まずはあなた、「瀞峡(どろきょう)」を知っているか?
奈良県・三重県・和歌山県の3県にまたがる山深い渓谷の中の渓流。すんごい秘境感の漂う素敵な景勝地なのだよ。
ちょうど5年ほど前の話だが、僕もブログ内でこの瀞峡について執筆しているので、自然大好きな人は是非読んでみてほしい。
さて、今回は瀞峡メインの話じゃあない。
1916年(大正6年)に創業した「瀞(どろ)ホテル」っていうすさまじく渋いホテルが瀞峡にあるんだ。実はそのホテルは宿泊業はやっていないんだけど、カフェレストランとして第2の人生を歩み出したんだ。そこを訪れたときの話をしたいんだ。

…ってわけでだ。前回は5年以上前の訪問記を書いたのだが、今回は直近である日本7周目で訪問した際の話をする。
最高だぞ、ここ…!!
あこがれの瀞ホテル
危険なレベルの暑さだとか世間で騒がれている日、僕は瀞峡にやってきた。

瀞峡は緑あふれる山奥のスポットなのだが、やっぱ暑かった。日本全国が沸騰しかけているんだなって思った。
それでも都市部よりかはやや過ごしやすい。なにより空気が綺麗で不快感が少ない。

以前何度か撮影した、瀞峡の看板と三県境の看板。ここから見下ろす渓流の真ん中で、三重県・奈良県・和歌山県が1点で交わっているのだ。
三県境は日本全国に48箇所あるが、そのほとんどが山岳地帯だ。山の山頂にて3つの都道府県が交わっている。…が、車で気軽にアプローチできる三県境は48箇所のうちわずか2箇所しかない。そのうちの1つがここなのである。
もう1つ、有名な「柳生の三県境」についてはまた機会があったら書こう。それと、三県境についてもっと詳しく知りたければ、冒頭のリンクから過去記事をご参照いただきたい。

ここから下を覗き込むと、白い渓谷、淡い緑の渓流、そして断崖に建つ貫禄のある瀞ホテルが見える。今回のお目当ては、この瀞ホテルなのだ。見た感じ営業しているぞ、やったぁ。

ここから川面まで降りていく階段は、瀞ホテルを掠めるように配置されている。上の写真はちょっとわかりづらい構図になってしまったけども、直進して"瀞ホテル"の看板の真下にて建物に沿って左に折れるルートなのだ。

ホテル入口のすぐ脇まで降りてきた後、来た道を振り返るとこんな感じ。アクロバティックなルートを降りてきたんだなぁってことがわかる。
普通だったらこんな側面、ホテル関係者じゃないと通らない。てゆーか、どこからどこまでがホテルの敷地なんだろうね…?

数mズレて、ホテル入口のほぼ正面まで来た。右から書かれた"ルテホ瀞"が時代を感じさせるし、バリバリ木造な感じが渋すぎる。
前回の記事でも『もはやホテルというより神社と呼んだほうが共感が得られそうなほどに、古風な建物だ』って書いたしな。なんだかありがたい存在に思えてしまうよね。

瀞ホテルは前述の通り1916年創業し、その後2004年に3代目が亡くなって休業してしまう。しかし2013年に4代目が立ち上がり、喫茶店として再OPENしたのだ。
だから宿泊はできないんだけど、ご飯は食べられるんだよ。

前回の記事で書いたけど、僕はその4代目による再OPENの数日後にここに来ているのだ。しかし朝でまだ喫茶店は開店しておらず、かつ当時の僕はそこまで喫茶店に興味もなかったのでスルーした。
その後、カフェ好きになった僕は「いつか瀞ホテルでカフェしてみたい」っていう思いを強く持ち続け、今回ようやくその夢を叶えることができるんだよ。
カフェタイム
スコーンとアイスコーヒー
時刻は13時を少し過ぎた頃。結構腹減った。
ホテル(という名の喫茶店)に入った僕は、スタッフの方に「ランチできますか?」と声をかけた。その後「あ、この人はどこかのWebサイトで見た瀞ホテルの若き4代目だな」って気づいた。

4代目に「予約の方ですか?」と聞かれた。嫌な予感がしつつも「違います」と答えた。
すると「ランチメニューは予約の人だけで終わてしまってまして、カフェメニューだけになってしまうのです…」と申し訳なさそうに言われた。
あぁ、僕は甘かったのだ。調査不足だったのだ。このときは世間は3連休。相当にお客さんが多かったのだろう。4代目、結構いっぱいいっぱいな様子だし。
2025年現在、瀞ホテルのWebを見ると食事はかなりカッチリした予約形態を取っているので、よほど人気のスポットなのだと窺い知れる。

