国道157号、もとい酷道157号を知ってるか?
キングオブ酷道・日本三大酷道・全国ワースト酷道・天下の酷道など、なかなかエキセントリックな別称を持っているヤンチャを通り越した国道である。
あ、ところで残りの三大酷道とは四国の「439(ヨサク)」、紀伊半島の「425(死にGo!)」であり、僕はいずれも走破済みだ。
残る最後の157号に足を踏み入れたのは、日本7周目の5月末のことである。

いや、別にやる気満々で突撃したわけじゃあないのよ。「走るつもり全然なく、でもやむにやまれず入っちゃった、でもまぁいっか」みたいな不本意な結果だったの。
でも首を突っ込んだからには、最大限堪能しないとだよね。
今日はそんな話をしようじゃないか。
【岐阜県側①】こうして峠は始まった
まずは以下の地図を見てほしい。
僕は岐阜県美濃市から福井県大野市に向かおうとしていた。国道158号で岐阜県と福井県の県境をスイッと超えようと企んでおり、前夜のうちのその直前まで行って車中泊をしていた。
…だけどもだ。早朝に起きて念のためスマホでMAPを見てみると、国道158号、県境部分で通行止めじゃねーか!どうするんだよ。

ここを使わずに迂回するとなると…。
…って感じで、今回の記事の世界観を上記に記した。
国道157号か…。せっかく美濃市から数10㎞も眠い目をこすりながら北上してきたのに、また美濃市に戻ってから国道157号に乗る必要がある。
時間も食うし、天気予報が暗転して雨だし、眠いし、なんだかもうドライブ辞めたい気分にもなったけど、気持ちを奮い立たせよう。こういうときこそ「好き」を追求しないと、僕にはもう何も残らなくなっちゃうだろ?

7:00ちょうど、日本最大桜で有名な「根尾谷の淡墨桜」の横とかを通過。あぁ、懐かしい。来シーズンにはまた満開の淡墨桜を見に来たりしたいものだなぁ…。
「温見峠」まで32kmを示す看板が出てきた。ん…??ちょっと待って。
「ヌクミ…トウゲ…。ヌクミ…。コクドウ157…。コクドウ…。酷道…!」
壊れかけたアンドロイドがメモリの奥底から破壊されたアーカイブをサルベージしたときのように、僕の記憶から1つの情報が浮上した。そして震えた。なんてこった、えらいこっちゃ。

酷道157号の温見峠!!
僕は今向かっているのは危険MAXの酷道じゃねーか!!
朝一で寝ぼけていたので、国道157号という名前にも、地図が示したルートにもピンとこなかった。しかしここでその本性に気付いたのだ。
あー、でももう引き返せない。ただでさえ158号の通行止めで大迂回をしているのだ。ここに来て酷道157号からも引き返したら、時間かかりすぎ。マジで今回のドライブの意味がなくなる。

すぐに大型車通行不能の旨と最終回転場を示す看板が出てきた。
まるで「ファイナルアンサー?」と問われているシチュエーションだ。僕はこれまでの寝ぼけた顔から一転してキリッとしたイケメンの顔になり、「ファイナルアンサー…!」と小さいけれども力強い声でつぶやいた。たぶんメガネもクイッとやっていたと思う。知らんけど。

いよいよ峠区間が始まったようだ。倒木もあるようだ。
ところで酷道・林道マニアのみなさんには常識すぎるけれども、この酷道157号を語る上で絶対に外せないフレーズがある。…いや。かつてあった、と言うのが正確なのだろうか…?

『落ちたら死ぬ』。
この有名すぎる看板。酷道157号を知らなくても、温見峠を知らなくても、この看板で「あぁ聞いたことある…!」って思ってくれた人も一定数いるであろう。僕もかつてWebで酷道をいろいろ調べており、その過程でこの看板の強烈なインパクトと共にこの酷道の存在を知ったのさ。
残念ながらこの看板は2018年に撤去されて、今は存在していない。
でもじゃあ「今は落ちないし死なないんだね」っていうことかというと、そうじゃなくって、相変わらず落ちるし死ぬよ。

ねっ、峠区間に入ってほんの2・3分でご覧のように道が狭くなってきたし、ガードレールもないだろ?これで対向車も来るからすれ違わなきゃいけないんだからね。殺す気まんまんだろ?
でも安心してほしい。こうしてブログを執筆しているということは、「落ちなかった」か「落ちても死ななかったか」のどっちかなのだから。
【岐阜県側②】廃集落と洗い越し
峠道が牙を剥いてきた。スマホも圏外になった。

