またコロナ蔓延だ第6波だ、毎日感染者数最多更新で、おちおち遊びにも行けやしない…!
…って気落ちしている方がほとんどだと思うが、そんな逆境の中でも頑張って活路を見出そうとしている駄菓子屋さんに出会ったので、ご紹介したい。
どんなお店なのか、もう冒頭でネタバラシしちゃうぞ。
自動販売機から駄菓子セット!!
…って、僕は一瞬そう認識してしまったのだが、ちょっとだけ尚早だ。
この販売機をよくよくご覧いただきたい。
なんか変だぞ!この機械!!
本当に使えるのか!!?
…答えを言おう。
これは"手動"販売機だ!!!
断じて"自動"ではない。
裏では駄菓子屋のおばあさんが会計し、商品を取出口に入れてくれ、そしてお客さんと会話もする。
このコロナ禍でなるべく対面にならないように考え抜かれた、ハイセンスなアナログギミックなのである。
最高にユニークだ。
アメリカ人なら「クール・ジャパァーン!」と言いながら口笛吹くと思う。
そんなお店を訪れたのだ。
折しもコロナ第6波が蠢きだし、世間がザワつくギリギリのギリなタイミングであった。(充分な感染対策をしつつお出掛けしました)
今宵は、そのときの思い出を力いっぱい語りたい。
夢と現の境界を越えて
さっきまでの渋滞と町の喧騒がウソのように静かになった。
なんだか急に周囲が田園風景になり、「おや?」って思った。
あとから思い返せば、ここが令和と昭和の境界だったのかもしれない。
この田園の先に集落はあったが、瞬く間に通り過ぎてしまった。
再び静寂に包まれた竹藪の中の坂道。
どうやら僕が目指すスポットは、ここにあるそうなのだ。
今回の僕の目的地は、「駄菓子屋まぼろし堂」。
「トトロいたもん!」みたいな心の清い子供にしか見えなさそうなネーミングであるが、ご安心いただきたい。
僕のようなちょっと濁った心の持ち主でも、ちゃんと見えるお店。
なんだったらもう、上の写真の右手が駄菓子屋さんの敷地だ。
いや、全然そうは見えないし、知らなければ通り過ぎてしまうだろうけどさ。
敷地の入口。
普通の人が見たら工事現場のようだ。僕も正直、一瞬ためらった。
だけどもここが正解なのだ。
入ろう。そうすれば僕らは束の間のまぼろしを見ることができる。
敷地内にあるあの建物、あれが駄菓子屋まぼろし堂だ。
駐車場に車を停めた時点では、お店はシーンとしていて「あれ?営業していないのかな?」という不安に駆られた。
僕より一瞬先に到着したと思われるおじいさんが、困ったように店舗の近くをキョロキョロしていた。
店舗の前には年季の入ったカッパの顔はめパネルがある。
『まぼろし堂に来ちゃった!!』って書いてある。
このまぼろし堂のマスコットキャラクターは、カッパの「ヤッペ君」。
いたるところにカッパがいるのだよ。名前はまぼろし堂さんのWebサイトから確認した。
その後ろのバス停、「まぼろし堂 思い出入口」も味があっていいね。
冒頭で書いた通り、ここは駄菓子屋さん。
もともとは、たぶんだけど正面の赤い自動販売機のところが入口だ。
そして奥に売り場が広がっていたはずだ。
コロナ禍となってまともな営業が出来なくなり、いろいろ考えた結果、こうして自動販売機を設置した販売方法を取ったのだ。
(…おっと、ここではまだ"自動"販売機と呼ばせてもらうぜ)
店舗前にはレトロなゲーム機が並んでいるが、どれも少し寂しそうな感じだった。
…やっぱ子供がいないからかな?
駄菓子屋は子供がキャッキャしているところまで含めて、1つの絵だからかな。
ここまで近付いてきたとき、急に劇場開幕だ。
「いらっしゃ~い」と自動販売機がしゃべりだしたのだ。
機械音声では無いぞ。生声でだ。
なにこれ!
夢かまぼろしか!!
駄菓子販売ギミック
「いらっしゃ~い」と自動販売機が言う。
おばあちゃんの声だ!
自動販売機がおばあちゃんの声で話し出す、メルヘンでファンタジーな世界だ!!
