苫前町にはクマに関するスポットや、クマが描かれた看板が多い。
クマとの因縁が深いからなんだけど、それは本編で語ろう。
そして役場前には「とままえだベアー」というクマのオブジェがある。
一見普通そうに見えて、実はちょっとヘンテコなデザインのクマなのである。老朽化し2021年秋ごろにリニューアル設置されたりしている。
今回はそのそのとままえだベアーを新旧あわせて7年ほど追いかけた記録をご紹介したいと思う。
シンプルなオブジェではある。しかしながら意識して深堀していくとなかなか面白いのよ、この子は。
役場の前のリバーシブルクマさん
いろいろウンチクを語りたいところだが、まずはとままえだベアーがどんなベアーなのかご紹介しよう。
苫前町の役場の敷地に立つ、どこかマヌケだけどもちょっと凶暴な顔をしたクマさんが、とままえだベアーだ。
この短足っぷりで2本足で立ち上がって大丈夫なのかなって、親でもないのに心配になる。
ホンモノのクマもこのくらい足が短いんだっけ?どうだっけ?気になるけども調べない。僕はクマに興味があるのではなく、とままえだベアーに興味があるからだ。
町役場を背にしてガオーってなってる。
クマを取り囲むアーチ状の看板は色あせているしボロボロだが、そこいらの話は後半に触れるので今は気にしなくていい、安心しておいてほしい。
…って、これだけだと普通に「クマの像ですね」で話は終わりである。
僕も最初はそう思っていた。
だが、妙なのである。
道路沿いに立つこのクマ。
道路の北側から走って来たときも、南側から走ったときも同じように見えるのである。
何度も北海道を走っているうちにそれに気づいた。
…どういうことだろう。
例えばビルの側面に設置されているお店の看板などは、表裏どちらも同じデザインのことが多い。ただしそれは2次元の話だ。このクマは3次元、立体なんだぜ…。
今までは車窓から見て通り過ぎるだけだったこのクマのミステリーを解明しようと、車を停めて調査することにした。2016年のことであった。
うおぉ!!真実はッッ!
やはり表裏一体のクマであった!!
3次元の像ではあるが、どちらから見てもクマの顔になるようになっているようだ。
ただ、気になる!
アーチ状の看板がジャマして良く見えない、表裏の中央部分はどうなっているんだ。
2匹のクマが背中合わせになっているのか??
…だろうな、もちろんそれが自然だ。
僕は徐々に目線を変え、クマを斜めから見てみる…。
お気付きだろうか…。
クマの耳の後ろ、何だかわからいけどもう1つ耳があるように見える。
あってはいけないところに耳がある。
ヤベーぞ、これヤベーぞ…。
ゾクゾクしてきた。
クマの後頭部になんか生えている。
もう疑う余地はない。裏側のクマ、そのものだ。完全に背中が融合した2匹のクマだったのだ。飛騨地方に伝わる"両面宿儺(りょうめんすくな)"みたいだ。
なんてこった。こりゃスゲー、マジスゲー。
上記の動画はそれから数年が経過した2022年に改めて撮影したものだが、僕は盆踊りのようにとままえだベアーの周囲をグルグル回って「スゲースゲー」と呟いたさ。
アーチ看板の横の柱は、そのクマの接合部分を隠す役割もあるのかもしれない。
ここが見えてしまうとみんなギョッとしてしまうし。心臓弱い人だと事故りかけないし。
しかしそんな斬新なデザインのクマは、僕の心をギュッと掴んだ。
なぜ苫前はクマの町なのか
とままえだベアーのいる苫前町とはどこなのか。
とままえだベアーのオブジェでは、「ここだよ!」と北海道の地図上にて苫前の位置を示しているので、せっかくだからお借りして説明した。
北海道の北西部、日本海沿いの「オロロンライン」を日本最北に向けて疾走する途中に通るであろう、国道232号沿いにそれはある。
ついでなので触れたいが、「とままえだベアー」の看板がユニークだ。
「と」はクマの手になっているし、「え」はクマが歩ているかのように前足と後ろ足になっている。その「え」がブリッとおならをしているかのように「だ」がある。
なんだこれ、好き。
前の章でも掲載したが、これは2015年に僕が初めて撮影したときのものである。
それより前から見かけてはいたけど、なんとなく「今回は撮影してみよっかな」ってなった。確かこのときはまだこのオブジェは注目を浴びることもそんなになく、僕の熱もそれほどではなかったと記憶している。
なんでそんな折に撮影したのかと言うと、ここから山の中にグネグネと25㎞ほど入った突き当りにある「三毛別ヒグマ事件復元地」に行きたかったのだが時間的に厳しいので、クマ繋がりのここで手軽に済ませたって次第だ。
今サラッと"三毛別ヒグマ事件復元地"と書いたが、それはいったいなのなのか。