しかし、夢を壊す発言になってしまったら申し訳ないが、今回僕はそこまでこの酷道の難易度が高いとは思わなかった。なんだったら四国の酷道439号(ヨサク)の方がよっぽど怖かった。
ただ、それは朝一かつ冬季通行止めが解除されてから間もない時期ということもあり、対向車がほぼゼロだったから、という要因もあるだろう。対向車の有無で難易度はグッと変わる。それに、舗装も大体綺麗だったし。

でも落石トラップならある。
ある程度のスピードでコイツを踏んでしまったら、結構な悲劇だ。パンクしてもスマホ圏外だしね、JAF呼べぬ。しかも、こういうのが散らばっているということは、実際にはもう1まわり大きい岩も崩れてきているのだろう。屋根やフロントガラスに一撃食らったら、車もそこそこのダメージだ。

転落事故現場を示す看板も出てきた。"事故現場"の文字の部分には血糊のような汚れもあって余計に怖い。イラストとして描いた真っ赤な血糊ではなく、リアルな血の色なんだもんよ。
実際に、直近では2022年には3件の転落事故が発生している。うち1件では運転手が死亡している。ガチなのだ。落ちたら死ぬのだ。
これらの事故を受けて地元の根尾駐在所は『万が一のときのため、あらかじめ家族等に行き先を伝え、かつ水を非常食を持参すると良い』と言っていた。サバイバル前提だ、これ。

えっと、ここは黒津集落跡だっただろうか…。
この酷道沿いにはポツポツと廃墟があったりしている。かつては林業などで栄えたのだろうかね。もともと廃村・廃墟ハンターをやっていた僕としては、ちょっとだけ魂を揺さぶられる。

廃車に屋根を被せている、不思議な施設。SNSで聞いてみたら大変大きな反響があったんだけど、どうやら廃車を物置小屋にする工夫らしい。積雪などを防ぐために屋根を取り付けたのだろう…とのことだ。
雪深い地ならではの工夫だね、きっと。

僕がこの看板で注目した点は、『段差注意』でもなければ『岐阜土木事務所』でもない。一番上に書かれている『この先 洗い越し』だ。
洗い越しー!道路を横切る水流に対し、橋を作ったり道路下に水路を作るのが面倒なので、「もう道路の上に水をドバドバ流しちゃえ。きっと大丈夫さ!」というポジティブ設計だ。ローカルな峠道などでたまーに出てくる、僕の大好物だ。

あ、ダメこれ。ちゃんと排水溝作って、道路の下を流すようになっているじゃないか。かつては洗い越しだったが、今は違うというヤツか…?
せっかく期待したのに、これじゃあ洗えないし越せないじゃないか。キーッ、この裏切り者!

あ、日が射してきた。雨予報だったのだが、これは好転しそうだな。
なによりこういった峠道では、路面がウェットかドライかで運転の難易度が大きく変わる。ましてや雨がザーザー降っていたりしたら相当に厄介だものな。ありがたい。

峠区間は大体川と並走するのだが、岐阜県側は「根尾西谷川」といい、福井県側は「温見川」という。今は岐阜県側なので根尾西谷川だな。
地図では併走しているのだが、実際に走行していて間にあたりにできるシーンはごくわずか。そのうちの1コマがこれだ。なんとも雄大ではないか。アフリカゾウの群れが水を飲んでいたり、その頭上をピンク色のフラミンゴが飛んでいそうな雰囲気もある。

唐突に洗い越しが現れた。事前に看板なども無く。
おぉ、これぞ洗い越し!「よっ、洗ってるなー!越してるなー!」って煽りたい。

軽トラが前方に現れた。峠ゾーンで初めて目にする他の車だ。これで道の細さがなんとなく理解できるかな?これで対向車が来たらすれ違いが難しいの、わかるよね。
軽トラの歩みはとてもゆっくりであり、すぐに僕に道をゆずってくれたので抜かさせてもらった。

わー、すんごい洗い越しが出てきた!
後から調べるとこれは「本巣の洗い越し」って呼ばれているらしい。ザバザバに水が流れている。昨夜まで雨が降っていたので、なおさらに今は水流が多いのかもしれない。

愛車と共にも記念撮影だ。
洗い越し、いいじゃないか…!安全面からも道路維持管理面からも、決して好ましいとは言えない設備。今後どんどん道が整備されていったら、日本からなくなるかもしれない設備。こういうのを記録し、体験しておくのも大事だと思うんだ。

