2022年夏。
後世に語り継いでもいいくらいの猛暑続きの年である。
とんでもなく早い梅雨明け後、気温30℃台後半の日々が延々続いているイメージだ。
しかも愛車の日産パオのエアコン壊れたしな。
まぁパオ繋がりの皆さんのエアコンも大体壊れているので「ついにウチもか」くらいな感覚だが、とりあえず暑くて死ねる。
さて、エアコン無いなら天然のクーラーあるじゃないか。
鍾乳洞に潜ればいいじゃないか。
…となる次第なのだ。
ちょっとリアルタイムな執筆ではなくって過去のエピソードなのだが、九州一周した際に潜り込んだ「千仏鍾乳洞」の話をしたい。
オールシーズン間違いなくヒンヤリできるスポットだ。
嵐の中の平尾台突撃
昨夜から今朝の未明にかけて、中国地方で見事に台風と激突し、それを突破したつもりなんだけどね。
一度は雨、止んでいたんだけどもね。
なんでまた九州に暴風雨が来てしまったのかと、首をかしげている。
本来であれば、台風一過の青空の元、日本三大カルストの1つである「平尾台」の絶景を見たかったのだ。
だがこれでは絶景どころではない。命に係わる。
それでも僕は平尾台を目指して山の中、グングン標高を上げている。
それは目的を「平尾台にある千仏鍾乳洞」に変えたからだ。
鍾乳洞は全天候型スポット。
春夏秋冬、晴れも曇りも雨の日も、内部は気温も環境も一定だ。
信頼度100%のスポットなのだ。
平尾台に着いた。
台地の上に広がる高原だ。
うわぁぁぁぁ、もう最悪だよぉぉぉ。
標高が上がれば雨も風も強くなるもんね。
周囲の木がバッサバッサ揺れているよ。そして木の破片が辺りに散らばっているよ。
まぁそのくらいはガマンできるんだけど、霧まで出てきた。
もう何も見えないんですけど?
平尾台はカルスト台地だから、山口県の「秋吉台」や愛媛県・高知県の「四国カルスト」と同じように、草原の中に白い石灰岩(ピナクル)が点在している。
晴れている日は、そりゃもう綺麗なのよ。
実は日本1周目からここには通っているので、綺麗な風景なら知っている。
だが今回はひどいな。
こんなワイルドな平尾台は初だ。
車外に出るような勇気はないので、停車して車内から写真を撮る。
車が強風でグワングワン揺れる。
そしてもう既にこの悪天で暗くなり始めている。
実はもう17:00を過ぎているのだ。
そりゃこんな天気でこんな時間なら、僕以外に車もいないよな。
怖いよ、寂しいよ。
さて、もうすぐのハズだ。
車にはカーナビすらついていないし濃霧なので、カンだけど。
あと、この天気だしそろそろ17:30。
鍾乳洞は営業しているのか、というすごく大きな懸念があるのだけれども、それはあんまり考えないように努めている。
この鍾乳洞での正装はサンダル
17:30間際に千仏鍾乳洞の駐車場に到着した。
木々に囲まれた駐車場のためか、ドアを開けられないくらいの風だ。
だが、鍾乳洞はこの時間でこの天気でも営業しているのだろうか。
実はここから洞窟は見えないのだ。
どうやら駐車場から続く森の中の階段をしばらく下がって行かないと到達できない模様。
ただでさえ外出するのも憚られるのに、この薄暗い階段を降りて行かないと営業中かどうかすら確認できないのだ。
どうする?
ここまで来ておいて今さらなのだが、車外に出るのはやっぱり怖くて少々躊躇する。
…とそこへ、階段の下からズブ濡れになった大学生っぽい連中が登場した。
不幸にも強風で傘が壊れたようだ。
だけども皆笑顔だ。あれは満足しているときの表情だ。
なるほど、現時点では鍾乳洞は営業しているということだな。
行ってみよう!
急げ!もうラストオーダー終わっちまっている可能性もあるからな!
そのときは土下座で頼んでみよう!
激坂を下ることおよそ5分。
鍾乳洞の営業所が見えてきた。
受付の横にいたスタッフさんに「営業していますか?」と聞く。
「あ、はいこの時間であればまだやっています」と、ギリギリのタイミングであったことを臭わせるリアクションであった。
ぶっちゃけ、帰ろうとしていたような気配も見え隠れしていたけど。
後日調べたところ、土日祝は18:00までの営業。
そして所要時間の目安は40~50分。
つまり今現在17:30は、断られても不思議ではない、本当にギリギリだったのだ。
こんな時間にすみません。
とりあえず受付し、そして指定のサンダルに履き替えて洞窟に入った。
なぜ洞窟なのにサンダルなのかって?
