富士山麓の「忍野八海」は、とても有名でSNS映えもする景勝地だ。”八海”という名前の通り、8つの泉の総称が忍野八海なのである。
コバルトブルーに澄み渡った泉を眺めているだけで、心も清らかになったような気分になる。素晴らしい。
ただちょっと待て。僕らが喜んで写真を撮っているその泉、本当に八海か!?
そんな不思議な状況が現地では展開されている。一番見ごたえのある「中池」という泉は、実は八海にカウントされておらず、希少価値も低めなのだ。なんてこった。
さて、僕は過去に4・5回ほど忍野八海を訪問しているが、奇しくもそれは真冬であることが多い。だから真冬到来の今、それらの思い出を振り返ろう。
コバルトブルーの中池
忍野八海はいつ行っても大人気で周辺の渋滞もすごいよな。日本6周目の冬のこの日も夏ほどではないけど、そこそこの渋滞を経てようやく駐車場の隅っこを抑えることができた。
天気は快晴。ダイナミックな富士山が眼前に雄大にそびえている。やっぱ富士山は冬が美しいよな。そして冬は太平洋近辺は快晴が多くて嬉しい。日が短いのと寒いのは悲しい。では人の流れに従って歩こう。
ここで忍野八海とは何か、ということを語っておきたい。
忍野八海とは、富士山だとかその周辺の「石割山」・「杓子山」とかに降った水が何10年もかけて伏流水として地表に出てきた湧き水スポットだ。
むかしむかしは大きな1つの湖だったんだけど、西暦800年の富士山噴火にて埋まってしまったりして、今は小さな8つの泉が残るのみだ。
上に簡単なMAPを描いてみたが、八海のうちの7つはお互い徒歩5分以内でアプローチできる。一周巡っても30分くらいでお手軽散歩コースだ。
だけども出口池だけは片道20分は歩くという異次元な配置で、そこに行く人は少ない。すまんけども僕も出口池だけは行ったことないのよね…。
中池だ。周囲にはかやぶき屋根の建造物もあり、とても風流な雰囲気だ。そして背後には雪をかぶった富士山。
ここ、最高だろ。多くのガイドブック等にも掲載され、忍野八海を象徴する風景と言ったらここだろう。忍野八海の中のボス的存在。
…と思いきや、実は全然違う。
この中池は、八海にすらなれない下っ端なんだよ。
なぜかというと、この池は人人工の池なのだ。前述の富士山の噴火で残った天然の池ではない。後年に人の手でいい感じに作り上げたものなのだ。
うむ、そりゃ人工と天然では価値が大きくことなってしまうよなぁ…。
しかしそれを知ってか知らずか、ダントツの一番人気がこの中池なのである。もう人がギュウギュウ。インバウンドの人が多い。むしろ日本人より多い。海外の雑踏を歩いているような気分に浸れる。
中池の集客力がある理由の1つは、そのすぐ脇にお土産屋や茶屋がある点だよな。外国の方がワイワイ集まる。お土産屋さんに入ってみたが、カオスなほどに外国人の人たちが満ち溢れていた。
ところで僕、外国人集団に対しては悪い感情は持ってないぜ。国や文化が違えども、日本に興味をもって訪れてくれるってすごいことだと思うのだ。小さな島国にきてくれてありがとう、って感じだ。
外国人ってだけでネガティブな感情を抱いていたら、いつまで経っても鎖国時代のままだしな。てゆーか、僕も帰国子女だしな。
中池には水車小屋併設の蕎麦屋さんもある。「池本水車小屋」という名前で、この水車で引いた蕎麦粉を使ったお蕎麦を食べられるのだ。
興味津々だな、これは。お店には入ったことないけども。
中池のハイライトがここだ。池の中央部分に丸く切り取られた区画がある。
そこは水深8mくらいあり、深いコバルトブルーになっているのだ。人工の池ではあるけれども、水はガチの富士山系の伏流水だからね。何10年もかけて濾過されたホンモノなのだ。
これは大変美しいね。吸い込まれそうなこの色。ずっと見ていられる。そして池の中では鯉が悠々と泳いでいる。
八海には属さないが、だからと言ってここをスルーしては残念すぎるだけの価値を持つ池、中池。
富士山の恵みを活用して観光資源にするために作り上げたスポットとしては、随一だろう。
人の影が池に移りこむ様子もいい感じでしょ。
中池は八海ではないと知りながらも、このときは中池中心の観光をした。わかった上で何を選ぶのかは、その人次第だよね。
八海の最強角、湧池
じゃあ八海の中でどれが一番見ごたえがあるかというのであれば、僕であれば湧池を選ぶことになるかねぇ、やっぱ。
場所は中池のすぐ近くであり、同じくとても賑やかな敷地の中の中心地にある池だ。
そして名前の通り湧き水が豊富で、その量は八海の中でTOP。1日当たり840万リットルと言われており、それがどのくらいの量なのか全然ピンと来ないほどだ。ちなみに東京ドームで例えられても全然わからないからな、僕は。
ここも中池と同じように透き通っていて、鯉も泳いでいる。
水面は常に小刻みに揺れているのだが、これは池の底から常に水が湧き出ているからなのだろうかねぇ…。富士山の伏流水ってスケールが違うね。
横に設置されていた説明版を読んでみたのだが、やっぱ『忍野八海を代表する池』と書かれていた。湧池最強は、公式設定だった。
1983年にNASAのスペースシャトルの"チャレンジャー号"にはここの池の水が搭載され、宇宙で人口の雪を作る実験に使用されたんだって。