腹は減っている。ご飯を食べたかった。
しかし目的は「瀞ホテルを過ごすこと」である。カフェだけでもできるのであればありがたい。それを伝えると、4代目は席を案内してくれた。
どうやらランチタイムも終盤であり、もうお客さんは店内にはあんまりいなかった。

案内された席がここだ。
すごっ!!これ、特等席と呼んでも過言ではないんじゃないかな。
眼下に瀞峡の清流を見下ろすカウンター席なのだ。空腹なんぞ吹っ飛んだ。いや、むしろ「食ってる場合か!」ってくらいの絶景だ。

角度を変えてもう一枚だ。なぜならどこから眺めても絶景すぎであり、その感動を少しでもあなたにお伝えしたいからだ。もっとも写真では実際の風景の素晴らしさは全然伝わり切れないのだが、それでもいいだろ、この景色…!
ホテル業を営んでいた頃は、朝起きたら部屋からこれが見れたんだろうなぁ…。すごすぎる。

目の前の席から見下ろす瀞峡。ここが「瀞八丁」と呼ばれる、瀞峡の中でも一番の是敬のスポットだ。左右の渓谷が高さ50mほどあるそうで、すごく壮大。自然の偉大さを感じられる。
そんな中を渓流を観光船が進んでいる。気持ちよさそうだ。

これがカフェメニューだ。
ドリンクが中心なのである。地元紀伊半島のジュース類も豊富なのだが、僕はフルーツがちょっと苦手な人種だ。でもコーヒー大好きなので、この猛暑の中だったらアイスコーヒーがいいな。
フード的なものは"本日の焼き菓子"のみのようだ。そして詳細は黒板に書いてあるそうだ。

これが黒板。ドリンクは梅ソーダやレモンスカッシュもある。爽やか系メニューで暑さも吹き飛びそうだね。僕は飲めないけど…。
焼き菓子は自家製ジャム付きのスコーンの2種盛りだそうだ。これをオーダーしよう。

スコーン、来た。ハンドメイドタイプでやや小さくボコボコした風合いのスコーン。そしてたっぷりのジャム。1つは柑橘系、もう1つはヨーグルト系だな。
僕は前者は食べられない。自分のことを不幸だとは思わないが、こういうスイーツ中心のシチュエーションだったりコース料理のデザートの際には、自分の境遇を「不便だな…」とは思うよ、やっぱ…。食べられないのは残念ではある…。

アイスコーヒーも来た。テイクアウト用のプラカップである理由はわからないけど。
でも、コーヒーさえあれば、どこだってそこがパラダイスなのである。ましてやこの絶景を眺めながらのコーヒータイム。最高だろ。

うん、うまい。ザクザクしてクッキーにも近いスコーンは見た目のボリューム以上に食べ応えと満足感がある。ヨーグルトもほのかな酸味がいい。
アイスコーヒーもビターで僕の好きなタイプだ。
ランチの食事メニューは、前日午前中までに予約の必要なハヤシライス・3日前までに予約の必要な和定食などがあるそうだ。それは次回の宿題だね。
ホテル内を見学する
この章では、"見学"っていうか、カフェタイム中に歩き回れる範囲で移動して撮らせていただいた写真をご紹介しようと思う。

店内の中央付近。青い布が貼られているのが、厨房との境目部分だ。このあたりのセンス、いいよね。4代目の若いセンスを感じる。左側にはセルフサービスで水を注げるコーナーがある。
あと、年季の入った木の床がすごく好き。

セルフサービスを裏から見た図がこれ。
コーナーやその脇の棚・引き出しは昭和を感じさせるデザインのものだよね。床や天井には昭和レトロな扇風機が設置されている。天井の照明もなかなかに渋い。さすが100年の歴史を持つ超老舗ホテルだ。
ちなみに店内にエアコンはない様子。扇風機のみだ。立地が崖の上だし風通しのいい古民家なので暑苦しいほどではないけど、まぁそこそこは暑いよ。近年の日本の気候がおかしいせいなんだけど。

奥の方には雑貨販売コーナーがある。ここにも新しい時代の風を感じるよね。他にも店内の随所にオシャレなインテリアや、販売対象のグッズが飾られたりしているんだ。

同じく奥のスペース、トイレに繋がる部分だ。唐突にギターあるね。4代目の趣味かな?
向こうの方にはオシャレなタイルを貼った洗面台が見えている。

上階へと上がる階段があった。ここより先には踏み込まないけどね。ホテル時代に使われていたエリアなのであろう。
ところで予約&追加料金を支払うと、ホテル時代の個室を1日貸切ってのんびりご飯食べたりすることもできるらしい。そこまで高額ではなので、古民家好きや瀞峡をゆっくり堪能したい人には、うってつけのプランだと思うぜ。僕もやってみたい。

