鎌倉市の片隅…というか正確には逗子市に当たるんだけど、1000年前の不思議な洞穴があるんだ。どうやら集団墓地のような用途の洞穴だったらしい。
そしてその洞穴は国内でも有数の有名なお化けトンネルである「小坪トンネル」の上にあり、公開されるのは春と秋の約1ヶ月ずつだという。
なるほどなるほど、いろいろ不思議な要素が詰まっているスポットなのだね。
そのスポットの名は「まんだら堂 やぐら群」。
2023年秋の部の公開は、10/19~12/15であり、土日月曜と祝日のみだそうだ。
もう間もなく公開だな。
それを記念して、2023年春の部を訪問した記録をご紹介しよう。
いったいどこから行けばいいのか
まんだら堂 やぐら群への行き方は、逗子市の公式Webが以下のように記述している。
●JR逗子駅から バスのりば6番
亀が岡団地循環 “亀が岡団地北” 下車 徒歩5分
同上 “緑ヶ丘入口” 下車 徒歩12分
●JR鎌倉駅から バスのりば3番
緑ヶ丘入口行き “緑ヶ丘入口” 下車 徒歩8分
結論から言うと、上記のように公共交通機関を使うことを強くお勧めする。僕は公共交通機関で行ったことが無いのでやや無責任な発言だが、マイカーだと結構大変だったからだ。
小坪トンネル。僕が小さい頃はTVの心霊番組ブームみたいのがあったりして、小坪トンエルが頻繁に取り上げられ、たぶん日本国民大体知っていた。
フロントガラス一面に手形が付いていてどうのとか、突然上から幽霊が降ってきてどうのとか、中でエンジン停めてライトを消してクラクションを鳴らしたらどうのとか、そういうストーリーに子供の頃の僕はドキドキしながらTVを見ていたものだ。
この小坪トンネルの上方面にまんだら堂がある。
若かりし頃、Webの情報で「小坪トンネルに幽霊が出るのは、上にまんだら堂があるから」みたいなものを何度も読んだ。
僕はよく調べもせずに、「へぇそういうお堂があるのだな」くらいにしか思っていなかった。
その後も随分長い間、まんだら堂が洞穴だと知らずにお堂だと思って過ごしてきたんだよな。お恥ずかしい。
そして2023年春、ようやく自分の目でまんだら堂を見る機会を得たのだ。
僕は、まずは「名越切通・亀ヶ岡団地口」の近くにコインパーキングがないかを調べた。結論、全然ねぇ。この近くに駐車場があったら10分くらい歩くだけでまんだら堂に行けるのに。
次に県道311号の小坪トンネル近辺を車で2往復くらいした。結論、全然ねぇ。
なんだったら、上の地図内にコインパーキング1つもねぇ。駐車場不毛地帯。
地図の右下に書いてある通り、遥か右下にコインパーキングがあった。これが最寄りかもしれない。
まんだら堂から直線距離でも余裕で1km以上離れているけどな。
しょうがないのでそこに車を停めた。
次にそこから歩いて名越切通・亀ヶ岡団地口に向かおうとしたが、そこに至る道がかなり複雑そうだ。
小坪トンネルのすぐ横にあるように見えるが、実際は小坪トンネルの上だ。でもトンネルのある県道311号からそこまで向かうのが遠そうだわ複雑そうだわで、なんかもう気分が萎えた。
そこで目を付けたのが「法性寺」だ。
県道311号から法性寺に入り、その境内の上らからまんだら堂に行けるんじゃね?
Webを見てもこの方法で行った人の情報は見つからなかったが、たぶん行ける。歩いて行ってみよう。
県道311号を反れた。この坂道の奥に法性寺がある。
写真には駐車場の枠があるが、これは法性寺参拝客のためのものだろう。このあと僕は法性寺にも立ち寄るが、まんだら堂へのアプローチのためにここを使っていいかどうかはちょっと良心の呵責に苛まれる案件かな。僕はなんとも言えない。
まんだら堂を示す立て札があった。よかった、この道で間違っていないぞ。
立て札によるとここからまんだら堂までは徒歩で27分。なかなかにエグい時間だ。
しかも後から知るのだが、工程は登りの坂道と山道だ。これから行く人たち、気合入れろよ。
坂道と山道の織り成すアプローチ
坂道がシンドい。
僕が訪問したのは5月下旬ではあるが、もうこの時期の南関東は夏のように暑く湿度も高くてジトッとしているのだ。汗かくわ。
こんな感じのつづら折りの道をヒーヒー言いながら登る。ちなみに周囲には誰1人いない。孤独を感じる。本当にこの道、まんだら堂まで続いているんだろうな…??
