四国最南端の岬である「足摺岬」のすぐ近くに、「民宿 高原」という宿がある。たぶん。
かつて僕は宿泊したのだが、2024年現在はGoogleマップに出てこないし、Webで探しても近年宿泊したという人の記録がない。もしかしたら廃業してしまったのだろうか…。
だがストリートビューで見ると、まだ民宿の敷地への入口部分に看板があるのだ。ストリートビューの撮影車輛はこれより奥には入っていないので、民宿の建物そのものがどのような状況かはわからないけど。
僕の訪問が西暦何年かはあえて言わないが、当時80歳代だった女将さんは、ご健在であれば90歳を超えている。
代変わりしていない限り営業している可能性は低いかもしれない。代変わりして営業しているのであれば、Webに一切の露出が無いのはちょっと不自然かもしれない。
そんな不穏な推測はさておき、楽しかったあの日に時系列をジャンプさせよう!
当日予約で転がり込んだ民宿
真冬の14:10。「やっぱ寒いな、車中泊でなく宿を取りたい」と考えた僕は、今日のゴールが足摺岬付近になるだろうと推測、その周辺の宿を安い順に検索した。
まずは「あしずりユースホステル」に電話し、「満室です」と言われる。ふむ、この時代でもユースホステルが盛り上がっているのはいいことですな。
※どうやら2024年に入ってから廃業した模様。
ではどうしよう。
安宿をいろいろ検索。だけども2食付きとなると、それなりのお値段だ。ユースが安すぎなんだよね。いつも2食付の宿に泊まるのは北海道や沖縄ばかりなので、本州の宿の感覚に慣れない。どこも高く感じてしまう。
じゃあ民宿だ。
本州の民宿っていうと、昭和レトロで高年齢層の人が泊まっているイメージ。初めての本州の民宿だけど、大丈夫かな?でも何事も経験だよね。意を決して電話。
遅めの時間での予約だから気になったけど、ちゃんと空きもあるしご飯も用意してくれるってさ。大きな車でも駐車できるスペースもあるらしい。気持ちが楽になった。
途中、宿毛の道の駅で夕日を見た。すんごい綺麗だった。ここは夕日の名所だからあなたもメモしておけよな。
17:30をまわり、土佐清水の町から県道348号の足摺公園線に入った。人里離れた結構な山道なので明るい時間に走りたかったんだけど、もうほぼ真っ暗だ。だけども僕以外車1台もいない。ハイビーム全開で疾走するぞ。
クネクネでアップダウンのある、2車線のやや狭い道。20分弱で終点近くまで来た。
大きくてピカピカの入浴施設「足摺テルメ」を通過するとすぐ、真っ暗な道に民宿高原の看板が出てきた。
※足摺テルメも2024年に閉館したらしいです…。何だこの記事、閉館したスポットしか出てきませんね。
そこを曲がるといきなり道が「狭ッ!急ッ!暗ッ!!」
荒れたアスファルトをゴトゴト進み、灯りのついている建物があったので「ここかな」って思って敷地に入ったら中の人が「高原さんはこっちじゃなくてもう1つ奥だよ」って教えてくれた。
あ、ここは建設工場かなんかの敷地だったか。
というわけで、18:00すぎに高原に着いたのだ。
暗い。駐車場がほぼ真っ暗。普通の民家みたいだけど、ここで合っているのかな?。でも他に家は無いしな。
とりあえず荷造りしていると中から宿主のばあちゃんが出てきてくれたので一安心した。
暗い食堂での食事は盛り上がる
玄関・ロビーはヒンヤリ。てゆーか普通に寒い。
茶色が多い。昔よく遊びに行っていた父方のじいちゃんばあちゃんの家の匂い。昭和の匂いだ。
すげーワクワクしてきた。これぞ僕の想像していた民宿だ。1人で答え合わせをし、1人で正解を認識してほくそ笑んだ。
玄関に飾ってある亀の剥製や怖い仮面、これまんま父方のばあちゃんの家に今でもあるよって思った。この年代の人はみんな亀や怖い仮面を部屋に飾るのかな?
