春のある日。
玄界灘の海が、そして水を張られたばかりの水田が、見事に夕日で赤く焼けた。
1年の中でも、この時期にしか見れないスペシャルなイベント。
そこに僕は偶然居合わせた。
わずか10分前の飛び込み参加であったが、計り知れない感動があった。
あの日の日没を、僕が忘れることはないだろう。
…そんな絶景の日没。
玄界灘に面した「浜野浦の棚田」を、今回ご紹介させていただこうと思う。
太陽の出現は突然に
18:30過ぎの、日本本土最北西端に位置する「波戸岬」…。
「ダメだなこりゃ」って僕はため息をついた。
ここで夕日を見たかったのに、肝心の太陽が顔を出す気配が無いのだ。
今日はPM2.5的な気配でボンヤリした世界観は否めないものの、それなりに晴れていた。今だって、周囲は明るい。
だから、夕日に期待を込めていたのだ。
日本本土再北西端のこの岬で、夕日を眺めたかったのだ。
しかし、18:30を過ぎたというのにコレだもんな。
20分間待っていたが、全然ダメ。もうダメ。
他にも数人が西の空を眺めているが、僕は早々に諦めた。
伊万里方面でも行こう。そんでどっかでお風呂に入ろう。
こうして気持ちを切り替え、波戸岬を出発して15分後。
まさかの事態が生じる。
太陽が姿を現したのだ。
このタイミングで太陽が出るとはーー!!
あなたに理解していただけるかどうかは不明だが、旅人の中の一定数は日没に重きを置く。1日の終わりに夕日を見れるかどうか、これはその日1日が円満終了するかどうかと同義であるといっても過言ではない。
もう少し万人にわかりやすい例を挙げるとすれば、「富士山」からの御来光や、海岸で待機する初日の出。
そのときに太陽が見えるかどうかが問題なのだ。日の出からしばらく経過してから快晴になったとしても、満足感は得られない。
どこで夕日を見る?
どこで海に沈む夕日を見られる??
僕の見立てでは、日没まであと12分。
「いろは島展望台」までは、どんなに急いでも、あと15分。
「大山公園展望台」は行ったことないからどんなロケーションかわからない上、きっと日没には間に合わないだろう…。
さて、どうしよう。
キョロキョロしながら車を走らせること、およそ1分。
なにこの人だかり?
なんかいいモン見れるのか?
そんな予感がするので、数10m先に見つけた駐車場に愛車を停め、やじうま根性全開で、原住民の群れにダイブした。
棚田と夕日
…前項のような書き方をしたが、僕は確信をしていたさ。
みんな西の海側を見てカメラを構えているんだもん。
夕日、見えるんだろ?そうなんだろ?
じゃあ、僕も仲間に入れてくれ。
すげっ。
しかしこれは、現地の看板の写真だ。
僕は、旅にて自分がどこに立ち寄ったのか、明確な情報が欲しい人間。
なので、場所を示す看板などがあると、反射的にそれの写真を撮る。
従い、今回も真っ先に設置されている看板を撮影した。
ここは玄海町の「浜野浦 棚田」というのか。そうかそうか。
うおぉ…。
道路沿いも人がたくさんいるなって思ったが、道路から下を見下ろしたら、もっと人がたくさんいた。
あっちも棚田だが、見る側のこっちもまさかの棚田スタイル。
なんか売店的なテントも立っているし。軽く祭りだ。
棚田も綺麗だが、人の多さにまずは驚いた。 さすがゴールデンウィーク。
なんという見事な棚田だ。
綺麗だとか、そういう概念ではない。
この両側を谷で囲まれた斜面を、このように丁寧に無数の平面をつくり、そして稲を育てる先人の英知と苦労に頭が下がるぜ。
田植えが終わったばかりの水田の脇に停車する軽トラック。
1日の作業を終え、彼らもここで一息ついているのだろうか。
農家の慌ただしい春の1日が、終わりを告げる…。
…とか思っていた矢先だけどな。ちょっ、待て。
2つ上の写真に戻ってほしい。そんで、その写真の右下部分を見てほしい。
♡ 恋人ーーー!!!
なんかエロい作風の幟が写真に見切れているぜーー!!
日本の原風景みたいな農村に、場違いなくらいにムフフなマークがたなびいているぜーー!!
そう、ここは…
『恋人の聖地』!!
僕の苦手な分野、来たわ。この単語を聞いただけで、背中がゾワワ…ってなるわ。
恋人?なにそれ?都市伝説?UMA??
…って感じにやさぐれそうになったけど、よくよく周囲を見たら恋人っぽい人はほとんどいなかったので、荒ぶっていた精神もどうにか鎮静化した。
さぁ、棚田が赤く染まるぞ。
水を張られた水田が、夕日の赤を映し出しているぞ。
何度かシャッターを切る。
似たようなアングルの写真ばかりになってしまっているが、いかんせんここの棚田のビューポイントは、ほぼこれ以外の選択の余地がない。
ためしに展望台の下段まで下りてみたが、やはり僕は道路付近からのこの角度が好きだ。
ここから、太陽が沈むまで眺めたいと思う。
幾何学模様の棚田が真っ赤に染まる。
4月中旬に水田に水を張ってから、5月の上旬の田植え直後の今の時期までしか見れない、わずかな期間の芸術だ。
もっと眺めていたかった。
しかし、太陽は水平線に接触することなく、中空で溶けるようにしていなくなった。
僕がここに到着してからわずか10分のスペクタクルであった。
得も言われぬ満足感が、僕の体の深い部分に残っていた。
日没後もしばらくボーッとそこに立っていると、ゲコゲコと大量のカエルが鳴き出した。
春先の再訪
1年の中でも最も美しいシーンを最初にお見せしてしまったが、前述のシーンは僕が日本3周目を巡っていたときのエピソードである。
僕はその後、日本5周目においてここを再び訪問している。
3月下旬の、まだうすら寒い早朝。
久しぶりに僕は棚田を見下ろした。
この時期はまだ水も張られておらず、土と草が棚田を覆っている。
しかし、海近くのうっすら黄色い部分をよく見てほしい…。
おぉ、あれは菜の花ではないか。
一足早い春の訪れを演出してくれている。
1年の初めに、田んぼに生命の息吹を吹き込んでくれる役目を担っているのだろう。
ここには、11.5haの敷地の中に、実に283枚もの棚田があるという。
その枠組みは石垣のように造られており、古い部分は戦国時代・江戸時代のものなのだそうだ。
400年以上も脈々と受け継がれてきたこの生活、そしてこの風景。
日本って素晴らしいよな。
そんな風景を求め、今日も僕は旅をする。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報