「お食事処 ポーク」。
2023年現在で86歳のおじいちゃんオーナーが作る唯一無二の味、"ポーク風ライス"を味わえるお店である。後継者はいないという。
絶滅してしまいそうな絶品メシ、つまり"絶メシ"を追い求めて僕も富山に車を走らせる。おじいちゃんが引退したら全てが終わってしまうのだ。
11月上旬、北陸に雪が降り始めるギリギリのシーズンであったが、幸いにしてその日は日中シャツ1枚ですごせるほどにポカポカの陽気であった。
運が向いている。いい風が吹いている。そう思った。
富山市内まで来たところで、念のためWebからお店情報を再検索した。あるサイトに土日祝が定休日と書いてあった。今日は日曜日だ。
運が向いている?いい風が吹いている?いやいや、数分前の自分の発言を撤回したい。どうすんだよこの事態。
営業開始と同時に雪崩れ込め
僕は路面電車の無い町で生まれ育ったので、こうして日常的に路面電車が走り、それを利用している人々の姿を目にすると旅情を感じる。
僕の当たり前ではないことが、どこかの誰かの当たり前なのだ。それを噛みしめることが楽しい。こういう刺激を生涯忘れたくない。
…と感慨にふけっているのもそこそこにして。
僕はお食事処 ポークの開店時間である11:30よりも30分ほど早い11:00頃に、車中からお店を視界に収めた。
お店は当然開店はしておらず、店の前にも誰もいないし駐車場も空だった。
このままお店の前で開店待ちをする選択肢も無いわけでは無かったが、もし先ほど見た通り本日がお店の定休日であったら恥ずかしいことこの上ない。情けないことこの上ない。そんな恥を忍んで今後の人生を歩みたくない。
そういうくだらないプライドの人間なのだ、僕は。
ガソリンを入れ、ムダにぐるりと町の1区画を周回し、開店15分前の11:15くらいに再びお食事処 ポークの前に差し掛かった。
…あ、3人店頭に並んでいる…!
お店はきっと開店するのだ。定休日ではなかったのだ。
世の中には様々なWebサイトがあるので、誤った情報や古い情報に当たってしまうこともある。いや、その情報源が最大手の"食べログ"さんなのでなんともかんとも…なのだが、やっぱ真実は自分で確かめるしかないのだ。
なんにせよ、開店しそうで良かった。
なんてこった。
僕が店の隣の駐車場に車を入れているときに2人の人が店頭に並び、さらに僕が車から出ようとした瞬間に対面の車から4人組の人が下りて一瞬早く並んだ。
合計9人が僕の前に並び、僕は10人目だ。
さっきお店の前を通りかかったときにもっと強い心を持っていれば1人目だったであろう。
店内には10人は入れるだろうと推測している。しかし店主さんが一気に10人分のメニューを調理できる可能性は低いだろうから、僕はきっと2ターン目か3ターン目の提供であろう。
まぁいっか。別にそんなに急いでいるわけではないし。…というよりこの後の明確な予定はないし。
一瞬「今日は定休日かな?」って思ってしまったお店に入れる。それだけで幸せなことだ。
11:30より少し前にお店は開店した。いざ入店だ。
素朴だが絶品、ポーク風ライス
カウンター席に座ることができた。しかも店主のおじいさんの作業が良く見える席だ。嬉しいな。
メニューは、ポーク風ライス・とり風ライス・エビ風ライス・デラックスライスの基本4種類。あとは裏面にオムライスととんかつ定食があった。
"風"ってなんだろね?必要なワードなのか?ポークライスと表記したらダメなのか??
とりあえず看板メニューであり店名の由来となったポーク風ライスにするのだ。
半世紀変わらない味であり、『他にはない かくし味で甘みを増した炒めご飯の上にとろ~り半熟たまごと絶品ポークカツをトッピング』したものだそうだ。
そんなのうまいに決まっている。
カウンターの奥はどうやら座敷席がいくつかあるようだな?
Webで調べてみると8席分あるようだ。カウンター5席なので、合わせて13席。
11:30の開店から数分過ぎた時点で、もうお客さんは全員入れない状態となり、店内の入口付近で何名かが並ぶ事態となった。大人気だな。
お茶やお水はセルフサービスだ。自分で奥の方の給茶機まで行って用意する。
待つこと10分あまりでポーク風ライスが登場した。あぁなんてチャーミングな見た目なのだろう。
洋食なのか和食なのか、丼物なのかプレート物なのかよくわからない。でも本能にガツンと訴えかけてくるような、食欲を刺激するビジュアルだ。
まずは一番下のピラフを食べてみた。
うまい。絶妙なパラパラ具合。そして控えめな味付けなのだがバターと塩味、そしてコクが混ざり合っている。
これはスプーンが止まらないやつだ…!