僕は元気よく「こんにちはー!」と返事をした。
これが、人間の言葉を話す自動販売機である。
まぁ僕はこのウワサは知った上で来たんだけどさ、ここで驚いてしまったのが先客のおじいさんである。
まだ店舗の周りをウロウロしていたのだが、この自動販売機がしゃべりだしたことで「えっ…、どういうことだ…!!」とわかりやすくフリーズした。
もしかしたら「駄菓子屋のおばあさんの人格をデータ化させて自動販売機に組み込んだ、新手のサイボーグか…!」くらいまで妄想していたかもしれない。
おじいさんが自動販売機に接近してきた。
自動販売機に向かって話しかける。
おじいさん:「ど、どういうことだ…」
自動販売機:「こういうことです」
おじいさん:「駄菓子屋の店舗は…。もう入れないのか??」
自動販売機:「そういうことです、コロナですから」
おじいさん:「この自動販売機で買うのか?セット販売のみ?」
自動販売機:「そうです、3種類です」
上の写真にある通り、駄菓子の詰め合わせが3種類。
それと下段にはまぼろし堂のグッズがある。
駄菓子は3種類だ。
- お父さんの家呑みセット 500円
- 遠足お任せ300円パック 300円
- お土産にどうぞ 菓子弁当 500円
おじいさんは迷った末に「お父さんの家呑みセット」を購入していた。
「あれ?ここにお金は入らない?あれ?」みたいになり、自動販売機からのレクチャーを受けながら購入してた。
おじいさんはこの近所の人で、久々に来たら駄菓子屋の装いがずいぶん変わってしまって戸惑ったとのことだ。
「あなたはどこから?」と言われたので答えたら、おじいさんも自動販売機も「えー!そんな遠くから!?」と驚いていた。
いや、僕からしたらショートドライブなのだが。(関東地方で、日帰り可能なエリア)
おじいさんは大事そうに紙袋を抱えて帰って行った。
今日は家飲みですかな、楽しんでね。
そして僕の番だ。
それぞれのメニューの下に「押せ」というボタンがあるが、これは不要だ。
別途「ご購入される方はこのボタンを教えて店員にご注文をお伝えください」という呼び出しボタンがあり、本来の正解はこっちだ。
だけどもそれも今は不要だ。
完全に自動販売機内のおばあちゃん人格が起動状態だから。ログインしているから。
僕は「遠足お任せ300円パックをください」と伝えた。
僕は文明社会に生きる人間の常識として、駄菓子の対価を支払おうとした。
しかし、お金を入れるべきところがなんか変なのだ。
これは絵だ。ちょっとチープな絵だ。
お金を入れられない。
しかし、上の写真よく見てほしい。
下の方に「お会計の際にはこちらが開きます」と書いてある。
「はーい、お金をここに置いてねー」と自販機が言い、温かみを感じさせるトレーが出てきた。
機械みたいにシューッと出てくるのではなく、人力みたいにズズズ…って出てきた。
「お金置きましたよー」と僕が言うと、「はい、ありがとう。待っててねー。」とトレーが引っ込む。
そして数秒後、一番下段の取り出し口に紙袋が置かれた。
一瞬、人間の手が見えた。いや、まぼろしか?
遠足お任せ300円パックを購入!
ワーイワーイ!!
楽しい自動販売機だ!会話が楽しい!買うのが楽しい!
キャッキャ喜んでいると、自動販売機が「ふふふ…。実はね、こちらからはあなたの顔もよく見えているのよ。」と言った。
ファッ…!?どういうこと!??
舞台裏のコックピット
自動販売機が「ふふふ…。実はね、こちらからはあなたの顔もよく見えているのよ。」と言った。
マジか!僕は驚いた。
「ふふふ…、じゃあ特別にこちらをご案内しましょうか…?」
そんな声が聞こえ、横の建物からおばあちゃんが姿を現した。
自動販売機の声は、生身のおばあちゃんだった!
実はすべておばあちゃんが販売している、手動販売機だったー!
ここまでお読みいただいたあなたにはバレバレだと思うが、一応驚いたふりはしておいてほしい。演出上。
そして自動販売機の裏側を見せていただいた。
…いいかい、ここでよく聞いておいてほしい。
僕が裏側を見れたのは、特別だ。
平日の閑散時間であったし、おばあちゃん側からご提案いただいたし。
何よりコロナ禍の接触を避けるための手動販売機なので、お客さん側が「見たい見たい」と言っては本末転倒だ。
だからあなたがもし気になっても、まぼろし堂さんに「見せて」とは言わないでね。
約束だ。
はい、これがおばあちゃん司令官の鎮座するコックピットだ!!
ハンドメイド感がたっぷりだけどもカッコいい!
実際に購入した後に見ると感動もひとしおだ。
ちゃんとモニターで外を監視できるようになっているぞ。
…いや、でもここ寒くないか?
