「日御碕」っていうすごくいい岬があって、そこに建つ灯台はオーソドックスなものとしては日本一高い。ここは超有名なので知っている人も多かろう。
そんな日御碕の近くには「日御碕ドライブイン」っていう、ちょいとレトロな雰囲気のドライブインがある。日御碕に行く際には目に入るが、大抵の人は「わっ、古ッ!」くらいな感じでスルーしてしまうだろう。
さらにその奥…、日御碕ドライブインの裏手の斜面の下の方には、このドライブインと同じオーナーさんが営んでいる民宿がある。まぁここまで行くとご存じの方もほぼいなくなってくるだろう。

今日はそんな民宿、「西亀荘」についてを取り上げたいと思うのだ。
2025年のある旅において、僕は出雲市近辺で宿泊したい気持ちになった。付近で手ごろな価格帯であり、かつ渋さを伴っている宿泊施設を探したところ、それに該当したのがここだったのだ。
でもSNS全盛のこの時代で、直近7年間くらいこの民宿に対するXでのポストはゼロだぞ。マイナーさがほとばしっている。
結果、成功だったぞ。Webの口コミではやや辛口評価も多かったが、僕はポジティブなのか特に何も気にならなかった。
果たしてあなたは同類だろうか…?
暗闇のチェックイン
「出雲大社」で夜を迎えた僕は、そこから少々走行して日御碕ドライブインの前までやってきた。
ここまでは以前のドライブでお馴染みのルートだ。出雲大社も日御碕も、結構な回数をリピートしているからな。

これまで気になっていたドライブインだが、今回初めて写真に撮った。
実は西亀荘に宿泊すると、食事はこのドライブインで食べるそうなのだ。つまりは西亀荘に泊まるだけでドライブインも体験できて一石二鳥。だから僕は明日の朝の食事付きで申し込んでいる。ふふふ、明日が楽しみだ。

よく見るとドライブインの建物の右手の方に"民宿 西亀荘"の文字も見えている。これがドライブインと民宿が提携している証でもあるね。
さて、じゃあその民宿がどこにあるかというと、ドライブインの脇から小道に入り、そこを延々下って行くのだそうだ。この道はさすがに僕も初めてだ。存在すら知らなかった。

異世界にいざなわれそうなこの電光看板に沿ってハンドルを切る。
えっと、運転に自信がない人や怖がりの人は、初回はぜひ暗くなる前にチェックインがいいですぜ。それが僕からのアドバイスだ。

狭いし暗い。街灯すらないのだ。対向車が来たらすれ違えないほどに狭いが、この道の先は西亀荘があるだけであり、その先は行き止まりなので、対向車が来る可能性が極めて低いのが幸いだ。
しかし怖いぞ。カーナビもバグって「経路を修正します」と延々100回くらい繰り返しているし。ウザい。

もうちょっと感度のいいカメラでも撮影してみた。うむ、ホラーである。この先に宿があるとわかっているから気持ちを保てるが、見知らぬ道だったら泣いているかもしれない。
…というより、「マジに本当にこの先に宿があるんだろうな…?」って不安になる。

着いた!!…のか?ドライブインから1km弱でここまで来た。
もう暗くって何が何だかわからない。明かりのついている建物があるので「あぁきっとこれが目指す宿なんだな」ってわかる程度だ。実は一般民家だったりしたら、土下座して謝らないとだな。
真っ暗で駐車場もどこなのか全然わからない。とりあえずちょっと手前の路肩に車を停めることにした。

来た道を振り返った。真っ暗。何も見えぬ。
ひとまず宿の入口をガラリと開けて「すみませーん」と声をかけると、奥からおばちゃんが出てきた。車をどこに停めるのが正解だったのか聞くと、宿の玄関ギリギリのところに停めていいそうだ。早速移動しなおしておいた。

無事にチェックインだ!ここがエントランスだ。
実家感がすんごい。本当に宿なのか、ここ?正面の曇りガラスの向こうはたぶんオーナーさんのプライベートスペースだ。勢いあまって開けないようにしないと。
晩酌用にビールを買ってきているので、おばちゃんに「お風呂入っている間に冷しておいていいですか?」って聞いたら、「そこの冷蔵ケースに入れていいよ」と言ってもらえた。ありがたい。
風呂に入って晩酌を
客室は2階だ。おばちゃんと、転がり落ちそうな急階段を上る。
ちなみにだけど、たぶん僕以外のお客さんはいなかった。わりと出雲エリアの宿は埋まっていたのに、ここは空いているのだ。なんでだろ?

