南海電鉄の「なんば駅」。そこの社員食堂は、実は何の関係もない一般人も入って利用することができる。それがすごくわかりづらく、そして精神的にすごく入りづらいというウワサをかねてから聞いていた。
まぁ確かにそもそも社員食堂って裏側の施設であり、一般人にわかるようにアピールするような存在でもないしねぇ。それはわかる。もともと社員のための設備なのだから、一般人が「入っていいのかな…?」って逡巡する気持ちもわかる。
だが、「百聞は一見に如かず」って思って実際に見に行ったら、想像していたレベルの3倍くらいかりづらく、そして入りづらかった。

だが、そんな世界を体験できたのはすごく貴重でありがたいことだよね。
あなたも実際に行かない限りこのラビリンスの奥の緊張感は味わえないとは思うが、せっかく僕が突撃したのだ、その様子をなるべくわかりやすくお伝えしてみたい。
駅構内への入場許可証を入手せよ
なんば駅。…とひと口に言ったところで路線によりいくつもの同名の駅があるのだが、以下"なんば駅"と言ったら南海電車のなんば駅だと思っていただきたい。
ちなみに他には大阪メトロ・JR西日本・近鉄に難波駅があるらしい。南海電車だけ、正式名称は"難波駅"なんだけども駅名表示板棟ではひらがなで"なんば駅"なんだって。ふむ、どの難波駅もあまりなじみがないので「そうですか」以外のリアクションが取りづらい。

「ここでいいんだよな…?」というとまどいの表情と共に、なんば駅にやってきた。ここの駅構内に入るのは、実は今回が初めてである。10年くらい前、旅友の「ふじふじ」と大阪で遊んだ後に送り届けるためにこの目の前まで車でやってきたことならあるけど、駅内には入ったことはない。
鉄道駅として利用したことすらないのに、いきなり社員食堂を利用するという2段くらい飛び級するようなミッション。大丈夫かな?ちょっと心臓の鼓動が早いぞ、今日は。

なんば駅はデケェ。駅ビルもドコンドコン建っているし、駅構内もすごく広そうな予感で改札もたくさんある。ついでに人もすごく多くて、もうどこへ行けばいいのかわからない。今、おのぼりさんの気持ちがとても理解できている。
なにせね、これから目指す社員食堂がどこにあるのか、駅内のMAP見ても書いてないでしょ?いや、もしかしたら書いてあるのかもしれないけどもそういう期待は初っ端からしていない。駅員さんに聞いても、駅のスタンダードな活用方法ではないので煙たがられそうな恐怖がある。
従い、Web検索などして「社員食堂はどこの改札から入れば近いのか」・「そこからどうやって社員食堂まで行けばいいのか」っていうのを推測織り交ぜて導き出すしかないのだ。

結論から言うと、2階の中央改札から入るのがスムーズだ。
そして今回の僕のように「電車は乗らないけど駅構内の施設を使用したい」って場合は、改札の有人窓口の人に「中の食堂を使いたいんですけどー」みたいに声をかけるのだ。そうすると上の写真のような構内入場証を貸し出してくれる。
これさえあれば無料で駅構内に入ることができるよ。
なんだか、ひとまずここまで行きついた自分が誇らしい。第一関門は間違いなく突破できたと感じた。
ダンジョンの隠し扉を開けろ
改札口近辺はすごい人だったのと、僕自身に精神的な余裕がなかったので写真には納めていない。その後、確か左奥へと進んだ。南改札方面を目指したのだ。
するとちょっと人がまばらになってきたんだったよな。

これは「南海そば なんば2階店」だ。3階にも南海そばがあるそうなので、ここは2階店。だから南海そばだけを愚直に目指すと間違えて3階店に行きかねないから注意してね。
目指す社員食堂は、この写真の右側に見切れている通路の奥にある。ここまで僕が辿ってきたルートがあっていることは、このそば屋さんとレンガの壁が証明してくれた。

レンガの壁に沿って南改札方面へと進む。
この無機質なレンガの通路、まるでロールプレイングゲームのダンジョンではないか…。人の通行もややまばらだ。さっきまでの喧騒はどこへいったのだろう。そして間もなく社員食堂が現れるはずなのだが、そんな気配は微塵もない。あんまり食欲が湧いてくるデザインの通路でもない。

「はっ!」となって足を止めた。そして通過しそうになった漆黒の鉄扉を振り返った。それが上の図だ。
さっきの南海そばは、この画面の奥の突き当りを右に曲がったところにある。あっち側から歩いてきてこの光景だ。その鉄扉。赤字の『立入禁止』が目立つ貼り紙だが、近づいてもうちょい注意深く観察してみよう。

『食堂 営業中』
『食堂利用者および関係者以外 立入禁止』
一瞬「ん?これってどういう意味?」って思って頭が混乱した。いや、僕はこの食堂に一般人が入れることを知っていてここまで来ているわけだが、その事前知識がない人がこれを読んだら、いったいどう思うか…。
すごく丁寧に読解すれば「一般人であっても食堂を利用したい人はこのドアの向こうに行ける」ってわかるだろうけど、『立入禁止』のインパクトに尻込みする人が99.9%だろう。鬼メンタルじゃないとこの扉は開けない。