10数分歩いたところで、右手に法性寺の奥の院が見えた。
上の写真の階段を登ると奥の院なのだが、ここは写真の左方面に行く。奥の院の前を通過していくようなイメージだ。
それがこんな道。
さっきまではつづら折りでなかなかの登り坂だったとはいえ、車も走れる道であった。それが奥の院を越えたところからこんな心細い幅になっちまったよ。
でもネコいた。ネコかわいくって、なんだか元気出た。
墓地通過。寝てらっしゃる皆さますみません。まんだら堂に行きたい僕がすぐ脇を通過いたします。
墓地を越えてしばらく歩いたらまた墓地。
いや、しかしちょっと待て。進行方向である左端、写真自体は切れてしまっているけども、実際の道も切れているんだ。この先に道はないんだ。
おいおいおい、どういうことだよ。まんだら堂にはどうやって行けばいいんだよ。
一瞬あせったが、心を落ち着いて写真右端を見てほしい。
緑に生い茂った草むらに中に、わずかに階段が見えるであろう。そこが正解だ。
名越切通を示す木の立て札がある。そこからやや本格的なハイキングコースが始まるのだ。
ここから先はちゃんとした靴を履いていないと苦労するぞ。山歩きだと思って踏み込んだほうがいいぞ。
では墓地よ、さようなら。
ところどころ狭いしモジャついている箇所もあるが、まぁ全然騒ぐレベルではない。
あ、「サリーちゃんの館」の裏側だ…。
えっと、サリーちゃんの館っていうのはね、小坪トンネルの上あたりにある超巨大な洋館。県道311号からも見えているので「なんだあれは??」ってなったことがある人もいるでしょう。
僕はアニメ見たことないからわからないけどサリーちゃんの家に似た洋館なのでこう呼ばれているらしい。
昔、ながらく幽霊屋敷みたいに言われていたようだ。空き家だった時期も長いらしいし。でも結論現在は普通の住宅だから、不用意な詮索はしないでね。
ここでは左上に続く道から降りてきてから、振り向いて撮影した。
途中で分岐は2・3箇所あったけど、どこも立て札があるので安心だ。
ちなみに切通とは、山を切り開いて作った街道のことで、主に鎌倉時代に作ったものをこう呼ぶみたい。鎌倉周辺だとか千葉県でちょこちょこ見かける気がするな。
そしてさらに10分弱歩くと、まんだら堂やぐら群を示す標柱が出てきた。
上の写真の左端に立っているのがそれだ。
おっ、ついに到着だな。
まんだら堂に続く階段の下には「本日公開中」の貼り紙がされていた。
僕が訪問した2023年春の部は、4/22~5/29のおよそ1ヶ月だ。しかし前述の通り土日月祝のみなので、実質10数日しか訪問することができない。
結構レアな遺跡なのだ。
ようやく来れたぜ、まんだら堂やぐら群!
