夏になると、全国から凄腕のライダーたちが集まる冒険の大地、北海道。
北海道は、日本の中でも別格だと僕は考えている。
どの都道府県とも隣接しないその大地は、いわば旅人にとってRPGの中の世界。
一歩足を踏み入れたら、そこから冒険の始まりだ。
ツーリングマップを広げ、絶景を目指して走り回り、擦れ違いざまに他の旅人とピースサインを交わし、夜は知り合った旅人と酒を飲みながら情報交換…。
僕もこの北の大地にて、数々のベテランの旅人に揉まれ、無数の出会いと別れを繰り返し、旅人宿のオーナーと語り合い…。
こうして知ったスポットの中で、今回はWebサイトに一切登場しない大草原(※)をご紹介したい。日本4周目のフィナーレを飾る旅で訪れた、あの絶景の大草原を。
(※)もし仮にうまいこと検索して過去に掲載された情報が出てきたなら、それを書いたのはきっと当時の僕である。
想い出は、よみがえる
「なまら蝦夷」。
北海道を旅する者が持つ、各種ガイドブックの中でもなかなかコアな本。
旅人宿のオーナーたちが合同で出版しているものだ。
北海道の大地をさまよう旅人たちに贈ります。
もうね、 裏表紙のこのメッセージだけで痺れる。
今は夏だから、北海道に旅立ちたくって、体がうずいてしょうがなくなる。
あぁ、さまよいたい!今すぐにでも、さまよいたい!!
ところで僕は、この「なまら蝦夷」だとか、旅人宿の本・ツーリングマップルなどに、現地でもらったチラシなどをモリモリと挟み込む習性がある。
例えば、こんなチラシが入っている。
手書きの汚い地図だとお思いか?
しかし、これはノースフラットへの道しるべが記載されている貴重な地図だ。
ちなみに作成者は、とある旅人宿のオーナーさん。
宿に宿泊した旅人との会話の流れ次第で、手元にあるこの地図をもらえたり、もらえなかったり。
上の写真、いきなり解像度がアホみたいに低くて大変に申し訳ないが、今回ご紹介する場所は所在地を非公開としたいため、あえてボカしている。
しかし、記事を詳細まで読み込めば、なんとなく場所の見当はつくように書くつもりだ。
中央にノースフラットの文字が確認できる。
大陸より大陸的風景。北海道で最高にカッコイイ風景。
どこまでも広がるアメリカの大地と地平線が大好きなオーナーさんが、北海道のここにアメリカの大平原を連想したのだ。
語源となったであろう、「ノースプラット」もアメリカの町だったな、確か。
では、時系列を日本4周目の最後のドライブ、北海道を巡る旅にさかのぼろう。
大草原に行かないか?
今日は僕、朝の4:30頃に起きたんだ。
オーナーさんから「ここの近くには、北方領土の国後島から昇る朝日が見れるスポットがある。早起きして行ってみたまえ。」って言われていたの。
なので、1人で行ってきた。
すんごい朝日が見れて感動した。
地平線の彼方から、「これがこの世の夜明けだ!!」と言わんばかりの真っ赤な太陽が昇ってきて、それを正面から受け止めた僕の精神のキャパを越えそうなくらいになり、もうゲラゲラ笑うしかなかったさ。
すごいな、北海道は。
そして、関係ないけどこの宿の犬とも、全く打ち解けることができなかった。
会う度に、すんごい歯茎をアピールしてくる。
怖いので、どうやって声を掛けたらいいのかわからない。
「歯茎、きれいですね」としか言いようがないけど、そう言うともっと見せつけてくる。怖い。
朝食後、コーヒーを飲みながらオーナーさんや、昨夜一緒に飲み会をした旅人たちと語り合う。
その旅人たち、僕が朝日を撮影した写真を見せたら、すごく羨ましがっていた。
オーナーさんが僕の写真を見ながら「この部分は北方領土のここだな」とか、地図で説明してくれる。
僕は「すげーすげー」と言い、旅人は「いいなーいいなー」と言っている。
それらのリアクションに気を良くしたオーナーさんが取り出したのが、冒頭の地図だ。
「この後、キミらに少し時間があるのであれば、地平線まで見える秘密の大草原を案内しよう。日本で最高の眺めだ。その名は、ノースフラット。」
どうやらおじさんは、特別な許可でここに入れる立場の人らしい。
行くっす!!
もうね、こうして宿の窓の外の草原を見ているだけでもテンション上がっていたんだもん。
今日の天気、すさまじくいいんだもん。
快晴の北海道の大草原を走る以上の幸せ、僕は未だに知らんわ。
僕とオーナーさん、そして2人の旅人、合計4人にて宿を出発する。
親のかたきのように吠え続ける犬の声をバックコーラスにしながら。
…ねぇキミ、なんでそんなに敵対心むき出しなの??
