「ジブリっぽい」とか「トトロっぽい」みたいな表現はよく聞く。
しかし驚くなかれ、今回は「ぽい」ではなく本物のトトロ(漢字で書くと"轟")という名の集落を取り上げようと思う。
そこにあるバス停、「トトロのバス停」ももちろん本物でありかつてはバスも来ていたが、過疎化で廃止されてしまった。
僕はバス停現役時代も、廃止された後もここを訪問している。バスは来ないけどバス停はまだあるので安心してほしい。
そして、懐かしい彼らに会うこともできるかもしれないぞ。
それでは、みんな大好きトトロのお話だ。
誰がジブリグッズを置いたのか?
トトロのバス停は2015年に数10m移転し、ちょっと周囲のロケーションが変わった。最初の章では移転前の今となっては貴重な画像からのスタートとしよう。
巨大な日産サファリのハンドルを握り、やってきたのは大分県の奥地である。青看板に「ととろ」の文字が書かれていてファンタスティック。
ただ、そこは大分県佐伯市宇目大字南田原轟っていうリアルな地名。"轟"と書いて"ととろ"と読むのだ。決してジブリの"となりのトトロ"にあやかったわけでは無い。
青看板の手前には『この先幅員減少のため10t車以上は進入禁止』と書かれている。
この先の集落は道幅が狭いのだ。注意が必要だ。
そんな道すがらに出てくるのがトトロのバス停なのである。
ちょっと寄りすぎているのでよくわからないだろうが、実はこのバス停は川の上に迫り出ている。道路が狭いからかな?もっと引きで撮った写真は次章で出てくるから待っていてね。
そんなことよりも着目すべきは、バス停の中にさつきとめいがいる点だな。なんか写真が白飛びしてしまったけど。
バス停側面にトトロの絵もあるし、『猫バスの停まる里』って木札に書いてあるし、こりゃなかなかテンション上がりますぜ。
反対側の側面にはトトロとネコバスの絵も描かれていた。なかなかうまい。
このバス停は、昔はトトロ要素はなかった。
諸説あるのだが、たぶん1990年代初頭あたりにこのバス停にトトロのシールだか絵だかが貼られたらしい。
その後、少しずつトトロにまつわるグッズや絵などがこまごまと増えていったそうだ。
1997年9月、それまでとはスケールが全然違う置物が現れる。これからそれを見に行ってみようか。
バス停から150mほど先にある「トトロの森」と名付けられた場所にそれが移設されているのだ。
それはネコバスの巨大パネルだ!!うわぁデカい!!すごい!!
誰かが置いていったこの看板、未だに誰によるものなのかは不明らしい。
その後も、さっきご紹介したさつきやめいのパネルや、トトロとネコバスの絵など、クオリティ高めで巨大なものが次々と設置されるようになった。いったいどこの誰なのだろうね…?
こうしてトトログッズであふれるバス停は、徐々に名を知られるようになり、日本各地からここを訪問する人も出てきたのだ。まぁ僕もその1人よ。
トトロの森には上の写真のようなめいのパネルもある。その横の木組みには、無数の意思で造られたトトロが乗っているよ。これも次章でズーム撮影したものをご紹介しよう。
ここまでが僕の初訪問の思い出なのである。
バス停現役時代最後の訪問
2013年の春、このバス停は本来のバス停としての役割を終える。つまり過疎化でバスの利用者も減り、廃止となってしまったということだ。
僕はその少し前にもこのバス停を訪れている。
小さな小さな木の小屋、トトロのバス停。
完全に川の上に建てられているのがよくわかる構図だ。しかもそれを支えているのはトタン板だ。これ、お相撲さんが5人くらい乗ったら耐久性が心配になるんじゃないかな?
