巷では「秘境ラーメンと言えば、河だよね」ってささかれている。そのささやきはもちろん僕の耳に入って久しい。
「ラーメン河」。吉野の山中にポツンとあるラーメン屋さんであり、80代後半のおじいちゃんが作る塩ラーメンと、そのセットのマグロ丼が絶品だというのだ。
ただしおじいちゃんのキャパシティーとニーズが釣り合っておらず、開店時間の遥か前にその日に作れるラーメン以上の人数が来てしまうこともザラだ。秘境だけどもみんな来るのだ。早起き合戦が行われるのだ。

寝不足の頭に優しく染み込む塩ラーメン。
ひんやりした春風と、舞う桜の花びらが最高の舞台を演出してくれる。
ラーメン河。その劇場型ラーメン店を刮目せよ。
記帳(7:35)
国道169号を反れて、すごい道に入っていくところからドラマは始まる。

赤丸のところに分岐があるんだぜ。目の前まで行かないとそこに道があるとは気づきにくいし、ノーヒントだ。ラーメン河は、店の前の前に到着するまでそこにお店があるという看板や立て札なんぞ、ないんだからな。
生半可な意思では到達できないんだからな。

国道の下に、えぐりこむように入っていく。僕も「うーん、狭いですね」って思ったさ。だけどもここまでくれば道に迷うこともないだろうから、あとは慎重に運転しような、お互い。

左手、川だ。「吉野川」。ラーメン河の名前の由来は、店の前にこの川が流れていることだ。
ちなみに雨が続くと増水してお店がヤバいことになるらしい。それを防ぐための工事がだいぶ前から計画されており、ラーメン河も立ち退きの危機にある。お店のおじいちゃんは高齢なので、立ち退きになったらもう商売からは手を引くと決めているとのことだ。
立ち退きが先か、氾濫が先か、おじいちゃんの年齢による引退が先か…。縁起でもねぇ未来がてんこもりで目が離せないが、今日を笑って過ごせればそれが一番ハッピーなのかもしれねぇな。

さて、遠くに建物が見えてきた。あれがラーメン河だ。
駐車場は店舗の手前に3台、奥に3台、裏側に回り込むように行ったところに5台ほどは停められる。ただし公共交通機関で来るのが非常に困難だし、ライダーさんたちの立ち寄りスポットにもなっているから、油断すると駐車場全部埋まるそうだからな。
そうなったらどこに停めるか迷うよね。

店舗。これがラーメン屋だと言われても信じられない人も多いよな。看板もないし。
正確に言うとこれはおじいちゃんの自宅兼厨房。僕らがラーメンを食う場所は建物の中じゃないぜ。屋外だ。だから真冬は営業できんのよ、ここ。ワイルドだね。

唯一の看板がこれだ。ちゃんと"ラーメン河"って書いてあるけど、なんかちっちぇぇな。
あと、"営業中"って書いてあるけども営業まだしていないからね。あべこべ。とりあえず車を駐車した。僕以外に1台、お客さんの車があった。早いね。

これは駐車場方面から撮影した、最高の映えアングルだ。左のテント。ここで数時間後に僕はラーメンを食う!時間はまだ7:35だ。開店は10:00だそうだからもうしばらくかかるけどな!
さて、あんまり予習していないので不安だが、どっかで記帳するんだよな?せっかく早く到着しても名前を書いておかねばラーメンにはありつけないのだぜ。

あった。厨房の入口に用紙が置いてあり、『名前と人数を』っていう貼り紙がしてある。
僕は6組目の11番目であった。
まだ朝の7:35、開店までは2時間半あるというのに、もう5組が来ていたのか…。車は1台しかないから、たぶん記帳してからどこかで時間をつぶしているのだろうな。
ただ、ウワサによるとおじいちゃんが1日で提供できるラーメンの数量は40食弱という。それには余裕で間にあって良かった。
記帳するとき、厨房にいるおじいちゃんと目が合った。この時間から仕込んでいるのだ。会釈をした。このあとのラーメン、楽しみにしています。

テントの下の座席を数えてみた。9席だ。
うーむ、ファーストロット獲得ならずか。2巡目となると、10:30くらいにラーメンにありつけるくらいのイメージかな?まぁ気長に待とうではないか。
待機(9:30)
7:35に記帳した。開店は10:00であり、僕がラーメンを食べるのはきっと10:30ごろ。あと3時間弱ある。
このまま車の中で待とうかな…とも少し思ったのだが、最寄りのコンビニに向かうことにした。"秘境ラーメン"って呼んではいるが、国道に戻って数㎞走ればコンビニがあるのだ。時間にして10分弱。