それはすごい栄誉なことだね。でも、水道水じゃないんだな。「せっかくだから綺麗な水にしようぜ」って会議で誰か発言したんだろうね。「綺麗な水といえばどこー!?」とか「忍野八海の中で一番ナイスな水はどの池??」みたいな話し合いも延々していたんだろうかね、NASAで。
僕はなぜか幼少期から知っているのだが、ここ涌池ではTV番組のクルーが行方不明になる事件があったんだよな…。
パッと見ではどこにあるのかわからないけど、涌池には水中洞窟があるのだ。
1980年代、TV番組に使用するための映像を撮影するためにプロダイバーが2人その水中洞窟に入っていき、そのまま帰ってこなかったんだよね。
水中洞窟は入り組んでいて迷路のようになっているので、一度道を失ってしまうと戻ることができずに酸素ボンベの燃料切れとなるのだ。子供ながらに恐ろしいと思ったよ。
この池の周辺は土産物屋や食べ歩きできるお店も連なっており、とても賑やか。
富士山は2013年に世界遺産に登録されているけど、正確には"富士山―信仰の対象と芸術の源泉"というくくり。この忍野八海も世界遺産の一部であり、涌池がその象徴的な存在なのだから、ありがたい気持ちで眺めたさ。
そして僕はこのときは知らなかったのでチャレンジしていないのだが、涌池は八海の中で唯一逆さ富士が撮影できるそうだ。
もしあなたが天気のいい日に訪れたのであれば、僕の代わりにチャレンジしてみてほしい。
厳冬期の夕暮れの池巡り
さらにガッチガチに寒い時期に訪問したことが2回ある。しかもどちらも夕暮れ時。そのときの思い出をマージしてご紹介しようと思う。
まさに太陽の最後の一片が沈もうとしているタイミングであった。
冬の日没は早すぎるぜって思った。途端に冷え込みがキツくなる。気温は余裕で氷点下なのだ。急いで池巡りをしないと命に係わる。
夕方にここを訪問した際に、真っ先に攻略すべきは底抜池だ。なぜならここは有料かつ時間制限のある「榛の木資料館」の敷地内にあるからだ。
この資料館は17:00に閉館するので、それまでに滑り込めよ。僕は3分遅れてこの池を見れなかったこともある。
実は地元の人が「時間を過ぎても池を見られる裏技があってね…」ってオフレコで教えてくれたことがあったんだけど、その通りに進んだらすさまじい積雪でひざ下がグチャグチャになって断念したこともあるよ。
積雪時に無理したらダメだよね、マジ。
この底抜池は水深は1.5mほどだけど、底に泥とかが深く積もっているので正確な水深
はわからないそうだ。かといって濁っているのではなく、泥の上はとても澄んでいて魚が泳いでいるのがよく見える。そんな不思議な池だ。
中心地から少し離れた立地にあるお釜池。遊歩道は完全に雪に覆われていて、滑りながら歩いた。観光客、誰もいねぇ。
お釜池は八海の中で最も小さくって、24㎡しかないそうだ。つまりは5m×5mくらいの大きさってことだ。だけども水深は4mもあり、覗き込むと深い青色の水が奥の方まで続いている。ちょっとした恐怖。
さて、これらの際には一番遠い出口池以外はすべて巡っているのだが、肝心な八海の写真は撮影しなかった。雪と戯れ、雪合戦とかしてそういう写真ばっかだった。
しかし八海以外の風景写真が数枚あるので、最後にそれらをお見せしたい。
これは鯉の池という池を見下ろして撮影したもの。先ほどちょっとだけ触れた榛の木資料館の脇の展望所に登ると眺めることができるよ。
この日本庭園のような景色と茅葺き屋根の建造物、そして日没後の富士山。なんか水墨画のようではないか。外国人が喜びそうな日本の原風景だ。
レトロ調に加工してみた。「100年前の富士山です」って言ってもバレなさそうなナイスな写真になった。
ただし聞いてくれ。この鯉の池は八海じゃない。忍野八海エリアには2つの人工池があり、その2つ目がこれなのだ。注意だ。
人工だけどもすさまじく絵になるというジレンマね。日が沈んでしまって見栄えしないかなって懸念しながらここに来たが、逆にすごく雰囲気の光景に出会えている。日中の青空もいいけども、こういう時間帯もいい。
厳冬期のこの時間だから観光客もいないし。
カモが泳いでいるだけの世界だ。
こんな静かな池のほとり、1日が終わろうとしている世界を歩くのもいいもんだと、しみじみと感じる。
木々はカッチカチに凍っていた。
ここいらは何度も真冬にドライブしていることがあるが、ここまで積雪が多くて寒いのって珍しいかもしれないなぁ。まるで北陸や東北を訪れているような気分だ。
富士山の存在で、ここが信州なのだと改めて気付かされる。
週末の繁忙時間であればギュウギュウになるほどの中池も誰もおらず、お店のスタッフさんだけが視界に写る人類であった。
…というわけで、なんだかんだで人工池の中池と鯉の池ばっか紹介しちゃったけどさ。特性を理解した上で各々の楽しみ方をすればいいと思うよ。
池にスポットを当てて楽しむだけではなく、忍野八海の敷地全体、さらには富士山も含めて楽しめばいいと思うよ。
そういう文化もひっくるめて、富士山を取り囲む世界遺産って呼んでいるんじゃないかな。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
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