相変わらず道は狭いが、空が広くなってきたように感じる。つまりはもうすぐ峠の頂上、岐阜県と福井県の県境が近付いてきているのだ。

そしてついに県境、温見峠ッ!!
【福井県側】温見峠と麻那姫湖
標高1020mの温見峠に辿り着いた。峠エリアに入ってからおよそ1時間かけて、峠までの32kmを走ってきたのだ。つまりは平均時速30kmってところだったのだな。

温見峠の写真をご紹介したい。これは岐阜側から福井側を撮影したものだ。
峠前後は綺麗に整備され、そして綺麗にこんもりしている。ザ・峠って感じだ。空は薄っすら明るく、そして標高1000mは風があって少し涼しく、達成感を覚えるロケーションであった。

これはここまで来た道、岐阜県側を振り返ったものだ。
天空の世界。なんだかドラマを感じさせる、最後のカーブ。これが、ずーっと前から知っていた、でも訪問する機会のなかった温見峠のリアル。僕のボキャブラリーでは表現しきれないが、今僕はここに立っている。それが大事。

もうちょっと位置を変えて撮影した。
福井県に足を踏み入れた状態から、岐阜県方面の県境を撮影したものだ。なんて絵になる風景だろう。
他に車もいなくって、この空間を独り占めなのだ。良い。当初感じた、時間をかけて迂回しなければいけない状況についても、もはや忘れ去った。目的地に向かって走ること自体が既にエンターテインメント。充実した朝活じゃないかね、これは。

九十九折の坂道を下って行く。僕の所感であるが、福井県側の方が道が整備されている。道も広く、走りやすい。文字通り峠を越えたってヤツなのかもしれない。
…が、激狭エリアの後半なので慣れたのかもしれないし、下りなので運転が楽だったのかもしれない。ここいらは異論があったらあなたの意見も伺いたい。

ここはマニアの間で温見ストレートと呼ばれている直線道路だ。その後半に撮影したので、実際はもっと長い道なんだけどね。
たぶんだけども、ここはかつての集落の跡。右側に平地が続き、一見すると何の痕跡も見えないものの、どこかに人間のにおいがする。この直線道路そのものも、集落の名残なのだと思っている。

九十九折りがあったり、トンネルが出てきたり。こうして淡々と標高を下げていく。
相変わらず対向車は来なくって、走りやすいシチュエーションだ。スイスイと降りておくことに、一抹の寂しさすら感じてしまう。もう酷道は充分に後半に入っているのだから。

「麻那姫湖」が右手に見えてきた。ここまでくると、基本的にもう道は安全。すれ違いにも緊張感はほぼ感じなくってもいい状態となる。僕もここでは一時車を停めて外の空気を吸い込み、深呼吸をした。空気、おいしい。
麻那姫湖は、ずーっと酷道と並走していた温水川に造られたダム、「真名川ダム」によって生まれたダム湖だ。以前は集落があったが、ダムに沈んだ。ダム建設の宿命だね…。今は湖畔にキャンプ場もある。自然の中のいい環境でキャンプできるね、ここ。

さらに少し走っていると、湖畔の駐車場に金色の麻那姫像が立っているのが見えた。
この麻那姫像には伝説がある。
1000年以上前に、ここに住んでいた長者の娘(麻那姫)がいた。そのころ干ばつで村は深刻な危機に陥っていた。ある日、長者の夢枕に女神が現れ、「あなたの娘を竜神に捧げれば雨を降らせましょう」と言った。
これを聞いた娘はこの真名川に身を投げ、そして雨は降り村は復活した…というストーリーだ。
よく聞く系の伝説だが、後味がちょいと悪いね…。伝説のテンプレートなのでどこまで真実か、どこからが虚構かは知らないが、僕の中では美談とは割り切れない。現実には永遠に生じないことを切に願うぜ。

さーて、2車線道路になったぞ。道路もフラットで、今後は大きなアップダウンは無さそうだ。もうすぐ福井県大野市の中心地が現れるだろう。
予定よりもちょっと時間がかかり、ちょっと疲れたけども、忘れられない朝となった。
旅ってただの効率性を求めるものじゃないだろ?時間じゃないだろ?こういう唯一無二のエピソードこそが、より人生を色濃いものとしてくれるんじゃないかね?

酷道157号。
今朝までうっかり忘れていた国道名だが、この3桁はもう忘れないだろう。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 温見峠
- 住所: 岐阜県本巣市根尾大河原
- 料金: 無料
- 駐車場: 無し
- 時間: 特になし