クーポンを使って無料でコーヒーを入手し、ゆっくり飲んだ。朝のコーヒーは至福だ。あとトイレを借りた。このあとの待機が長いからな。ラーメン河にもトイレがあるらしいが、どこだかよくわからないしな。
20分ほどくつろいだ後、ラーメン河に再び戻る。まだ8:20。仮眠することにした。
ここに来るために深夜まで走行しており、あまり充分に睡眠を取っていないのだ。ならば寝るに限るだろ。車中泊セットはそろっているし。

1時間ちょっと仮眠した。幸せな時間だった。
時刻は9:30を回り、駐車場の僕の周囲も少しザワついてきた。パッと見で、20数人のお客さんが開店待ちのために待機している様子だ。
僕は半分寝ぼけた顔でフロントガラス越しに桜の花を眺めていた。ときどきサラサラと花弁が舞う。曇ってはいるが、素敵な朝だ。

周囲の人も車の中で待機していたのだが、9:40近くになると店舗の前に移動をし始める。
万が一にも予定より早く開店し、名前を呼ばれたのに僕本人がいないという事態は避けたい。それに開店前の風景も見てみたい。僕ものっそりと車から這い出して、店舗前へと移動した。そして吉野川や桜を眺めたりした。

チラリと記帳用のシートを見た。
足し算が苦手なので何人が書き込んだのかは計算できなかったが、30人以上は記載しているのかな?開店前に規定人数を超えることもザラにあるというので、妥当な人数かもしれない。
…とはいえ、座席数は9席。直近でここに名前を書いた人は4ロットか5ロット目だ。1ロットで30分と仮定すると、やっぱ2時間前後は待つのだろう。ラーメンを食べられるのは12時前後ってわけだ。
あ、ところでこの記帳シート!僕の前に書いた人の人数が確か「2」だったはずなのに、今見たら無理矢理「3」に書き換えてあるー!
店舗は9席なので前の人が2人だろうか3人だろうが僕は2ロットだが、これでロットが後ろ倒しされるような位置だったら、ちょっと穏やかな気持ちではなかったかもしれない…。

ちょいと店舗を見てみよう。
いたるところにステッカーが貼ってあるのが目につく。たぶん訪れた人が、自分の所属しているチームとかそういうのをアピールするために貼っているのだろう。来たことが自慢できるお店、ラーメン河。

ドアもステッカーだらけだ。
あ、ステッカーに埋もれているけどもトイレを示す掲示もある。トイレはこのドアから建物内に入ったところにあるらしいですぜ。僕は行ってないので詳細はわからないけども。

吉野の山奥の、こんな遠いところにお越しいただきありがとうございます。
吉野の四季の風情を愛でながら心安らかな気分で、私が心を込めて作った塩ラーメンをご堪能ください。
ただ、何分にも老夫婦でやっているものですから、皆様をお待たせし申し訳なく思っております。
でもここでは時間もご馳走です。
河のせせらぎの音、鳥の鳴き声、虫の音…に耳を傾けながら、都会の喧騒を忘れて、のんびりとお過ごしください。
お待たせしてごめんね!
おじいちゃんの人柄がわかる、ほっこりするような文だ。
残念ながら奥さんは2022年に亡くなってしまい、現状では作る数量を減らしつつもおじいちゃんがワンオペでこのお店を営んでいる。

店内。現状ではここでラーメンを食べることをできず、お客さんたちはトイレに行くときにこのフロアを経由するくらいしか馴染みがなくなったであろう空間。
コロナ前までは店内で食べられたらしいよ。でも感染抑制のために外で食べるスタイルとなり、今でもそのままらしい。
それがいいけどね。アイデンティティになったよね。さっきの貼り紙にもあるように、四季を体感しつつ鳥の鳴き声を聞きながらラーメン食べられるもんね。

イスもキチンとセットされた。1つ1つ間隔を空けて、同じ方向を向いて並べられている。なんだか小学校の時代の教室を思い出した。
お客さんはここで川を眺めながらラーメンを食べられるんだけど、それ以前に目の前に待っている人がうらやましそうな視線を向けてくるので、ちょっとくすぐったい感覚になるそうだよ。

