「戸外炉(トトロ)峠」にはネコバスが停まっている。
前々から知っていたが実際に訪れたことはなく、初訪問は2022年である。
当日、一足先に現地に着いた「BLUEayさん」からメッセージが届いた。
「暴風雨。近くにあるはずのネコバスも見えないほどに霞んでおり、そして地面はズブズブにぬかるんで歩けない。」
…って感じの内容だった。
あれ?
トトロ峠ってそんな阿鼻叫喚な感じのところなの?
"トトロ地獄"という名で六大地獄に加わりそうなほどの怖いスポットなの?
夢は?希望は??
とりあえず、あと数10分待っていてくれBLUEayさん!
暗雲の中、アクセルを踏んだ。
嵐の中を突き進め
朝、満を持して羽幌の町の常宿を出発した。
暴風雨であったが、永遠にウダウダしているわけにもいかない。
雨雲レーダーをチェックし、「このタイミングであれば…!」っていう時間にチェックアウトしたのだ。
同じくタイミングを見計らっているライダーさんに声を掛け、少し小降りになった屋外に出て車に乗り込もうとする…。
途端にまた土砂降りだ。
「気象庁ーーッ!!」って叫んだよね、もう。
この宿では出発時に愛車と共に記念撮影することになっているのだが、宿のオヤジさんはカメラを構えたまま豪雨にバチバチ打たれて「ヒィィィーッ!」って言ってる。
「YAMA君、もう車に乗り込め!窓から顔を出せばいい、撮影するから。そしてそのまま走り出せ!」
そのときの写真がこれだ。
今年のお正月に宿のオヤジさんから届いた。
こうして僕は「オヤジィィーー!!」と叫びながら、別れを惜しむ時間もなく常宿を出発したのだ。
途中で何箇所か車を停めて小さな観光はするが、大きな目的地は深川町にあるトトロ峠。
ここで旅友のBLUEayさんと10年ぶり2回目に出会う。
既に現地付近にいるBLUEayさんからちょくちょく現場状況の連絡が入るのだが、それが冒頭に記載したような内容だ。
昨年の話で少し記憶も薄れているので幾分誇張してしまっているかもしれない。
だが僕は文間を読めるタイプの人間なので「トトロ峠は地獄なのですね、さつきもめいも泣きじゃくるのですね」と、BLUEayさんの言いたいことをすんなり理解した。
…つもりだ。
泥沼に沈むネコバス
若干小降りになったトトロ峠のちょっと先の駐車場に到着した。
すぐにBLUEayさんの車を見つけたので隣に駐車。
10年ぶりだがお互い「やぁ」みたいな感じでライトに挨拶した。
まぁ旅人って「いつかどこかで再会できるだろう」って考えているから、生き別れの親友と再会するような大イベントでもないし。今の時代ってリアル以外でも繋がれるし。
ちなみにBLUEayさんとは、当時できたばかりの宗谷丘陵の「最北の白い道」を探した仲だ。
最高のスポットだからよければ上のリンク先から読んでみてね。
話は戻ってトトロ峠。
…景色いいな、ここ。
ではそこそこの雨だけど、とりあえずトトロ峠のネコバスでも見に行きますか…。
トトロ峠は舗装されていない土の地面なのでBLUEayさんはそこが沼と化しているではないかと心配していたが、そこまでのレベルじゃないよ。
なぜならBLUEayさんと会う直前、僕はネコバスの真横まで車で突撃したから。
沼ってほどではなく、八丁味噌くらいな感じだったよ。
僕とBLUEayさん、その娘さんの3人はトトロ峠に向かって駐車場から100mほどの距離を歩く。
あぁ、ネコバス、いい…。
いつだってあのバスは夢を乗せて走ってくれる。
車道からほんの20mほどのところに停まっているのだが、BLUEayさんが僕より先に来たときは車道からバスがかすんで見えなかったって言っていたな。
つまりはこのくらいの位置からでも見えなかったってことか…。なんて天気だ。
でも今、なんとか雨も落ち着いてきて歩けるレベルになってよかったぜ。
このバスは廃バス。
ご覧の通りフロントガラスにまでペイントされているので、実際は走れない。
もともとはペイントされていない普通の廃バスで、ずっと前からこの峠に停まっていたそうだ。
近隣の農家の人が農作業の合間にちょっと休憩するのに使われていたそうだよ。
1998年、ここの峠がトトロ峠という名前ということもあり、「このバスをネコバスっぽくして町おこしの一環にしよう」という声が上がった。
それ以降、バスはちょっとボロくなったりしているけど、定期的に塗装をし直したりして地元の人がネコバスを維持管理してくれているそうだ。
行き先版を見てほしい。
ちゃんと「戸外炉峠」って書いてあるんだぜ。
ちょっと無理矢理感もあるけど、サイドには足が描かれているし、尻尾も折れ曲げて描かれている。
そしてトトロが乗車しようとしている。
後ろから見るとこうだ。
後部に書いてあるのは、2018年と2021年に補修が行われたという意味かな?