ばあちゃんは、「すぐに夕食にするから部屋に荷物を置いたら食堂においで」と言う。2Fの客室がこれまた昭和テイストですごい興奮したんだけど、ばあちゃんの言葉通りすぐに食堂に行かなきゃだからご紹介は後でね。
暗い!!ステキ!!
特に奥の部屋の電気を完全に消しているところが僕的にポイント激高!!なんだなんだ、民宿スゲー楽しいぞ!これから始まる物語にワクワクが止まらん!
ところで着目してほしい。夕食は2人分ある。もう1人いるのだ。ってことは一人旅かな?
実は僕が一番恐れていたのは、他にはグループのお客さんしかいなくって、僕だけ1人でポツンとご飯を食べるシチュエーション。だけども同泊の人も1人なら、語り合える!やった!!
ばあちゃんは「さっき来たお兄さんが2階にいるから呼んできますねー」と言い、2Fに向かう。
おぉ、同性!お兄さんってことは若い?でも、あのばあちゃんの定義の中の"お兄さん"って、50代くらいまで含まれるかもしれないな。
よし、ひとまず暗闇が好きな僕は、より暗い奥側の席で待っていよう。
すぐに同泊の人が降りてくる。名前は「ユウ君」。僕と同い年くらいの旅人。とりあえずご挨拶して、ご飯食べ始める。
…ボリュームすんごいのね。
カツオのたたきはブ厚くってすごい量。あとクエ科の魚の刺身に、角煮&野菜の煮物みたいな小鉢だとか。そして間髪入れずにアラ汁登場。食べきれるかなぁ…。
一番絶望感を感じるのは、フライがてんこ盛りになったお皿。巨大な揚げ物が7つほど乗っている。
これ、ケンタッキーとかでクリスマス近くに家族でむさぼるためにバケツみたいな容器で売られている、アレのようなスケールじゃないですか?それを一個人で食べるのですか??どんなジングルベルですか?
ちゃんとお腹の空き具合を整えてきたんだけど、これには初見から勝利のビジョンが見えないわ。
ところで、食べながらユウ君といろいろ話したのだよ。
彼は奈良から車での一人旅でやって来たらしい。こういった民宿もそこそこ泊まり慣れているんだって。わぉ、先輩!
今回は5日間かけて四国一周を走るそうで僕と同じく反時計回り。僕ら共に今日は佐田岬を踏んでいたのだね。ちなみに僕は昨日は道後温泉の近くのユースでジャカルタからきたおじさんとおしゃべりしていたよ。
明日は「室戸岬」付近まで行く予定なんだって。その後、四国最東端の「蒲生田岬」にも初チャレンジするという。蒲生田、道がハードだから頑張れよー。
ばあちゃんもちょこちょこ出たり入ったりしながら、合間にいろいろな話をしてくれる。
ばあちゃんは80歳だけども、元気にこの民宿を切り盛りしているんだって。もう曾孫もいるそうだ。ここは国内外からいろんな観光客が来るそうで、ドイツから日本語が全く分からない人が来た話だとか、そこそこのお偉いさんが来た話だとかいろいろ聞いた。
僕らは話しながらも「これ、食事の量多すぎない?絶対食べきれないよね…。どうする?」って危機感を感じているんだけど、ばあちゃんは「この間来た人は、炊飯器1個分のご飯をペロリと食べてねー」なんて陽気に語っている。
いやいやいや、その人と同じ基準で僕らを判断されても困るって。現に僕らの間にはご飯がギッチリ詰まった炊飯器が置かれているんだけど、全然食べられないよ。
1時間強の激闘の末、2人ともリタイア。フライが多すぎだよ…。
ユウ君はフライを3つほど残していた。僕はフライ2つに、煮物をほぼ丸々残した。
しかしなんかばあちゃんに悪い気がして、「これ、取り置いて来てください。お風呂の後だったら少し食べれそうな気がするので。」と言ってしまった。
これが後の事件の引き金だとは、このときはまだ知る由も無いのだが。
旅人と部屋で飲み会を
部屋は鄙びた和室。なんか2つの部屋が連なっているタイプ。こういうのって、続き間っていうんだっけ?
