海の上に敷かれた線路。
そこを列車が走る…。
なんという幻想的な風景であろう。
しかし、なかなか現実には実現は難しいようだ。
フィクションであれば、「千と千尋の神隠し」・「ONE PIECE」・「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」などが思いついたが、やっぱりアレはフィクションだからこそできる演出なのだろう。
…と思っていた。
近しいものが現実に存在していたらしい。
だけども、それは間もなくなくなりそうだ。
ならば、すぐに見に行かねばならない!
それがノンフィクションであるうちに!!
曇天の久留和漁港
秋も半ばに入るというのに、南関東特有の残暑がまだ存在感をアピールしてくる。
曇天であっても、それはネットリと絡みついてくる。
ここは、三浦半島の海沿いを走る国道。
そこを反れ、擦れ違い困難な狭路を下っていく。
道の行き止まりが、漁港である。
その漁港の名は、「久留和(くるわ)漁港」。
2020年は、コロナウイルス感染の抑制のため、漁港内の駐車場に一般人が駐車することはできない。
ロープが張られていたのだ。
仕方がない。
ちょっと離れたところに愛車のパオを駐車し、テクテク歩いて戻ってきた。
あるとあらゆるモチベーションを吸い取ってしまうかのような、灰色の空だ。
漁港には数隻の小船が係留され、波の動きに合わせて静かに上下していた。
遠くには湘南のシンボルと言っても過言ではない、「江の島」の灯台が見えた。
おそらく10㎞も離れていないのだろうが、あっちとこっちで随分と世界観が違うようにも感じた。
さらに江の島の背後には、きっと晴れれば雄大な「富士山」が見えるのであろう。
しかし、今回の企画のコンセプト的に、富士山は似合わないと感じた。
うん、見えなくって結構。
…もちろん、強がりである。
漁港を奥へと歩いていく。
年季の入った小屋が見えた。
ペンキがほとんど剥げ落ちているが、「権兵衛丸」の上に微かに「船宿」の文字が見えた。
権兵衛丸(ごんべえまる)。見事なまでのシワシワネーム。
カッコイイな、と1人呟く。
さて、右奥に防波堤がチラリと見えていることにお気付きだろうか?
ここを華麗に乗り越える。
するとですね…。
廃レール登場!!
アドレナリンが「ブシュッ!!」と涌き出たのを感じた。
※ もしあなたが現地を訪れる場合、ここから先は自己責任でお願いします。
当ブログは一切の責任を取りません。
廃トロッコレールとの対面
防波堤の向こうはテトラポット。
さらにその向こうに、鉄道のレールの残骸のようなものが続いていた…。
…海に向かって。
いや、正確には海に向かっているわけではないか。
Web上で調べたところ、あの人工島はかつては生け簀だったそうだ。
魚だかエビだかアワビだか。
それをあらかじめ捕獲してあの中で管理しておき、必要に応じて出荷できるようにしていたみたいだ。
人工島には、レールの最後の残存部分が、かろうじて掴まっている。
その先にもなんらかの残骸があるが、もう原型を留めておらず、同時の面影は想像できない。
そして人工島は、今は野鳥の楽園だ。
現在残っているのは、4区画分だ。
海上に取り残された3区画に、前述のコンクリート島に接続された最後の1区画。
しかし、壮絶なまでに朽ちているレール。
おすもうさんが張り手をしただけで倒壊しそう。
少し角度を変えて撮影してみた。
かわいそうなくらいにヒョロヒョロなレールだ。
使用当時はどんな状態だったのだろうか?
まさか電車が上を通れるような強度ではあるまい。レール幅も狭いし。
どうやら人力トロッコによって、生け簀の中の魚介類を運搬していたようだ。
では、トロッコを動かす人はどこを歩いていた??
…たぶん、レールの下に木の板でもあったのだろう。
それは波風の浸食が激しかったのか、それともレールが引退したときに意図的に撤去したのか…。
どのみち、現在は全く存在していない。
サビっぷりも尋常ではない。
そりゃそうだ。
ここは潮風の影響をダイレクトに受けるし、波の高い日にはレール自体が波に飲み込まれる。
圧倒的スピードで朽ちていっているのだろう。
では、トロッコがいつできて、いつ廃止されたのか…。
ここは僕の敬愛する 「山さ行がねば」の「ヨッキれん氏」のレポートに頼らざるを得ないだろう…。
コンクリートの人工島までザバザバ海を渡ったり、漁港の人に聞き込みまでしたヨッキさんのレポートによれば、この生け簀が使用されていたのは1978年から1988年ごろまでの、わずか10年ほどだったそうだ。
30年間でここまでボロボロになったのか…。
Web等でこの場所を検索すると、年を追うごとに崩壊が顕著にわかる。
特にここ5年ほどの劣化っぷりはハンパない。
2014年時点ではちゃんとレールはこっちからあっちまで繋がっていたのに、2020年現在ではボロッボロよ。
どうだ、この消滅直前の最期の雄姿は。
大いなる自然に削り取られてできた、芸術作品であろう。
見るのであれば、本当に急がねばならないだろう。
来年の今は、もう支柱しか残っていないかもしれないぞ。
テトラポットの上で
テトラポットを、波打ち際ギリギリまで下りてみよう。
油断すると海に落ちるし、波がかかって愛用の本革のバッグが濡れてしまうが、気をつければ大丈夫、たぶん。
テトラポットの上には、もう残骸としか呼べないようなレールが落ちていた。
かつてはキチンと防波堤の上まで繋がっていたのだろう。
まだボルトがしっかりと残っているのが、やけに生々しく感じた。
頑丈だったはずのレールは酸化して赤茶けており、表面が剥がれつつある。
さながら枯れ木のようだな、と思った。
その老木のような鉄柱にそっと触れてみた。
僕がこのレールにとどめを刺すわけにはいかないし、僕もケガをするわけにはいかないから、あくまでそっとだ。
ガサガサになったその鉄柱から、在りし日の記憶を少しでも感じられたかな。
お疲れ様、トロッコレール。
足元を見ると、無残に転がって波に洗われているパーツもある。
かわいそう。
これは、完全に支柱しか残っていない状態。
支柱はしっかりしているので、こうやって最後まで残っている。
…とはいえ、全力で蹴れば折れてしまいそうな気配もするが。
鉄って、最期はこんなふうになっちゃうんだな…。
いよいよ、レールが目線よりも上になった。
立ち並ぶ支柱。でも数が足りない。一部は大きく傾いている。
波の力の強さを思い知る。
もう足元まで波が来ているので、カメラを低い位置に構える必要があるが、レールの裏側を撮影できそうだ。
天空を走るレール。
今まで鉄道の線路を見上げたことはあるが、こんなにもスッカスカで空が良く見えた体験は初めてだ。
まさに空を列車が走る様を、想像できるのではなかろうか。
ノンフィクションが限りなくフィクションに近づいた図である。
願わくば、ここからレールを走るトロッコを見上げたかった。
それは適わぬ夢である。
僕の想像の中で、ここにトロッコを走らせようではないか。
ドンヨリと曇った三浦半島の小さな漁港。
しかし、僕はそこに束の間の夢を見た。
30年前の夢を。
もう間もなく消え失せる線路。
最後に振り返り、そして僕は再び防波堤を飛び越えて漁港に戻る。
以上、日本6周目を走る旅人YAMAでした。
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