深夜に営業している純喫茶って、なんだか神秘的で心惹かれるのだ。
今回ご紹介する「深夜喫茶しんしんしん」はまさにその代表格であり、営業時間は20:00~27:00、つまり深夜3時までだ。正真正銘の超夜型喫茶店。

有名な「銀閣寺」から1kmほどという、京都のかなり中心付近にあるお店なのだが、僕は京都の名だたる神社仏閣は完全無視し、このしんしんしんだけ訪問して京都を立ち去るスタイルを取っている。
じゃあ、今宵はあなたも一緒に、ちょいと京都の夜の顔を眺めに行こうか…?
巨大な地蔵と暗い階段
夜の京都の小道を、注意深くハンドルを握りながら運転してた。カーナビは深夜喫茶しんしんしんまであと100数十mほどを示していた。

信号で停車した三叉路に、お地蔵さんらしきものが祀られている小屋が出てきた。なるほど、京都という歴史的なものと現代的なものが融合した町であれば、こういうものもあるのかもしれんねぇ…。
そんなお地蔵さんに目を凝らすと…ー

思ったよりもガチムチ系だった。プロレスラーを片手で捻り上げられるくらいの、仕上がった肉体。
「子安観世音」という名前らしい。座った状態でも2mある、鎌倉時代に造られたお地蔵様。かつて「豊臣秀吉」にもわがままを言って困らせた経歴を持つという。
「これは恐ろしいものを見たな」と思った数10秒後、深夜しんしんしんの前に辿り着いた。大通りに面しているが、通りは車もほとんどなく静か。
喫茶店に駐車場は無いだろうと踏んでおり、実際その通り。しかしその2軒ほど隣にコインパーキングの標識があった。これは嬉しい。

ブーブーパーク。滋賀県の琵琶湖東岸と京都の中心地くらいにしか存在しない、なかなかのレアなコインパーキングだ。あなたは知ってる?
ピンク色の看板がかわいい。その看板に沿って駐車場への入口を入る。

わー、狭い狭い狭い狭い!車1台がギリギリの狭路を進む。この先が駐車場だとわかっていなければ、進む勇気を持てなくなりそうな道幅だ。

でもご安心あれ。その奥はわりと広い。箱庭みたいにポッカリと開けている。
京都の古い区画が残っているところって、こういう旗竿的なロケーションの駐車場が多かったりするよね。今の法律では住宅を建てにくい条件下だったりもするのだろう。
…余談が長くてすまない。そろそろお店にスポットを当てていこう。

このビルの2階が、目指すしんしんしんだ。最初の訪問時は僕は1階が店舗かなって、一瞬勘違いをしてしまった。なぜならば、見てくれ上の写真を。営業している時間だというのに2階に上がる階段があまりに暗いためだ。

この先に営業中の喫茶店があるとは、とても思えない。知らない人がこんな階段をトボトボ1人で登っている僕の姿を見たら、不安になってしまうのではなかろうか?
でも、しんしんしんは結構人気なのだ。夜遅くでも結構頻繁にお客さんが来る。みんなこの階段を乗り越えた猛者たちだ。

2階のお店の目の前まで来た。壁にレコード…?もはや暗すぎて肉眼ではほとんど見えない。どんな意味でここにレコードがあるのかもわからない。

わぁ、本当に暗い。半分手探りで、内部の全く見えないドアを開く。
そこにはステキな空間が広がっているのだ。
深夜喫茶はこんな空間
店内は暗い。ちゃんと天井からはレトロな照明が垂れ下がっているし、ところどころに卓上照明が設置されているのだが、それでも暗い。これからお見せする写真、実際はそれよりも3段階くらい暗いと思っていただきたい。
BGMもない。すごく静か。店員さんもそんな空気を壊さないように小声て語り掛けてくる。

だいたいこんな感じの店内だ。
これは一番店内全てを見渡せる席に座ったときのの写真。僕の右側にソファのボックス席、正面の窓の前にカウンター席が2席、右の本棚の前にカウンター席が2席。
さらに僕の後ろには厨房に面したカウンター席が2・3席、そして写真の左奥には2人ほどが座れる和風の小上がりがある。合計10人ちょいのキャパシティー。

