ドライブ旅行中、純喫茶で朝ご飯を食べられるととても幸せな気持ちになる。
時間の許す限りドタバタしながら走りまくる距離ガバな僕であるが、コンビニで買ったパンを片手で食べながらハンドルを握るのではなく、あえて喫茶店でコーヒーの香りを嗅ぐ。そういう贅沢なひとときを捻出できた自分自身に酔うのだ。
そんな完全なる自己満足の世界であるが、大事なことなのだ。
さて、このとき僕は香川県にある「純喫茶ニューアスカ」を目指してた。
いつぞやレトロで華やかでかわいい内装の写真を見て以来「いつか行きたい」とチェックしていたお店だ。おばあちゃんが1人で営んでいると聞いている。

このお店でモーニングをするため、広島県某所の宿を日の出とほぼ同時くらいに出発している。
かなりの距離であり、高速道路を使えばもちろんそこそこスムーズなのだが、日本の海岸線を一般道で走ってこそ日本一周と定義している僕は瀬戸大橋などの止むを得ない区間を除いて一般道で向かった。
さて、そんなペースでモーニングと言える時間に間に合うのか。むしろお店の早すぎる閉店時間に間に合うのか…!
閉店クライシス
僕はニューアスカを目指していた。
営業時間は8:00~11:00の3時間だと聞いている。午前中のみの営業というのは少々ハードルが高いが、大丈夫だ。なぜなら10:15に到着見込みだからだ。仮に閉店30分前がラストオーダーだとしても充分に間に合う。

こうしてニューアスカに到着した。ぶっちゃけ付近で迷って数分グルグルしたんだけど、10:15に到着した。ラストオーダーには間に合うはず。
まるで一軒家のような外観なので、「ホントにここでいいのかな…?」って思ってしまったが。

このように、ここがニューアスカであることを示す看板はあるのだが、店舗はアレでいいんだよな…。
お店っぽくなくて一般家庭の玄関みたいなエントランスだし、駐車場には車が他に1台もいないしで、アレがお店なのか、営業しているのか、入っていいのか悩みは尽きない。
でもウジウジしててもしょうがないよな。僕は店舗と思われる建物に向かって歩き始めた。

あ…。
見てほしい。ドアの右側と左側に「準備中」という札が下がっている。ご丁寧にも2枚下がっている。
マジかよ。念のためもう一度手元のスマホからお店の営業時間を調べたが、確かに11:00閉店だ。そして今日が定休日というわけでもない。
お店の前で少し考えた。
可能性としては、マジに閉店している可能性。オーナーさんの体調不良だとか、今日だけはちょっと用事があって臨時休業だとか、あるいは既に営業していないのだがWebにその情報が反映されていないとか。
そうだったらもうダメだ。ここまで来たが、無駄足だったってことだ。

可能性は低いが、もう1つ考えられる要素があるのではないかな。
それは「営業中なのに準備中」の札が掛かっている、という可能性だ。たまーにある。
オーナーさんのうっかりだったり、忙しいのであえて準備中にしておくだとか、もう札を切り替えるこつら念頭になくって「準備中」が景色の一部になってしまっていたり。
それを確認するには…、これもWebだ。
掲載数は少ないが、ここにかつて訪問した人のSNSなどを検索した。その外観写真を思いっきり拡大した。
「準備中」!!店内に入った人の記録でも「準備中」!むしろ「営業中」の札の写真が1枚もない。まぁ限られた時間の中での検索だからたまたまかもしれないけどな。そして、営業時間が短いので閉店と同時に退店して外観写真を撮ったのかもしれないけどな。

だが、これでワンチャンあるよなぁ!もしかしたらこのドア、開くんじゃないかなぁ!
それを確かめる前にやることがある。店舗に電話だ。早速電話してみた。
ダメ、誰も出ない。じゃあ残る手段。ドアが開くかどうか確かめてみようか…。
後ろを振り返った。非常に交通量の多い道である。道行く車から「アイツ何やっているんだ?住居に不法侵入か?」って思われないかなぁ。
ドアが開いたところで、オーナーのおばあちゃんがもうオフタイムで、くつろいでムシャムシャご飯食べていて気まずい状態になったりしないかなぁ。
緊張しながらドアに手をかけた…。
…ダメ。ロックされている。終わった…。帰ろう。
失意のもと車まで戻り、車のドアに手をかけた。
そのときだ。背後でカチャッと音がして、店舗のドアが少し開いたのだ。
いざなわれたメルヘンワールド
入店を諦めて、今まさに車に乗り込もうとしている僕の背後で少し開いたお店のドア。振り返るとそのドアの隙間から小さなおばあちゃんがこちらを覗いている。
これはもしやチャンスか…!?
おばあちゃんのもとに駆け寄り、「お休み中に失礼しました。このお店に来たくって訪問したのですが、準備中とのことで帰ろうとしたところです。」と言った。
するとおばあちゃん、「11時までなんだけど、それでいいならどうぞ」と優しく言ってくれた。
おぉぉぉ!!ありがとう!これはミラクル!