上記の写真に説明がある通り、1915年に発生した、巨大クマによる人間大虐殺事件である。
ヤバいんだ、これが。7名の村人がクマに襲われて死んでしまった。…って簡単に書いてははばかられるほどに、凄惨な事件だ。
心臓が強めの方は是非Wikipediaさんの上記リンク先を見ていただきたいなって思うんだけど、大正時代の山奥の通信手段もない小さな集落でクマ大暴れで、女性や子供が大変にグロテスクな殺され方をしてしまう。
スプラッターホラーな映画のような展開だ。(← 実際に映画化されていたらすまない)
この時僕はその事件現場に行こうとして時間がなくって止めた。
でもそれより以前に一度事件現場まで行ったことあるんだけど、実物大だというクマの像はアホみたいに大きいし、周囲の森は深いし暗いしそこまでの道も狭いしで、本当におどろおどろしいスポットだったのよ。
ここにとままえだベアーがいる理由は、悲惨な事件があったこと、そして未開の地を苦労して切り開いた人たちがいることを忘れないようにする意図があるとのことだ。
…とはいっても、日本人はすげー寛容だなって僕は思う。
そんな残虐なことをされても、とままえだベアーはどこかユニーク。先ほど記載した通り、とままえだベアーのアーチ看板はすごくユニークだし。
探せばゆるキャラ風のクマの親子の看板も町内にいくつかある。
もうクマは苫前町のマスコットキャラだ。
プーさんみたいにデフォルメされていてかわいいじゃないか。
おいおい、敵(かたき)じゃないのかよ、憎くないのかよって思ってしまう部分もあるが、そういうのは水に流したらしい。
うん、大事だと思う。
かつてはアメリカ軍にけちょんけちょんに負けた日本だけども、終戦後すぐに友好関係を築いたし、今は大半の人はアメリカに恨みとか無いし。
そんな日本人のキャラクター、僕は好きだぜ。
老朽化とリニューアル
とままえだベアーが完成したのは、1988年のことだそうだ。つまり30年以上も海の近いこの地で潮風や厳冬に耐えて立っていたのだね。
そんなとままえだベアーも老朽化が進んできた。倒壊する可能性も出てきた。
そして2021年、アーチ看板を残してクマは撤去された。
当時の僕はあまり経緯を知らずに、クマがいなくなった情報だけを耳にして焦った。
「クマどこ行った?山に帰った?もう戻ってこないの?」って不安になった。
しかし裏ではリニューアルプロジェクトが動いていたのだ。
SNSや口コミで近年ずいぶんと有名になってきたこのクマ。クラウドファンディングでお金を募ったりもし、クマ復活に向けて関係者の方々が尽力していた。
その結果、2021年内にピカピカになって再降臨したそうだ。
よーし、生まれ変わったクマに会いに行くしかない!!
翌年である2022年、豪雨の中を進む。とままえだベアーの新しい姿を見るために!
どんな姿になったのだろうか?
世の中の流れ的にどんどん無難な方向になっているから、凶暴な姿ではなくアニメっぽうデザインだとかゆるキャラ風になったりしているのだろうか?
はい、同じでした。
いや、当然ながらアーチ看板もクマ自身もピッカピカになっているけどな。
デザインは基本的には全く同じだ。これはこれで嬉しいね。おかえりなさい。
あと、タスキをするようになったのね。
でも暴風雨で丸まったためか、極限まで細くなって何が書いてあるのかわからない。
まぁでも漢字4文字であること、役場の前の国道に立っていることなどを加味し、「交通安全」だろうと推測した。そう思ってタスキを見ると、ほぼ間違いなくそうだと確信が持てる。
明確に変わった点が1つだけある。
それが目が飛び出したということだ。
こうして同じ角度で見てみるとおわかりになられるであろう。
なぜ目が飛び出したのか。
僕自身は見たことはないが、リニューアル後のこのクマは、夜になると目が白く点滅を繰り返すという。そのためのギミックとして目が飛び出したのではないかなって思う。
以前のクマも、目が光ってもおかしくないような素材ではあるが、昔は光っていたのかどうか、ちょっと調べてもわからなかった。
というわけで、昨年新しくなったとままえだベアー。
北海道を海岸線沿いに一周するならほぼ確実のその前を通るであろう。
ほんの1・2分あれば車やバイクを止めて撮影でき、そしてちょっと面白いスポット。旅のひとときの清涼感を与えてくれるに違いない。
ぜひこの不思議な造形をその目で見てほしい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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