町中を走る国道からわずか徒歩2・3分で、あのインディジョーンズが飛んだり跳ねたりするようなワイルドな世界にワープできる。
…と聞けば、まぁ全人類行くよね。
事情があってすぐには行けない人も多いだろうけど、気持ちだけは行く気満々になるよね。
今回はそんなスポットをご紹介したい。
名前を「伊尾木(いおき)洞」という。
あと、終盤に「男はつらいよ」の「寅さん」の地蔵も出てくるぞ。
えっ、テイストが違いすぎるって??
いや、だって近くにいたんだもん。異色のコラボだけども、しょうがないじゃないか。
というわけで、本編へどうぞ!(←強引に)
白き彫像、そして漆黒の洞窟へ
まずは伊尾木洞の場所を思いっきり俯瞰でご紹介しよう。
ここである。
高知県の東部の海沿い、国道55号。
四国の南海岸をドライブするのであれば、誰しもが通る道だと言っても過言ではない。
そんな四国の大動脈であるシーサイドコース。
そのすぐ裏に… ―
― こんな世界があるというのだから、驚きだ。
森の中、絶壁に360度囲まれた秘密の空間。
世間の喧騒から隔離された静寂の世界。
日常生活でヒーヒー言っているあなたに、今一番必要なスポットではなかろうか?
国道55号沿い、「伊尾木公民館」に愛車を停めた。
伊尾木洞には駐車場はない。
しかし150mほど離れたこの公民館に停めることができるのだ。
『伊尾木洞へお越しの方へ こちらの伊尾木公民館駐車場をご自由にお使いください』っていう立て看板があったのだ。
神対応。
公民館、結構ボロいけれども神対応。
国道を一瞬歩いた後、国道裏に入っていく道がこれだ。
路地というか、路地ですらない擁壁の上の工事業者しか歩かない部分というか…。
イメージはそんな感じだが、ちゃんと伊尾木洞を示す看板があるので入っていく。
対向から人が来たら擦れ違えないほどに狭いけどな。
そんで唐突に白い彫刻が出てきたな。
上の写真の通り路地は非常に狭く、そして彫刻の前後には街路樹が立っているので、彫刻の2mくらい手前まで来て初めてコイツの存在に気付く。だからビビる。
夜だったらきっとこれの3倍は驚いていただろう。
街路樹・彫刻・街路樹・彫刻…。
狭い空間に配置するから、もう彫刻の顔に街路樹の葉がかかってしまっているぜ。
これはどうやら地元の作家の方の作品を展示している「伊尾木・彫刻の村プロジェクト」の一環らしい。
結構劣化が進んでしまっているのが残念だ。
ただ、そういう経年劣化も含めてアートだよね。アートはいいよね。
走行しているうちに、メインとなる伊尾木洞の前まで来た。
写真中央のおじさんの先に暗い穴を開けているのが伊尾木洞だ。
ここが観光地だと知っていなければ、足を踏み込むのが躊躇されるような暗さを醸し出している。
あ、だけどもね、写真には写っていないけど、この横に貼り紙があった。
『伊尾木洞の通路が部分的に水に浸かっている場合があります。伊尾木公民館にて長靴の貸出をしておりますのでご利用ください。』とのことだ。
なんてこった。優しすぎる公民館だろ。
神だ。人々に物を与えすぎて自分はボロを纏っているタイプの神、伊尾木公民館。
しかし僕は長靴は不要。
濡れたら濡れたで、乾かせばいい話さ。Go。
洞窟と、シダの生い茂る神秘世界
洞窟に足を踏み入れる。
照明はほぼ無く、自分の足音がやたらと反響する。
…すごい世界だな、コイツは。
入口にあった説明板によれば、この洞窟の規模は高さ5m・幅3mそして長さは延長で100mほどなのだそうだ。
この洞窟を成す地層はおよそ300万年前の海底でできたもの。
それが隆起して地上に出た。
そして周囲が海だった時代に波や風で浸食されて、海蝕洞窟になったのだそうだ。
つまりはこの洞窟は、海からの波が「ザッパーン!」って感じで通り抜けていたのだろう。
それを繰り返して、こんなにも大きくなったのだね。
洞窟の直線状の距離はわずか50mほどなので、入口あるいは出口の光がほんのりと射し込んでいる。
ギリギリで足元は見えるものの、洞窟内は大きく川と歩道に左右で分離しているし、歩道部分もところどころ濡れているので注意が必要であった。
この眺めが、個人的なベストである。
洞窟の出口近くから眺める、その先の世界。
一面が緑であった。
それまで後ろからかすかに聞こえていた、国道を走るトラックの音も完全に聞こえなくなった。
ここから先は、現実から隔離された別世界なのだ。
これはもう、インディジョーンズのロケに使えるようなアドベンチャーフィールドではなかろうか。
変な鳴き声のカラフルな鳥とか、飛んでそう。
後ろを振り返る。
洞窟は入口側は町に面していたので整備されていたが、裏側のこっちはワイルドこの上ない。
何万年もの浸食の歴史を感じさせる、ゴツゴツした岩肌が手に取るように把握できた。