お墓のアパート、まんだら堂やぐら群
やぐらとは何か
普段は閉じているというゲートが明け放されていた。ここをくぐる優越感よ。
こんな感じのゲートなので閉鎖時においてもゲートの向こう側は見える。
そしてゲートの正面にこれからご説明するやぐら群があるので、ベストアングルではないにしてもそれなりに眺めることはできる。
ただ、やっぱ敷地の中に足を踏み入れていろんな角度から眺めたいもんね。この時期を狙って来て正解だったと後で改めて感じることとなる。
ゲート横にはこのような簡単な受付テントがある。
そこで説明を受け、パンフレットをもらう。任意で協力金を払うこともできる。
おそらく地域の人が整備してくれているから、こうして僕らは貴重な遺跡を眺めることができるのであろう。地域の人が携わってくれているから、春と秋だけの土日祝など限られた日の公開なのだろう。感謝感謝だ。
受付のおじいさんが「この奥に展望台があるので、先にそっちに行くと全容が見れていいですよ。景色もいいし。」と言ってくれたので、パンフを持って展望台へと歩く。
わずか100mほどの距離で、やぐら群を見下ろす小高い丘の上に到着した。
さてさて、ここまでやぐら群をほとんどお見せせずに散々引っ張ってきてしまったな。でも僕自身、ここに来るまでいろいろ大変だったからご理解いただきたい。
それではやぐら群をお見せしよう。
緑に覆われた森の中にぽっかりと現れた円形の広場。
それをコロッセオにように取り囲む岩肌には、無数の穴が開いている。
これがまんだら堂やぐら群。
そもそもここで言うやぐらとは。
僕は以前は"櫓(やぐら)"、つまり城壁にくっついているとかにある中規模の建物だとか、砦のようなものとか、火の見櫓や盆踊りの櫓のような、木造建造物をイメージしていた。
しかしここの場合は違うんだ。
やぐらっていうのは、神奈川県の鎌倉とその周辺だけで見られる横穴式の洞穴型の集団墳墓を指すそうだ。
つまりは岩肌にあるお墓のアパートみたいなものだな。
こういうものを作った理由は定かではないんだけど、鎌倉って三方を山に囲まれていて平地が少ないから、お墓は山の中にこうして立体的に作ったのだと言われているよ。
鎌倉時代、つまり1200年代くらいものだそうなので、800年は経過しているのか…。
当時は各所にたくさんあったそうだが、今綺麗なかたちで現存しているものはすごく少ない。こうして見られるのは奇跡に近いのだ。
それに、このまんだら堂やぐら群にはやぐらが150くらいあり、これは当時としても最大規模だと言われているよ。
展望台からは、森の向こうに鎌倉の海が見えた。
かすみの多い晴れの日なのでちょっとパッとしない景色だけど、それでもヨットの浮かぶ神奈川の海は絵になるよね。
では、展望台を降りてやぐらの正面に行こう。
森の中の幽世
"やぐら"についてはわかったが、では"まんだら堂"っていうのは何なのだろう?
かつての僕は、"堂"とか"やぐら"とかっていうネーミングだもんだから、小坪トンネルの上には古めかしいお堂があって、そこからオバケがわんさか湧いていると思ってしまっていたのだ。
しかし残念ながら、まんだら堂がどんなものかは現状において解明できていないらしい。
古い文献にまんだら堂という記述があるのでここのことをそう呼んではいる。そしてやはりなんらかの建造物であっただろうとは言われているが、それ以上のことはわかっていないのだ。
かつてはこの横穴の中に遺体が収められていたのだろうか?
少なくとも今は、石塔が鎮座している。まるでそれは、アパートの住人がこちらを眺めているようにも見える。
僕がこの世からあの世を垣間見ているように、あの世からこの世も見られているのだろうか?
丁寧に四角く区画分けされた部屋が、なおさらアパートっぽく感じさせるよね。
見上げるとなかなかにダイナミックだ。森の中にこんな遺構があるだなんて、すごいな古都鎌倉は。
やぐら群は、さっき展望台で見た円形広場だけではない。
上のMAPで示されたA群~E群の通り、わりと広範囲にわたっている。さっき展望台から見たがのメインとなるB群だ。
もう1つ、隣にあるA群を見れるそうなのでそちらに向かう。
ここには火葬跡があったらしい。
遺体を焼いて、すぐ脇のやぐら群に埋葬したのだね。
A群に辿り着いた。
こちらはB群に比べるとやぐらが不揃いな気がした。B群の方が綺麗な弧を描いていて僕が好きかも。
でも分厚い岩肌をくり抜いていて、ワイルドで力強い印象だ。
太古の人々の息づかいを感じようなスポットだ。
鎌倉周辺にしか存在しないやぐら。
埼玉県の「吉見百穴」も似ているような気がするし、探せば国内に似たようなものはあるかもしれないが、やぐらという名称なのは鎌倉だけなのかな。
貴重な貴重な遺跡、これからも残り続けてほしいね。
エピローグ
来た道を歩いて引き返す。
心にもゆとりが生まれて、行きには見えなかった景色も見えてくる。
遊歩道の柵の向こうに、ちょっとだけ気になるものが見えたので僕は足を止めた。
カメラをズームしてみよう。
あれもまた、やぐらなのかな?
きっと鎌倉には無数の遺跡があり、一般人に広く公開されているのはほんの一部なのだろう。
だからまだまだいろんなものが眠っているのだな。…いろんな意味で。
車に戻った後、もんのちょっと小坪トンネル方面に戻ったところにあるコンビニで休憩をした。
汗をかいたし疲れたので、からあげ棒とアイスコーヒーが体に染みた。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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