傍らには「戸外炉峠」と書かれたバス停が立ち、そこには時刻表もついている。
行き先は、なんとあの「七国山」だ。
本数は1時間に1本ほど。
もちろん実際にはバスは来ない。これはフィクションだ。
ただし注意書きなども含め、なかなかリアルに再現されているよね。ほっこりする。
敷地の入口部分には、丸太を組んだ板に木の枝で書かれた「戸外炉峠」。
なんかいいよね。トトロの世界観って感じ。
BLUEayさんの娘さんが、「中がどうなっているのか知りたい」というのでカメラを伸ばして撮影してみた。
お、おぅ…。これは子供に夢を与えられる光景ではないな…。
さすがに現役時代のものは全て撤去されてしまっているようだ。
だが、僕はわりとこういうの好き。
全国の廃バスを巡る知り合いとかもいて、かつて情報連携していたこともあるし。
四角くて武骨な鉄板剥き出しのボディ。
なのにかわいい曲線の窓。
そして木の板の床。
すべてがいいと思う。
BLUEayさんが「ヌチャヌチャしているけどなんとかなりそうな気がするので、車を並べて撮影したい」というので、駐車場まで戻ってそれぞれの車に乗ってやってきた。
走行音がヌチャヌチャゲチョゲチョしているけど、ネコバスに2台の車を並べた。
本来であれば、爽やかな緑の高原をバックに撮影できたであろう。
現実はドロッドロだけど、まぁいいっしょ。ドロドロ上等、どうにでもなれ。
BLUEayさんは「車をかっこよく撮影したいので、旅の途中でも毎日洗車する」って言ってた。
マジか。洗車なんて皇族と政治家しかしないものだと思っていた。
僕の愛車なんて常時ドロドロよ。
とりあえず、これで洗車しがいのある車ができたね。
ライスランドでおにぎりを
ひととおりヌチャヌチャした散歩が終わった。
さて、どうしようか。雨降りなので積もる話もできにくいしな。
ちょっと考えて、「道の駅 ライスランドふかがわ」を提案した。
ここに来るほんの5分前に通過した道の駅だ。
以前利用したことがあるが、なかなかに充実した道の駅だったはずだ。
もう12時になるし、軽食くらいしよう。
こうして僕らは車2台で道の駅に向かう。
道の駅ではもう雨が止んでいた。
このあと天気は好転するかもしれないね、ラッキー。
道の駅内はものすごく賑わっていたが、運よくテーブル席を確保できた。
地元のお米をアピールしているライスランド。
売店を覗くとライスランドだけあっておいしそうなおにぎりが並んでいる。
僕はウニのおにぎりを購入した。
この旅は今日が最終日なのだが、ここまでほとんど海鮮を食べていなかったのだ。
せっかくの北海道なのに海鮮にずーっと縁がなくて、どこかで食べたいと思っていたのだ。
ウニのおにぎりを海鮮にカウントしていいものかどうかは微妙なのしれないが、これチャンスだ。
松前ウニにぎり。
なんてジューシーなんだこれ。そして濃厚でうま。
パッケージには『お買い上げ後4時間を目処にお召し上がりください』と書かれていたが、4分で食うわこんなもん。
おにぎり食べながらBLUEayさんとはこの10年のザックリした出来事を話したり、僕の今回の旅路を話したり、BLUEayさんのこれからのプランを聞いたり。
まぁ僕は廃墟みたいなスポットやマニアックなところばかり巡っていてBLUEayさんの参考にはならんだろうし、BLUEayさんもノープランの車中泊旅だというので、お互いにふわふわした感じの話であったが、それが楽しいのよ。利害関係とか無いし。
食後、少し晴れてきた道の駅の敷地内で僕の愛車の日産パオを紹介した。
娘さんがパオのかわいい内装に興味を持ってくれ、ハッチにも座ってくれた。
次に会う時には間違いなく僕は違う車に乗っているだろう。
今回のこと、記憶に残ってくれるといいな。
そんなことをしているうちに、空はさらに晴れてきた。
BLUEayさんは「またトトロ峠に戻って撮影しようかな…」と言っている。
僕も少し考え、「僕も行くわ」って言った。
せっかくだから晴れた空の下のネコバスを見てみたい。
今日は時間も余裕がある。
このあとは深夜に苫小牧港を出るフェリーに間に合いさえすればいいのだから。
途中で江別に寄りたいカフェがあるのと、「真駒内滝野霊園」のモアイや大仏を見ていきたいと思っているが、それでも時間はある。
真駒内滝野霊園は夜でもきっとライトアップされているだろうし。
行こう、トトロ峠。
青空とネコバスと
再びトトロ峠。
今回は2台ともネコバスに並べて駐車させた。
徐々に青空が見えてきた。
全然ジャンルの違う3台の車だけど、こうやって並べばかわいく見える。
あぁ、青空がうれしいね。
今朝の豪雨がウソのようだ。
娘さんも喜んでバスの周りをポテポテと走り出し、案の定ぬかるみの中でコケていた。ご愁傷様。
ネコバス近辺での滞在時間は、およそ2時間半。
この連日爆走のせわしない旅の中で、ダントツに長く滞在し、最も平和な時間が流れたフェーズである。
またしばらく会うことはないかもしれないし、思ったより早く会うのかもしれなし、二度と会わないかもしれないし。
それでも可能性がゼロではないのが、旅人。
宇宙空間で隕石同士がぶつかるくらいの確率かもしれないけど、お互い日本中を走り回っていれば、またいつか出会う日もくるだろう。
トトロ峠で手を振る2人に別れを告げて、僕は青空を走りだす。
※江別で立ち寄りたかったカフェは急遽閉店が早まって10分差で入れなかったし、滝野霊園はライトアップされてない上にゲート閉鎖ギリギリの探索で手に汗握る展開となったが、その話はまた機会がございましたら…。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 戸外炉峠
- 住所: 北海道深川市音江町
- 料金: 無料
- 駐車場: あり
- 時間: 特になし