10:00ピッタリ。おじいちゃんが中から出てきて記帳シートを見ながら「〇〇さーん!」と呼び始めた。
開店だ。宴の始まりだ。一堂に緊張が走る。
実食(10:23)
まずは4人が名前を呼ばれた。そして向かって前列の座席に座らせられた。すぐにラーメンが出てくるわけではなく、でも最初のメンバーなので待機している全員から熱い視線を送られ、4人はソワソワしていた。
なるほど、1ロットで最大5食と判断した。前列の4人、後列の5人、これを順番に回すイメージになるのだろうな。ラーメンがやってきたのは10:10くらい。1ロットの調理にかかる時間は10~15分だ。
4人分のラーメンを出し終えたタイミングで、おじいちゃんは後列5人を座らせる。
記帳シートを確認したおじいちゃん、僕の1つ前に書いた人の人数を見て「3人か…。じゃあ次の1人のYAMAさーん!」と僕の名前を呼んだ。グループを分断はさせない、でも空席は作らない。つまり1名である僕が順番を繰り上がって12人目から9人目となったのだ。
わわっ、3人のグループさん、ゴメン。お先です…!

10:10、座った。後列の中央だ。目の前はお茶のサーバ。前列はこれがあるから4人しか座れないのだよ。
おじいちゃんは呼んだ人に対して順番に「どうしましょ?」と聞いてくる。これは注文を聞いているのだ。メニューは塩ラーメン(1000円)と、塩ラーメン&まぐろ丼セット(2000円)のみ。僕が見る限り全員セットを頼んでいた。
僕ももちろんセットだ。このまぐろ丼が絶品だと聞いている。「セット」と一声いえば注文が通る。

10:23、塩ラーメンが運ばれてきた。あぁ、美しいな。
昔々、料理人だったおじいちゃんは1970年の大阪万博でラーメン屋さんを出店して日本文化を広めようとしたんだけども、出店の夢が叶わず。その後もラーメンの研究をして、2008年についにこの地でラーメン屋さんをOPENしたそうだ。

すぐにまぐろ丼もやってきた。おじいちゃんは実は寿司職人であり、大阪に自分のお店も持っていたのだ。50歳でお店を閉めて、犬と自然が好きな奥さんの希望でここ吉野に移り住んで。そしておじいちゃんはラーメンの研究を始めたのだそうだ。
…そんなおじいちゃんが作るまぐろ丼、あえて塩ラーメンとセットで出してくるまぐろ丼、おいしくないわけがない。
このくらいのタイミングで前列の人たちは食べ終えて退店し、次の4名が呼ばれ始めた。

1口スープを飲んで「うめぇぇ!!」ってなった。
鶏ガラメインの塩ラーメンが体に染み込むのだ。この少し寒いくらいの気候がいい。体も心もすごく温まる。さらには白菜の甘味が溶け出しているのだろうか。無限に飲める。

チャーシューはブロックが2つ。分厚いぞ。そしてトロトロだぞ。なんてうまいんだ。
麺もツルツルでうまい。茹で加減絶妙。スープ相変わらず止まらない。そして顔を上げるとそこには桜の木。その向こうに吉野川。ウグイスが鳴いている。なにこれ、新しく考案された天国かな?

メンマ、すんごい太い。この人生で一番太いメンマを見た。歯ごたえも充分だ。
こんな感じの、繊細さとワイルドさが奇跡的に競演している塩ラーメン。みんながこんな秘境まで朝早くからやって来るのも納得の味であった。

ラーメンのことばかり書いているが、もちろんまぐろ丼も同時並行で食べているぜ!
豪快にカットされたまぐろは、漬けにされている。ちょっとピリッとワサビが効いていて絶妙だ。酢飯はちょっとお酢が強めで常温になっている。ここは少し好みが分かれるかもしれないけども、まぐろとの相性がバッチリだ。

すごくお腹いっぱい。なんとか完食。
これ女性とか少食の人だったら厳しいボリュームかもね。まぐろ丼単品のオーダーはできないし、座席の配置上シェアもしづらいし。でもどっちもおいしいから、せっかく来たならセットがいいよ。
あと、次の人を待たせすぎないように、左右の人のペースをチラチラ見て意識しながら、大体同じタイミングで食べ終わるようにした。「ラーメン二郎」のロット乱しみたいなことにはならんだろうけど、やっぱちょっと気を使っちゃうよね。
食後、食器を自分で下げておじいちゃんにお支払い。
「ありがとうね。この時期は、桜の花びらも一緒に食べちゃったかな…?」と、ニコニコ顔のおじいちゃんが印象的であった。

吉野の山奥で、1人でラーメン屋を営む86歳のおじいちゃん。
桜咲く季節に、ここでラーメンを食べた思い出はきっとずっと忘れない。ごちそうさまでした。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報
- 名称: ラーメン河
- 住所: 奈良県吉野郡吉野町菜摘470
- 料金: 塩ラーメン&まぐろ丼セット¥2000他
- 駐車場: あり
- 時間: 10:00~12:30(水木定休)