チリ1つ無いほどに綺麗な青空が広がる中、僕はオーナーさんの車を追いかける。
オーナーさんは、とある分岐の前で車を停めて降りてきた。
そして僕らに聞く。
「この先は未舗装路が3㎞程続く。車を汚したくなければ、ここに車を停めた上で、こちらの車に乗っていいよ。」
しかし僕は断った。
自分の愛車で行ってみたいし。
そして心配ご無用。僕の愛車のパジェロイオは、北海道上陸初日からドロッドロになるほどに走っております故。
こうして僕らは未舗装路へと突撃する。
北の大地の大平原
砂ぼこりを豪快に巻き上げながら、3台の車が未舗装路を駆け上がる。
僕は最後尾でアクセルを踏む。
道は狭く擦れ違い不可能。目印も一切なし。
これは、冒頭の地図があったとしても、初見では到達できたかどうか…。
高原に向かって、標高はグイグイ上がっていく。
未舗装路の3㎞は、なかなかに長いよな…。
本当に何もない草原のド真ん中で、オーナーさんの車が止まった。
ここがノースフラット!!
果てしなく、広ーい!!!
僕らは草原の真ん中に、車を豪快に停めた。
こんなことができるのは、きっとオーナーさんが「ここには誰も来ないだろう」と確信しているから。
現にここにいた数10分の間、車も人間も、動くものは僕ら以外に何1つなかった。
愛車と大草原と空。
絵になるじゃないか。
日本1周が終わるたびに車を交換する僕にとって、日本4周目のファイナルドライブである今回の旅が終われば、この車とはサヨナラなのだ。
だからこそ、ここでこういう記念撮影ができてうれしい。
最後の記念撮影だ。
日本4周目の数々の冒険、僕に付き合ってくれてありがとな…。
ちなみに、日本5周目の愛車は既に決まっている。
HUMMER_H3という外車だ。それはそれで楽しみ。スゲー楽しみ。
オーナーさんが、「こっちに来てみなさい」と言って、ズンズン地平線の向こうに遠ざかっていく。
慌てて僕は追いかける。
なんと、そこに埋まっていたのは三角点だった。
ここが標高を示す基準点なのか。草原の真ん中なのに。
振り返ると、愛車の向こう側にすんごい地平線が見えた。
とりあえず、僕も同泊の旅人たちも、「うおぉぉぉーーー!!」って叫んだりした。
あ、人って周囲に何もないと叫ぶんだ。今、知った。
草原を、気の向くままに歩く。
向こうに見えているのは「雌阿寒岳」だと、オーナーさんが教えてくれた。
めっちゃくちゃ空気が澄んでいるときには、ここから厚岸まで見えるらしい。
マジか。とんでもなく遠いぞ、厚岸。
今も微かに見えているのだとオーナーさんは言うが、僕にはわからなかった。
見渡す限り、人工の建造物がない。
例外的に1つだけ、遥か彼方に1つある。
しかしそれを紹介してしまうと、ここの場所が判明してしまうかもしれないので、今回は掲載を見送る。
左奥に、僕の愛車がポツンと見えている。
この大地に対し、なんてちっぽけなんだろう。
オーナーさんは、「ここが国内最高の展望地だ」と繰り返していた。
好きな場所の近くで旅人宿を経営する、元旅人。北海道にはそういう人が多い。その地を心の底から愛している。
そういう人と話すことは、こちらも大きな活力をもらえて楽しい。
「夜の星空も最高だよ」と教えてもらった。
だろうね。天の川とか、すごそうだね。
1人で夜は来れなそうだけど。そして1人で来るのはライセンス的にダメだろうけど。
草原を傷めないよう、オーナーさんの指示で轍をバックした。
木立の中の未舗装路を再び走り、丘を下る。
舗装路との境界にある広場で、3台の車を再び停めた。
みんなで集まり、お別れの挨拶だ。
最高の景色をありがとう。
僕はみんなにお礼を言った。
そして愛車に乗って旅立つ。次の絶景スポットを目指して。
オーナーのおじさんと同泊の旅人が、草原をバックにいつまでも手を振ってくれた…。
想い出は、また静かに眠る
手元にある、たった1枚の地図。
地図というにはチープで見づらく、 字も読みにくい。
でもな、これを見ると脳裏にあの大草原がよみがえるんだ。
「な、最高だったろ!?」
あのオーナーさんが、得意気に笑う声が聞こえてくるんだ。
そんなこの地図が、僕の宝物。
その後、日本5周目・日本6周目でノースフラットの近くを走っている。
あのオーナーさんのいる宿の近くも走っている。
だけども、どちらも再訪はしていない。
一度きりの、でも最高の想い出なのだ。
2度と訪れず、そしてWebの中を探しても見れない、僕だけの想い出だったこの光景。
北海道の大地をさまよう
旅人たちに贈ります。
北海道、コロナの影響で今年は行けなさそう。
旅人宿のオーナーさんたちも大変だろう。
落ち着いたら、また必ずや北に旅立ちたい。
僕はしばらくの間、懐かしいあの大草原を回顧した後、なまら蝦夷を閉じる。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: ノースフラット
- 住所: 非公開(北海道のどこか)
- 料金: 無料
- 駐車場: …という概念がないくらい広い
- 時間: 特になし