ふぉー!渋い!!良い!
母屋下げで一部斜めになった天井。そしてシミ。年季の入った宿にしか醸し出せない良さがある。歴史がある。
部屋の中に贅沢なものは特にないが、お茶セットもあるしエアコンもある。こういうのでいいんだよ。
ちゃぶ台にておばちゃんに案内され、宿帳を書いた。おばちゃんには「明日の朝食は7時以降に上のドライブインね。そこで宿泊代をまとめて清算しますね。」みたいなことを案内された。なるほど。

じゃ、お風呂入りに行きますか。いやぁ、廊下が暗いなぁ。この宿までの小道が漆黒の闇だったので、もはやこのくらいのことはなんとも思わないけど。
ただ、キラキラした旅行を好むカップルとかファミリーが、何も知らずにここに予約したらきっとビックリするだろうなって思う。渋すぎるのだ。こういう宿は自分を見つめ直すときとかに泊まりたい。そう思った。

ミシッミシッと鳴る廊下を歩き、お風呂や洗面台のある1階へと向かう。
これが2階から見下ろす1階への階段だ。ね、すごい急勾配でしょ?行き来するたびに緊張が走ったわ。

昭和時代の一般家庭のお風呂って感じ。
まぁでも使用するにあたって不便は特にないし、温かいお風呂は心からありがたい。他に誰もいなさそうな気配なので、ゆっくりとお風呂を堪能することができた。
そしてエントランスの冷蔵ケースからビールを取り出し、自室に戻る。
あ、ちなみに宿のおばちゃんは基本的にはお客さんにあまり関与しないクールなスタンス。この距離感、嫌いじゃない。静かな夜を満喫できる。

キチンと浴衣と歯ブラシが用意されているのもありがたいよねぇ。使わせていただこう。
そしてお待ちかね、晩酌タイムのスタートだ。実はチェックインする少し前にコンビニで夕食も買ってあるのだ。夕食を兼ねての晩酌をするのだぞ。

お好み焼き・焼きそば・チーズ・ビール…。これだけあれば人生ハッピーなフルコースだ。
当然、ごはんはすでに冷めてしまってはいるが、さすがに宿に電子レンジはないのでしょうがない。そして僕はO型なので、そんな細かいことは気にしない。常温で充分。

部屋にTVはあったが、基本的には僕はビジネスホテルに泊まろうとも旅館に泊まろうとも、TVは見ない人だ。家でもTVなしの生活を5年くらいは送ったこともあり、ほとんど見ない人だ。
代わりに持ち込んだPCを眺めたり、天井のシミを眺めたりする。

このシミは、雨漏り?
この宿の創業をWeb調べたけども見つからなかったが、長年の雨風が蓄積されてシミてきたもの?…それとも、2024年夏の大雨の被害によるもの…??
あぁそういえば…と思って、Webから調べてみた。
ここ日御碕エリアは2024年7月の大雨により、唯一外界とつながる県道29号が崩落してしまったのだよ。まさに陸の孤島となってしまったんだよ。ウワサだけは聞いていた。

それでね、日御碕エリアにある10個ほどの施設を対象に、2024年秋から2025年春先まで『観光応援キャンペーン』っていうのをやっているの。ここ西亀荘もその対象であり、『お1人様3,000円の割引 ※予算がなくなり次第終了』と書いてあった。
チェックインのときにおばちゃん、「キャンペーン今月末まで適用できるから、宿代から引いておくね」と言っていたな。せっかくだし、宿側から案内されたのだからありがたく利用させていただこうか。
…それにしても、復旧できてよかった。日御碕エリアの人々の生活にダイレクトに影響するし、風光明媚な日御碕に行けなくなるのは残念すぎだし。
あ、ところで日御碕について知りたい方は、僕が以前書いた記事を上記リンクから参照いただきたい。
車を使えば出雲大社から結構近いので、一緒に巡るといい感じだよ。僕は何度も訪問しているので今回は別に行くつもりはないけども。

晩酌を終え、洗面台だ。このビシッとした細かいタイル張りの長方形の流しって、昭和時代特有だよね。水の流れはイマイチだが、味わいはある。
まだ22時ごろなのだが、館内は暗く、おばちゃんも寝ているのかもしれない。外も闇夜だし、世界に僕しかいないような妙な気持ちにもなるよ。