外から見ると普通のちょっと古びた雑居ビルだが、中に入ると和風の古民家をイメージする人が多いのではないかと思う。
この写真はカメラが高性能であるために明るすぎて古民家感が薄れてしまっているが、ダークブラウンを基調とした店内、梁、小上がり、そして古書といったインテリア等がそう思わせていると感じた。

天井を撮影した。なんか天井に換気扇が付いている。黒々とした年季の入った梁を見ていると、ここがどんな建物なのかバグッてくる。まぁどうでもいい。唯一無二の空間であることには変わりはない。

見上げると、頭の上にのしかかって来そうな本棚。
そう、このお店はいたるところに本があるのだ。どこに座っても手の届く位置に。そのためもあってか、お店の雰囲気を堪能するためもあってか、来店するお客さんはおしゃべり中心でもなく、スマホ操作中心でもなく、読書する人が圧倒的に多い。意識高い系の喫茶店だ

店内には大きな黒板が掲示されている。たぶんおおまかなメニューはここに書かれている。
フードメニューも多少はあるが、基本的にはケーキとお茶系。そして意外なことにお酒を取り扱っている。ただし陽気に「カンパーイ!」なんていう雰囲気じゃないぞ。静かに嗜むのが美徳だと思う。

あと、紙のメニューもある。クッタクタだけども、それが味わい深い。一部しかないので他のお客さんと来店が重なると手渡しで回したりする都合上、あまり中身を詳細に見たことはないけどね。
そんな喫茶店。ちなみに4人以上の退店はNGだそうだ。3人でも厳しいだろう…。3人で飲み会の後にやってきた雰囲気で、そして断られたグループを目撃したことがある。
静かな夜をすごしたいとき、寝られない夜をすごしたいとき、1人か2人で行くのがいいんじゃないかな…。
本に向き合うための時間
チーズトースト
このときは本棚を前にしたカウンター席を案内された。店内の様子を把握することはできないが、自分だけの時間に浸れる席だ。夜を感じられる席だ。まずはホットコーヒーをオーダーした。

本棚を眺めながら薄暗いお店で飲むホットコーヒー、すごい空間にマッチする。この要素だけで、コーヒーがもううまい。
BGMも何もない店内。他にも数人の人がいるし僕以外は複数名でカップルもいるのだが、みんなひそひそと話すか読書をしていて、とても静かだ。オトナの図書館って感じだ。

さて、僕も本を読もうか。子供のころから本が好きだし、大人になった今も定期的に小説などを購入しているのだ。僕はインテリなのだ。

目についたのはみんなもご存じ『星の王子様』だ。
サハラ砂漠に不時着した飛行士が、王子様の話を聞くという物語で、優しい語り口なのに奥が深くて読めば読むほど味が出て考えさせられる、スルメみたいな本だ。
…暗いな。前述の通り店内はすごく暗いのだ。近くの人の顔も見えないほどに。従い、本は読みづらい。極端に照明の近くに本を持っていくか、自分の角度を変えて照明がしっかり本にあたるように工夫しなければならない。でもそういう試行錯誤が楽しかったりする。
しかし、もう少し刺激が欲しいかな…。ある程度読んだところで僕は本を閉じ、そしてチーズトーストをオーダーした。

おそらくスライスチーズを乗せ、ブラックペッパーを振った普通のチーズトーストだ。だけどもゆっくりこのトーストを食べながら読書する時間が至福だ。
僕は「江戸川乱歩」の短編集を手に取った。
時代を感じさせる世界観で、現代からの感覚だとなかなか馴染みづらい部分もあるが、ブラックすぎるストーリーだ。当たり前だな、江戸川乱歩だもん。絶望が次々と押し寄せる。店内まで染み込むような夜の闇は、さらに暗く感じる。