よく見るとここは店舗内ではなくって、店舗のひさしの部分。
イスの下も砂利だ。
心配して「寒くないですか?」と聞いてみると、おばあちゃんは「これがあるから大丈夫!」と、傍らのストーブを叩いた。
でもストーブ、ついていなかった。
今日すんごい寒いぞ、ホント大丈夫か!?
さらにその奥、駄菓子屋の店舗内も見せていただけた。
こんなコロナ禍ではなければ、ここに子供たちがひしめき合っていたのだろう。
「レトロでいい感じでしょ。もう商品も少なくなっっちゃったけどね。」というおばあちゃんは寂しそうだった。
天井まで活用され、所狭しと陳列された商品の数々。
これは子供だけではなく、大人が来たってワクワクする空間のはずだ。
どんどん昭和の痕跡が失われていく中で、こういう空気に触れることができるのはとても貴重だ。
おばあちゃんは夜なべをして、ここで駄菓子を紙袋に詰めていると語っていた。
寒い中ありがとう。
「駄菓子屋なんて、全然儲からないけどね。儲けなんて考えたらやっていけないの。」とおばあちゃんは言う。
しかし店舗を紹介してくれるおばあちゃんからは、本当に好きで駄菓子屋を続けているんだなっていうのがひしひしと感じ取れた。
また来るよ!(数時間後に)
さらにおばあちゃんは、その他の手動販売機についても説明をしてくれた。
うん、これらも手動なのだ。自動のものはここには無いのだ。
上の写真をご覧いただきたい。
販売機はあと2種類あるようだ。
向かって左側は、レトロなハンバーガー自販機…を模したもの!!
僕の大好きな機種だ。
これまた手動ではあるのだが、このハンバーガーすごく食べてみたい!
…しかし残念ながら、今の時間は提供できないのだとおばあちゃんは言う。
このハンバーガーを担当しているのは、おばあちゃんの息子さん。
しかし今は不在であり、夕方になってからの登場予定なのだ。
むぅ、残念。
その他、ドリンク類の手動販売機もあるが、これは本日お休み。
コーヒーやラムネ、ブタメンなどのメニューがある。
なかなかイカしたデザインであるが、どう動くのか予想ができない。
これもとても気になる。
コーヒー好きの僕としては、特にコーヒー飲んでみたい。
おばあちゃんはいろんなことを語ってくれた。
こんなコロナ禍でも、なんとか営業しようといろいろ考えたのが息子さんであること。
これら数々のギミックを作成したのも息子さんであり、こんな才能があったのかと驚いたこと。
なるほどな、じゃあこれもう、息子さんに会わないわけにはいかないじゃないか。
また夕方にここに戻ってくるわ。
そんでハンバーガー食べるわ。
ひとまずここを出発する前に、おばあちゃんと記念撮影することにした。
おばあちゃんは店内からカッパの手人形を持ってきてくれた。
おばあちゃんは、僕の愛車の日産パオも「かわいいね」と興味を持ってくれたのでご紹介した。
僕もレトロな物が好きだし大事にしたいから、この日産パオと出会い、レトロ自販機と出会い、その流れでこのまぼろし堂さんを知ることになったのだ。
巡り合わせに感謝。
カッパのヤッペ君も入れて記念撮影した。
愛車の日産パオも一緒に入れるべく、店舗の前まで移動させた。
「子供たちと直接話すことはできなくなっちゃったけど、販売機横の窓からこの人形を使って語りかけると、小さい子は本当に喜ぶのよー。」とのことだ。
間違いないね。最高だね。
こうして僕は、いったんおばあちゃんに別れを告げた。
黄昏バーガー
太陽が西に沈む頃、僕は再びまぼろし堂にやって来た。
自転車でやって来た地元の高校生2人がうまいうまいとハンバーガーを食べており、その彼らが立ち去るのと入れ違いのタイミング。
ちょうど外に出ていたおばあちゃんが、「おかえりなさい、息子にちゃんと伝えてハンバーガー用意してもらっているよ」と言ってくれた。
わざわざ伝言していただいており、誠に恐縮。
では、ハンバーガー販売機の前に立とう。
「いらっしゃ~い!」と、ハンバーガー販売機の横の小窓からヤッペ君が出てきた!
裏にいるのは息子さんだ!
