をご覧いただきたい。
実はこれは、「狸家分福」という店舗である。
たぬきがそのまま店舗になっているうどん屋なのだ。
たぬきの体にドアが付いていて、その中がお店なのだ。
でもさすがにこれは信楽焼のたぬきではないけど、この発想とスケールのブッ飛んだ巨大さは度肝を抜かれた。

信楽の町を去るころには、完全に朝日が昇った。
周囲にはチラホラと車が走り、道を歩いている人もいる。
あぁ、人間界だ。
朝日がたぬきの幻術を浄化させたのだろうか。
安堵の表情で、僕は次の町へとアクセルを踏んだ。
信楽を振り返る
たぬきロードだ、もはや。
改めて僕と一緒に振り返っていただきたい。

僕の推測では、このあたりがたぬき生息地だ。
距離にして8㎞程。気軽にドライブできる距離である。
Googeマップなどで「窯元」・「たぬき」などの名称を見つけたら、ストリートビューで確認してみるとよい。
期待通り、彼らがきっと僕らを迎えてくれるから。
ましてやこのコロナ禍のご時世。
直接現地に行かずに、ストリートビューでたぬき巡りをするのも一興かもしれない。
画面越しであれば、たぬきに化かされるリスクもないかもしれない。
そしてきっとあなたは、恐れおののくだろう。
あまりのたぬきの多さに。
ところで、なぜ信楽焼のたぬきが有名なのか?
たぬきの置物は縁起がいいのか?
あなたはご存じだろうか。
この手の焼き物の発祥は、明治時代と言われているそうだ。
「藤原 銕造さん」という陶芸家が、若い頃にファンキーなたぬきに出会いまして。
「おぉ、これを焼き物で表現したい」と考え、信楽での陶芸活動をスタートさせたのだ。
たぬきには「他を抜く」というゴロ合わせや、その姿かたちから「太っ腹」 という意味に通じる。
つまり人生を勝ち抜くうえでも、縁起のいい存在なのだ。
それに、この信楽焼のたぬきの容姿事態にもいろいろと縁起のいい要素や、人々の思いが詰まっているのだ。
1人の陶芸家からスタートし、わずか100年ちょいで全国誰もが一度は見たことがあるような、一大キャラクターに発展したのだ。
まさに明治・大正時代のキティーちゃんだ。
…というより、インターネットもSNSも無い時代に、ホントすさまじいバズりかたをしたものだ。

2021年4月11日である今日も、僕は信楽焼のたぬきを見かけた。
滋賀県からは遠く遠く離れた県で。
あの日訪れた信楽の町に思いを馳せつつ、そしてコロナの終息を強く願った。
以上、日本6周目を走る旅人でした。
住所・スポット情報