あぁ、あの年の僕は。
人生で最も…、と言ってもいいくらいに幸せに満ちていたあの年の春、「高瀬の桜並木」を歩いたのだ。
2024年現在、この桜並木はGoogleマップにすら載っていない。観光客も地元と思われる方々が数人いただけだった。
まるで夢幻のようなシチュエーションだが、確かにあの桜並木は存在し、見事に咲き乱れていたのだ。
…というわけで今回は関川村のこの桜並木と、それを見下ろす「丸山大橋」という市町村道では日本一の長さのアーチ橋について語ろうと思う。
あ、高瀬の桜並木の場所は最後に示すので参考にしてね。
プロローグ:初の丸山大橋
日本3周目の春、宮城・山形・新潟あたりを気ままに車中泊ドライブしているときであった。山形県から山間部の峠を越え、新潟県に入ってしばらくした際に目についたオブジェがある。
『市町村道アーチ橋日本一』という丸山大橋を示すオブジェがあったのだ。
橋好きとして気になる。僕が走っている国道113号からほんの500mも反れれば、その丸山大橋があるようだ。では寄り道してみよう。僕はハンドルを切った。
橋のたもとには、100台くらいが駐車できる広大な駐車場&ドライブインがあった。「レストラン丸山大橋」というネーミング。まんまだ。釜めしが名物らしい。
※2024年現在はすでに閉店しており、建物だけが残っている。
そばにあった橋の説明の看板を読んでみる。
この橋の長さは175m。そして下部のアーチ部分の長さは118m。このアーチの長さが、市町村道で日本一なんだそうだ。
橋はここ関川村を代表する重要文化財である「渡辺邸」をモチーフにしているんだ
そうだ。渡辺邸を知らないけども。勉強不足ですまない。
橋の全容を見られる場所はどこかな?
たもとからではダメだ。斜め横から眺めたい。
ということで、上の写真を撮った。
撮るに当たって茂みの中を進み、一度コケて腕からちょっと血が出たけどね。まぁ腕くらいどうでもいいんだけど、少し涙目なことはナイショでな。
続いては橋の上を歩く。
橋の高さは下を流れる「荒川」44mあるそうだ。なかなかにスリリングな眺めだが、とても穏やかな春を感じられる光景ではないか。この渓谷を「荒川峡」と呼ぶらしい。
あぁ、心がクリアになるような青…。
ちょっと上の構図には写っていないんだけど、右側の方に桜並木と思われるものがある。もうこの時期は完全に葉桜なんだけど、桜の時期にあそこを歩けたらきっと幸せだろうな…。
こうして短い僕の散策が終わった。再び国道133号に合流し、日本海方面に車を走らせる。
すぐ先に関川村の「道の駅 関川」があるのだが、そこまでの道のりは八重桜が咲き誇っていて綺麗だったよ。道の駅ではノンビリと休憩させていただいた。
そして時代は少し流れ…。
満開の時期、高瀬の桜並木を歩こう
日本5周目の4月のことである。僕は関川村に戻ってきた。
桜真っ盛りのシーズンである。荒川峡の桜並木を歩きたいに決まっている。
まずは駐車できそうなスペースを探しながら桜並木沿いの道を車で走った。
すんごい。ハンドルを握りながら思わず「わぁ」と声が出たよ。春っていいですよね、日本の春はすごくいい…!
桜並木の西の端あたりで車を停められそうなわずかなスペースを発見。そこに愛車を停めた。
チラホラと駐車に使えるスペースが登場する模様だ。ちゃんとした区画の駐車場は近辺には無いように感じた。
なんかみんな、いい感じに道路に幅寄せして駐車している。このような場所であれば愛車と桜並木のコラボ写真が撮れるかもね。
…静か。
普通これだけの桜並木があると、車道は訪れる車でゴッタ返し、桜の木の下はカラフルなレジャーシートだらけ、あるいははゾロゾロ歩く人の列ができているイメージ。
しかしここはそんな要素は1つもない。世界から人が消えてしまったのかな?そう思った。
この桜並木は、「高瀬温泉」の薬師堂を起点として丸山大橋方面に600m続いているとのことだ。そしてその本数はおよそ90本なのだという。
もっと本数があるように思えるけどな。とりあえずこうやって見ている分には充分なボリュームの桜なのだ。それが大事。
右手の方を見てほしい。土手を少し登ると芝生の上でくつろげそうじゃないか。そっちに行ってみよう。
道路から土手に上がってみた。桜の花とほぼ同じ目線でのアングル。これもステキだ。そして土手側も閑散としている。
数名が散策しているのと、数組がピクニックしていたりオッチャンらしき人が飲み会をやっている程度。いずれも地元の人たちなのだろう。もったいないやらありがたいやらのスポットだ。
だけども、こんなロケーションだからこそ、土手はとてもきれいだ。これが東京都心の桜スポットだったらゴミが散乱しまくるだろうからな。
見事なまでのソーシャルディスタンス。
別にコロナ禍で撮影したわけではない。コロナ前でこの状況なのだ。観光客と模擬店でごった返す賑やかな花見もいいが、静かな花見もいいよな。
春の日差しが暖かく、風がそよそよと吹く。こういうのを感じるのが好き。
いつぞらの丸山大橋が桜並木越しに見えている。こうして見るとやっぱデカいし長いし、高いよなぁって改めて感じる。橋の長さは175mであるが、その倍くらいあるようにも感じてしまう。
よし、このあとあそこにも行ってみよう。
土手を歩きながら高瀬温泉方面に戻ってきた。左端に高瀬温泉の「観山荘」が見えている。
ここで桜並木はブツッと終わる。上の写真の中央に写っている桜が、桜並木としての最後の1本だ。そして上の写真には写っていないけど、桜並木の始まりと終わりの場所に立つ薬師堂が、まさに上の写真の右下部分にある。
土手を降りた。薬師堂の向かいの公園がいい雰囲気だったので写真を撮った。
このあとは小さな建物が密集している静かな温泉街へと入り、ところどころに咲く桜を見上げたりして平和な時間を過ごしたよ。
では、次は再びの丸山大橋だ!