そりゃ後でのお楽しみですわ。
昔は1人で鍾乳洞に入るのはちょっとドキドキしたり受付しづらいような気もしていた
んだけど、もう僕は全国の鍾乳洞を1人で入っているから物おじしない。
むしろ1人の方がくつろげる。
ちょっと雑な洞内マップを作ってみた。
観光客が無難に入れるエリアは全長900m。
ザックリ前半は地面の上を歩けるエリア。
そして後半は水流の中をザブザブ歩くエリアだ。だからこそのサンダル。
終盤は水中の上に照明もなく、たぶん事前予約だとかスタッフさんの同行だとかが必要なエリアだと思う。
今回はそのエリアはもうクローズしていた。確かにこの時間であればそれが妥当だ。
たった1人の静かな冒険が、始まる。
1人きりの地底空間
陸上編
前提としてブレている写真が多くて恐縮だが、多少アップダウンのある暗闇を歩いているので、その臨場感の演出として許容いただきたい。
もし対向の人がいたら擦れ違いも困難であろう狭い箇所も多くある。
そんな狭い洞窟内を淡々と歩く。
「ザワザワ…」「ザワザワ…」。
どこからか人の話し声のような、歩く音のような反響音が聞こえてくる。
「あれ?やっぱりこの洞窟には僕以外にも誰かいたのかな?」
そう思うんだけど、それは思い過ごし。
洞窟を歩く僕の反響音か、はたまた流水の反響音か。不思議不思議。
大石柱・天景と名のついた鍾乳石の前で記念撮影をした。
ここいらのグネグネした鍾乳石のデザイン、ダイナミックで好きだ。
正直この千仏鍾乳洞は巨大な鍾乳石があるわけでもなく、ライトアップなどの演出に凝っているわけではない。
でも、なんだか自然体で好感が持てる。
あと、僕のお目当てはこの後出てくる後半の水中エリアだから、モチベーションはそっちまで温存している。
鍾乳石の特徴的なデザインで、足を伸ばしたクラゲのようなものがある。
ちょっとキモいけど、これが数1000年かけて自然に出来上がるということに脅威を感じる。
天景はその名の通り天井付近にあり、見上げるようにして眺めた。
見える部分が少なくって壮大さはないが、水の滴った軌道が複雑に天井に刻まれている感じだ。
白亜殿はちょっと広くなった空間に現れる巨大岩盤みたいな鍾乳石。
ここでちょっと一息つける。
洞内の温度は季節を問わず14℃。
半袖だし外で雨に濡れた状態の僕ではちょっと寒い。
ただ、この寒さを味わえるのも洞窟系観光地の魅力だと思う。
内部には階段もあったりする。
まぁでもそこまで起伏が無いタイプの鍾乳洞だ。
中にはビル2・3階分の昇り降りを繰り返すような鍾乳洞もあるので。
ここまで来てちょっと後悔したのが、カサを持ち込んで来ていること。
どっかに絶対カサ立てあったよな。
急いでいたので確認せずに突撃してしまった。
天柱だ。
天上から地面まで、1本の柱となった鍾乳石。
水が滴る天井側の石が垂れ下がり、水が滴り落ちた地面側の鍾乳石もタケノコのように成長し、その2つが合体してできたもの。
すっごく長い年月をかけてできるものだ。
もちろんもっと巨大なものは他の鍾乳洞にあったりはするが、小ぶりであってもメチャすごいものなのだ。
さてと。入洞からおよそ15分。
天柱まで来たということは、そろそろ陸上エリアが終わるということだ。
そろそろ地面ともお別れだ。
奥の細道を通過すると、いよいよ足元に水が現れた。
水中編
ここで今一度、洞内MAPを掲載しておこう。
この鍾乳洞のアイデンティティ、後半の水中エリアの入口までやってきた。
平尾台には他にも鍾乳洞はあるが、この千仏鍾乳洞を選んだ理由がこれだ。
水の中をジャブジャブと歩いてみたい。そう夢見ていたのだ。
まずは水に濡れないように裾をしっかり巻き上げておく。
玄関の"たたき"みたいにわかりやすく一段下がっているところから、僕は水中に偉大なる一歩を踏み出す。
月面着陸したアームストロング船長の気持ちだ。
ここでの水深は、足の甲くらいまでだ。
うひょーっ!!冷てーーっ!!