さてと、洞窟はここまでなのだが、一番魅惑的な空間はそこを出た先である。
ここから先は、正確には「伊尾木洞のシダ群落」っていう別スポットである。
ここ、すっごいの。
写真ではよくわからないと思うけども、プールくらいの大きさの空間を、10m以上も聳える岩壁がグルリと取り囲んでいる様子を想像してほしい。
天然の箱庭のような空間なのだ。
そこに、遥か上部にある空からの光が差し込んできている。
なんて神秘的な光景だよ。
ここの温度・湿度・日当たりなどが、シダにとって最高だったそうだ。
従い、ここには40種類ほどのシダが生息しているという。
日本でこんなにも多数のシダが一箇所に生育しているスポットは、きわめて珍しいらしい。
なので今から100年近くも前の1926年に、天然記念物に指定されたのだ。
ところで、以前にはここにも数体の彫刻があったそうだ。
だけども劣化が進んだためか、近年撤去されたと聞いている。
彫刻があったらそれはそれで不思議な世界観になっただろうし、先ほど書いた通り例えかなり朽ちてきていたとしても、それも1つの芸術だったろうと思う。
なので無くなってしまったのは個人的には少し残念だ。
メインはここまでだが、実はこの先もコースがある。
以前は結構荒れていたが、2020年前後からはかなり綺麗に整備されたとも聞いている。
行ったことはないから知らないけど。
このまま川に沿って奥へと入っていくと、400m地点くらいで滝が現れるそうだ。
基本的に遊歩道はそこまでとなっているらしい。
僕もまた機会があったら奥まで足を踏み入れてみたい。
公民館裏の寅さん地蔵と、その謎
ちょっとオマケ的な要素だが、今回起点とした伊尾木公民館にスポットを当てたい。
実はこの公民館の敷地内に、珍しいお地蔵さんがいるのだ。
その名も「寅さん地蔵」。
僕は伊尾木公民館まで戻ると、その裏手に回り込む。
そこにいた。
寅さんが…、えっと…ー
― 2人。
寅さんが2人いるケースの心の準備はしていなかったので、ちょっと面食らったな。
ただし向かって右手の大きい方が俗に"寅さん地蔵"と言われている方なのだそうだ。
じゃあ左は?
知らない。わからない。
こっちは色が塗られた跡もある。
めっちゃリラックスした顔で、テキトーに右手で拝んでいる。
これも寅さんだよね?他人の空似じゃないよね?
だとしたら誰だってなるし。
まさかインディジョーンズじゃないだろうし。服装は寅さんもインディジョーンズもほぼ一緒だけどさ。
いろんなところをフラフラするっていうライフスタイルも一緒みたいだけどもさ。
こちらの寅さん地蔵はなかなかにリアルだ。顔立ちも似ている。
ところで寅さん地蔵って、いったい何なのか。何のために造られたのか。
現地に簡単な説明板もあるが、それをご説明する。
僕は寅さんの出てくる「男はつらいよ」という映画を1ミリも見たことがないのでわからないが、1969年~1995年まで48作も作られたそうだ。
(その後に特別編が2本作られているので正確には50作)
実は49作目は高知県のこのあたりが舞台である「寅次郎 花へんろ」っていう物語が予定されていた。
全国を巡る寅さんであるが、高知県が舞台となるのは初めてだ。
…が、そのロケの直前に寅さんを演じる「渥美清さん」が亡くなってしまった。
1996年8月のことであった。
幻となってしまった、高知を舞台とした「男はつらいよ」。
しかし、生前多くの人々に愛され笑いをくれた寅さんを讃え、記念碑として寅さん地蔵を造ったのだそうだ。1997年のことであった。
あと、Wikipediaで「男はつらいよ」を調べていたら、こんな文章もあった。
山田洋次監督が、高知編のさらに次である第50作を構想している内容であった。
寅次郎はテキ屋を引退、幼稚園の用務員になり、子供たちとかくれんぼをしている最中に息を引き取り、町の人が思い出のために地蔵を作るという構想を早くから持ち 第49作から直結するストーリーだった。
(引用元:Wikipedia)
…これは…。
映画での構想をリアル世界で実現させたのだろうかね?
それとも偶然の一致…?
真相はわからないけれども、そんな想像をしてみるのも楽しいかもしれない。
伊尾木洞と寅さん地蔵。
全然毛色の違う2つのスポットだけども、どちらもステキだった。
どちらもちょっとだけインディジョーンズの匂いがした。
ちょっと目立たないかもしれなけど、国道55号のすぐ裏にこんな世界があるのだ。
四国の海岸線を走る際には、ぜひ立ち寄ってみてほしい。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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