電灯がすごく昭和の香り。それからなんで緑色なんですか、この部屋。
この宿でのお風呂は大体近所の足摺テルメを薦められるらしい。僕とユウ君も割引券をもらった。
歩いて行っても5分ほどだけど、途中の道が真っ暗だから車で行くといいよって、ばあちゃん言っていたな。しかしすごくお腹がいっぱいで動きたくないので、布団を敷いてしばらく部屋でゴロゴロした。
ゴロゴロしていたら途中でばあちゃんが入っていて、「アラ、お布団敷いてあげようと思ったけどもう敷いてくれたのね。でも雑ね。」と言って敷き直してくれた。あ、恐縮。お布団敷いてくれるタイプの宿だったんだ。
だけども80のばあちゃんに全て任せるのもなんだか悪い気がして、2人で敷いた。
布団を敷きながら、ばあちゃんは「ユウ君はさっきもうお風呂にい行っちゃったよ」と教えてくれた。あらら、先に行ってしまわれたか。ひと声かけてくれれば一緒に行ったのに。
遅れて僕も車に乗り込み、足摺テルメに向かった。
確か2回目だな、テルメでお風呂に入るのは。久々だ。
とっても綺麗な施設だ。お風呂でユウ君とも会った。
「誘って一緒に来ようと思ったんだけど、断られたらヘコむから1人で来ちゃった」とか言ってた。急になにその豆腐メンタル。
「じゃあ、このあと2人で宿で飲み会しよう。お互いここでビールを買って帰ろう。あの民宿には売っていない可能性もあるだろうから。てゆーか、最悪パターンだとばあちゃん寝ているかもしれないから。」と誘った。
風呂上りにホテルの売店でビールとおつまみを買い、民宿に帰還。
宿に戻り、先に戻っていた隣の部屋のユウ君に声を掛ける。僕の部屋に誘った。
部屋に戻ると、座卓の上に夕食の残りが置かれていた。さっきばあちゃんに取り置きを依頼していたヤツ、部屋まで運んできてくれたのだね。
…しかし、ちょっと待て!なんかちょっとおかしいぞ!
フライが1つ増えてるー!しかも特大のイカゲソ!!
ちょっと待ってよ、お風呂に入ってカロリーを消費したとはいえ、まだ満腹に近い状態ですぜ。
なんでわざわざおかずを取り置きしたのか、ばあちゃんわかっていないー!いっぱい食べたいからじゃなくて、食べきれないからだったのにー!そう伝えたのにー!