ましてやこの堅牢な要塞のような扉。内部は一切見えないもんな。不安しかない。
普通のメンタルで予想できる数秒後の未来は、まずはこの扉が施錠されていて開かない図。あるいは開けたものの南海電車の制服の人が忙しそうに歩いており、その人に「君!部外者はここに入ってきてはいけないよ!」と厳しく注意される図だ。
最悪のビジョンを想定して、このレンガの通路から人がいなくなるタイミングを待ち、その瞬間でドアノブに手をかけた。施錠はされておらず、しっかりとした重みを右手に感じながら、僕はドアを押した。
緊張感のある食事も醍醐味だ
扉の向こう側の世界へとやってきた。いつも鉄道を使用する人の世界とは別の世界がここにある。僕はなんば駅構内に入ったのは初めてであるが、常用している人であればさらにその感覚を強く感じたことであろう。

これまた無機質な白い通路が続いていた。少し年季の入ったオフィスの通路って感じだ。そこの曲がり角に上記のような食堂への案内図と献立表が掲示してある。
僕が目指す食堂の正式名称が「難波給食場」であることを、この献立表から知った。
朝は6:30から開店しており、10:00までが朝定食の時間。10:00~16:00までがランチタイムで、16:00~20:00までが夕食だ。毎日電車を動かしてくている職員さんたち、ありがとうございます。
さて、そのメニューであるが、職員と一般客で料金の差がある。
そばであれば職員は130円、一般は250円。カツカレーであれば職員は310円、一般は450円みたいに、それぞれザックリ100円ちょっとの差がある様子だ。もちろんそれは納得。一般客が中に入れるだけでも非常に好待遇だものね。

あと、日替わりで定食が2種類ある。これはどちらも職員450円、一般600円。
焼き魚・煮物・カツ・炒め物など、毎日利用する職員さんたちが飽きないよう、そしてバランスのいいものを食べられるように工夫している気配を感じた。
お弁当も販売しているそうだが、それは忙しい職員さん専用のものだそうだ。そりゃそうだよね。

さらに廊下に貼り紙。職員さんたちを優先させるスタンスの食堂である旨が書かれている。
もちろんもちろん。この後に入る食堂内にも、『乗務員は時間に余裕がないので優先的に取扱いします』という貼り紙があったよ。分単位で動くお仕事だもんね。ご飯の時間も余裕がなかったりするケースが多いのかもしれない。本当に頭が下がります。

ここが食堂の入口。チラッとだけ中が見えている。
6人掛けのテーブル席が4つほどある。そのうちの手前2つは職員さん専用だよ。奥まで行く時間すら惜しいのか…?大変なお仕事だ。

券売機が2つあった。職員用と一般用だ。ちょっと前までは一緒の券売機で、推すボタンで職員・一般と別れていたみたいだけども、券売機自体を分けたんだね。混乱を避けるためにも、この方が良いのかもしれないね。

僕が訪問したのはランチ時間だ。この日の昼のA定食はトマトソースのハンバーグであり、B定食は肉じゃがだ。じゃあ、Aでいこうかな。600円で食券を購入。
で、ここからの動きが初見ではわかりにくいのだが、券売機近くにトレーがあるのでそれを取っておく。トレーには色がついており、職員と一般では別の色だよ。
食堂中央の配膳カウンターに行き、食券を渡してカウンターにトレーを乗せる。すると中のスタッフさんが素早くメニューをトレーに乗せてくれる。途中で「ご飯の量は?」って聞かれる。何種類はあるのだろうが、僕は「普通で」と答える。
お漬物は自分で盛っていいみたいなので、小皿にちょこんと盛った。
全部トレーに乗せてもらったので立ち去ろうとすると、「小鉢1種類持って行って」って言われた。カウンターの隅にいくつかの種類の小鉢が並べられているガラスケースがあり、定食の人はここから1種を持って行っていいそうなのだ。僕は玉子焼きにした。

トマトソースハンバーグ定食がこれだ。
食堂内は当然職員さんもいて忙しそうにしているので全容の写真はない。一般と思われるお客さんは5・6人いたと思う。チラホラ入ってきている気配だ。
食堂内はBGMなどはなく、みんな黙々とご飯を食べていて談笑しているようなアットホームな状態ではない。一般客もみんなおひとり様で、サクッと食べてさっさと出ていくような感じだ。つまりは結構緊張感のある食堂だ。無論、別にアットホームさを求めてここに来ているわけではないが。
そんなこともあってか、正直味のことはあまり覚えていない。すごくクオリティが高いわけではなく、素早く安価に提供することを大前提に考え抜かれたメニューだと感じた。それでも充分においしく、運営側の努力を感じた。
僕ももたもたせずに食事を終え、食器を返却してすぐに食堂を後にした。鉄扉を出てレンガの通路に戻ると、なんだかホッとした気持ちとなった。

ある意味、いい社会勉強をできたかな。ほんの少しではあるが裏側を見ることができて、鉄道会社の職員さんに親近感と、改めて感謝の気持ちを持つことができたので。
では、忘れずに入場証を返却して帰ろうか。ごちそうさまでした。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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