丸山大橋と猫ちぐらモニュメント
魅惑のキャットタワー
…というわけで久々に丸山大橋を目指すのだが、国道113号から丸山大橋に曲がる部分で前回訪問時に触れていないポイントがあるので、この章でちょっと補足させてほしい。
最初の章で掲載したこの写真。僕が丸山大橋を知るきっかけとなったオブジェだ。
このオブジェと同じ敷地内に、もう1つ見逃せないモニュメントがあったのだが、当時の僕は丸山大橋に夢中で目に入らなかった。
丸山大橋のオブジェの立つ地は、ちょっとしたパーキングになっている。上の写真、視線を少し左にずらすと丸山大橋のオブジェがある。
しかしこの章で取り上げたいのは、写真中央の黄色い怪しい実のなる木みたいなモニュメントだ。
「猫ちぐらのモニュメント」である。
キャットタワーみたいな構造であり、何匹かのネコがそこでくつろいでいる、ネコ好き垂涎もののスポットなのである。なんで前回はこれに気付かなかったかなー。無念。
猫ちぐらとは何なのか。その説明版があった。
前提として、昔々の農家では"つぐら"っていうワラで編んだ巨大な丼的なものがあり、そこに赤ちゃんを入れておいて農作業に出かけたりしていたとのことだ。
その猫版は猫ちぐら。簡単に言えばキャットハウスなのだろう。
ワラで編んだ猫ちぐらは、関川村の特産物となっているそうだ。それを示すモニュメントなのだ。なぜかキャットタワーのようにスケールアップしているけども。
ほら、ネコちゃんたちも猫ちぐらの中で快適そうに… … ??
いや、彫りが深すぎてあんまり表情が読み取れなかったわ。思ったよりもエキゾチックな顔立ちだったわ、ネコちゃんたち。
だけどもマイハウスからこんな風に満開の桜を眺められたら、ネコちゃんたちもきっとハッピーに違いない。
今回は日本5周目の春の話であるが、その後の旅路で僕はここを3回ほど通っており、その度にネコちゃんたちに挨拶をするお気に入りのスポットとなった。
桜に包まれる丸山公園
猫ちぐらから500mほどで、かつて車を駐車したスポットにやってきた。
前回存在していたレストラン丸山大橋はもうなくなっている。写真中央の桜の後ろからチラッと見えている白い建物が、以前そのレストランだったのだ。
…ってゆーか桜スゲーな!ここにも咲き乱れているな!!
駐車場に車を停めた。
その隣には広大な公園が広がっていた。「丸山公園」というらしい。その公園内に桜がいっぱい咲いているのだ。
これすごい。まずは愛車と桜とのコラボ写真をいっぱい撮る。
それからこの公園に少し足を踏み入れてみなければ。丸山大橋はその後でいい。
あぁ、いいなぁ。
高瀬の桜並木よりもお花見している人が多い。きっと並木という"線"のロケーションよりも、公園という"面"のロケーションの方が花見をしていて落ち着くのだろう。それにトイレとかの環境も公園の方が整っているからかもしれない。
そっか、つまり高瀬の桜並木に人が少なかったのは、車でほんの数分に丸山公園という桜のスポットがもう1つあったからなのだな。
桜に包まれ、みんな幸せそうだ。
いい日にここに来たものだ。晴れていて風もなくって、そして桜が満開の週末なんて、年に1回あるかないかだもんな。いや、むしろ年に1回もない可能性のほうが高いもんな。
では、忘れちゃいけない丸山大橋に行ってみよう。
再びの丸山大橋
全容を撮影できる角度は前回と同じように道と言えるような道はなく、茂みをかき分けて突っ込む必要がある。
前回と比べて救われたのは、まだ季節が早いからそんなに雑草が生えていない点だ。撮影ポイント直前まではあまり苦労せずにアプローチすることができる。
最後は足元注意だ。乾いた枯草が斜めになっていて、足元滑る滑る。
しかし万一本当に滑って転んだら、44m下の荒川峡までフォーリンダウンしかねない。それだけは避けねばならない。
ちょっとね、橋を撮るのに夢中になっちゃってさ、ここから見下ろした高瀬の桜並木の並木の写真は無いんだ。何やっているんだか。
しかし僕は、確かにここから眼下に連なる桜並木を見た。
何年も前に、国道を走りながらふと見つけた丸山大橋のオブジェ…。
そこから始まり、桜並木を見つけ、猫ちぐらモニュメントを見つけ…。全部繋がっている。それが嬉しいのだぞ。
人生で最も…、と言ってもいいくらいに幸せに満ちていたあの年の春のひとこま。
前回は1人でのドライブであったが、今回は同行者と来れたのもまたいいね。前回得た知識を生かして、今回の案内ができたのだから。
そんな高瀬の桜並木。まだGoogleマップには掲載されていない桜並木。
2024年の今年もそろそろ咲くのだろうか。僕は遠い地で思いを馳せる。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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