布団を敷いた。この家庭的な布団、いいね。あっかたい。
それではおやすみなさい。
ドライブインでの朝食
グッモーニンッ!!昨夜はよく眠れたぜ!
なんだか今日は昨日までと一転して曇っているしとても寒い気配だ。昨日よりも気温は10℃も低いらしい。でも心は満ち足りている。

昨夜は真っ暗で何もわからなかったので、改めて宿の外観をご紹介していこうと思う。
これが宿だ。ネイビーでスタイリッシュな感じの外壁で、レトロさはあまり感じない。ただ、Web検索すると数年前まではベージュっぽい外観だったようだ。きっと最近リフォームしたのだろう。

木立の向こうに見えているのが、きっと日御碕ドライブインだ。
直線距離では大したことはないが、車道でアプローチするとなると昨夜の通りなかなかにデンジャーな感じになるのだね。
あそこでご飯が提供されるわけなんだけども、僕は車があるので行くのは容易。ただ、仮に公共交通機関で来ている人がいたとしたら、どうやってあそこまで行くのだろう…?
送迎してくれるのかな?それとも徒歩かな?朝ごはん食べてからチェックアウトまでまらここまで歩いて戻ってくるのとか、かなりシンドいよな…。

あ、建物の横に階段を見つけた。これ、ドライブインまで続くんだよね、きっと。だから徒歩の人はここを行けばいいのか。
でも、なんか早速山道だね。これ朝からハイキングすることになるんだね。そして夜暗くなってからのチェックインはマジ危険ってことだね。

これは2階から見下ろした中庭。ここはリフォームしていなくって、かつてのベージュの外観が残っている。うんうん、こっちも味があっていいぞ。
さて、身支度を終えた僕はそろそろ朝ごはんに行こうと思う。
エントランスにてプライベートスペースに向かって「すみませーん!すみませーん!」と叫んでみるのだが、全然反応がない。

うーむ、おばちゃん、いないのかな?ドライブインで朝ごはんの準備をしているのかな?ドライブインで精算をするって言ってたもんな。
じゃあ勝手に宿を出てドライブインまで来いってことなのだな。宿、不用心じゃなかろうか…?

真実はこの狭路の先のドライブインで待っている!さぁ朝ごはんだ!
僕は車に乗り込んでアクセルを踏む。改めて、すんごい道のりだよな…。

ドライブインについた。昨夜おばちゃんに「朝ごはんは7時以降の好きな時間にどうぞ」と言われ、7:03に着いた。朝に弱い僕はそこまで空腹ではないのだが、ガッツいている人みたいだ。
しっかし朝7時からこのドライブインは営業しているのだぜ。もちろん宿泊者ではなく一般の人も入れる。すごい早い開店時間だ。ありがたい。
冒頭にも書いたが、西亀荘に宿泊するメリットの1つが、ここでご飯を食べられることだと僕は思っている。この外観、ワクワクするじゃないか。

広々としたドライブインは僕だけだった。そりゃ開店直後だものな。寒い朝なのでストーブがつけられており、僕はその近くのテーブル席に座った。だって寒いんだもの。
おばちゃんはここにいた。「あら、おはようございます」と言われ、朝ごはんが出てくるまでに精算をすませ、温かいお茶を飲みながらくつろいだ。

これがテーブルの上にあったメニューだ。…が、朝食込みで宿泊すると自動的に950円の「朝定食」になるのだと思う。何もオーダーせずに待っているだけで良いシステム。

来た。なかなかにワンパクなボリュームの朝定食だ。
お茶碗はかなり大きいし、焼き魚・納豆・目玉焼き・惣菜までついている。何気に目玉焼きの下にあるサラダの量も多い。結構時間をかけて食べ、お腹はパンパンになった。

おばちゃんに挨拶をし、ドライブインを跡にする。
決して新しい宿ではなかったし、道はとんでもなかったし、おばちゃん特に愛想もよくないし、出雲市街に比べればかなり安いもののコスパがいいというわけでもないし、Web上の口コミも低い。
それでもな、こういうのを含めて旅だと思うんだ。何が楽しいのか言語化するのは難しんだけど、結論すっごく楽しかったんだよ。
こういう経験が旅を豊かにするのだし、またいつか機会があったら行きたい。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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