そしてーーッ!すごいものが窓越しに目に入った。まさかここでそれが見られるとは思っていなかった。
何かと言うと、この瀞ホテル本館から吊り橋で繋がる別館だ。2011年の台風12号に伴う「紀伊半島大水害」で大きな被害を受け、別館は使われていないし吊り橋もボロボロなのだが、かろうじて残っているのだ。

わわわわわ…。すごいスリリングな吊り橋になってしまっている。
往時はお客さんがここを通って別館に宿泊したり、部屋食の場合は従業員さんが食事を持ってここを渡ったりしたのだろう。それが今や、誰も永遠に渡れない状態となってしまっているぞ。
この吊り橋を下からバッチリのアングルで見上げた図は、冒頭からのリンクにあるので、ぜひ見てくれ。あと、この記事の終盤にも少しだけ出てくるので、スリルを感じてくれたら嬉しいな。

会計時、4代目に僕がここにずっと来たかった旨を伝えてお礼を言った。4代目は「忙しい時期でランチを提供できなく申し訳ない」と言っていた。
ランチタイムもほぼ終わり、店内は平和な空気が流れ始めており、さっきはテンパり気味の4代目も笑顔を見せてくれていた。いや、こっちこそ下調べなく来たのに受け入れてくれてありがとう。またいつか必ずご飯を食べに来たい。

景色も建物も人も良いお店だった。
営業形態は変わってしまったが、県指定文化財にも登録したこの建物が次の100年も人々を魅了していくことを心から期待しているよ。
瀞八丁の絶景を堪能する
最初に書いた通り今回は瀞ホテルの話なのだが、やっぱ最後に瀞峡の絶景もご紹介するね。これをわかってこその瀞ホテルだから。

まずは瀞ホテルから見下ろす瀞八丁だ。先ほども書いた通り、左右の50mの絶壁がすんごい。奥でカーブして先が見えないのもダイナミックさを感じさせる。
観光船に乗ればここいらを川面から見られるんだよね?それは僕も未経験なのである。いつか船からも眺めてみたい。

これから川面まで階段を下りていく。振り返る瀞ホテルが改めてカッコいいね。
しっかし暑い。帰りにこの石段を上まで登らなきゃいけないことに気が萎えるが、それでも絶景を間近で見られる方に魅力を感じるので行くんだよ。

降りてきた。岸壁も白いし、それが元となった足元の河原も白い。さながら極楽浄土。
なんでここの岩石が白いのかというと、どうやら主たる原石が砂岩であり、そこに石英が多く含まれるために光を反射して白く見えるっぽいな。

カヌー(?)やっている人がチラホラいる。川面からの日航の反射はヤバそうだが、この穏やかな渓流をゆっくり進んでいくのは楽しそうだなって思った。瀞ホテルのランチやカフェとセットにすれば、夏の思い出に最適であろう。

悔しいので僕もちょっとだけ川に手をつけてみた。見て、この透き通った水を。なんて綺麗なのだろう。
この川は「熊野川」の上流系にあたる「北山川」。ちょっとマニアな人であれば、北山川と聞くと筏流しを思い浮かべるよね。このエリアは林業が盛んだったんだけども、山が険しすぎて伐採した木を運べるような車道を整備できなかったので、その場で筏にして川を下って町までいくんだ。

これは別の訪問の折に撮影したものなんだけど、偶然筏流しを目撃したこともあるんだよ。
この狭い渓谷を、大型トレーラーみたいな筏で通過していくの、どういうテクニックが必要なんだろうねぇ…。見ているこっちがヒリヒリする。

河原から瀞ホテルを見上げる。その左手にはさっきホテル内から撮影したボロッボロの吊り橋が延びているのがわかるだろうか?その左には日陰で見づらいだろうが、別館もちゃんと映っているよ。
すごい断崖にアクロバティックに建てられた別館。懸造りの神社仏閣のようなワイルドな建造物だったのだね。もし往時に訪問できた世界線があるのなら、ぜひ別館に宿泊してみたい。

そして別ルートで、瀞ホテルの足元に向かうような感覚で岸壁を戻っていく。結構暑いのだ。あんまり長時間河原に滞在できないのだ。
以前の記事で写真を撮ったのは、確かこの上の断崖部分だったかなぁ…。おぼろげな記憶をたどる。

あぁ、前回とほぼ同じアングル。これぞ瀞峡。次はまた違う季節に来ようか。そして今度こそ瀞ホテルで食事をしようか。
そんな夏の思い出を旨に、僕は瀞峡を後にする。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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