やや小ぶりなトンカツである。揚げたてのアツアツサクサクだ。
何がうまいのか、何か特別感があるのかと聞かれれば、それを僕はうまく説明することができない。
しかしピラフや下の玉子との相性が絶妙だ。一緒に口に入れれば幸せが広がる。
上には軽くデミグラスソースがかかっている。このくらいちょっとがいいのだ。でないとピラフの繊細な味が失われてしまう。
玉子も固すぎず柔らかすぎずで、主張しすぎずにうまくポークカツとピラフの間のクッションになっている。ナイスアシストすぎる。
ここでとん汁だ!
とん汁なしで600円、とん汁つき750円。これはつけなければと思ったのだ。
実際、周囲を見るとほとんどの人がとん汁セットにしていたぞ。大ぶりの丼に入れられて登場した。
カウンターにはお箸が用意されていないので、そのままスプーンで食べる。(頼めば出してくれるそうだが、周囲に合わせてそうした)
ひと口飲むと濃厚な酒粕の香りがした。これは珍しい。そして体が温まる。
具材は豚肉と様々な野菜。どれも小さめに切られており、野菜は歯ごたえがシャキシャキするタイプであった。
ポーク風ライスもとん汁も、ペロリと完食してしまった。たぶん提供されてから10分も経っていない。マジに勢いが止まらなかった。
周囲の人も、少なくともカウンター席はそんなに時間を掛けずに食べており、滞在時間はかなり少なめの人が多い。ゆえに回転率は結構高かった。
メニューについて、おそらく成人男性であればプラス100円ご飯大盛かポーク大きめのデラックスがいいかもしれない。
食べるほどに推進力が加速される系のご飯なので、ちょっと大食いの人であれば2杯は食べられるのではないかと思ってしまう。
…とはいえ、僕はレギュラーサイズで充分だ。とん汁も食べられたんだもん、大満足だ。
絶滅しそうだけども、続けてほしい店
僕はこのお店を、「絶メシロード」というTV番組を見て知った。
2020年にシーズン1が放映された、車中泊しながら各地の絶滅してしまいそうな絶品メシ、つまり"絶メシ"を追い求める番組であった。
この章では、そのTV番組を通じて知った情報も盛り込んでお店をご紹介する。
2023年時点で創業56年のお食事処ポーク。
40数種類のメニューを出す老舗洋食店で、ずっと地域の人に愛されてきたのだが、10年ほど前に一緒に営んできた奥さんが他界してしまった。
閉店も考えたそうだが、ポーク風ライスを始めとするメインメニュー数種類に絞り、高齢のご主人の無理のない範囲で営業を継続することにしたそうだ。
その際、定休日を増やしたりお店の営業時間も短縮したという。
2023年の秋時点では、毎週水曜日と土曜日が定休日だった。「7月より」と書かれているので、6月以前は違っていたのだろう?もしかしたら6月以前は土日祝休みだったのかな?だとしたら、冒頭で僕が食べログの情報に翻弄されたのもやや納得だ。
営業時間は「11:30~13:15」と書いてある。2時間もない。奥さんがいた当時は夜もやっていたそうだし、その後もランチタイムはもうちょっと長かったみたいだが、徐々に営業時間が短縮されている。
ご主人は86歳であり、体力的にもキツくなっているのだろう。
かつ、その日用意しておいたご飯がなくなったら営業終了だ。僕のように、週末ともなればTVを見た人も来るだろうし、もとから常連だった地域の人も来るだろう。
開店に合わせて突撃したのは英断であった。
絶メシロードのポスターは、お店の入口付近に掲示してあった。
ご主人には娘さんもいてヘルプもしているが、この味はご主人にしか出せないもので、現時点ではご主人が引退したら滅びてしまう味なのである。
だからこそ大切にしたい味、今のうちに味わっておきたい味。
2023年、富山に雪が降る前に行けて良かった。あと2・3週間遅かったら、また次の春を待たねばならなかったであろう。
ふと見たカウンター裏の色紙。
『人生は 追いと向かいと ポーク風』。
ポーク風ライス、おいしかったです。ごちそうさまでした。
そしてまた機会があれば、次は他の"風"にもチャレンジしてみたいな。
来れて良かった。
運が向いている。いい風が吹いている。そう思った。
さて、このポカポカの陽気の富山、次はどこに向かおうかな?
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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