いや、もうここからは親しみを込めて"お兄さん"と表記させていただこう。
わー、楽しみ楽しみ。
お兄さんがいてくれて嬉しい。内心、「もしいなかったどうしよう」と思いつつ再訪したのでね。
改めてメニューを確認しよう。
この3種類だ。
同行者がおり2名なので、2種類オーダーしよう。
チーズバーガーとハラペーニョバーガーだ。
支払い方法はさっきの駄菓子販売機と一緒。
ヤッペ君の指示に従いお金をトレーに置き、支払い完了だ。
このあと2・3分、裏でお兄さんが調理をし、「できましたよー」と声が聞こえたので販売機前に行くと、下の取り出し口にハンバーガーのケースが置かれた。
しっかりガッチリしたケース。
でも、ケースの外側からでも中のハンバーガーがホカホカなのが実感できる。
さぁ食べよう。
ここはあえて外のテーブル席で食べよう。
車内の方が暖かいが、それじゃあ風流じゃない。
この夕暮れの空を眺めながら、外で食べたい気分なのだ。
おーし、アッツアツだぞー!!
チーズバーガーの方は、チーズがとろーりはみ出して存在感を主張してくる。
レトロ自販機のデフォルトサイズよりも、ずいぶん大きめのハンバーガーだ。
2倍くらいか、それ以上の質量があるかもしれない。
ガッツリ系だ。
だけども素材はレトロ自販機のものに近い気がする。
似せて作ってくれているのだろう。嬉しい限りだ。
ハラペーニョもしっかり辛いぞ。
辛党の僕は喜んだ。
よーし、せっかく再訪したからには駄菓子ももう1セット買っちゃうかー。
おばあちゃん、買うよ!
まだハンバーガー食べ途中だけど、思いついたから即買わせてくれ!
販売機越しに声を掛ける。
今度は、お父さんの家呑みセット(500円)だ。
これを口実に飲もう。
駄菓子をツマミに飲む。
大人の特権だ。にもかかわらず、実施した記憶がちょっと無い。
これを機会にやらずにどうするってんだ。
さっきの遠足お任せパックに比べ、ずいぶん大きいサイズであった。
期待が高まる。
今日の買い物はここまでだ。
菓子弁当やコーヒーなどは、また次回に取っておこう。
宿題があったほうが旅は盛り上がるのだ。
まぼろし堂は夕闇の中へ
ハンバーガーを食べているうちに、みるみる空は暗くなっていった。
まだまだこの時期、日没が早い。
ただ、この光景はステキだ。
なんだったら再訪した理由の1つが、この夕暮れ時の店舗を見てみたいというものであった。
販売機も暗くなると照明がつくんだね。
完全アナログではなかった。実は電気が通っていた。
お兄さんとおばあちゃんが店舗の外に出て来てくれた。
コロナ対策で充分に距離を取りつつ、僕らは会話をした。
お兄さんは、最近ではここが各メディアなどに出て盛り上がって来た話、今も次の取材のための対応作業をしている話、そしてツーリングするライダーさんの集合・解散場所としても活躍している話などをしてくれた。
すごいね。
ホント最近はレトロブームが来ている。
ただ、コロナが与えたダメージも甚大だ。
今までは多くの子供がこのお店に来て、おばあちゃんやお兄さんと話をしていた。
中学生女子とかもおばあちゃんに恋愛相談しに来るケースが多かったらしい。
そして、月1回はこの敷地に100人くらいの子供が集まり、みんなでビンゴ大会などして楽しんだそうだ。
それもこれも、コロナでできなくなっている。
2020年なんかはほとんど営業できなかったと聞く。
…そんなお兄さんの話を、複雑な思いで聞いた。
せっかくこの地で育まれた文化が、コロナのせいで中断されてしまうのは残念だよね。
駄菓子屋文化のロストジェネレーション世代が、ここに生まれてしまうのかもしれない。
…いや、それは杞憂であろう。
僕は直前の自分の懸念を訂正する。
今日、おばあちゃんやお兄さんと話してわかった。
接し方がちょっと異なったとしても、駄菓子屋がそこにあり、この町に子供がいる限り、この絆は無くならない。
お二人のこの人柄があれば、どんな世の中でもきっと大丈夫だ。子供の笑顔は無くならない。
そして、僕ら大人も。
駄菓子でワクワクするのは、子供だけではないのだ。
子供時代にワクワクした記憶は、きっと一生忘れることなく、今日の僕のようにまたときめくことができる。
とても大事なことだ。
おばあちゃんとお兄さんは、手を振って見送ってくれた。
胸が熱くなった。
その後に、田園地帯を走る車中から眺めた残照はとても綺麗だった。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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P.S.
この度、貴重な内部を見せていただいた上、撮影及びWeb掲載のご許可をいただきましたまぼろし堂様に、深く感謝いたします。
早くあの店舗内の売り場が復活し、敷地に子供たちの歓声が響きますよう祈っています。
住所・スポット情報