…すまない。取り乱した。
でも本当に冷たいんだもん。
気温14℃の洞内を流れる水流だもん、そりゃ冷たいよね。
だけどもそのうち冷たさに慣れるでしょ。
僕はかつて福島県の「入水鍾乳洞」も突撃してますからね。
入水鍾乳洞はいつか執筆したいが、危機を感じるレベルの冷水を膝上まで浸かりながらザボザボ歩く。照明もなくロウソクで照らしながら、体をねじ込まないといけなかったり四つん這いが必要なエリアもあるのだ。
あそこよりは100倍マシだ。
すぐに水の冷たさは気にならなくなった。
むしろ心地よい。
この水中エリアも鍾乳石はポツポツと普通にある。
しかし視線はそんなのよりもむしろ足元の川の方に行っちゃうのだ。楽しすぎて。
世界が青くなった。乳青色というヤツだろうか。
照明が青いからではない。足元の川底が青いのだ。
その上をサラサラと流れる小川。
すごい色だね。なぜこうなったのだろう。
川底は石灰岩の一枚岩のような構成だ。
床は水で洗われたためかツルツルなので、サンダルで歩いても危険ではない。
真っすぐ歩いている分には、つま先をどこかにブツけたり引っかけたりする懸念が低いのだ。
かといって、滑ってしまうほどツルツルでもない。
石灰岩特有の若干のザラザラが滑り止めになっている。
足首ほどの深さの青い小川の中をどんどん進む。
水流はやや強くなってきたように感じる。
見てほしい。鍵穴のような形状の洞窟だ。
きっと水流が長年かけてこのように掘り進んできたのだろう。
美しさに鳥肌が立つ。
想像を絶するほどの長い長い地球の歴史の1ページに、今僕は挟まっていると、そう感じた。
初音乳。この鍾乳洞における僕的ハイライトだ。
天井から鍾乳石が大きく突き出している、特徴的なかたちだ。
輪切りにすると楕円形のような洞窟の中で、いきなり尖ったデザインが登場するので映えるのだ。
これステキ。何枚も写真を撮った。
初音乳を過ぎると、水深が深くなってきた。
ヒザくらいまで来たか?
もう捲り上げていても裾がビショビショだわ。
いいけど。どうせ外は暴風雨。遅かれ早かれ濡れる運命(さだめ)よ。
そして通路も狭くなってきたし、岩肌が濡れているので、服もビショビショだ。
実はここ福岡県からスタートし、今日から九州一周ドライブするのだ。
記念すべき九州の初日なのに、貴重な衣類が初日からこのありさま。明日からどうしよう。
なんだか水流も早くなってきたぜー!
そっかー!川幅が狭くなると水圧も強くなるもんなー!!
ヒャホホホホーー!!
足がすごい速度で洗浄されて気持ちいいぜーー!!
おぉーーい!!
待て待て!!サンダル待て待て事件の発生だ!!
これ返却しないとあとで受付で怒られるから!
…とまぁドタバタしたりもしたけど、ふと円形の神秘的な池が出てきて息を飲んだりした。
ここだけ上からスポットライトが当たっているような気がした。
ならばその下で照明を浴びるこの僕は、いったい何者?
そう、この物語の主人公のYAMAさんです。
はい、そういうバカなことを言っているから照明落とされるようです。
あと50mで照明エリアの終了だ。
『本日は、ここで照明を終らせていただきます。引き返してください。(入口より870m地点)』
照明区間の終点。
入洞からここまで25分であった。
大満足の25分。でも誰とも遭遇しなかった25分。
では、ここから来た道を全部引き返すぞ。
脱出、そして薄暗い高原へ
今回のゴールは、以下に提示されていた地点よりもほんの少し手前の870m地点であった。
まぁでもいい。120%楽しませてもらった。
僕はまたザブザブと地底の渓流の中を歩き、スタート地点を目指す。
ちなみに、冒頭でも少し触れたが照明無しの闇エリアは懐中電灯が必須だ。
さらには通路を豪快に滝が流れ落ちていてズブ濡れになると聞いている。
さらにさらにその奥のゾーンもあり、そこは水流の中をほふく前進する危険エリアとのことだ。
今回はここまでで良い。
またいつの日か機会があれば、その先にチャレンジしても良いだろう。
あるいは、これを読んだあなたがその先にチャレンジし、その報告を僕にしてくれても良い。それで僕も満足だ。
往復40分で、受付に帰還した。
もう外は相当に薄暗くなっていた。
夏だから本来はもっと日は長いのだが、暴風雨と霧のせいで、もう夜のようだ。
濡れた足を拭いて靴に履き替え、そして激坂の階段を登って駐車場の愛車のところまで戻ってきた。
…って後ろからもうスタッフさんが登ってきた。
受付をクローズさせて速攻で来たのだろう。
つまり僕が洞窟内から出てくるのを帰れずに待ってくれていたのだ。
すみません、ありがとう。
うおぉ、相変わらず元気に吹き荒れているぇーー!!
前、全然見えねぇ!!
とりあえず最寄りの町へ行こう。行橋だな。
…こうして不気味なセピア色に色付く行橋の町に入り、そして一息ついた僕は温泉を探して入浴し、温まるのだ。
「あー、楽しい時間を過ごせたな」と振り返りながらお湯に浸かった。
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ワイルドな千仏鍾乳洞。
あなたもいかがだろうか?
まだまだ残暑は長いぞ。母なる地球が何万年もかけて作り出した地下空間で涼を楽しむ、そんな日があっても悪くはないだろう。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報