少し遠めからも撮影してみた。
手前の水田が壮大に広がっていた。このときの訪問時は9月の中旬。稲穂はすっかり成長し、あと2・3週間もすれば黄金色になろうかというタイミングだな。
貴重な貴重な、本物の時刻表が掲示されたバージョンのバス停だ。前章時点では時刻表はこの位置には無かったが、新たなに備え付けられたようだね。
上の写真では拡大しないと見えないと思うが、1日のバスの本数は5本だ。なかなかに少ない。綿密に計画しないと効率よくお出掛けできないではないか。
そんな待てども待てども早々には来ないバスを驚愕の表情で待つ姉妹。その後ろでニヤリと不敵な笑みを浮かべるのが、僕らのトトロだな。
でもなんか小柄だけど。そして、初回訪問のときにはこのトトロいたっけ?もしかして増えた??
まぁどっちでもいっか。
僕は150m先のトトロの森へと向かう。集落をさらに奥へと進んで、バス停の裏を流れる川を渡った、木立の中の広場だ。
森へと入る際に、川の真ん中から清流を撮影してみた。写真奥にもう少し行けばバス停がある、という構図だ。
集落を流れてはいるけども、土手をコンクリートなどで固められておらず、自然なテイストの川。まるで本当にトトロの世界観のようではないか。
だからね、川の反対側の森の中にガチっぽいトトロいた。「うおぉ、トトロ!!」って僕も思った。
なんだか食べかけのクッキーのようにちょっとだけ欠けてしまっているのも愛らしかった。少し離れた森の中の暗がりにいたので、写真がブレてしまったのが残念だったな。
ちなみに僕の知る限り、2023年現在はここにこのトトロはいない。
もし「ここにいるよ」って知っている方がいるのであれば教えてほしい。まだ夢を追いかけたいお年頃なのだ、僕は。
木組みの上の無数のミニトトロたち。はぁ、かわいいなぁ…。誰もいない森の中で僕はニッコニコだ。
この森の中の精霊たちは、同じジブリ映画「もののけ姫」の木霊(こだま)のようではないか。癒される。
たくさんのトトロを目撃できてご満悦のめいも、以前と同じようにここにいる。
手前には乱雑にミニトトロが積まれているな。(ストックかな…?)
ネコバスも健在。少し色が濃くなったようにも感じた。塗り直されたのだろうか?屋外にある木のパネルって、メンテナンスしないとかなりのスピードで劣化するもんねぇ…。
先ほど書いた通り、このあとバスは廃止されてしまう。そしてバス停自体も移転してしまう。
この光景を見られたのは、これが最後であった。
では、最終章では今現在のトトロのバス停をご紹介しよう。
夕暮れの中で再会できたなら
トワイライトはトトロの時間
2023年秋。時計をチラッと見て「ヤベーな」って呟いた。
もう18:00を大きく回っていたのだ。
少し雲が多くモヤがかかっていたし、たまに雨もパラついていたが、空は真っ赤で綺麗だった。しかしそんな空をゆっくり眺めて旅情に浸っている時間はなかった。
もうすぐ暗くなる。暗くなるまでにトトロのバス停に行けるだろうか?そう考えて、焦っていた。
2015年に数10m移転したというトトロのバス停。僕は久々の訪問なので移転後にアプローチするのは初めてなのだ。
小さく静かな集落なので真っ暗になってしまったらまともに見えないだろう。だから暗くなるまでに到着したい。だけども、もう秋だしこの天気だし。日は着々と短くなっている上に、雲が多くてなおさら暗くなるのが早い。
しまったなぁ、日中遊び過ぎたわ。
いつぞやと同じ写真を撮ったが、ブレた。理由の半分は周囲がもう暗いから、もう半分は僕が焦っていたからだ。臨場感あるだろ?
なにこの幻想的なロケーション。逆にすごくね?マジに野生のトトロが出て来そうな雰囲気じゃね?
こういうシチュエーションは好きだが、実際こんなトワイライトタイムは一瞬だ。10分と持たない。急がねばならない。もうちょっとだ。
暗。怖。
ほとんど周囲は見えないが、これはかつてのバス停があった場所ではないかな?
見慣れない綺麗な看板に「この先ととろバス停」と書かれているが、白地に感情の無いその文字が、ちょっと恐怖に感じた。
なんとか空に光があるうちに、トトロのバス停の駐車場に到着した。
この駐車場、以前と一緒だ。以前はここからバス停まで80m歩いたが、今はバス停が80m移転してこの駐車場のすぐ横にあった。アクセス良好。
暗い。バス停が漆黒の闇に飲まれようとしている。
写真の右手の暗黒空間に目を凝らしてほしい。ここにバス停がある。
とりあえず周囲を照らすためにも車内からランタンを持ち出した。
では、久々のご対面と行こうじゃないか、トトロさん!そして草壁家の姉妹よ!