これさ、ご飯さえあれば普通の1食分くらいのおかずの量だよ。どんだけ僕に食べさせる気ですか。
驚きを隠せぬまま、ユウ君とカンパイする。
コアな旅の話で盛り上がったぜ。
ユウ君は、ダム巡りをするダムマニアの旅人。ダムカードを収集していて専用のバインダーを見せてくれた。
見てみると、紀伊半島のダムはかなり奥地まで行っていた。「池原ダム」とか「坂本ダム」とか、なかなかにハードなところじゃないか。僕も行ったけど大変だったぜ。
ユウ君にはお礼に紀伊半島奥地の伝説の廃村「東ノ川集落」の情報を提供した。ここでは割愛するけど、気になるなら以下のリンクを辿ってみてほしいぜ。
ユウ君の今回の目標は、四国のダムカードの全コレクションなんだって。
ダムって山奥にあるから攻略困難だよね。そして四国の山間部の道は狭いし、今は冬だしさ。ユウ君も「スタッドレスじゃないと全然歯が立たない」とボヤいていた。
ユウ君がおつまみで買って来てくれた、足摺岬名物のかつおスティックをいただく。ふむ、うまい。
だけども僕は自身のノルマが全然終わらん。死ぬ気で煮物とフライ2つは攻略。だけども巨大なイカゲソだけは無理だ…。
これ、せっかく追加してくれたのに返品するのは悪いから、持っていくわ。明日のオヤツにするわ。
楽しい会だった。だけども明日が早いので、そろそろ寝る準備をする。
ちなみに飲み会の後半くらいから僕の部屋の片方の電気がチカチカ点滅を始め、オバケ出そうな雰囲気になっていた。最高だね、この宿。楽しいなぁ、なにからなにまで。
足摺岬に朝日が昇る
翌朝。天気予報では曇りだそうだが、晴れそうな予感がする。
朝ご飯は6:30からだ。
昨夜ばあちゃんに「朝ご飯は何時からにする?」と聞かれたとき、ユウ君が「足摺岬から朝日を見たいから6:30からで」って答えていたんだ。だから僕もそれに合わせて返答していた。
おばあちゃんは「朝日見て帰ってきてから朝ご飯でもいいのよー」とか言っていたけど、ユウ君は先を急ぎたいそうだ。
6:20になると「ご飯で来ましたよー」とおばあちゃんから声がかかった。
朝からボリューミー。
ユウ君に「昨夜のご飯、消化できている?」って聞くと、「全然…」っていう残念な回答が返ってきた。
味噌汁が多いのよ。そして一番の難関が山盛りのシラスなのよ。シラスって塩分濃いし、そんなムシャムシャ食べれるものじゃないっしょ。でもすごい量なの。お茶で流し込もうとするんだけど、到底無理。
ご飯をムシャムシャ食べている僕らの横で、オーナーのおばあちゃんが語る。
「足摺岬は断崖が多くて、自殺者もいるのよ。先日も死体が見つかってね。(自主規制)な状態になっていてね…。身元が分からなくってね…。」
「この民宿にも警察から『こんな感じの人が宿泊していませんでしたか?』って確認が入るのよ…。」
…ばあちゃん、食事中にその話をしちゃうのか。まぁいいけど。
ご飯は僕もユウ君も残しちゃった。シラスが多すぎた。味はおいしんだけどね。いかんせん、昨夜の夕食が多すぎた。
「足摺岬」からの日の出は7:02とのことで、ユウ君はバタバタと出発準備をしている。それに合わせ、ばあちゃんと一緒に宿の玄関でユウ君を見送った。
じゃあね、ユウ君。
キンキンに冷え込む朝の冷たい空気の中、奈良ナンバーの車が走り去っていくのを見守った。おばあちゃんは「この天気だと雲がかかっちゃうっていると思うよ。たぶん朝日は見れないんじゃないかな。」とか不吉なことを呟いていたけど。
僕はこの後しばらく部屋でゴロゴロし、7:40頃に完全に朝日が昇った気配を感じると共に腰を上げた。
いやー、楽しい民宿だったなぁ。"高原"って感じはしないけど。
目の前の広場は建設工場の資材置き場みたいな空間だから高原とは違う。「"こうげん"って、"こうじげんば"の略なの?」みたいな感じ。でも、いい思い出ができた。おばあちゃん、お元気で。
おばあちゃんは、浜さんに荷物を積み込む様子を見て、「すごい車に乗っているのねぇ…」と目を丸くしていた。
そうなのです!僕はこのHUMMER_H3で日本一周をするのです!
じゃあね、ばあちゃん!!
…僕の民宿高原の思い出はここまで。
これは、上記の「松山ユースホステル」編の翌日の物語。
これに続くのは、上記の朝日の足摺岬。
さらにこの翌日にユウ君と朝日昇る室戸岬で再会するんだけど、その話はまたいつか。
民宿高原、どうやっているかご存じの方がいたら教えていただけますか?思い出の宿なんだよ。
以上、日本7周目を走る旅人YAMAでした。
住所・スポット情報