程よく気持ちも沈んだところで夜も深まり、僕は頃合いだなって思ってお店を出ることにした。
退店する際、スタッフさんが静かなトーンで「おやすみなさい」と言ってくれた。少し優しくなれた気持ちで夜の京都の町の夜風を感じた。
ガトーショコラ
これはまた違う訪問時のこと。2人掛けのテーブル席を案内された。
このテーブル、たぶん古い足踏み式のミシンだ。

そんなに空腹ではないが口寂かった僕は、ホットコーヒーと共にガトーショコラをオーダーした。ガトーショコラは程よく甘く、チーズトーストよりもゆっくり長くここでの時間を楽しむのに適しているよね。とても良い。
1人で外食するときにケーキをオーダーしたことなんて、これまであっただろうか?無かったかもしれない。今宵はそれだけ特別な夜だってことだ。

僕はテーブル席の近くにあった町中華を紹介する本を手に取り、ガトーショコラをゆっくり食べながらをそれを読んだ。
最初はあまりいなかったお客さんだが、続々と増えてきて間もなく満席となった。たぶんだけど、「京都大学」の学生が多い。なぜならここは、京都大学から数100mしか離れていないからだ。京都大学と銀閣寺のちょうど真ん中くらいにある。

2人組のお客さんも増えてきて、僕は最初に案内された2人掛けのテーブル席から、厨房を前にしたカウンター席に移動することになった。
残りがやや少なくなったコーヒーを飲み干して退店する選択肢もあったが、新たな席に座れる喜びを取ることにした。もう少しだけこのお店を満喫しようか。
バーでもそうなのだが、このカウンター裏に並ぶボトルを眺めている時間が好きなのだ。
さらにお客さんは次々やってきて、そして満席であることに残念がって帰って行っていた。
僕がこのお店に来て1時間半くらい経つが、僕の入店からここまで、退店した人がほぼゼロ。開店率はあまりよろしくないぞ。あなたが行くなら、開店直後かガチ深夜を狙うのがいいかもしれない。

カウンターの上は煙草の箱があったりと情報量が多い。そんな中でも『深夜喫茶しんしんしん』と書かれた木製プレートとコーヒーカップのコラボ写真を撮れたことは嬉しい。
しばらくカウンターの眺めを堪能した後、お店を出ることにした。
「おやすみなさい」の挨拶が心に沁みた。
その喫茶店は闇夜の灯
深夜喫茶しんしんしん。この渋いロケーションから老舗かと思われるかもしれないが、意外と新しい。2020年のOPENだ。
オーナーさんは当時京都大学の学生で昼夜逆転の生活をしていて、夜に出かけて飲食できる場所が居酒屋くらいしかなかったことから、自身の目指す居心地のいい空間としてこの喫茶店を作り出したのだそうだ。

なんてカッコいい夢だよ。無いものは自分で造ればいい。シンプルだけども普通の人ではチャレンジしようとも思わないようなスケールだ。それを成し遂げただけでもすごいことだ。
しかも魅力的なお店だし。現に僕も数年前から存在を知り、数100kmを走ってやってきたりしているワケだし。僕以外にも遠方から訪れる人も多かろう。

オーナーさんは、その後も尖ったコンセプトの深夜系カフェをオープンさせている。
2024年には「深夜喫茶/ホール 多聞」、2025年には「アスタルテ書茶房」。特に後者は結構は歴史を持つ有名な古書店が閉店後に、そこを改装してお茶やお酒を飲める空間にしているのだ。そのうち機会があればどちらも行きたい。

確かに京都は神社仏閣が有名だが、こうして時間を変えれば、また違った顔が見えてくる。そんな京都を探訪するのも楽しいのではなかろうか。
僕はひとまず、しんしんしんさえい訪問できれば京都での目的を果たせたことになる。では、車に乗り込んで滋賀県にでも向かおうかな。

それでは、みなさんもおやすみなさい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: 深夜喫茶しんしんしん
- 住所: 京都府京都市左京区北白川久保田町57‐16 2F
- 料金:
- 駐車場: なし。付近のコインパーキングを使用のこと。
- 時間: 20:00~27:00