新たに彼らは令和を生きる
では、執筆時点ではそこそこモヤモヤの情報である、2023年秋のトトロのバス停を以下にお見せしよう。
これはかなり補正を加えつつ撮影している。実際は真暗一歩手前といった感じの明るさなのである。
補正を加えてもバス停内がほとんど見えない。さつき・めい・トトロがいることはなんとなくわかるが、さつきやめいも以前よりバス停内に引っ込んでしまっており、肉眼では見づらいのだ。
ランタン点火。
暗がりにボヤッとトトロたちが浮かび上がった。さつきとめいのパネルは経年のためか以前より少し色あせているし汚れてきており、リアルな昭和の少女っぽい風貌になっていた。そして暗いからこそこの表情もリアルだ。
ランタンを設置することで、ほんわか明るいバス停の撮影ができた。
よく見ると、以前訪問したときは木の板でできていた屋根が、今回はトタンになっている。耐久性を上げたのだろうな。
側面のトトロ&ネコバスの絵も残っている。バス停としての本来の役目は終えたけど、ちゃんと管理されているのだ。嬉しいね。
ただ、側面の木札に書かれていた『猫バスの停まる里』の文字は、もうほとんど消えてしまっていた。
だけども肉眼で見る明るさはこんなレベルだ。
これは前章以前でも取り上げた、バス停の反対側の側面の絵。映画の中のこのシーンのリアルな明るさってこの程度だったのかもしれない。そんな中で得体の知れない巨大生物と対峙したさつきの恐怖は如何ほどか、想像に絶する。
僕なら漏らすね。いろいろ。
すぐ近くに小さな小屋と、レトロなポストがあった。
あれ?これは以前はなかったよな…??そして小屋の側面に浮かぶ白い顔は…!!
うおぉ、「かおなし」じゃねーか!作品の枠を飛び越えて、「千と千尋の神隠し」のかおなしさんがここに出てきた。コイツはいろんなところにヌルッと出てくるから、別世界であるトトロに出てきても許そう。
小屋の中を覗いてみた。
木霊がいた。もののけ姫の世界から、こいつらも世界を越えてやってきた。
食事のメニューなどが掲示してある。どうやらトトロのバス停のすぐ裏にある「リュオ」というレストランカフェのもののようだ。レストランがあること、以前は気付かなかったな。
どうやらオーナーさんが猟師で、ジビエ料理など食べられるらしいよ。
小雨が降ってきた。しかも肉眼ではほとんど周囲が見えない。
でももうあと数10mだけ歩き、あのネコバスの大型パネルに再会したい。
めい…、めいなのか…??
すまん、暗くて目がよく見えないんだ…。足元にランタンを置いてコンデジでなんとか撮影した。
もう1つ持っている超高性能カメラで撮影するとこうなる。
暗闇にめいとミニトトロが浮かび上がった。お元気そうで何より。
さすがに暗すぎて少々ブレたが、ミニトトロは今もたくさん木枠の上に並んでいる。
もっと明るくて時間があるのであれば、その個性豊かな彼らを1体1体を眺めてみたかった。
暗い。怖すぎる。
欄干の無い、川に架かった橋である。その向こうの真っ暗な木立の中にネコバスがいるはずだ。
雨も降っているし足元もまともに見えないので少々逡巡したが、あと10mだ。意を決して川を渡った。
こうして真っ暗な中で出会えたのがネコバスパネルだ。
これも補修されてラインが太くなっているね。でもちゃんとあって安心した。
…バス停に本物のバスはもう来ない。
しかしネコバスは来る。あのころの純粋な心を忘れていなければ、僕らの目にもネコバスが見えるはず。
大分県の山の中、小さな小さな集落で、最後の最後の残照を見ながら僕は満ち足りた気持ちになった。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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