一歩お店に入って「わぁ!」と声が出た。なんてかわいい内装だ。だが、そこいらの詳細はこのあとじっくりリポートしていこう。
まずはおばあちゃんにお礼を言った。
「ラストオーダー、もう終わっていたのですか?にもかかわらずお店を開けてくれてありがとうございます。」と言った。
おばあちゃん、「来ていたお客さんがみんな帰ったら、少し早く閉めることもあるの。で、車が来た音がするから2階から見たらあなたがいるから、『お客さんかな』と思って急いで降りてきたのよ。」とニッコリ笑った。
もう感謝しかない。この出会いを大切にしなければならない。

おばあちゃんは店内の照明をつけ、BGMを流した。
初見でも鮮やかだった店内だが、命を吹き込まれたかのようにさらに輝きと優雅さを増し、何とも言えない居心地のいい空気に包まれた。
しかもお客さんは僕1人なんだぜ。この世界を独り占めだ。ステキ。
おばあちゃんが「どこの席でもどうぞ」と言うので、一番奥の窓際の席に座らせてもらった。ここからなら店内全てが一望できるからだ。

隅の方には、青いカーテンで囲われた小さなステージのようなものもある。
どうやら昔はカラオケもできるカラオケ喫茶だったそうだ。そのときの名残でこういう設備があるらしい。そういえば、さっきの写真にも写っている通り天井にはミラーボールもあるのだぞ。かつてはさぞや煌びやかだったのだろうなぁ。
上記はおばあちゃんに許可を得て撮影した店内のほぼ全てが写った動画。
16秒ほどの短いものなので、ぜひ再生してみてほしい。胸がキュンキュンする、"かわいい"の詰まったお店だぞ。

青い天井・ほんのり赤い壁・緑の床。経年で少し色あせたものの、力強い原色を取り入れたデザイン。そこにカラフルな造花がたくさん置かれ、場を盛り上げてくれている。
確かに、ミラーボールさえ回ればここはいつだってパーティー会場だ。

ネコの時計もかわいいし、遠目ではほのかに赤いと思っていた壁紙もレトロアメリカンなテイスト。昔からこの壁紙を使っていたとしたら相当にハイカラですぞ、この喫茶店は。
あぁ、そうか。時代の先端を走っていたから"ニューアスカ"っていう店名にしたのかなぁ。じゃあ"アスカ"ってなんだ?おばあちゃんの名前か?
この店名の由来は聞こうと思って忘れてしまった。まぁよい。想像の余地があった方が人生面白いから。
1人夢心地のモーニング
時系列は少し前後するが、席に座った僕はおばあちゃんに注文することにした。
ちなみにこのお店、メニューが置いていない。一度閉店した際に回収されてしまった可能性もあるかと考えたが、後からWebで他の訪問者さんのレポートを見るに、最初から置いていないっぽいな。

ギリギリの時間で入店して「どんなメニューがあるのですか?」とグイグイ行くのも失礼な気がしたので、「モーニングありましたっけ?」という問いをした。
するとおばあちゃんは「ありますよ。トーストにはバターかジャムかを塗るけど、どっちがいいかしら?」と聞いてきた。バターを選んだ。
あとコーヒーはアイスかホットか聞かれたのでホットにした。真冬ですもん、温まりたい。

コーヒーと共に名刺をいただいた。店内の写真が掲載されている名刺。やっぱこのロケーション、アピールしたいもんね。
僕も純喫茶が好きでちょいちょい巡っていることを話すと、おばあちゃんも「最近レトロブームでこういうお店も注目されているそうね。このお店にも県外からの人が来たりするのよ。あなたはどこから?」と聞かれた。
どことはここでは書かないけどさ、住んでいる都道府県名を言ったら「そんなに遠くから…!」とのけぞっていた。

フカフカのハーフサイズのトーストがやってきた。
「茹で玉子はこれから茹でるので10分くらいかかるの…」とのことだ。全然問題ない。むしろいったん閉店した後にお手数をおかけしてしまって申し訳ない。
トーストは表面だけ軽く火が通った程度で、中は常温。レアな焼き加減だ。これもまた良いと思う。「アツアツのうちに食べなければ…」という使命感を抱く必要がないからな。

前章では主にこの時間に店内を見て回った。
改めてステキだよね。このカウンター周辺。渋さとかわいさが共存している。それってすごいこと。
カウンターに置かれた花瓶の花。動物の置物。カウンターの裏側にも下側にもキチッと置かれたコーヒーカップ。おばあちゃんの乙女チックなセンスと几帳面さが表れているようだ。

先ほどの青カーテンのステージを少し引きで撮影してみたりした。
ここで見返して気付くのだが、左右の壁で壁紙も違う。いろんな要素がゴッチャになっているが、それらがケンカせずにちゃんと融合して1つの世界を形成している。

「遅くなってごめんなさいね」と、茹で玉子が出てきた。僕だけのために1つだけ茹でてくれたであろう、スペシャルな茹で玉子だ。
少し硬めの半熟。なかなか狙ってはできない絶妙な固さのヤツだ。うまい。

コーヒーもうまい。酸味と苦みのバランスが良い。"カキ三"という僕にはちょいと聞きなれないブランドのコーヒーだそうだが、高松の焙煎所なのだそうだ。
シュガーポットもかわいいなぁ。昔から使用しているのだろうなぁ。

もうすぐ11時になるというタイミングで、地元っぽいおじいちゃんが2人入って来た。ドアに「準備中」と貼ってあるはずなのに、心臓の強い方々だ。このタイミングだとコーヒーひとくち飲んだ時点で11時になるぞ。
でもおばあちゃんは「11時までだからドリンクしか出せないけどいい?」って確認し、笑顔で受け入れていた。女神。
それでは僕はそろそろ退店するのだ。お会計は600円。とても良心的な価格。

2025年現在、創業55年になるという純喫茶ニューアスカ。
コロナ禍で一時は閉店も考えたそうだが、今も午前中3時間だけ営業しているステキなお店。
今日ここを訪問でき、奇跡の入店を果たせてよかった。おばあちゃんにお会いできてよかった。末永く続けてほしいな。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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